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クルマ娘キュートレーサー  作者: 印朱 凜
エピソード3
74/85

峠のR-32


「おらあああ! まだまだあああ!」


 くるくるとダンスを披露するように、スカイラインGT-Rはワインディングロードを駆け上がり、やがて峠のコンビ二に先着した。

 スッキリと健康的なアスリート少女の登場は、周囲の視線を独り占めするかのよう。汗だくのまま息を整えていると、ギャラリーと思しき人達から声を掛かけられまくった。


「あんた、クルマ娘? ええっ! その制服は名車女子学園の人? すげー! 本物を初めて見た!」


「へへっ! そうだよ! 私、スカイラインGT-Rってんだ」


「ひょっとしてR32GT-R? 超有名人じゃん。やったね、一緒に写メ撮ろうぜ」


 あっと言う間にクルマ好きの野郎共に囲まれた。中には実車のR32GT-Rに乗っているオーナーもいて、オレの愛車に乗せてやると積極的に誘われた。


「ありがとう。でも私らクルマ娘は、名車の魂を宿す者。その由来となった車に近寄る事はタブーとされているの。魂がその車に引かれて戻ってしまうからね」


「――っていう事は、もし乗ったりでもしたら……」


「結構ヤバい事になるんじゃないの?」


 その時、上り坂の連続に体力を使い果たしたフェアレディZと、靴紐が切れた三菱GTOがようやく合流してきた。GT-Rの前には走り屋の皆さんと、そのギャラリーから奢ってもらったジュースのペットボトル、そしてアイスクリームやお菓子の類いが、山のように積み上げられていた。


「よっ! 遅かったじゃない」


「この騒ぎは何なの? まあ、あんな走りを見せ付けたクルマ娘が、目立つ制服姿のまま夜のコンビニにいたら、こうなっちゃうよね……」


 新たなクルマ娘の登場に、集まった車好きの皆さんが大いに沸いた。その実力もさることながら、三人が三人とも優劣付けがたい美少女ぶりを発揮していたからである。


「おおーっ! 知ってるぜ、ZとGTOじゃん! こりゃあ……祭りじゃ今夜は!」


 ここぞとばかりにGT-Rは、大声を張り上げて皆を黙らせた。


「実は、最近行方不明になったクルマ娘のユーノス・ロードスターを探してるの! 誰か何でもいいから、知ってる事はありませんか?」


「――いやあ、この辺りでは見た事もねェな……」


 この場に集まった老若男女が顔を見合わせて首を捻った。ガセネタを除けば、SNSを駆使してまで集めた情報に、めぼしい物はなかったのである。


「そういや、すぐ近くに比叡山ドライブウェイがあるだろ? そこの入口に確か、開かずの女子トイレがあったような……」


「うおおお! きっと中に閉じ込められてるにちげえねぇ! 皆で行くぞ!」


 クルマ娘とギャラリー達が、一致団結して無理矢理こじ開けた女子トイレ。そこで一同が目にした物は……。


「うげえええ! 黄ばんだトイレットペーパーの山と、大量の虫! ただの故障中やんけ!」


 最後の頼みの綱として、コンビニの店長とバイトからユーノス・ロードスターについての情報を得ようと試みる。


「ここ最近のクルマ娘の噂話ですか? 特にないですねぇ~。ユーノス・ロードスターさんって言う人なんでしょうか? 見た目は普通の人間と変わらないので、意識した事もないですね」


「ここも、やっぱダメか……」


 骨折り損のくたびれもうけという言葉が、三名のクルマ娘の脳裏によぎったのだ。

 




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