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クルマ娘キュートレーサー  作者: 印朱 凜
エピソード2
19/85

セリカ登場


 うららかな季節が巡ってきた穏やかな午後。大徳寺学園長からの急な申し出に、ほとほと困り果てた豊田2000GTは、授業中も休憩の間も一日中考え込んでしまった。


『う~ん、伊太利屋女学院のランチアか……。確かラリー界において知らぬ者がいないほどの、超有名な三人よね……』


 ラリーの世界では脱兎山がそこそこ名を馳せていたが、才色兼備な豊田2000GTにはツテがあった。私立名車女子学園においても、名だたる豊田一族に名を連ねる後輩の一人である。


 昼休みの時間、少し教室が空いているタイミングを見計らっての突入を敢行した。そうでなければファンの多い豊田2000GT目当ての女子達が何かと群がって来て、にっちもさっちも行かなくなるからである。


「セリカさん! ちょっとお話しが……」


 突如教室に現れた生徒会長に驚き、スマホを床に落としそうになったのは、ごく普通の女子生徒だった。スタイリッシュな髪型の豊田セリカは、一見スポーティーな雰囲気だが、平均的な体格に加え、勉強にスポーツと飛び抜けた才能もなく……ありふれた少女なのである。


「急に何なんですか? 生徒会長、いや2000GTさん。何か怖いじゃないですか!」


「あなたを見込んでの頼みなの。ちょっと来て……」


「ひえええ~!」


 うまく誤魔化して逃げ出そうとするセリカを、その場にいた友人の本田プレリュードと日産シルビアが両脇から捕まえると、有無を言わさず生徒会長に引き渡したのだ。


「ちょッ! ちょっとアンタ達! こ、この裏切り者めが~!」


「会長、どうぞご遠慮なく。セリカ、行ってらっしゃ~い!」




 それから異様なまでに警戒し、取り乱すセリカを屋上にて落ち付かせるため、ずいぶんと時間を要してしまった。


「――ええ~!! 私があの伊太利屋女学院のランチアとラリー対決?! 無理無理無理、絶対ムリ~!」


 やはりセリカは両手をぶるんぶるんと振りながら、全身で拒否したのだ。だが、そんな事は当然のごとく想定内だった。


「私ではちょっと役不足なの。豊田家の親類ではあなたしか頼める人がいないのよ。ねっ? お願い! どうかこの通りですわ」


 何と豊田2000GTは、セリカの前で跪いてまで懇願した。この予想外の態度に、セリカは口をパクパクさせながら言った。


「に、2000GTさん、やめて下さい。顔を上げて下さい。もう、ホントに泣き落としなんて卑怯ですよ」


「私……いえ学園に残された時間はあまりないの。もう、こうする他は手立てがないくらいに」


「分かった、分かったから……。豊田一族のレジェンドがやる事じゃあないですね」


 膝の埃を払いながら立ち上がった豊田2000GTは、眼前にいる制服セリカの両肩に優しく触れた。同性でも思わず見惚れる2000GTの神がかった美しさに、後輩は思わず赤面して息を飲んだ事は言うまでもない。


「安心して! 何も本格的なラリーで親善試合するなんて誰も言ってないし。要するに何の勝負でも構わないはず! いや、私の力で何とか認めさせてみせます。このくらいのハンデがあっても、いいに決まってる!」


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