山中越え
その頃、先行する三菱GTOと彼女を追跡する日産フェアレディZ・スカイラインGT-Rコンビが、峠道へと向かう麓にまで到達していた。何でもアリの違法追跡劇は、まだ始まったばかりだ。
とにかく持て余すほどの加速力で、グイグイ先行していた三菱GTOだったが……もう息切れしてきたのか、坂道前の路上で弱音を吐いていた。
あまり深く考えずに猪突猛進するような、見た目もパワーも過激な娘だったのだ。
「せ、制服のまま走るのキッツい! それにコンビニで買ったペットボトルが、こんなにも邪魔になるなんて……」
巨大サイズのミネラルウォーターを一気飲みしながら、汗で貼り付いた前髪を直していると、見覚えのある制服ペアが傍を通りかかった。
そのうちのフェアレディZが、長い髪を遊ばせながら人懐っこい笑顔で挑発してきた。彼女は長距離タイプのせいか、汗ひとつかかず涼しい顔をしたままである。
「ねえねえ彼女! もう休憩? ちょっと飛ばしすぎなんじゃないの?」
「うっせ! 今からどこを探すか考え中なんだよ」
今更ながら考えなしに、ここまで来た事を白状した。意外にも『それは私達も一緒』とスカイラインGT-Rは、爽やかな口調で擁護したのである。
どうも日産ペアは、この状況を楽しんでさえいるようだ。
「Z! とにかく峠にあるコンビニまで行ってみようよ」
「そうね、GT-R。もしギャラリーがいたら、話が聞けるかもしれないし」
スカイラインGT-RとフェアレディZが駆け出すと、GTOも飲みかけのペットボトルを放り投げた。
「負けるか~! どっちが先に峠まで辿り着けるか競争だ!」
熱くなりやすいスカイラインGT-Rは、早くも上り坂をモノともせずに加速し、マイペースなフェアレディZを置き去りにした。その背中を見失う前に、本気モードになったGTOが、ターボを利かせるように追いかけてくる。
「ワインディングロードはお手のもんだよ!」
「させるかぁ! お食事券はオレのもんだ!」
その時、坂道を下ってきた軽トラが3人の前に迫ってきて、ギリギリの道幅でパスしていった。特に最後尾にいたフェアレディZが轢かれそうになる。
「ひえええ! 交通規制もされてないし、夜間のライトなしランは危険すぎます! やっぱ止めにしませんか~?」
こんな夜間に、しかもグレーの制服姿で山道を駆け登るリスクなど気にしないGTOは、相手を鼓舞するように言った。
「この一瞬のスリルが、たまんねーんだろが! なあ! GT-R!」
「ああ! ここに置いてっちゃうよ! Z~!」
「待ってよ! こんな人気のない山の中に独り残されたらと……考えるだけでも恐ろしすぎる~!」
右に左にガードレールをすれすれになぞるクルマ娘らは、ホーンを鳴らす本物の車を巧みに避けながら、ギャラリーポイントがあるカーブを目指してひた走ってゆく。




