表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クルマ娘キュートレーサー  作者: 印朱 凜
エピソード0
4/85

プリンスとポルシェ 1




「こら! GT-R! 家の中で走っちゃダメでしょ!」


 まだ若い母親の声が広い部屋に響き渡った。


「GT-RってどのGT-R? 誰の事? 家には上からハコスカ、ケンメリ、R32、R33、R34と5人もいんだけど!?」


「目の前のあなたの事です! R32スカイラインGT-R!」


「めっちゃ紛らわしいよね、5人姉妹はマジで……」


 クルマ娘のR32スカイラインGT-Rは、研ぎ澄まされたアスリートのようなスポーツウーマンだ。

 ツーリングカーレースを席巻し、誰からも認められる姉と同様に、グループAと呼ばれるレースでは、ただ今無敵状態。更に彼女は運動神経が抜群なだけではなく、セミショートヘアがよく似合う爽やか美少女でもある。


 R32は最近、ご近所さんから妙な噂話を聞いてしまった。

 清楚で親しみやすい母親が昔、すごい渾名で呼ばれていた事を。

 怒られついでにR32は、なかなか訊き辛かった質問を母親にぶつけてみた。


「ねえ、お母さん……。お母さんは若い頃、『羊の皮を被った狼』って呼ばれてたんだって?」


 唐突な問いかけに一瞬、母親の瞳の奥にキラリと閃光が走ったような気がした。R32は本能で『ヤバい!』と脳裏に浮かんだが、母親は取り乱す感じもなく、落ち着き払ったままだった。


「あなた……、一体誰からそんな事を?」


「い、いやあ、何でもないんだよ! ただ娘としてチョッと気になってたから……。なははは……!」


 必死で誤魔化すR32であったが、母親は怒るどころか、寧ろ遠い目をして懐かしそうに笑った。


「そうね、そんなふうに呼ばれてた時もあったわね。それは確か……、日産家に入籍する前で、プリンス時代の事だったわ」


「そ、そうなの? そういや、お母さんの旧姓はプリンスだったわね」


「そう! 私はプリンス・スカイラインGT。あなた達と同じ名車女子学園に通う、花も恥じらう乙女だったのよ」


「いよっ! 乙女!」


「あれはいつだったかしら……? 私立名車女子学園の高等部で学ぶ私のクラスに、突然ドイツからの留学生が現れたのよ。しかも名門ポルシェ家のお嬢様!」


「そいつはテンションUPするね!」


「なんと彼女は、当時最強と噂されるポルシェ・カレラ904だったのよ。当然、私達のような大衆的な出で立ちではなく、生まれた時からアスリート体型だし、何て言うんだろ? 言葉にすると正に容姿端麗。映画から飛び出してきたような、非の打ち所のないクルマ娘が、いきなり天から教室に舞い降りてきたって感じだったわ」


「ほほう、それでどうなったの?」


「そりゃあ、あなた、教室中が沸き立ったわよ! いや、噂があっと言う間に広がって、学園がパニックに陥ったくらいだったわ。毎日代わる代わる他の教室の生徒や、果ては中等部の下級生までもが、彼女を一目見ようと休み時間に押しかけてきた日にゃホントに……」


「そいつはスゴいね!」


「でもお祭り状態だったのは、最初の一ヶ月くらい……。彼女、日本語はペラペラだったけど、やっぱり浮いた存在だったのよね。まるでアヒルの子の中に白鳥の雛が紛れ込んだみたいに。いつしか騒ぎが落ち着いた頃には、いつも一人でいて……。孤高の存在になっていたのよ」


「確かに、ドイツから来たエリート姫には近寄り難いよね……」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ