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クルマ娘キュートレーサー  作者: 印朱 凜
エピソード3
76/85

夜間走行


 一方で高島大津線をひた走る豊田スープラ。フルマラソン並みの距離を走破するには、クルマ娘の実力をもってしても1時間以上は掛かるだろう。

 

「夜風が気持ちいい。走り慣れた道とはいえ、独りで走るのは何だかね……制服のまんまだし」


 流すには具合がいいような、交通量の少ない道路を北上してゆく。

 ヘッドライトに照らし出されるクルマ娘に、対向車のドライバーは、皆一様に驚きの表情を隠せない。彼女と並走するトラックのスピードメーターは、時速50kmを指しているように思える。

 いつしか琵琶湖の水平線が臨める道路にまで達し、徐々に気分は盛り上がってきた。


「そう言えばRX-7(FD)は今頃、どこ走ってるのかしら?」


 休憩がてらに入ったコンビニで水分補給しながら休んでいると、携帯に着信があった。急いで確認すると、何と副会長の松田コスモ・スポーツからだ。


「――ご苦労さま、道中トラブルに見舞われたりしてないか、心配になって掛けてみたんだ。今は、どこにいるんだ?」


「あっ、副会長! 現在地は、白鬚神社近くのコンビニなんです。ろくに灯りもないような暗すぎる道で、うら若き女子高生にとっては少し怖いです。そうだ! ちょうど訊きたい事がありまして……」


「RX-7の事だろう? 彼女なら、もうじき長浜市の木之本インターチェンジに着く頃だろう」


「ええっ? どういう事なんですか?」


「どうしたもこうしたも、RX-7は高速道路を利用して湖北まで移動したんだよ。タクシーに乗ってね」


「何ですかそれ? とんでもないインチキじゃあないですか!」


「言ってなかったっけ? 別に不正でも何でもないし。タクシー代は自腹だけどね。高速料金ぐらいは後から請求すれば、生徒会費から出るかもしれないけど」


「いやマジで、全く説明されてないですよ!」


「そんな事はどうだっていい。RX-7は今から湖北を走って、マキノ町のメタセコイア並木まで行くそうだ」


「ひょっとして……」


「そうだ、スープラ。どちらが先にメタセコイア並木まで到着するか、勝負を申し込んできたぞ」


「望むところです! 高島市からだと、ちょうど同じくらいの距離になりますね」


「面白くなってきたじゃないか。クルマ娘の本能が燃え上がる瞬間がやって来たんだ」


「よーし、勝負を受けてやる! 副会長、もうここから出発しますね」


「ははは、グッドラック!」


 スープラが明るいコンビニの自動ドアを抜けると、夜風がひんやりと汗で濡れた制服のシャツに染み渡った。目の前は、吸い込まれるように真っ暗な琵琶湖の湖面だ。


「孤独感との戦いだったけど、がぜんヤル気が湧いてきたわ」


 ピットからのスタートのように慣らし気味に走り始めた豊田スープラは、はるか北を目指した。丈の短いスカートからは、インナーがチラ見えする。


「あっ……あれは……」


 月明かりに照らし出された湖面には、有名な白鬚神社の鳥居が水中から静かにそびえていた。もう風はいつしか止んでいたのだ。



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