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クルマ娘キュートレーサー  作者: 印朱 凜
エピソード3
82/85

メタセコイア並木


 右手には、ひたすら真っ暗な琵琶湖の水平線が続く。そう、場面が再び切り替わり、こちらは湖西側にいる豊田スープラの孤独な快走。


「はあ、はあ、やっと白鬚神社に到着か……」


 安芸の宮島にある有名な厳島神社を思わせる、水中からそびえ立つ赤い大鳥居が見えてきた。


「ようやくって言っても、まだ高島市か……北にあるメタセコイア並木までは、後どの位だろ? ……ええっ? 残り25キロ? 最大ペースでも30分以上かかるじゃん!」


 まるで光に吸い寄せられるように、コンビ二で休憩を取ったスープラだが、スマホから容赦ない現実が突き付けられる。


「もう、どうすんのよコレ? 制服のまま、一人で走るのにも限度があるわ! 何で安請け合いなんてしちゃったんだろ〜」



 中分けにした前髪は、風と汗に翻弄され、グシャグシャに乱れるに任せている。疲労がドッと押し寄せ、もう引き返そうかと思った時、ふと湖上の鳥居が目に入った。月光に照らされた姿は、何とも神々しい。


「でも、行方不明のロードスターの事は皆、心配しているでしょうね……ウチの家族なら、どうなっていた事か……」


 その時、白鬚神社へと続く161号線の遙か北から、走ってくる人影が徐々に見えてきた。気のせいか月明かりを浴びて、光っているように思えた。


「え、白い服? 私に向かって手を振ってる? それに大声で何か呼んでる?」


 あまりに非現実的な光景に、豊田スープラは自分の目を疑った。遠くから走ってくる人物は、白地に赤と緑のカストロールカラーのレーシングスーツを身に付けている。


「お~い! スープラ~! 探したよ~!」


 暗闇の中、スタイリッシュな髪型にスポーティーな雰囲気を放つ娘は誰なのか、すぐに分かった。


「お姉ェ!? 何でまたココに?」


 毎日顔を会わせているはずの豊田セリカGT-FOUR RCが、ヒーローのように見えた。晴れ着であるレーシングスーツを纏い、スープラの前に颯爽と現れたのだ。


「スマホの着歴見た~? あんた電話しても全然出ないじゃん!」


「走ってて、全く気付かなかったんだよ」


 おそらく妹の窮状を察知したのだろう。豊田セリカGT-FOUR RCは、車で先回りをして神社で待っていたのだ。


「副会長のコスモ・スポーツから全部聞いてるよ! さあ、一緒に走ろうよ、スープラ!」


「待ってよ、姉ちゃん!」


 一回り小さい姉のセリカと、お尻の大きなスープラは、北のマキノ町にあるメタセコイア並木を目指して共に走り出したのだ。






 どれ程の時間が過ぎたのだろう……。ようやく目的地に着いた豊田の二人は、先着したRX-7と傍にいる見慣れない人物に、ばったりと出会った。


「ああ~ッ! アンタもう、ここに着いてたの? どんなズルして来たのよ!」


 それを聞いたRX-7は、悪戯娘っぽい笑顔でスープラを迎えた後、残念なお知らせをした。


「やっと着いたの? 思ったより遅かったね! 一足先に着いたから、メタセコイア並木の周辺をひとしきり探し回って、思い当たる場所を聞き込み調査までしたけど、ユーノスロードスターの情報は、全くと言っていい程なし! 全っ然ナシ!」


「そんなあ~……骨折り損のくたびれ儲けか~」


 その場に力なく崩れ落ちたスープラを尻目に、微妙な空気を鋭敏に感じ取ったセリカは、 RX-7に訊いた。


「ところで隣の人は友達? あまり学校では、見かけないようだけど?」


 きょとんとしたRX-7は、困ってしまったフェスティバに、二カッと笑いかけながら言ったのだ。


「あ~、親友のフォード・フェスティバGT-Aさんです! 最高のクルマ娘なんだよ!」







 



 


 


 


 


 

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