心に明日をください
朝っぱらから、名車女子学園のプリンスがいるクラスに激震が走った。
ベテランの女先生曰く――。
「今日は残念なお知らせがあります。留学生のポルシェ904さんですが、急遽ドイツへの帰国が決まり、今朝、御両親と空港へと出発されたそうです。学校側でお別れ会を正式に開催する予定でしたが、本人たっての希望で内緒にしておいて欲しいと。クラスの皆にお別れを言うのが、とても辛かったそうです……」
「ええ~っ!?」
プリンス・スカイラインGTと五十鈴ベレットGTは、口をあんぐりと開けたまま、固まってしまった。
クラス一の美尻少女、日野コンテッサとチビッ娘、昴360は呆れた口調で言い放った。
「外国人って盛大にお別れパーティーを開くモンだと思ってたのに。あの人、結構有名人のくせして変わってんな」
「何も言わず行ってしまうなんて、やっぱ私らを見下してたんじゃない? 最後の挨拶もなしなんて、あまりに酷すぎるよ」
「……違う!! そんなんじゃない!」
机を叩いて立ち上がったのは、プリンス・スカイラインGT。
彼女の叫びにも似た言葉に、クラス一同が静まり返った。
「何よ、仲良かったアンタには知らせてきたの?」
「プリンスだけにはサヨナラって言ってた訳? それよか知ってて黙ってたのは、どういうつもり?」
日野コンテッサと昴360がプリンス・スカイラインGTに詰め寄ってきた。
「違うって言ってるでしょ!」
プリンス・スカイラインGTは、鞄の奥にしまわれていた手紙を思い出したように引っ張り出すと、急いで封を開けて読み始めた。昨夜は何となく読むのが躊躇われて、今日ゆっくりと内容を確かめるつもりだったのだ。
先生は黙って、しばらく様子を見守っていたが、ついに痺れを切らして大声を出した。
「ちょっとプリンスさん! まだ朝のホームルームの時間ですよ! 一体何をやっているのですか!?」
プリンス・スカイラインGTは、手紙の文面に目を走らせて集中していたが、徐々に持つ手が震え、膝はガクガクと揺れ、髪がみるみるうちに逆立ってきた。
「プリンス! 聞いているのですか!?」
その言葉にスイッチが入ったのか、プリンス・スカイラインGTは、感情を剥き出しにしたように心の底から叫んだ。その顔は、まるで別人のように歪んでいた。
「うわああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
彼女の迫力が爆風のように伝播し、その振動は窓ガラスを割らんばかりの衝撃波だった。
先生を始め、五十鈴ベレットGT、日野コンテッサ、昴360……、いやクラスの全員が度肝を抜かれ、ただただ圧倒された。