表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/26

腹が減ってはVRは出来ぬ。出来て欲しい。

 意識が浮上する。朝の目覚めとは違うこの覚醒は、エレベーターの浮遊感に例えられる事が多いらしい。


 ゲームの中ではどこか軽かった体に重みが戻ってくる。ベッドから上体を起こすと、ヘルメットの重さで頭がふらつく。


 のろのろとヘルメットを外す。VRからログアウトするのは初めてだけれど、このヘルメットを外す作業は好きになれないだろうなと思った。


 マットな質感のグレーで染められたヘルメットは、多くの電子部品があるのだろう。ノートパソコンくらいの重さがあった。頭の後ろのほうは少し薄いデザインになっているので、被って体を起こすと頭の前の方が重くて、首で支えるのが大変だった。


 これはわざわざ探して注文したメット型VRシステムだ。旧型だから安かった。安いのも納得だ。起きた時の視界の窮屈な感じはかなり不快だし、重たい。スペースも取る。最新型のゴーグルのようなタイプのほうが人気なのも頷ける。


 だけど私には、この顔全てを覆うヘルメットが何よりも頼もしく見えた。通販サイトのVRシステムの一覧の中で、ひときわ輝いて、力強く感じたのだ。


 シャッターを下ろしたままの窓に、柊木葵(わたし)の顔が映る。読者モデルをやっていただけはあって、自惚れるわけじゃないけど……それなりに、可愛い方だったと思う。


 そう、可愛い方、()()()。今はその左目に、大きなやけどの痕があって、その見た目をどうしたって悪くしている。


 もちろん、私より可愛い人も美人な人も多いけど、それでもそれなりに良い外見を持っていたのは、私の中で大事なアイデンティティだった。


 交通事故でそれが失われてしまってからは、大学も休学して、外にも出ず、通販ばかりで生活している。


 何をするでもなく、ネットを見ていたときに見つけたのがVRシステムだった。ゲームに今まで興味がなかったけれど、今ではVRゲーム専門のプロゲーマーがいるくらいには親しまれているらしい。


 幸いにしてというかなんと言うか……保険金とか、事故を起こした相手方からの慰謝料だったりで、VRシステムを買うのにはあまり困らないくらいの額の手持ちがあった。生活費は、親の仕送りと貯金があるので当座は心配ない。


 「VRで異なる貴方へ!」という陳腐なフレーズにそれでも引かれてしまったのは、この顔以外の顔が欲しいというマイナスな欲求からだったけれど、注文ボタンを推してから届くまでは事故からしばらく感じたことのない胸の高鳴りが止まらなかった。


 子供のころみたいに飛びついてダンボールを開封して、機材のセッティングをして、初めてログインしたのが今さっきだ。音声チャットのオンオフ機能なんて知らなかった。大根さんには迷惑をかけてないといいな。


 顔の映ったガラスから目を逸すと、開封したばかりのダンボールが乱雑に放置されていた。さすがに、もう一度遊ぶ前には片付けておきたい。


 VRなら後片付けとかいらないのにな……なんて考えてしまうあたり、本格的に現実にはいいことがないかもしれない。

 

 ポケットに入れっぱなしだったスマートフォンから出前を呼ぶアプリで適当に注文して、ため息をつきながらダンボールを畳み始めた。

交通事故の相手方は重要ではないので今後出ません。

主人公の葵ちゃんは大きな過失がありませんでした。法的な手続きはもう済んでいます。


今後も顔の怪我で悩むシーンは入るかもしれませんが、基本はゲームを明るく楽しむ話です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ