エマーラル攻略戦
翌朝、一行は王城の間でシャロルナーダやルスタールに別れを告げる。
「シャルロナーダ様、ターナ、俺はクロ達について行きます。
ここを離れる事になるが、必ずいつか戻ります」
「分かりました。 それが貴方の決断なのであれば私はいつでも貴方の帰りを待ってますよ。
ここは貴方の故郷なのですから」
「おじ様、必ずですよ。 約束です」
「ああ、では行ってくる」
一行はグレンステインドを出ると、近くの森に集まった。
「さて、どうやって行くかな……リッシュの方が空いてるのか」
「空いてるっちゃ空いてるが、飛べるか?」
「まあ、いつもよりも多めに魔力注げばどうにかなる」
そんな話をしていると、ダコルが不思議そうな顔でクロビ達を見る。
「何の話をしているのだ?」
「ああ、これだ」
クロビ、リース、リッシュは指輪からそれぞれ飛空魔動機を取り出した。
「な、なんと……」
「俺等専用機だ。 これでエマーラルへ向かう。
行くぞ!」
クロビの方へルルナリアが、リースの方にパトリシア、そしてリッシュはダコルを乗せて飛び立つ。
「悪いな、ルルじゃなくて」
「ちょっと、何言ってるのよ!」
「まあ、ロアに頼んで専用機が出来ればルルと一緒に乗れるから我慢してくれ」
「分かった。 今はこれで耐えよう」
「ちょっと、ダコルまで! もうっ!」
ルルナリアは顔を赤くしてクロビの背中に顔を埋めた
「ははっ、良いじゃないか。 恋の一つや二つしておけよ」
「うぅ……慣れてないんだから……そういうの……」
「まあ頑張れ」
※ ※ ※ ※ ※
≪ドーバル軍事要塞≫
「旧総本部が潰されたか……アンネットとガーボンが死ぬとは」
「はっ、必要物資の幾つかも燃やされてました」
「そうか。 まあ大体はこっちに移したからな。
私達はこれからエマーラルを攻める。
一番に落とすべきはローズベルドだ。
ドルヴィラ、状況は?」
「はい、魔導飛空艇と魔導船にて、エマーラル大陸南西と北西から攻め入る為に各ポイントに待機させております。
南西に10000、北西に6000です」
「宜しい。 では私も向かうとしよう。 飛空艇の用意を」
「はっ」
クロビ達が総本部を壊滅させていた頃、ドーバル軍はついにエマーラル大陸の侵攻へと繰り出した。
そして、その情報を即座にキャッチしたローズベルドの諜報部隊等はイーリス、グラーゼンへと通達し、三国の王族達がローズベルド城へと足を運んでいた。
「全く厄介じゃのう……フラーネスのとこは兎も角、シュバルトはどうじゃ?」
「ええ、グラーゼンはそもそも戦闘に向いていない国ですからね……ゼオールやレバンに頼むしか出来ないでしょう。
とは言え、二人ではさすがに……」
「イーリスからも兵を出す。 儂とエリネールが居ればある程度は蹴散らせるだろう」
「じゃが、相手も大将各をどれだけ持ってくるかにもよるの……
はぁ……こんな時に仮面のあやつらが居ればいいんじゃが」
「まあ、仕方ないでしょう。 彼らは別の大陸でかなり暴れているようですからね」
「そうじゃの。 とりあえず情報によればドーバルの狙いは一番に妾じゃ。
恐らく厄介視しとるのじゃろうがの」
「エリネールの魔法は相手からすれば逆に厄介だからな! ちなみに、ここの兵はどのくらいだ?」
「およそ3000と言ったとこじゃの」
「3000か……我がイーリスの兵が5000。 グラーゼンは1000、相手の半分か」
「まあ、数より質で攻めるしかないの。 サンジェラルにも要請をしておる。
少しでも戦力は必要じゃし、グラーゼンも護らねばならぬからな」
「すまない」
「よいよい、その分、ゼオールには働いてもらうとする」
・
・
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その頃、ゼオールは神霊山へ登り、レバン、メイリーンと共に修業をしていた。
「くっ」
『グギャァァア!』
「はっ!」
ダン!
「ふぅ~、ここの魔物もやはり強い」
「殿下、そろそろ休憩にしましょう」
「ああ、分かった。 メイは?」
「あちらに」
ゼオールが視線を奥に向けると、ドゴン!っとメイリーンの旋棍が爆発し、魔物を一気に吹き飛ばしていく。
「さすがメイだね。 メイ! 休憩にしよう」
「あっ、うん!」
タン、タンっと岩を昇り、ゼオールの下へと来る。
「はぁ~今日もいい運動したね!」
「ああ、それにしても戦争か……まさかこの大陸で起こるとは」
「本当だよ。 この大陸は平和が売りなのに……しかもドーバルでしょ?
クロ達はどうしてるのかな?」
「どうだろうな……」
「最近は相変わらずドーバルの基地を襲ってるみたいですよ。
先日もグレンステインド教国の近くにある山の中で、基地を壊滅させたようですからね」
レバンが得た情報を二人に話していく。
「そっかぁ~、すごいね! 相変わらず暴れてるんだ~」
「だが、私達ももうここに通って2ヶ月ほどになる。
腕は上げたはずだ!」
「うん! ゼオは私よりも強いもん」
「グラーゼンは元々武力国家ではないからな。 私とレバンが押さえなければ」
「そうですね。 頑張りましょう」
そして翌日――
ドーバル軍が上陸し、ローズベルドの南西と北西に布陣した。
『これより、我がドーバルはエマーラル大陸の攻略へと至る!
ここ数か月で三つの支部が落とされた。
だが問題はない。 全てはゴルデニアから始まる。
我がドーバルの誇りと野望をぶつけろ!』
「「「はっ! ドーバル万歳!!」」」
『全軍、出撃!!』
・
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・
「来おったの……魔術障壁を展開! 各魔術部隊は三人一組となり、魔力を高めて行使するのじゃ!
城へは近寄せるな!」
「「「はっ!」」」
ローズベルドはエマーラル大陸の西側に位置する。
そこから北東側にイーリス、南東側にグラーゼン。
その為、北西からの進軍はイーリスからの援軍と迎え撃ち、南西からの進軍はグラーゼンととなる。
しかし、グラーゼンは武力が低い為、ローズベルドは南側に兵達を偏らせた。
「―神霊のマナ、我が手に集いし星の源、集束へと至りて敵を薙ぎ払わん!
山の民たるエマーラルの子を守らんとすれば、その命奪いし宿敵は業火焼かれん!
≪爆炎の流星≫!!」
エリネールの詠唱によって三重の巨大な魔法陣が浮かび上がり、無数の光が上空へと打ち放たれ、次第に巨大な火の塊となってドーバル軍へと降り注いでいく。
ドゴン!
ズドーン!
ゴゴゴゴ!
まるで天変地異の如く無数の火の玉によってドーバル軍は進軍を一時停止したのだが、人間が巨大な火の塊に耐えられる訳もなく、次々と爆発などで吹き飛ばされていく。
「うぎゃぁぁあ」
「あつい! あついぃぃ」
「全軍、そのまま進め!森に隠れながら進むんだ!」
やがて、エリネールの魔法の効果が切れると、辺りは文字通り無数の隕石が落ちた様な状況になっていた。
また、10000居たドーバル兵も先の魔法によって3000程が削られてしまった。
「こんなものかの。 引き続き魔術部隊は魔術を放て!」
「「「はっ!」」」
「―火の弾丸―!」
「―陽光の矢―!」
「「―水龍の槍―!!」」
ローズベルド側からは次々と魔術が行使され、まるで雨の様に様々な属性魔術が森の中、ドーバルの船が碇泊する海側へと放たれていく。
「第三、第四部隊はグラーゼンを目指せ! どのみち三国とも落とすのだ!
迂回して攻めろ!」
ドーバルの指揮官が支持をだすと、数百人の部隊が橋を渡り、グラーゼンの方面へと進軍していく。
イーリスやグラーゼンでも、エリネールの魔法による激音が開戦の合図だと察し、部隊を整えていた。
そして、次第に奥からドーバル兵が見えてくる。
そこには魔導ゴーレムまでもが混ざっていた。
「あれは……!?」
「あれは魔導ゴーレムです。 厄介ですね……」
「知ってるのかレバン!?」
「実際に見るのは初めてですが、どうやら腕が伸び縮みし、魔導銃まで兼ね備えているとか」
「なるほど、なら弱点は搭乗席か……」
「先ずはあれを片付けましょう。 でないと被害が広がります」
「分かった。 行くぞ!」
ゼオールとレバンが一気に駆け寄り、次々と兵を倒していく。
「くっ、何だこいつら! 強いぞ!」
「怯むな! グラーゼンは雑魚の集まりだ! ぐあっ」
「甘いな。 私だって強くなったんだ! ここで防がせてもらう!」
ダン!ダン!っと魔導散弾銃を出し入れしつつ、剣でどんどんと兵を討っていく。
「殿下、強くなられましたね。 では私も」
ヒュン、ヒュンっと音を立てながらドーバル兵の頭部が三つに分かれていく。
すると、ギューンっと魔導ゴーレムのアームがレバンを襲う。
「さすがに早いですね。 この剣で防ぐのは難しいか……ならばっ」
タン、タンっとレバンがジグザグに動いて相手を撹乱していく。
そして、「―女 王の熱針―!」
レバンの鋭い剣の突きが魔導ゴーレムの搭乗部分に突き刺さり、次第に熱を帯びてジューっと音を立てて胴体が溶けていく。
「熱い! 熱い! あぁぁああ」
熱で溶けた事で搭乗口のハッチが開かず、中の兵はそのまま苦しみ、息絶えた。
「はっ! はぁっ!」
前方ではバシュ、バシュっとドーバル兵を討ち取って行き、今度はゼオールが魔導ゴーレムと対峙する。
「小賢しい! 我等ドーバル軍の礎となれぇ!!」
「貴様等こそっ! エマーラルは平和の象徴! 土足で踏み躙った報いを受けるがいいっ!」
ダン!
ダン!
ゼオールの散弾銃が至近距離で放たれる。
しかし、魔導ゴーレムの胴体部分はそれらを弾く。
「ふん! 効かぬわ!」
「ならこういうのはどうだ?」
ダダン!とゼオールの銃から先程よりも多くの散弾が放たれると、それらは魔導ゴーレムの手前で、まるで囲う様に動きを止めた。
「―無数の 牙!―」
すると、無数の魔弾が牙の様な鋭い形状へと変化し、ゼオールの合図によって次々に魔導ゴーレムへと突き刺さって行く。
「ふん! 効かぬと言っているだろう!!」
「どうかな?」
「何っ!?」
余裕の表情を浮かべていたゴーレムの搭乗員は次第に驚愕へと変わる。
鋭い牙状の魔弾が突き刺さって行く毎に胴体部分に凹みが生じ、やがては突き抜けて内部を破壊していく。
「くそっ! ふざけおってぇ!!」
ドーバル兵がハッチを開けて外へ出ると、いつの間にか後方へと移動していたゼオールにその首を刎ねられた。
「殿下、お見事です」
「ああ、修業の甲斐があったよ」
・
・
・
一方、北西側ではローズベルドとイーリスの連合がドーバル軍と激戦を繰り広げていた。
「レオン! 俺達も行くぞ! イーリスの力を見せてやる!」
「おう! ドーバルの好きにはさせん!!」
イーリスの第一王子アルフレッド、そしてS級ハンターのレオンが率先して軍を引き、侵攻する兵達を薙ぎ倒していく。
「そんなものかドーバル!!」
イーリスの騎士団達もアルフレッド達の勇姿に士気を上げ、その剣を振るっていった。
「ゴーレム部隊、突撃! 魔導銃部隊は後方から支援射撃だ!」
ドーバル軍も道を切り拓くべく、ダダダ!っと後方から次々に無数の魔弾を放っていく。
「魔術部隊は障壁を展開しつつ、攻撃系統で駆逐しろ!」
「「はっ!」」
どちらも譲らぬ戦いで、一帯は敗れた兵達の亡骸が転がる。
「―太陽の槍―!」
「「―火竜炎舞―!!」」
アルフレッドがゴーレム目掛けて光属性の魔術を行使し、まるで太陽の様な灼熱の槍が突き刺さる。
更に、後方からはローズベルドの魔術部隊が炎を舞い散らせ、兵を蹴散らしていく。
「あら、イケメン君がいるじゃない。 あれ、私が貰ってもいいわよね?」
「お好きにどうぞ。 興味ありませんから」
次第に激化していく中で、戦争のせの字も感じられない程に余裕な表情を浮かべた二人の女性が森から姿を見せた。
「何者だ?」
「あら、冷たいのね? でもせっかくだからお姉さんと遊んでいく?」
「ふん、貴様の様な女に興味はない!」
「じゃあ興味を持たせて、あ・げ・る」
薄茶色の長い髪を掻き上げ、恍惚とした表情を浮かべながら細めの剣を振るい、ガギンっと鍔迫り合いを始める。
「くっ、女の癖にやるな」
「あら、嬉しいわ? これでも大将なのよ? ワ・タ・シ」
「そうやって胸を開けさせて誘惑を誘うか! だが、俺には効かんぞ。
惚れてる女がいるからなっ!」
女は軍服なのだが、中のシャツは第四ボタンまでもが開いており、胸を隠す下着は付けていない。
「え~、ジェラシー感じちゃうわぁ」
そして、クネクネと身体を揺らして唇に人差し指を当てる。
アルフレッドは気にする素振りを見せないが、周囲の兵達はドーバル軍も含めて鼻の下を伸ばしていた。
一歩ではレオンと別の女が対峙している。
「興味ないんで、さっさと死んで下さい」
「ふん、なら潔く退けばいい! はっ!」
レオンから自称神速のコルセスカが振るわれると、ギンっと女はそれを両手に持つナイフをクロスさせて防ぐ。
「貴様も大将か?」
「何か問題でも?」
女は黒髪のツインテールで、どう見ても幼い。
また、青い眼は全てに興味がないと言わんばかりに死んだ魚の目のようだった。
「懐に入られたら終わりますよね?」
シュっと女はレオンの懐へと入ると、両手のナイフを素早く振るい、連撃を繰り広げる。
「くっ、すばしっこいガキめ」
「ああ?」
すると、レオンの言葉に女は動きを止め、威圧が一気に解放されていく。
「あらぁ~、ココルちゃんにその言葉はダメよ?」
「戦闘中に余所見とは癪に障る! はっ!」
ギン!ギン!
「あら、せっかちさんなのね? そういえば、私はフローレンスよ。
宜しくね? イケメンなお・う・じ・さ・ま?」
「知るか! 聞いてないし興味がないと言っているだろう!」
「もう、いけずなんだからぁ。 でも、そう言ってられるのも今の内よ?」
フローレンスは鍔迫り合いながらもわざとアルフレッドを誘惑していく。
「今、ガキって言っただろ……? 許さないからな……」
一方でレオンにガキ呼ばわりされたココルがその眼に殺気を宿して両手のナイフを振りかざす。
「ガキにガキと言って何が悪い!」
ブォン!っとコルセスカがココル目掛けて勢いよく振り抜かれる。
しかし、それはココルには当たらない。
「甘ぇんだよ! そらそらそらそら! タダじゃ死なせない!
己の告げた言葉に後悔しながら死ねぇ!」
ズバ!ズバっとレオンの手足に斬りつけていく。
「くっ、早いな……だがこれしき! ふん!」
レオンもココルの連撃を防ぎ、躱し、神速の突きを放つ。
「チッ、めんどくせぇ男だな! さっさと死ね!
―風の弾丸―!」
ナイフの連撃に加え、風魔術を行使しながらレオンを押していく。
「はっ! 隙ありだぞクソガキ!!」
「!? チッ!」
コスセスカがココルの足元を掬い上げ、バランスを崩したところを透かさず蹴り飛ばす。
「ぐぅ……この野郎!!」
ココルは吹き飛ばされ、そのまま着地したと同時に一気に地面を蹴り上げて回転を加えると、再度連撃を放ちながら回し蹴りをレオンの顔面に放った。
「ぶほぉ!?」
ザザーっと吹き飛ばされるレオン。
「くっ、私としたことが……」
「ケッ、ざまぁだな! そのまま跪いてろ赤男!」
「ふざけるな、ここでやられる私ではない! 神速連突き!」
シュ、シュ、ブォンっと連続の突き、縦、横、斜めと次々にコルセスカがココルを襲う。
「ぐっ……」
キン、キンっと最初はナイフでレオンの猛攻を捌いていたのだが、次第にその力強さによって弾かれ、身体を何度も突かれる。
「ぐあっ!?」
「そのまま吹き飛ぶが良い! 転状風牙!」
「ぐぁぁあああっ」
ズドォォン!っと激しい音を立ててコルセスカから生み出された竜巻がココルを容赦なく襲った。
「ふん、他愛もない」
「あらあら、ココルちゃん大丈夫かしら……」
「人の心配よりも自分の心配をした方が良いんじゃないか?」
ズバっとアルフレッドの一閃がフローレンスの右胸部を斬った。
「いったぁ~い!」
血飛沫が舞い、斬られた事で右側の服が破れ、片方の胸が見えてしまっている。
「もう、そんなに見たいなら見せてあげるのにぃ……」
「ふん、必要ない。 そのまま討たれるがいい」
「もう! ちっとも振り向いてくれないのね? 久しぶりに良い男だと思ったのにぃ! 手に入らないなら要らない! 殺してあげるわ!
あっ、でも死んでから楽しむのもアリね?」
すると、フローレンスからも威圧が放たれ、シュっと鋭い突きが目にも止まらぬ速さで放たれた。
「ぐっ!?」
「あら、残念ね」
アルフレッドはどうにか防いだが、左腕を貫かれてしまった。
「ぐぐ……油断したな……」
「アルフ!!」
「ちょっとぉ! 男女の楽しみに割り込んでこないでくれるかしら?」
突如鋭い殺気がレオンを包み込むと、高速の一閃が放たれ、ズバっとレオンの胸辺りを横に切り裂いた。
「ぐわっ」
「邪魔よ、貴方」
更に跳び蹴りを食らわせると、レオンは後方へと吹き飛んでいく。
「意外と脆いのね? それと、終わったと思ってるかもしれないけど、ココルちゃんはまだこれからよ?」
「何!?」
その言葉と同時に、いつの間にかレオンの後ろにはココルが立っていた。
「お返しだクソ野郎!」
グサっと右肩部分をナイフで突き刺され、背中に膝を減り込まれると、一瞬息が止まり、レオンは「ゴホッゴホッ」と咽る。
「さて、これからだ! 立てよ」
「ちっ、ふん!」
ブォンっとコルセスカを振るい、ココルと距離を置く。
「さぁて、これからお仕置きの時間よ? 痛いのと気持ち良いの、どちらが好みかしら?」
「マズいな……だが、これしきではやられん! 行くぞ、レオン!」
「おう! 私達の力、見せてやる!!」
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アルフレッドとレオンが大将達と激戦を繰り広げている中、グラーゼン側でもゼオールとレバンの前に大将が立っていた。
「ふん、俺が出る事になるとはな……」
赤茶色の短い髪に髭を生やした、如何にも軍人と言える体格の中年男。
「貴方はルネス・コールマン……」
「ほお、執事のあんちゃんは俺を知ってるのか」
「レバン、何者だ?」
「ドーバル軍の大将であり、ルーブの所長。
以前、魔導戦乱期の後半でドーバルの名を知らしめた武人でもあります。
力こそ全てを体現したような男だと聞いてますね……」
「クックック……そこまで知られてるか。 俺も捨てたもんじゃねぇな」
ルネスの手には巨大なランス。
「ここらで退場してもらうとしよう。 俺も忙しいんでな」
ダっと勢いよく踏み出し、ランスを前に構えて突進してくる。
巨体の割にそれは非常に早く、ゼオールとレバンはそれを躱したのだが、勢いは止まる事なく次々と後方の部隊を薙ぎ倒していった。
「くそっ……まるで馬車や魔導駆輪が突進しているようだな……」
「殿下、気を付けて下さい。 勝とうとせず、時間を稼ぎましょう。
普通に戦えば分が悪いです」
「分かった」
「お前等が避けるから死ぬ事も出来ずに苦しんでるぜ? 面倒だから二人で掛かって来い」
「いくぞ! レバン!」
「はっ!」
二人は左右に分かれてルネスへ剣を振るった――




