オカルトマニア
「電話するのは、ちょっと待って下さい。私に考えがあります」
警察への通報を制止したのは、ただ一人ジャージに着替え済みの本田NSXだった。強い意思を秘めた瞳と共に、自慢の長い艶髪を蛍光灯の光に鈍く反射させている。
「……我が本田の始祖、ソーイチローの霊力を借り、行方知らずのロードスターを見事に探し出して見せますから、ここは私に任せてもらえませんか?」
「ハァアアア?」
ここに集まっている全てのクルマ娘達が騒然となり、困惑した後、半信半疑の目をNSXに向けた。
「どうか信じて下さい! 始祖のお言葉には、ずいぶんと救われました。きっと、いなくなったロードスターの居場所も探し当ててくれるはずです」
「そんなアホな!」
だが、どうした事だろう……。もはや藁にもすがる思いで両親は、NSXの提案を受け入れたようだ。
テーブルの上に赤いエンブレムが置かれ、蝋燭の火が灯されると、タイプ Rの白装束に着替えたNSXは、独鈷代わりにチタンシフトノブを握り締める。
「……空冷・空冷・白ツナギ~、セナ・プロスト・マーレイも~、我らが始祖ソーイチロー様! ここに願いを聞き遂げよ~」
NSXが呪文の言葉と共に祈り始めると、誰もが最初は溜め息をついていたが、しだいにある異変を認めざるを得なかった。
なぜか窓の外が急に暗くなってゆき、眩しいほどの晴天だった空模様が崩れ始めた。更には信じられない事に、雨雲が立ちこめ、にわか雨まで降りそうな勢いだ。
「ええ? 嘘だろ、オイ!」
強気の三菱GTOも、目の前で繰り広げられるオカルトチックな降霊術と、それに呼応するような天気の急変に思わず肝を冷やす。
「――我が身を依代として、いざ探し人を~ここに……お願いしまっす!」
「わあああ~!」
目を閉じたままトランス状態に陥ったNSXは、一瞬ガクッとしたかと思うと、まるで誰かが乗り移ったかのように目つきと声色が変わった。
「……誰えええ? 私を呼び出したのは~?」
「ひえええ~ッ!?」
その場にいた誰もが恐怖に顔を引きつらせながら、目の前で起こった信じがたい光景に腰を抜かした。ただロードスターの母親だけは、勘で分かったのだろうか……娘が乗り移ったであろうNSXに向かうと、真剣な眼差しで問いただした。
「あなた、ロードスターなの?」
「そうだよ~、母さんなの~? それともロータス・エラン~?」
「何言ってるの! 母さんだよ! あなた、今どこにいるの?」
「……ここは……寒い、寒い~、真っ暗な世界~。誰もいやしない~」
あまりの事に感極まった母親は、ついに泣き出してしまった。
「母さん! しっかり!」
父親も受け入れがたい事実と衝撃に、その場に崩れるように夫婦で抱き合うと号泣する。
……怯えるスープラ、震え上がるフェアレディZとGT-R。開いた口が塞がらないGTOと、銅像のように固まったままのRX-7。
もうこうなっては、どうしようもない。勇気を振り絞ってコスモ・スポーツが、ガクガクしているNSXに質問を続けた。
「おい、ユーノス・ロードスター? 私だ、副会長のコスモ・スポーツだ、分かるか? 今どこにいる? ひょっとして、あの世なのか?」
その言葉を聞いたNSXは、しくしくと力なく泣き始めるのだ。誰もが絶望感に苛まれようとしている瞬間に、またも異変が起こった。




