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クルマ娘キュートレーサー  作者: 印朱 凜
エピソード3
71/85

NSXの行動力


 一方で学園へと引き返した本田NSXは、まっすぐ職員室に向かうと、ユーノス・ロードスターの現住所を担当教員から訊き出していた。生徒会にも顔が利くスーパー優等生にとっては、生徒の個人情報を調べる事など容易いのである。


 いとも簡単に実家を特定した本田NSXは、すでに上下ともジャージに着替えてスポーツシューズに履き替え始めた。


「ふふっ! 灯台元暗し……ってね! ロードスターの実家に何か手がかりがあると見た!」


 あくまで優雅に、さらさらのロングヘアーを肩口から後ろ手に遣ると、早歩きで校舎を後にする。すでに夜の帳が降りた校庭には人影もまばらだ。

 暗さに順応するため、両眼をリトラクタブルヘッドライトのように大きく開いたNSXは、自身の勘を証明するため、校内から飛び出してゆくのだ。




 しばらくすると電話の予告通り、ユーノス邸のインターホンが鳴らされた。


「はい、本田さんでしょうか?」


「夜分恐れ入ります、本田NSXと申します。ぜひロードスターさんのお部屋を拝見させて頂きたいのですが……」


「まあ、お友達が心配されて、あの子のために駆け付けて下さったのですね? どうぞどうぞ」


 事前に学校から連絡があったユーノス家では、訪問者へのお茶まで用意されていた。


「これは、お母様。わざわざ、ありがとうございます。しかしながら、長居は致しませんので……!」


 熱いお茶をものともせず、一気に流し込んだNSXは、二階にあるロードスターの部屋へと向かった。躊躇する事もなくドアを開けると、そこには自分の部屋と大差ない高校生らしい空間が広がっていた。

 憧れにしているという古のロータス・エランのポスターの下には、勉強机とレカロ製の椅子。特注ベッドは何とマツダスピードの柄だ。


「隠れてないで出てらっしゃい!」


 手始めに大きな収納スペースの扉を開けたNSXは、誰もいない事を再確認してしまった。更には警察犬のように嗅ぎ回る。そして、ありとあらゆる引き出しを開けて、何の成果も出ない事を悟るのだ。


「メモ一つ残されていないとは。スマホも持って行ったままか……。あれっ? 充電器は――見当たらない」


 諦めきれなかったのか、NSXは遠慮なしに一戸建てのトイレから風呂場に至るまで確認して回った。どんどんエスカレートする彼女に、両親はただただ呆気に取られて見守るだけだった。


「何らかの理由で家に隠れている線はなくなったか……」


 真面目なサラリーマンの父親は、思わず優等生に叫んだ。


「当たり前でしょう! いたら我々が気付くし、娘を隠す理由もございません」


「ちょっと、お父さん! お友達が、あの子のために来て下さったというのに!」

 

 とうとう両親が抱き合って、むせび泣き始めた。その心境は痛いほど分かる。

 自分の両親に置き換えてみれば……。


「お騒がせ致しました。ロードスターは私達が、きっと探し出してみせますので、どうかご安心下さい」


 丁寧に礼を伝えたNSXは、振り出しに戻った事を自覚しながら溜め息をつくと、新たな捜索に出発したのだ。


 





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