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クルマ娘キュートレーサー  作者: 印朱 凜
エピソード0
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美しき青きドライブ 2

 

 プリンスの心臓は限界まで拍動し、神経は研ぎ澄まされ、全身を巡る血液が酸素を体の隅から隅まで行き渡らせるシステムを否が応でも実感させたのだ。

 今だ先を行くポルシェ904の快進撃は留まらず、空気を切り裂く渦までもがイメージとして浮かび上がってくる。


「だめ! やっぱり彼女には追い付けないのか……!」


 その時、ほんの一瞬……ではあるが、前を走るポルシェ904が微笑みかけてきたような……錯覚がした。

 

『あなたには無理。私を追い抜く事など不可能』


 ポルシェ904の心の声を察したような気がして、プリンスの秘めたる闘争心に火が付いた。


「うぉりゃあああ! 負っけるかあああ!」


 ドラマはサーキットの6周目に起こった。

 ヘアピンカーブを曲がる時、完璧なポルシェ904のコース取りに、ほんの僅かな隙が生まれスピードが落ちた。


「よっしゃあああ! ここだあああ!」


 ポルシェ904を追い抜く千載一遇のチャンスを見逃さず、プリンス・スカイラインGTは加速した。


「……クッ!」


 ついに流れる金髪に手が届き、そして前へと飛び出す瞬間が訪れた!

 プリンスの視界が急に開けた。前方を走る者など誰もいない。

 クルマ娘として生を受けた者として至上の喜びが、全身をくまなく駆け巡った。


「やった! 私……今……カレラを抜いてトップを走ってんだ!」


 今か今かとクルマ娘の帰還を待ちわびていた観客席の人々は、一瞬自分達の目を疑った。

 何とプリンス・スカイラインGTがポルシェ904を従えて、メインスタンド前のストレートに戻ってきたのだ!

 スタンドを埋め尽くす老若男女は、奇跡を目の当たりにして大興奮し、惜しみない拍手喝采を贈った。

 コースを揺るがす大歓声に、取材で来た新聞記者団も大喜び。

 会場の誰もが一斉に立ち上がり、プリンス・スカイラインGTの淀みない走りに見とれたのだ。


 パドックでは大勢のクルマ娘達が飛び出してくる。


「やったー! 遂にやったよ! あの子!」


 感激の涙で顔をグシャグシャにした五十鈴ベレットGTは、ドライバーに抱き付いて喜びを分かち合った。


「オイオイ、まだレースが終わった訳じゃないぜ……」


 呆れ気味の彼が言う通り、プリンス・スカイラインGTは次の周回で、あっさりとポルシェ904に抜き返された。だが観客の興奮は冷めやらず、いつまでも拍手の嵐は収まらなかったのだ。もはや自分の姿とプリンスとを重ね合わせる一大感情移入劇場の完成である。


 プリンスは結局、最期まで再びポルシェを追い抜く事はできなかった。

 闘志を燃やし尽くした結果は3位。そして優勝の栄誉は、ポルシェ904の頭上に輝いたのだった。


「とてもイイ走りだったヨ! スカイライン!」


「あなたこそ、カレラ! この次は、きっと勝ってみせるから!」


「ウフフ……! そうデスネ! その心意気が大切デス」


 表彰台の上で、プリンス・スカイラインGTとポルシェ904は、お互いの走りを讃え合い、観客からのエールの中で、いつまでも笑い合ったのだ。







 

 

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