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クルマ娘キュートレーサー  作者: 印朱 凜
エピソード2
58/85

感激のフィニッシュ


「おおっと、何と言う事でしょう! 現在、豊田セリカのペースが乱れてきているとの情報が入ってきました。果たしてゴールまで戻ってくる事は、できるのでしょうか?」


 ここにきて快調だったセリカGT-FOUR RCの走りに、精彩が欠けてきた。琵琶湖大橋でのデットヒートが、スタミナに響いてきたのだろか。苦しそうな表情で沿道を走る姿が、画面一杯にまでズームされる。


『くっ! さすがに無理しすぎたかも……。何だか脚が重い。視界もだんだん、狭くなってきた』


 明らかにスローダウンしたセリカに、校門前に集まってきた見物人やファンの皆様、学年を問わない生徒諸君が惜しみないエールを送り続けた。

 そして悲鳴にも似た、どよめきが起こる。


「ああっ!」


 ついに何でもない段差に引っ掛かり、セリカが転倒した。

 ショックで耳のワイヤレスイヤホンが、どこかに転がり落ちていく。

 すぐさま救護班が出動しかけたが、セリカは膝上までのソックスを上げると笑顔で制止した。


「大丈夫です! 幸い強化レーシングスーツのおかげで、どこにも怪我してません。どうか、お願いします! このまま続けさせて下さい!」


 少し血の滲んだ白スーツを見逃さなかった豊田2000GTと、ゴール前のラリーメイト2名は、拳を握りしめて叫ぶのだった。


「セリカさん!」


「やれえええ! お前ならできる!」


「無事にここまで帰ってきて!」


 当然の事であるが、先にゴールを済ませた伊太利屋女学院のランチア・ストラトスとデルタHFインテグラーレEvoⅡも、モニター越しから伝わってくる鬼気迫るような気概に、同じ競技者としてのスピリットが震えた。


「もう少しです! 頑張りなさい!」


「あら、姉さん、いいんですか? 我々の名声が掛かってるんですよ?」


「それより……あなた。後でお話があります。あなたの言う名声に関わる事なのですが……!」


「…………はい……」


 ランチア・ラリー037が何の事か分からず、首を傾げた頃合いに、セリカがトールゲート前の花道に姿を現した。


 名車女子学園の全校生徒が、爆発的な歓声と拍手を浴びせる。


 するとセリカは闘争心と追求心が昇華されたような、底なしの達成感と責任感がない混ぜとなった何とも言えない感情に支配され、大いに心が揺さぶられた。


 その勢いでゲートをくぐり抜けると、自然にガッツポーズが掲げられ、らしくないセリカのイケメン顔を何十倍にも輝かせたのだ。


「よくやったぜ、セリカ!」


「お疲れ! さあ、一緒に行きましょう!」


 今日一番の笑顔で迎えたランエボとインプレッサに支えられながら、セリカは体育館へと導いてゆく大勢のクルマ娘達の海を漕いで進んだ。

 今の感情に押し潰されたくはない! 

 いつも見慣れた風景が、何だか違って見えたのだろうか……セリカは黙って空を見上げたのだ。




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