大徳寺学園長と生徒会長
かれこれ一週間ほど前、朝一番に学園長室に呼び出された豊田2000GTは、重厚なドアの前で軽く咳払いすると、緊張をはたき落とすかのようにノックした。毎朝欠かさず手入れしている姫カットの長い黒髪が、朝日を浴びて水面のように輝く。
「お早うございます。生徒会長の豊田です」
「入りたまえ」
応接用のフカフカ革張りソファに案内された豊田2000GTは、促されるままに座ると制服スカートの裾を少し直した。
「大徳寺学園長から直々のお呼び出しとは……。さすがの私でも何も臆する事なく、という訳にはいきませんわね」
「忙しいのにスマンスマン、急ぎの用事が入ってね~。夕方に生徒会室まで顔を出しても良かったのだが、それでは間に合わなくなりそうだと思ったもので……」
「まあ、とても気になりますわ。一体どのような、ご用件で……」
「君の大人顔負けの度量と態度には恐れ入るよ」
勿体ぶった学園長の物言いに、多少イラついた豊田2000GTは、眼前に座った大徳寺有恒の目をしかと見据えた。
「――実はね、豊田君」
「――はい……」
「あの名門校の伊太利屋女学院から国際交流の名の下に、生徒代表が三名も来校してくるのだよ」
「まあ、それはいつ頃なのですか?」
「一週間後……かな?」
「ええッ!? すぐ先じゃないですか!」
「実はね……ウチの現役生徒である、君に言うのも何だが……ぶっちゃけ、国際交流なんてのは名ばかりで、その実……色々な学校を渡り歩き、他校の美少女達を食いあさっている悪名高い三人なんだよ、コレが」
「呆れた……教員と学園長で話し合って追い返して下さい」
「それが、そういう訳にもいかんのだ。伊太利屋女学院は、スポーツ界において無視できない力を持っていてね……。無下に断る訳にもいかず――う~ん、分かるよね?」
「そんな! 大人の事情を、守るべきであるはずの学園生活にまで持ち込まないで下さい!」
ついにソファーから立ち上がった豊田2000GTは、この場から立ち去る素振りを見せる。
「耳が痛いな……返す言葉もないよ。でもね、恥を忍んで君を呼び出したのは他でもない」
「――体よく、その三人をトラブルなしで追っ払って欲しいのですね」
「さすが、よく分かっているじゃあないか」
大徳寺学園長はシガーケースから一本取り出すと、吸い口と反対側をナイフカットして長いマッチで火を付けた。すると同時に、ワルサーPPK型の水鉄砲を鞄から取り出した豊田2000GTに消火される。
「生徒を前にした喫煙は、御法度ですよ」
「ハハハ、私としたことが……豊田君、今の事は忘れてくれたまえ。でも、ここで聞いた事は、ゆめゆめ忘れないでね」
そして溜め息を漏らす豊田2000GTにとって、目が回るほどに忙しい七日間が、幕を開けようとしていたのだ。