1才調査報告 その3
サブタイトルって本当に難しいですね。
ほんの二,三分の後、父親のギルバート=フォッカーが、ホールに戻ってきた。
手には、A3位の紙の束とペンとインク瓶を持ってきてくれた。
「アル 学習 好きか?」
妙な笑顔の父が、紙に文字を書きながら尋ねてくる。 父と母、そしてオレの名前を書いてくれたようだ。
「なまえ アル の?」
「ほぉほ~、わかるかぁ。 なら、これも書いておくから出来るなら覚えておきなさい。」
そういって父は、等間隔に文字を並べて書いてくれる。 どうやら平仮名の50音表に似ている。
いや、これって アルファベットを使ったローマ字に近いのでは? と思った。
そう思いながら図鑑を見ると、やはりローマ字をイメージした方が簡単に覚えられそうだ。
アルファベット的にみると30種類の文字の組み合わせになっている。
「父様、ありがとうございます。」
ギルバートにお礼を言う。
「文字を覚えるのが早くて驚いたが、学習意欲があるならどんどん続けなさい。」
そういって、紙の残り数枚とペンとインク瓶を差し出した。
おや? ちょっと不思議な顔をしたら
「大切に使いなさい。」
と言って、手渡してくれた。
「ありがとうございます。」
もう一度お礼を言って、紙たちをもらった。 チラッと兄ミッシェルが羨ましそうにこちらを見ている。
ヤバいかな? 大事にしまっておこうと思っていたら父が、
「ミッシェルと、ソニアにも渡そう。 後で部屋に取りに来なさい。」
兄たちに向かって言葉をかけてくれていた。 父の気配りのおかげで、取り上げられることがなくなった。
よしよし、これで安心して紙が使える。 母もほっとした表情をしている。
読み書きそろばんとかいったな。 前世の経験をまた初めからやり直すことに、多少の不満があるけれど、そこは真摯に向き合って新しい人生を楽しむことをめざそう。
文字を読むことは少しづつ進歩していきそうだけど、書くことも出来ないとダメダメだよね。 それには、紙がもっとあるといいけれど、高価だとむだにはできない。 いま貰った紙は、全部で8枚ある。 裏は使えないなぁ・・・。
「アル様、お部屋に戻られますか?」
食事の片づけが終わったマリーがそばにやってきた。
「はい。 お願いします。」
マリーに返事をした後、父、母たちに挨拶をして部屋に戻ることにする。
紙やペンをマリーに持ってもらって、オレは、階段をヨチヨチと登っていく。 まず最初にしておくことは・・・。
「マリー、すみませんが少し頼みごとがあります。 ちょっと部屋に寄ってください。」
部屋に入ると衣服が入っている木箱を机代わりにして、マリーから紙を受け取り1枚をひろげ、先ほどギルバートに書いてもらった文字表をみせる。
「これをひとつづつ読んでほしいのです。」
マリーにオレの用件をお願いする。
「ブッポウ表 ですね。 もう、こんな学習をされるのですか?」
疑問に思ったようだけど、それでもひとつづつ丁寧に読み上げてくれた。
「a i u e o」
マリーが読んでくれる声に合わせて、ローマ字で発音記号を新しい紙に書きとっていく。 チラッと見たマリーが怪訝な顔をしているが、続けて読んでくれた。 確認で、もう一度読んでもらう。
「OK マリー。 ありがとう、表が完成しました。」
これでゆっくり何度も繰り返し覚えることができるようになった。 紙を1枚使ってしまったけれど、効率的には、一番いいはずだ。紙とペンは貴重品だ。 大事に道具箱にしまい込む。
ついでに一通り部屋を見渡すと、サイズの合わない大きな机といすが一組。机の上には燭台に乗ったろうそくが置いてあるだけ。
ベットが一つある。 ベットは木製で、子供用の規格が存在しないのか大きい。 下になる布団は、藁かなにかの植物ぽいものが入っているようだ。 上にかける布団は、羊毛みたいなものが入っているそうで、軽くてふんわりしている。 高さがあって、一人で降りれないので、空の衣装用木箱を踏み台に押してきた。 部屋の壁際に5個の木箱があり、その中に服がわけて入れてある。 タンスはない。 木箱には、文字が刻まれていて、上着・肌着と区別して入れてある。 手足が短くて着替えはまだ一人でできなくて、マリーに手伝ってもらっている。 子供服というか、赤ちゃん服というか、オレの服は布袋を被っただけのような、簡単なデザインで腰を布紐で縛るだけの簡単なものだ。 下着は、パンツ型だけど、少し前まで布をぐるぐる巻きにされていた。 オムツ代わりだったけど、動き辛くて濡れると気持ち悪かった。 部屋におまるが置いてあり、今はそれを自分で使っている。 最終的に汚物処理は、マリーにしてもらっているが、早々にトイレトレーニングを終了したオレをべた褒めで、手がかからなくて助かるらしい。
他には何もなくて、窓が一つあるだけで簡素。 やはり家電製品がないと少し寂しいなぁ。
マリーは部屋からそっと出ていった。
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