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クルマ娘キュートレーサー  作者: 印朱 凜
エピソード3
75/85

西から東から

 こちらは、やや遅れてスタートしたアンフィニRX-7と豊田スープラのライバル組。

 先行するRX-7は、追いかけてくるスープラを尻目にある計画を実行するようだ。


「留学していたオーストラリアを思い出すねぇ! あの熱いバサーストの風!」


 そう彼女はただのRX-7ではなくタイプRバサーストだったのだ。どうも、湖西道路をまっすぐに北上して目的地のマキノ町メタセコイア並木に向かわないようだ。

 最短距離を迂回する行程に、スープラは理解が追い付かなかった。


「へっ? 今からどこに寄り道すんの?」


「バイバイ、スープラさん! 私は琵琶湖大橋を渡って逆側……つまり東岸に沿って北上するよ」


「そりゃ〜ぐるっと回れば、いつかはメタセコイア並木に着くけど、何でわざわざ遠回り?」


「裏技があんのさ! ルール聞いてなかったの~?」


 そう言いながらRX-7は、夕陽に赤く染まる琵琶湖大橋を渡り始め、いつしか遠くに見えなくなる。

 そのまま激走するスープラは、琵琶湖の西岸を走りながら頭の中をクエスチョンマークで一杯にした。


「裏技って何なの? 彼女、同じ松田のコスモ・スポーツから有利な情報を貰ってんじゃない?」


 スープラは6速に入れたような巡航速度を保ちながら、思わず奥歯をグッと噛み締めた。


「ず~る~いっ! 不公平だぁ~!」


 日没の琵琶湖は、波頭を花弁ように白く……ピンクに咲かせるが、海岸のような磯臭さは運んでこなかった。


 別れたRX-7はクルマ娘だけに、渋滞の影響が全く関係ない。あっと言う間に走り切り、目指す名神高速道路の栗東ジャンクション入口にまで到達した。


「お待たせしました! さあ急いで出発しましょう!」


 何とRX-7は、付近にタクシーを待たせていたのである。


『いくらクルマ娘でも、高速道路の走行は不可能で、当然禁止されている。逆に言えば今回、高速道路を利用する場合には、いくらでも自動車に乗る事が認められているのよ』


 息を整えながら、スカートの裾を押さえてタクシーの後席に乗り込んだRX-7は、白髪のドライバーに伝えた。


「木之本インターまで、お願いします。支払いはクレジットカードで!」


「分かりました。少し飛ばして行きます」


「うふふ! これは楽勝だわ。待っててね、ユーノス・ロードスター」


 すぐに空腹になるRX-7を乗せた黒塗りのタクシーは、クルマ娘の高笑いを残して料金所にハンドルを切ったのだ。

 湖北まで時間は、どの程度に掛かるのだろうか。スマホで検索しながら彼女は、ポケットから取り出した溶けかけのチョコバーに齧り付き、その唇を濡らした。


「チョコ、ばりうま〜!」


「お客さん、カンベンして下さいよ……」

 

 



 

 

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