79、損得
「はぁ…」
高橋を教室から追い出して一息つく。
何やってんだろ、俺って。
「ごめんな伊織、一緒に回れなくなっちゃった」
ほんと、何やってんだか…。
せっかく一緒に回ってくれてたのにな。
「ううん、気にしないで。高橋君のためにやったんでしょ?大丈夫だから」
伊織はそう言ってくれた。
「そのかわり…また今度、一緒にどこかに行ってくれる…?」
「あぁわかった、約束な」
「うん!」
今回は俺が悪いからな。埋め合わせをするのは当たり前だろう。
「ね、ねぇ旭」
「ん?」
エプロンを着けて仕事を引き継ごうとしたところを、陽葵に声をかけられた。
「あの、振られるとか、結ばれるとか…何の話ししてたの…?」
「ん?あぁ…」
そう言えばそんな話をしていたな。
よく見たら、お客さんも多くはないがまだいるし…あれ?普通に問題行動じゃね?
「まぁ、あれだよ…そういう事だよ」
「そ、そういう事って…」
「佐倉くーん」
陽葵がまだ何か言おうとしていたが、俺を呼ぶ声に遮られた。
「…紀野さん?」
「そ、紀野さんだよ問題児くん」
「いや問題児て…」
「違うって言える?」
「申し訳ありません」
もう良いっすよ。私は問題児です!
「…それで、何かあったの?」
「あ、そうだった。何かお客さんが呼んでるよ?」
「え、クレーム?」
「わかんないけど…」
「えぇ…」
やだなぁ…行きたくないなぁ…。
「…どこの人に呼ばれてんの?」
「そこの人だよ」
紀野さんが指を指した方を見てみる。
「…え、俺マジで行きたくないんだけど…」
「早く行って」
「あ、はい」
問題児の俺には意見を言う資格がないようだ。
仕方なく呼んでいるというお客さんの元に向かう。
「お客さま、何か御用でしょうか?」
「そんな真面目にやらなくても良いじゃないですか。私たちの仲なんですから」
「失礼、どちら様でしょうか?」
「処しますよ?」
そう言いながらホットケーキを頬張る水無瀬。
それ、うまいよな。
「なんでいるんだよ」
「文化祭だからに決まってるじゃないですか」
「一人で?」
「…だめですか?」
さっきまでおいしそうにホットケーキを食べていたのに急に不機嫌になる水無瀬。
「私は佐倉さんを見に来ただけですから」
「は?なんで?」
「学校だとどんな感じなんだろうなぁと思いまして」
「こんな感じだ。よし帰れ」
「さすがに酷くないですか?」
そんな事を言いながらもホットケーキをまた一口食べる。
「…聞いても良いですか?」
「え、何?やだ」
「聞きますね」
じゃあ聞くなよ…。
「佐倉さんって、何でそんなに行動できるんですか?」
「…何の話し?」
話しがまったく見えてこない。
「さっき大きな声で話してたのって佐倉さんですよね?佐倉さんはさっき走って教室を出て行った人のために言ったんですよね?」
「…まぁ」
「何でそんなに人のために動けるんですか?」
なるほど、そういう事か。
「佐倉さんに得なんてないじゃないですか。周りの人のために動いても疲れるだけじゃないですか。何か私の時も慰めてくれましたし…」
水無瀬は以前、周囲の人のために『可愛い水無瀬』を演じていた。その結果、周囲の反応は良かったものの、水無瀬自身は疲れてしまったのだろう。
だから俺にそんな事を聞いてきた。
彼女は人のために動いて疲れる経験をしたから。
「佐倉さんってMなんですか?」
「違うわ」
勝手に人を変態にするな。
「じゃあ、何でですか…?」
「何でって言われてもなぁ…」
実際そこまで何か考えて動いているわけじゃないからなんとも言えないのだが…。
「うーん…こういうのってさ、損とか得とかじゃない気がするんだよな」
「…?」
わからない、と言った感じで水無瀬は見てくる。
「いや、俺もうまく説明できないんだけどさ、何かこういうのってその人のためにやりたいって思うからやるんじゃないか?」
「うーん…」
「まぁ例えば、好きな人を見殺しにはできない、その人を死んでも守りたい、みたいなさ…そういうのってさ、自分は損するだけだろ?得なんてないし、そんな感じだと思う」
「うーん…な、なるほど?」
「なぜ疑問系」
「あぁいえ、何となくわかったような…わからないような…」
「俺もこれ以上は説明できそうにないからな」
ほんと、何で人って自分に得のないことをしたがるんだろうな。
「…つまり佐倉さんは、さっきの人が好きだと?」
「全然違うね」
「えぇ…わかんないです…」
そう言って水無瀬はホットケーキを頬張る。
「うまいか?」
「おいしいです」
「だろうな」
「…何で佐倉さんが得意げなんですか」
俺も後で作ってもらおう。




