GT-Aの名にかけて
心の奥底から湧き出す激情がフェスティバの声帯を震わすと、絶叫となりて闇夜に吸い込まれてゆく。それに呼応するかのように、今度は母親の声だけが頭の中に去来してきた。
「近所のアメリカンスクールに通ってるGMのシボレー・コルベットさん、本当に凄いわねぇ。持ち前のハイパワーを発揮して、力自慢が集う大会で次々と優勝しているそうよ」
母であるフォード・ロータス・コーティナとフェスティバの間には、血の繋がりはなかった。英国生まれの彼女は、日頃から自分の名門家系を誇りにしていた。
「そうそう、ダッジ・バイパーさんも凄いのよ。あのフォードの強心臓を持つシェルビー・ACコブラ427を彷彿とさせるわねぇ」
「母さん! どうして、いつも他の娘と比べてばかりなの? 私は……私でしかないから! もうウンザリ!」
「そうね。もちろん、あなたにだって優れた面が、いっぱいある事を知ってるわ。クルマ娘には、生まれ持った使命のようなものがあるから……」
フェスティバGT-Aは母親の、ため息混じりのような声を振り払うように、認めたくもないしがらみからも逃れるように、どこまでも続く闇夜を切り裂いて走り続けた。
「何よ! 際立った能力ばかり自慢して!」
ここからは傷んだ凸凹路面に、トリッキーなコースが連続する。迫り来るブラインド・カーブを前に、完璧なタイミングでブレーキングを掛ける。
「ここだ! スローイン・ファーストアウト!」
靴底が悲鳴を上げ、アスファルトの轍をえぐると、トラクションが限界を超えて、真っ黒な靴跡を路面に残す。
「次はいよいよメインステージ! 私の大得意とする連続S字カーブが待ってる!」
毎日走り込んでいる成果である、非の打ち所のない美しいコース取り。目を閉じていても浮かんでくるようなコーナーを、アウト・イン・アウトで最適な速度で駆け抜けてゆく。
「はああああああーッ!」
とんでもないスピードで危なげもなく回頭し、そのままの安定した角度で旋回してみせる。
「たああああああーッ!」
あくまでも冷静に、限界まで速度を上げる。見たくもない後ろをチェックすると、誰もいない静かな暗黒の世界だけが広がっていた。
「どうだああああああ~! さすがに、ここまでは付いてこれまい! ハハッ! ちょっと大人げなかったかな?」
――その時であった。まるで研ぎ澄まされた鋭利な刃物で背筋を撫で下ろされるような……ゾクッとした氷の悪寒がフェスティバの全身に伝播し、体表面のありとあらゆる立毛筋が収縮したかと思うと、毛穴という毛穴が一瞬で粟立つのを感じた。
闇に浮かぶ野生の獣に近い何かが、電光石火の勢いで背後から迫って来る。




