ヘンリー・フォードの子ら
「ねえ聞いて、RX-7! この先ちょっとしたワインディングロードが続くんだけど、私と街まで勝負してみない? いや、お願いします!」
にわかにフェスティバの眼光が、闇夜に獲物を狙うフクロウのように鋭くなってきた。そうかと思えば、闘争心を漲らせた口調でRX-7に走りを挑んできたのだ。そのあまりの豹変ぶりに、言われた方はポカンとして戸惑いを隠せないほどだった。
「ええ~っ? どしたの急に?」
「助けたお礼にレースなんて、恩着せがましいって思われても構わない。こんなチャンスは二度とない! さあ、真剣勝負よ、RX-7!」
「ち、ちょっと待って!」
「ここはハンデを貰っておくね! 先行して道を綺麗にしておくから!」
そう言い残したフェスティバは、グッと姿勢を沈めると急激にスピードを上げていった。
残されたRX-7は、視界の中に小さくなってゆくフェスティバの姿を、何とか見失わないように捉え続けるのが、やっとの思いだった。
「ふふふ……この道は毎日のように走り込んでる、私のホームコース! 簡単には抜かせないよ!」
まるでランナーズ・ハイになったかのように笑顔で満たされたフェスティバは、身体能力が限界まで引き出されてくるにつれ、脳細胞の思考活動までもがピークに達しようとしていた。
光なき道を上り下り、右に左に舵を取り、アスファルトを靴底で焦がすうちに、風切る音がいつしか耳元で消え失せ、夜景が色めき立ってくるのを感じた。すると、全ての視界が時空を超えたかのように急に開けてきた。
――ここはどこだろう? 緊張の中に佇む自分がいる。
頭が薄い黒縁眼鏡をかけたスーツ姿の面接官が、長机の向こう側から値踏みするような目で眺めてくる。
『確かに……あなたの学科試験についての成績は、どの教科も文句なしに素晴らしい。だが、肝心の運動技能試験の得点が軒並みこれでは、仮に入学しても皆に付いていけないのではないでしょうか』
『そんな事は決してありません! 合格した後もトレーニングを怠らず、毎日努力を続けます! 名車女子学園の生徒として、その名に恥じないような学生生活を続けるつもりです』
『いや何も……本校に入学する事だけが、クルマ娘としての全てではありませんよ。その卓越した身体能力と人並み外れたパワーは、どの業界からも引く手あまたなのです』
ショックで頭の中が真っ白になったフェスティバに、更に追い討ちを掛けてくるよう、隣の若い面接官も言葉を繋ぐのだ。
『私の知っているクルマ娘ですが……建設業や運送業、引っ越し業者の間で大成功を収めている人物を何人も知っています。……いくらでも望まれている世界が、あなたの前に広がっているのですよ』
『違う、違う! 私は走りたいんです! レースをして一番になりたいんです!』
『何をもって名車と呼ばれるかは、定かではありません。たとえ走りだけでは……』
いつの間にか意識が、灰色を経て暗黒の夜道へと戻ってきたようだ。両目から溢れ出す熱い涙が、冷たい頬を伝う。
「競走でトップを目指して何が悪い? それこそが、走るために生まれてきた者としての本能! ――私は! クルマ娘なんだああああああぁぁぁァァァーッ!」




