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クルマ娘キュートレーサー  作者: 印朱 凜
エピソード3
84/85

オカルトマニア


「電話するのは、ちょっと待って下さい。私に考えがあります」


 警察への通報を制止したのは、ただ一人ジャージに着替え済みの本田NSXだった。強い意思を秘めた瞳と共に、自慢の長い艶髪を蛍光灯の光に鈍く反射させている。


「……我が本田の始祖、ソーイチローの霊力を借り、行方知らずのロードスターを見事に探し出して見せますから、ここは私に任せてもらえませんか?」


「ハァアアア?」


 ここに集まっている全てのクルマ娘達が騒然となり、困惑した後、半信半疑の目をNSXに向けた。


「どうか信じて下さい! 始祖のお言葉には、ずいぶんと救われました。きっと、いなくなったロードスターの居場所も探し当ててくれるはずです」


「そんなアホな!」


 だが、どうした事だろう……。もはや藁にもすがる思いで両親は、NSXの提案を受け入れたようだ。

 テーブルの上に赤いエンブレムが置かれ、蝋燭の火が灯されると、タイプ Rの白装束に着替えたNSXは、独鈷代わりにチタンシフトノブを握り締める。


「……空冷・空冷・白ツナギ~、セナ・プロスト・マーレイも~、我らが始祖ソーイチロー様! ここに願いを聞き遂げよ~」


 NSXが呪文の言葉と共に祈り始めると、誰もが最初は溜め息をついていたが、しだいにある異変を認めざるを得なかった。

 なぜか窓の外が急に暗くなってゆき、眩しいほどの晴天だった空模様が崩れ始めた。更には信じられない事に、雨雲が立ちこめ、にわか雨まで降りそうな勢いだ。


「ええ? 嘘だろ、オイ!」


 強気の三菱GTOも、目の前で繰り広げられるオカルトチックな降霊術と、それに呼応するような天気の急変に思わず肝を冷やす。


「――我が身を依代として、いざ探し人を~ここに……お願いしまっす!」


「わあああ~!」


 目を閉じたままトランス状態に陥ったNSXは、一瞬ガクッとしたかと思うと、まるで誰かが乗り移ったかのように目つきと声色が変わった。


「……誰えええ? 私を呼び出したのは~?」


「ひえええ~ッ!?」


 その場にいた誰もが恐怖に顔を引きつらせながら、目の前で起こった信じがたい光景に腰を抜かした。ただロードスターの母親だけは、勘で分かったのだろうか……娘が乗り移ったであろうNSXに向かうと、真剣な眼差しで問いただした。


「あなた、ロードスターなの?」


「そうだよ~、母さんなの~? それともロータス・エラン~?」


「何言ってるの! 母さんだよ! あなた、今どこにいるの?」


「……ここは……寒い、寒い~、真っ暗な世界~。誰もいやしない~」


 あまりの事に感極まった母親は、ついに泣き出してしまった。


「母さん! しっかり!」


 父親も受け入れがたい事実と衝撃に、その場に崩れるように夫婦で抱き合うと号泣する。

 

 ……怯えるスープラ、震え上がるフェアレディZとGT-R。開いた口が塞がらないGTOと、銅像のように固まったままのRX-7。

 もうこうなっては、どうしようもない。勇気を振り絞ってコスモ・スポーツが、ガクガクしているNSXに質問を続けた。


「おい、ユーノス・ロードスター? 私だ、副会長のコスモ・スポーツだ、分かるか? 今どこにいる? ひょっとして、あの世なのか?」


 その言葉を聞いたNSXは、しくしくと力なく泣き始めるのだ。誰もが絶望感に苛まれようとしている瞬間に、またも異変が起こった。





 

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