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ボス討伐の経験値は思ったより多くなかったりする

 半透明になった自分の手足を見る。まるで幽霊になった気分だ。足元には私のアバターの死体……死体でいいのかな? 死体が転がっている。


 リコリスベアに押し潰されたというのにアバターの格好は綺麗なもので、見た目の上では傷一つついていなかった。このあたりはリアルに再現されても困るけれど。


 幽霊のような状態でもメニューの操作はできるようだけど、だいたいの機能に赤い斜線が引かれていて、実行できないようだった。代わりに「拠点に帰還しますか? YES/NO」という画面が表示されている。きっとYESをタッチすると拠点まで戻されるのだろう。


 諦めてYESをタッチしようとしたその時、クローバーさんから「今起こす!」と声が飛んだ。はて。起こす?


 クローバーさんが球体のアイテムを高く真上に放り投げる。ある程度の高さに至ったところで、ぱきんと音を立てて球体が破裂した。キラキラとした光のエフェクトがあたり一帯に散らばる。


 すると私の足元のアバターがむくりと起き出して、完全に立つと同時に私とぴたりと重なった。体を動かしてみると、今まで死体だったそれが一緒に動いてくれる。


 HPバーに目をやると、半分くらいの割合が緑の輝きを取り戻していた。すぐに回復アイテムを飲み込む。


「ごめん、ありがとう!」


 よくわからないけど、復活のためにクローバーさんがアイテムを使ってくれたらしいことは確かだ。お礼を言って、リコリスベアへと駆け戻った。


 その後は増えた攻撃回数に気をつけて、3回目の攻撃の後のボディプレス直後に攻撃を入れるという段取りで何回かフォースインパクトを打ち込んでいると、ついにリコリスベアが倒れた。


 苦労した割にはそう多いわけでもないような気がする量の経験値と、いくつかのアイテムの獲得が表示される。うーんあんまりだなあ、と思いながらUIのOKボタンをタッチする。


「おつかれー」


「あ、お疲れさまですー」


 ねぎらいの言葉をかけてきた大根さんに反射的にお疲れ様と返してしまう。読者モデルの仕事の時の癖みたいなものだった。特におかしくは思われなかったみたいで、そのまま話が続いていく。


「あいつHPが半分になると攻撃モーションが増えるんだよね、こういうのは発狂って言ったりするんだけど」


「なるほど、それで3発目が増えて……。うーん、悔しいな」


「アクションゲーム始めて初日であれだけ動ければ十分でしょ、お疲れー」


「クローバーさんもお疲れさまです。なんか復活アイテム? ありがとうございました」


「どうも。ショートカット登録してないから使うの時間かかったわ、ごめんね」


「あー、アイテムとかってタダなわけじゃないですよね?」


 回復アイテムを一回も買い足していないので値段はわからないが、アイテム類がタダということはないはず。あんまり高額なアイテムなら買って返せるかはわからないけれど……。


「タダみたいな値段だから気にしなくていい」


「そういうもんなんですか?」


「拠点のショップで買えるから後で見てみたら? 回復アイテムの買い足しもいるだろうし」


「ありがとうございます。知らないことがいっぱいだなあ」


 今日1日で相当ゲームについて詳しくなった気がする。大根さんとクローバーさんが折に触れてゲーム用語について解説をくれたおかげだ。


「僕たちは拠点戻ったら……次のボス行くけど、アオイさんはどうする?」


「今何時ですっけ?」


 ゲーム内でもメニューから現実の時間は確認できる。さっとメニューを確認すると、もう22時になっていた。


「うーん、結構遅い時間なので、今日はもう寝ようかなと」


「そう? じゃあ、お疲れ。ログアウトはどこでしても次ログインするのは拠点になるから、今ログアウトしても大丈夫だよ」


「そうなんですか? じゃあ、ここで。お疲れさまでした!」


 そう言ってログアウトボタンに触れると、ログアウト処理実行中の表示の後しばらくして、現実の私の意識が浮上する。


 ヘルメットを脱ぐと少しだけ額に汗が流れていた。圧迫感があるし、少し蒸す。長時間のプレイにはそんなに向いていないかもしれない。


「うえぇ、暑」


 あんまり汗がでるようなら対策しないとかぶれたりして肌荒れしてしまうかもしれない。そこまで考えて苦笑した。もう別に、そこまで外見に気を遣わなくてもいいのに。


 とはいえ染み付いた習慣は中々変えられるものでもなくて、入院生活が終わってからも結局スキンケアは怠っていない。別に顔の傷が綺麗になるわけでもないのだけど。


「あ、そうだ」


 大根さんとクローバーさんに、スマホアプリを入れるといいと言われていたのを思い出した。お風呂に駆け込む前に、アプリストアから「Vapor Mobile」を検索してインストールしておく。


 VRゲームを管理しているストア「VapoR」で扱っているゲームなら、Vaporでのアカウントと連携することができる。Vaporのアカウントでもフレンドになっておけばメッセージなどのやり取りができる……らしい。


 それ自体はVRシステムを繋いでいるパソコンにも入っているソフトだけど、モバイル版も何かと便利だと言うので入れておくことにしたのだ。出先でアップデートを確認したり、遠隔でパソコンでアップデートやインストールができたりもするらしい。外出ないからいらない気もするけど。


 諸々のスキンケアを終えて、湯船でなんとなくネットニュースを見ていると、ぴこんと通知が届いた。Vapor Mobileからだ。


『お疲れ様、また時間が合えば遊ぼう』


 大根さんからだった。わざわざ連絡してくれるなんて結構マメな人なんだな、と思う。


『ありがとうございます、楽しみにしてます』


 と返信して、いくらなんでも社交辞令っぽすぎるな、と苦笑した。もうちょっと感想とか、気持ちを伝えたほうがいいだろ。


『今日は楽しかったです 悔しかったので今度は死なないようにします クローバーさんにもお礼を言っておいてください』


 と追加で送った。しばらくして、『VR初めてすぐならしょうがないよ またね!』と返ってきた。


 ボス戦を思い返す。大型犬くらいか、大きくても同じくらいのサイズの敵からは感じられなかった、スケールの大きさとリアルな圧力を感じた。


 正直に言えば結構怖かったけれど、当たってしまっても痛くないのがわかれば次からは大丈夫そうだった。


 逆に、1回当たらなければずっと怖かったと思うので、ここで慣れておけたのはよかったのかもしれないとポジティブに考える。


「色々試してみたいなー」


 湯船に使ったまま、しばらくスマートフォンで初心者向けのサイトなんかを漁っていた。結局のぼせる寸前までお風呂にいたせいでちょっと吐きそうになってしまったのは、大根さんにもクローバーさんにも内緒にしておこうと思う。

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