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クルマ娘キュートレーサー  作者: 印朱 凜
エピソード2
51/85

早食いステージ3


「食券とスタンプカードはここです! 醤油の味の濃さは薄味で、スープのあぶらの量は少なめで、麺の茹で加減はかためで、お願いします!」


 さっと暖簾をくぐった後に、少し折れたスタンプカードを差し出した豊田セリカGT-FOUR RCは、大声でカウンターに向かって注文した。


「これは驚き! そんなに細かくオーダーできたのですか?」


 先客として器用に麺をすするランチア・ストラトスHFは聞き慣れないシステムに、ここがアウェーである事を再認識した。そこに複雑な感情を押し殺したような、微妙な表情のセリカが詰め寄ってきたのだ。


「ストラトスさん……あの倒れていた綺麗な女性は、無事だったんでしょうかね?」


 藪から棒の問いかけに、心理戦を挑んできたと理解したストラトスは、中継カメラに向かって怯えるような仕草をしたのだ。


「あら、困った事ですね。楽しい食事の一時に、水を差す人がいましてよ」


「……くっ!」


 これ以上やると、反則負けかペナルティを食らうと悟ったセリカは、黙って離れたカウンター席に座った。


『あれが、本当のハプニングだったとは思えない。しらばっくれてるだけかもしれないけど、微塵も動揺しないなんて、大したメンタルだわ。アンカーを任されてるだけに、やはり強敵……!』


 渋い顔をしているセリカの前に、ついにできたてのラーメンが提供されてきた。


「よし、待ってました。実は私、ここのラーメンが大好きで、女子高生でありながら毎日のように通ってた時もあるのです」


 そう言い放つやいなや、レンゲで具材を沈めてスープの温度を冷ますと、ほっぺがハムスターのようになるまで麺やスープを一気に頬張った。


「おお〜! 何という派手で気持ちのいい食いっぷり! 最後を託された豊田セリカは、とんでもないスピードで、早食いステージのポイントを荒稼ぎするようです!」


 暫く唖然として向こう隣のセリカの追い上げを見つめていたストラトスは、残り僅かとなったスープに悪戦苦闘していた。


「こうなったら、マナーや体裁にいつまでも構っていられませんね!」


 ……何と丼を持ち上げたストラトスは、直接口を付けて最後の一滴までスープを飲み干したのだ。


「ぷは〜っ! 満足いたしましたわ!」


「うおお~! きゃあああ! すげえええ!」


 勝負のために全てをかなぐり捨てたクルマ娘に、会場は笑いと賞賛の拍手が爆発したのである。


「――はい、合格! 完食です」


「よし! 私の大切なエレファンティーノは、絶対に渡しませんよ!」


 そう言うが早いか、口を綺麗に拭ったランチア・ストラトスは、爽やかな残り香だけを置き土産に、ラストステージに向かって白鳥のように飛び出していったのである。




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