推して推して推しまくれ
『やだ、この人……本気なの? でもよく見たら結構、私のタイプかも……』
今まで経験した事もないラテン流の情熱的なラブコールに、セリカGT-FOUR RCは思わず身を委ねてしまいそうになる。その心の機微を見逃さなかったクーペ・フィアットは、チャンスとばかりにセリカを押し倒そうとする。
「ふふ、アモーレ・ミオ! 私の愛を受け入れて下さい……」
ラリーで昂ぶった心臓が、更に直列4気筒ターボエンジンのようにレブリミットまで駆け昇る。妖艶なクーペ・フィアットの琥珀色の瞳に、セリカの心は魅了されてしまったのか。
『よし、落ちた……な!』
柔らかな両手で頬を優しく包み込まれたセリカGT-FOUR RCは、もはや抵抗する術を忘れたかのようだ。ついに虜となった淡い唇が、薄笑いのクーペ・フィアットに奪われそうになる。
「……試合中ニ、ナ~ニヤッテンデスカ?」
その時、どこからともなくセリカの耳に、オッサンコーチの声が響いてきた。
「――そんな訳あるかい! あんた、初対面の人に何するんですか!」
ようやく我に返ったセリカGT-FOUR RCは、のし掛かってくるクーペ・フィアットを両腕で突き飛ばした。
「きゃあ! 何するの?」
「それは、こっちのセリフです! ラリーの最中に、そんな気分になるはずなかろうがあああ!」
「そうかしら? 結構、乗ってきた感じだけど」
「う、うるさい! 真剣勝負の邪魔しないで下さい!」
なぜか涙目となったセリカGT-FOUR RCは、レーシングスーツの砂を払うと、再び進路に向かって一目散に走り始めた。
「……チッ! あと一歩だったのに。さすがに無理がありすぎたか……」
置いてけぼりにされたクーペ・フィアットは、妨害電波を発しながら周囲の中継カメラの死角を狙って姿をくらました。後から駆け付けてきた救護班は、いなくなった女性を探しながら狐につままれたような顔となったのだ。
中継が切り替わり、心とタイムを乱されたセリカGT-FOUR RCは、今までの遅れを取り戻すかのように、なおも全力で走り続けた。
『――何だったの、あの人は? まさか罠が仕掛けられていたというの? でも、そんな分かりやすい不正を、あの人が画策するかしら?』
その頃、高潔を絵に描いたようなランチア・ストラトスHFは、無線で送られてくるロードマップに従いながら順調に、ラリーを消化していった。
「あれがラーメン・スタンプラリーの最終ポイントね」
駅前に続く裏手の道路に従って進んでゆくと、黄色い屋根の看板が見えてきた。そこには『横浜家系らーめん 秀吉家』の文字が刻まれてはいたが、漢字が読めないストラトスにとって、得体の知れないプレッシャーを店構えから感じ取ったのだ。




