1、いつも
『私には好きな人がいるんだから!』
その言葉は唐突に告げられた。
『もう私にかまわないで!』
この瞬間、俺の初恋は終わった。
暖かな日差しを受け、眠い目をこすりながら通学路を歩いていく。
新しい制服に身を包み、新たな出会いに期待をする。これこそ学生であり、これこそ青春である。
…などと格好をつけて言ってみたが、ただ単に眠くて頭が回っていないだけで、さっきの言葉に特に意味はない。むしろ自分でも何を言っているのかわからないくらいである。
「…また変なこと考えてるでしょ」
「またとはなんだ、またとは。それに変なことは考えてないぞ?」
「…ほんとに?」
この疑わしい目を向けて失礼なことを言ってくる少女は伊織朝香。濃い目の茶髪を肩の上くらいまで伸ばし、非常に整った顔をこちらに向けてくる。
「日本の未来について考えていただけだ」
「おーけー、旭がいつも通りバカだってのは分かったから学校行くよ」
「あ?」
今俺をバカ扱いしてきたこいつ。佐倉陽葵。朝香より少し短めの茶髪の少女。俺の双子の姉であるのだが俺とは全くにていない。
そして、長々といろいろ語ってきた俺は佐倉旭。特に変わった特徴のないさえない男、と、この二人からは言われているが俺は納得していない。多分こいつらが見る目がないだけだ。多分。きっと。
俺達三人は所謂「幼なじみ」という関係であり、幼稚園から現在までほとんど一緒の時を過ごしてきた。
「まな板がなんかほざいてるわ。」
「ん?喧嘩する?」
「やめなさい」
と、こんな感じで軽口を許しあえるこの三人は昨日入学式を終えたばかりの高校生である。高校一年生という称号を手に入れ、またひとつ大人になろうとしている。
「まな板パンチ!」
「いやそれキックだから!」
「ちょっと!?やめなさいって!」
まぁ、俺は大人だからな、姉といえども女の子。手を出すのは男として絶対にしてはならないのだ。ここはぐっとこらえて…。
「だってぇ…」
「だっってじゃないの!」
「エノキが変なこと言うから」
「陽葵てめぇ!」
生意気な子供に教育することも大人な対応の一つだと思う。誰のナニがエノキだって?!