冬のあしあと
しんしん。さくさく。
雪の上に、大小ふたつの二の字が続いている。
ひとつは、若き男の下駄によるもの。
もうひとつは、幼き少女によるもの。
シラカバの林を抜けたところで、あしあとはひとつだけになった。
つかれた娘を、父親が抱き上げて歩いたからである。
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しんしん。さくさく。
雪の上に、大小ふたつの二の字が続いている。
ひとつは、老いた女の下駄によるもの。
もうひとつは、健やかな青年によるもの。
カラマツの林を抜けたところで、あしあとはひとつだけになった。
つかれた母を、息子が背負って歩いたからである。
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しんしん。さくさく。
雪の上に、大小ふたつの二の字が続いている。
ひとつは、可憐な雪女の下駄によるもの。
もうひとつは、愛らしい雪童子によるもの。
カンチクの林を抜けたところで、あしあとはひとつだけになった。
迎えに来た雪男が、ふたりを肩に乗せて歩いたからである。
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ずんずん。ぽかぽか。
日が暮れた村に、点々とあかりがともる。
父と娘が鍋の支度をしている頃、母と息子は餅を焼いていた。
そして、雪の精たちは、陽気にうたい、おどっていた。
ときの流れが、いまよりゆったりしていた時代のこと。
ある初冬の、あどけない情景である。