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クルマ娘キュートレーサー  作者: 印朱 凜
エピソード2
50/85

第三チェックポイント


「いらっしゃいませ~。こちらへどうぞ~」


 まだ息が整っていないランチア・ストラトスが食券を購入すると、手持ちのカードにポンとスタンプが押された。


「ついに、ついに! 伊太利屋女学院がラーメン・スタンプラリーの三店舗を制覇しました! ですが最後の走者には、ラーメンの完食後に走って学園まで戻ってくるという、ラスト・ランが控えております! 果たして、ランチア・ストラトスは満腹のままリタイアせず、ここまで帰ってくる事はできるのでしょうか?」


「……ふん、やるしかないでしょう。必ずや勝利を掴んで、TOYOTA2000GTさんを手に入れてみせます!」


「なにやらカメラに向かってイタリア語で勝利宣言している模様です! 現在のポイントは伊太利屋女学院が300ポイント! 対する我が名車女子学園は290ポイントで、ほぼ拮抗しております」


 思わぬ名勝負にランチア・スラトスの闘争心はピークに達した。そしてカウンターテーブルに運ばれてきたラーメンをカッと見据える。

 ――薄い鶏油に覆われた濃厚な醤油豚骨スープの海には、太い縮れ麺がたゆたっており、見事なチャーシューが覆い被さっている。船の帆を思わせる海苔三枚と、島のごとき色合いのホウレンソウが、鉢の中に盆栽のような小宇宙を完結させていた。


「こ、これは……走った後にはキツいかと思ったけど、何て食欲をそそられる香りなの!」


 もはや、なり振り構っていられないランチア・ストラトスは、スプーンとフォークをかなぐり捨て、箸を器用に掴むと、丼にキスする勢いで麺を口に手繰り寄せた。


「日本のパスタは、こうすればいいのでしょう!?」


 一般に外国人は麺をすすれないと言われているが、ランチア・ストラトスは日本のクルマ娘の見よう見まねで、スープごと麺を吸い込むテクニックを身に付けたようだ。


「ひぃ! 熱すぎ! でも……一口目から美味しい! 気に入ったわ」


 汁が飛んでくるようなライブ映像を見せ付けられた会場は、大いに沸いた。


「うおお~! なかなか気合い入ってんじゃん、伊太利屋女学院!」


 一方でクレバーな態度の中にも、食に対する探究心を隠しきれない仏蘭西女学院の金髪の二人……ルノー5(サンク)ターボとアルピーヌA110は、来賓席でモニターを見ながら思い至ったようだ。


「検索してみると、どうやら横浜家系と称するラーメンらしいな。各地域によって味わいと体裁が異なるとは……まるでボルドーとブルゴーニュ……ワインのように奥の深い世界じゃないか」


「それよりあなた……制服にまでよだれが……」


 そして、にわかに雷鳴のような歓声が店外で湧き起こった。汗まみれの額をワイパーのように袖で拭ったのは豊田セリカGT-FOUR RC、正に代表を背負うに値する凜々しい表情だった。

 焼けマフラーに水のように、汗が瞬間的に蒸発して煙となるのだ。


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