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黒き復讐者の交響曲  作者: Rさん
第Ⅸ章 ~ヴィルナード大陸編~
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ルスターナ・グリード・エスタロッテ


≪ヴィルナード大陸・グレンステインド教国≫



ゴルデニア大陸より北東の位置にあり、ルーブ大陸・東方国オウセンの北側にある大陸であり、大きさはゴルデニアの半分ほど。


ここは水と緑が豊かな土地であり、大陸最大の国であるグレンステインド教国はその名の通り信仰が深い。


民達が祈るのは、嘗て神に挑んだエマーラル大陸の伝承、死の王と呼ばれたドルヴェン・ゴル・ザリオンとは真逆に、神側を信じる者達が集う国でもある。


その対象となるのは死の王によって討たれた神ではなく、それらを生んだ最高神【グルナデーラ・ハイ・ヴィナージュ】と呼ばれる女神だ。


全てに慈しみ、愛を与える事を心に刻み、グレンステインド教国の民達は週に二度、必ず祈りを捧げる。



「ルスターナ様、祈りの時間です」



「分かりました。 行きましょう」



ルスターナ・グリード・エスタロッテ、緑の眼を持つ聖女と呼ばれるその人は、仕える神官に連れられ、大聖堂へと向かった。


建物内は大きな空間に沢山の椅子が並べられ、ステンドグラスが左右一面に張り巡らされている。


日の光が反射する事で、まるで神の国に降り立った様な錯覚を覚える程、煌びやかな空間でもあった。


奥には段差があり、その中央には祭壇がある。


そして、後方には大きな女神グルナデーラ・ハイ・ヴィナージュの像が造られていた。



「皆様、お集まり頂き感謝致します。

女神グルナデーラ様が温かく見守られておりますよ。

祈りを捧げ、国の発展と民の繁栄を願いましょう」



聖女ルスターナが祭壇の前で言葉を告げ、胸の前で手を組むと多くの民達も一斉に祈りを始める。


時間にして10分程。


祈りを終えると、民達は聖女へと感謝の言葉を告げていく。


ルスターナは人々から慕われ、民達にとっては心の拠り所にもなっている。


しかし、こうして目に出来るのは祈りの場に現れる大聖堂内のみ。


故に、この場に入れなかった人達は大聖堂前で祈りを捧げるのだ。


全ての祈りを終えるとルスターナがその場を離れて行く。



「ああ、聖女様……麗しいお方。 まるで女神様そのものだ……」


「聖女様がいなけりゃこの国はダメだ……」



その後、ルスターナは大聖堂から城へと戻り、自室で休む。



「ルスターナ様、お紅茶です」



「ありがとう、カルディナ。 ソフィアはまだ戻って来ていないのかしら?」



「そうですね。 先日、A級ハンターへ昇級されたとお聞きし、こちらへ戻っていると報告は受けております」



「そう。 頑張ってるのね。 私もこの国の民達の為に、もっと頑張らないといけないわ」



「ルスターナ様のお優しい心は素晴らしいですが、無理はしないで下さいね」



「ええ、でも……」



「何かございましたか?」



「少し胸騒ぎがするのよ……」



ルスターナがそう告げながら窓を眺めると、ぽつぽつと雨が降り始めていた。



「この時期に雨とは珍しいですね……」



「そうよね……気のせいだと良いんだけど……」



ルスターナはしばらく無言で外の様子をじっと眺めていた――




※ ※ ※ ※ ※



≪ヴィルナード大陸・南部≫



「リッシュ! 洞窟か何かないか!?」



「今探してる! ん~、あっちだ!」



「よし! 急げー!!」



ルッセル大陸・ロスタールを出てから三日、クロビ達は既にヴィルナード大陸に上陸していたのだが、突然の大雨に必死で雨宿りが出来る場所を探していた。


リッシュの強化された感覚を頼りに、ようやく洞窟を発見した一行は急いで中へ入ると、焚火で暖を取って冷えた身体を温めていく。



「びしょびしょだわ……」



全員びしょ濡れになり、とりあえず服を乾かそうとリースが太めの鉄線を形成して岩壁に左右の岩壁に繋げていく。



「これで服を干せる。 うんしょっ」



そして、リースは気にする事なく服を脱ぎ捨て、下着一枚の姿になった。



「ちょっとリース!?」



「ん? ルルも脱いで? 風邪引くよ」



「そ、そうだけど……」



よく見るとパトリシアも平気な顔をして服を脱ぎ、干していく。



「うぅ……亜人種って皆こうなの……?」



「ルル、この場合は致し方ない気もするから恥ずかしがった方が負けよ?」



パトリシアはルルナリアの状況を把握した上で助言した。



「ん~、分かったわよ! えいっ!」



ルルナリアも勢いよく服を脱ぎ、鉄線に掛けていくとクロビとリッシュが食材を狩って戻って来た。



「おお~これは眼福だな。 と言うか……」



クロビはリースの身体こそしょっちゅう目にしているのだが、パトリシアとルルナリアの身体は初めて目にした。



「リッシュ、どっちが好みだ?」



「ああ、俺は……リシアだな。

鍛えられた身体にバランスの良い胸の大きさ。

何よりあの尻と脚の比率が最高じゃねぇか」



「俺はルルだな。 服を着てて分からなかったけど、隠れた秘宝だったのか!

スタイルも程良い肉付きに、しかし、しっかりと引き締まった腰にあの実った果実。 

素晴らしい!」



クロビとリッシュがそんな話をしていると、「ちょっと! 貴方達見過ぎよ! うぅ……もう……お嫁に行けない……」とルルナリアが崩れ落ちた。



「クロ、やっぱり浮気対象?」



「だから浮気じゃないって。 男の性ってやつだ」



「なら良いけど」



リースとクロビのいつものやり取りをしていると、「何も良くないわよ! もうっ!」とルルナリアが鋭いツッコミを入れて来る。



「そういえばルルはまだ処女だったね。 慣れておいた方がいい。

今後の為にもね?」



「ちょっ、リシア!? 何で今それを言うのよ!?」



「恥ずかしい事じゃないんだからいいじゃない。 何なら二人のどちらかに貰ってもらう?」



「えっ!? い、嫌だからね! それは! もっと大切な人とが良いもの……って何を言わせるのよ!!」



「ははは、ルルはツッコミ役だな! ほら、とりあえず身体冷えるから座ろうぜ」



クロビとリッシュも服を脱ぎ捨て、全員下だけ履いた状態で焚火を囲む。



「うぅ……前以て教えておいて欲しいわ……こういうのは……」



ルルナリアは羞恥心と後悔で顔が赤くなり、涙目になっていた。



「さすがに急な雨は対処出来ないだろ? 別に女の身体は見慣れてるから安心してくれ。 突然抱かせろなんて言わないから」



「そんなのこっちからお断りよ! 仮面の(マスカレード)断罪人(コンビクション)は貞操概念が緩すぎだわっ!」



ルルナリアがぷりぷり怒っていると、「まあまあ」とリースとパトリシアがそれを宥める。



「とりあえず肉と魚焼くから待ってろ」



リッシュが鳥の魔物と近くの川で取れた魚を捌いて焼いていく。


ジューと肉が焼ける音と漂う匂いに、皆のお腹が一斉に鳴りだした。



「リッシュ、早く……お腹空いた」



「もうちょっと待てって。 クロ、塩とか頼むぜ」



「あいよー!」



そんな三人の様子を見ていると、パトリシアが口を開いた。



「手慣れてるんだな? 旅をしながらっていうのもそういう知識が身に付くのか」



「まあ、ずっと旅してるからな。 基本飯は狩ってそれを食らう。

野性的だろ?」



「確かに、魔物なら本来はそうだから、良いと思う。

寧ろ私としては新鮮だし」



「なら良かった。 ほら、焼けたぞ! 食べよう」



クロビが味付けを終えるとそれぞれに配り、食していく。



「ん~、このお魚美味しいわ!?」



ルルナリアも先程の羞恥心は既にとこかへ飛んで行き、夢中で魚を頬張っていく。



「ドーバルって飯どうなんだ?」



クロビはふと気になってルルナリアとパトリシアへ訪ねてみた。



「そうね……場所にもよるけど、私とかリシアのように将官になればそこそこ良いご飯は食べれるわね。

ただ、それまでは共同の食堂があってそこで可もなく不可もなくといった食事だったわ」



「確かに、食堂の飯はたまに不味かったな……寧ろ、今こうして食べてる物の方が断然美味い」



「なるほど、まあ下っ端なんてそんなものだよな。 どこ行っても」



「そうね。 うんっ、お肉も美味しいわ」



ルルナリアは幸せそうな表情を浮かべて次は肉を口にして行く。


リースは相変わらずムシャムシャと食べる事に夢中で、時おりほわ~と嬉しそうな表情を浮かべていた。



「この後どうすんだ? ってまあ雨止まねぇとって感じだが……」



リッシュがそう言って入り口を見ると、未だザーっと勢いよく雨が降り注いでいる。



「この大陸ってどんな感じなんだ? 国とか」



クロビやリース達はこの大陸は初めて訪れた。


だからこそ、あまり情報がないのだ。


リッシュは知識だけであれば一応持っているが、それでも訪れた事のある二人には劣る。



「そうね、ここはグレンステインド教国という、女神グルナデーラ・ハイ・ヴィナージュを崇拝する大国があるわ。

後は、小さな村やグレンステインドに属する街があったけど」



「なるほどな、じゃあそこに聖女が居る訳か。 確か緑の色眼持ちだったか」



クロビは以前エリネールに聞いた話を思い出し、ルルナリアの説明に当て嵌めていく。



「そうね。 そこがこの大陸の北東にあって、ドーバルの基地は北西の山の中よ」



「山の中か、また面倒な場所に作ったな……それってグレンステインドで情報は得られるのか?」



「一応、ドーバルの兵達も山を下りて、と言うのはあったから酒場だったりで情報は得られるかもしれないわね」



「じゃあ先ずはグレンステインドを目指すか」



「おっ、方針が決まったか。 ならしっかりと食わねぇとな!

まだまだあるぜ!」



そして、皆がお腹を満たすと、旅の疲れもあったのかそれぞれが眠りに付いてしまった。


その夜、クロビは目が覚めるとまだ雨が降る入り口に座り、ぼーっと外を眺めていた。


すると――



「あら、クロ。 起きたの?」



「ルルか、ちょっとな。 雨って言うのも久々だからさ」



「そう」



「これ着とけ。 ここは火が遠いから寒いぞ」



「あ、ありがと……」



クロビは来ていたコートをルルナリアに着せると、ルルナリアは何故だか顔を少し赤らめた。



「後悔してないか?」



「えっ、後悔?」



「そう、後悔。 今まで敵対していた側に付いた。 つまりは寝返ったって訳だしな」



「そうね……後悔か~、まだ分からないわね。

一応、罪悪感はあったけど。

ただ、ロスタールの街の人達が頑張って復興してる姿……それはコルトヴァーナでも同じね。

そういうのを見ると、私はそっち側じゃダメなんだって思ったわ」



「そうか。 なら良いんだ。 俺やリッシュ達、リシアもか。

それらはドーバルによって家族を殺された。

だからこそ、潰す対象になってる。

けど、ルルは違う。 だから最終的には自分の目で見て判断してくれたらそれでいい。

でも、今は仲間だから引き込んだ責任として最後まで背中は押させてもらうけどな」



「ふふふっ、クロって不思議よね?」



真剣な話をしていたのだが、ルルナリアが突然笑い始めて雰囲気が明るくなる。



「俺、今結構良い事言ったつもりなんだけどな?」



「ええ、分かってるわ。 でも不思議なんだもの。

紅眼ってドーバルの中では一番の危険人物なのよ?

まあ、ゴルバフ元帥が直々にっていうのもあるけど、実際に名前しか知らない人達はそれこそ〝死神〟のイメージだもの」



「別に俺だって好きでそう呼ばれてる訳じゃないからな?

それに、まだ俺が発色したところ見てないだろ?」



「そうね。 見たら印象が変わるのかもしれないけど、きっと大丈夫。

短い時間だけど、貴方の人と成りは理解したから」



「そっか」



「でも、エッチなのは私がいないところでお願いね。

私自身、見た目が良いのは知ってるの。

実際にモテてたし。

でも、色恋に興味が無くて……それよりも昇進してって思いしかなかったから慣れてないのよ……

話しを聞く限り、クロって沢山の人抱いてるんでしょ?

リースも含めて……」



「ははっ、まあ確かに抱いてると言えば抱いてるけど、そこまで誰でもって訳じゃないぞ?

ただな、色眼持ちは欲に素直になるんだよ。

リースはそもそも俺がじゃなくて、リースが襲ってくるし」



「そ、そうなの……?」



ルルナリアは少しジトっとした目でクロビを見つめる。



「まあ成り行きもあるが、一度切りってのは今のところないな。

そこまで関係を深められる人間もそうはいないし。

だから実際に抱いたのはエリネールとリースくらいだ」



「エリネール!? 西の魔女!?」



「そう、アイツはエロの塊みたいな体してるからな」



「う~ん、男だから仕方がないのか……クロだからエリネールを抱けるのか……複雑ね……」



「俺もそう思う。 まあ抱かれて良いっと思ったらいつでもどーぞ」



「思わないわよっ! た、多分……」



「おや、自身無さげだな?」



「だってほら、そういう時だってあるじゃない、女にも!」



「興味ないって、それでも言い寄る男は居ただろ?」



「あっ、そういえば大丈夫かしら……」



「いるんじゃん」



「クロには言いにくいけど、ゴルバフの息子なのよ。

ドルッセルって言って、同期だったんだけど……いつも結婚しようとかデートしようって無理矢理連れられてたわ」



ルルナリアは少し懐かしそうな表情で雨空を見上げた。



「結構好きだったんだな?」



「そうね。 好きと言うか、自分を認めて追いかけて来てくれたのがドルくらいだったから。

でも、もう会えないのね……」



「そこは任せるよ。 別に止めないし、さっき言ったように自分で判断すればいいよ」



「分かったわ。 じゃあ戻りましょう。

身体も冷えたし、眠くなって来た」



「だな。 明日は止めば良いけどな」



二人は焚火を付け直し、それぞれ眠りに付いた――



そして翌朝、クロビが目を覚ますと、何やら柔らかいものが顔の辺りにあった。



ムニュっとそれを掴むと、「んっ……」と艶めかしい声が聞こえる。


そして、下の方にはふさふさの尻尾。



「リース……どういう寝方してんだよ……」



クロビはリースの胸に顔を埋めた状態で起き上がろうと必死に動き回る。


すると、右手の方で更にムニュっと弾力のある感触があった。



「ん? これはリースじゃないな……となると……」



ムニュ、ムニュ、ムニュ



「ダメだ……リースが邪魔で分からん」



()()()()、じゃないわよっ!!」



「ん!? ルル?」



「ちょっ、んっ、……もうっ! クロ、離してってばっ!」



「ああ、ルルのか、悪い! リースで前が見えないんだよ」



「ほら! リースも起きて!」



「ん~、ルルおはよう。 ってクロ? 何で私の下にいるの?」



「知らん。 とりあえずそろそろ窒息しそうだからどいてくれ」



ようやくリースから解放されたクロビなのだが、視界には顔を赤くして涙目になりながらご立腹なルルナリアが居た。



「もうっ! 昨日エッチなのはダメって言ったじゃないの!」



「いや、事故だって。 でもすごく柔らかかったぞ? 最高だった。

ありがとう。 でも、ゴメン!」



「どっちなのよ、感謝なのか謝罪なのか!」



「ルル、クロに襲われたの? クロ、浮気?」



「リース、違うから安心しろ」



「リースの解釈だと誤解が生まれそうだわ……」



すると、後ろの方からリッシュとパトリシアが軽めの食材を狩って戻って来た。



「うるせぇな朝から」



「ルルがクロに襲われたの? 大人の階段上った?」



「もうリシアまで! 違うのよっ! 何でもないの!」



ルルナリアはどうする事も出来ずにとりあえず急いで乾いた服を着て何事もなかったかのようにその場に座った。



「ルル、ツッコミ役だね。」



「はぁ~、何だか先が思いやられるわ……リシアまでそっち側になってるし」



「ルル、違うよ。 元々私はこういうタイプなんだ。

これまでは上官として扱ってたからな。

今から慣れてくれ」



「頑張るけど……そんなだったからしら……?」



何とも色々と頭を悩ませるルルナリアだった――


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