仮面の断罪人
クロビ、リース、リッシュ、ルルナリア、パトリシアの5人がコルトヴァーナを旅立ち、途中ルッセル大陸・ロスタールへと訪れた。
コルトヴァーナからヴィルナード大陸へは北東へ真っ直ぐなのだが、ルッセル、オーブと二つの大陸を跨がなくてはならない。
故に魔動機でも三~四日は掛かる距離なのだ。
「どーも、ダルクさん」
「おお、クロさん達か。 随分仲間が増えたな」
「リース! 久しぶり!」
「ユナ、会えて嬉しい」
以前と同じようにリースとユナが抱き合い、再会を喜んでいると、その姿を少し羨ましそうにルルナリアとパトリシアが見つめていた。
「ルルナリアと、こっちがパトリシアです。
二人とも、こちらはダナンさん。 ロスタールの領主だ」
「「初めまして」」
「クロさんには色々と世話になってね。 是非、ゆっくりして下さい」
ダナンへの挨拶を交わし終えると、リースはユナとおしゃべりをする為に領主の屋敷へ入って行く。
その他は良い魔道具がないか、街へと足を運んでいった。
以前、ドーバル軍と戦った時の被害はある程度復興していたのだが、未だその爪痕は残っている。
「ここも大きな被害が出たのよね……」
ルルナリアがその様子を見て、少し悲し気な表情を浮かべていた。
「それが戦争だからな。 でも、こうして街の皆が力を合わせて元の平和な形に戻してる。
力があってもなくても、出来る事は沢山あるんだよ」
「そう、ね……」
「ルル、私達は私達の出来る事をしよう。 そう決めたんだから」
パトリシアがルルナリアの肩に手を置き、そう告げると「頑張る」と改めて強い意志を以てそれに応えた。
そして一行は街の東にあるドンズの工場を訪ねた。
「ドンズのおっさん!」
リッシュがドンズに声を掛けると、「おお! 来やがったか!」と奥からドンズが姿を現した。
相変わらず、トレンドマークの朱色のちょび髪が目立つ。
「何か良い感じの魔道具ないかなって思ってさ!」
「良い感じ、な……まあ、今ここにあるのはこんなんだぞ?」
ドンズは工場の横に建てられている魔道具屋へと案内すると、そこには生活に役立つ魔道具や、旅用品など、様々な品物が並べられていた。
「そういえばリシアって武器どこに収納してるんだ?」
パトリシアの武器は白鎌、普通の武器よりもサイズが大きなもので、今はそれを手にしていない。
「収納と言うよりは、今なこの状態になっている」
そう答えてパトリシアは腰に下げていた1メートルほどの白い棒を取り出した。
「これは組み立て式の武器だ。 魔力を通す事で鎌の形に変わる。
クロ達の魔動機もそういった仕組みだろう?」
「ああ、確かに! なるほどな。 じゃあ……何か必要な魔道具あるか?」
「一応、生活魔道具は持っておいた方がいいかもしれないわね。
私達は施設で生活していたから必要なかったけど、これからは大事だし。
【洗浄】とかは特にね。 これ下さい」
ルルナリアはとりあえず【洗浄】の魔道具を購入し、クロビは近くの食材売り場で塩や胡椒などの調味料を購入した。
「あれは……」
ある程度の買い物を終えてグルーデンの屋敷へ向かっていると、途中で鳥の様なマークの看板が目に入った。
「あれは伝鳥屋ね」
ルルナリアがそれを見て、クロビに教えてあげた。
「伝鳥屋……手紙とかを運ぶ感じか?」
「まあ簡単に言えば。 と言うかどの街にもあるわよ?」
「マジか……知らなかった」
「まあ通信魔道具があれば必要はないけれど。
距離によって金額が違うけど、基本度の距離でも運んでくれるわね」
「なるほど……じゃあちょうどいい! ちょっと寄って良いか?」
「何かあんのか?」
リッシュが不思議そうな表情でクロビに尋ねる。
「お楽しみ~!」
「ケッ! まあ良いけどよ」
そして一行が店に入ると、沢山の鳥がケージの中からこちらを見ていた。
「いらっしゃい。 どこまでだい?」
派手目なばあさんが受付に立つ。
「えっと、エマーラルのイーリス国まで」
「じゃあ鳥を選んでくれ」
「鳥?」
「お前さん、初めてか?」
「はい」
「鳥の種類で金額が違う。 また、鳥によっては到着の速さも変わる。
例えばこの小さな鳥はその辺にもいるスズメル。
そこまで速度は出んがな。
逆にそっちにいるコンドリールなんかは早い」
「へぇ……ってあれはカラス?」
「ほお、お前さん良い所に目を付けるじゃないか」
店の端にはまるでクロビが乗っている魔動機〝鴉〟の様に鋭い翼に長い尾を持った漆黒の鳥がこちらをジーっと見ていた。
「不死烏と言ってな。 鳥の魔物で魔石を砕かない限りは死なん。
例え魔石だけを取り除いてもな」
「すげぇな……そんな鳥がいんのかよ……」
「でも、何だか不気味ね……」
リッシュやルルナリアもこちらを未だジーっと見つめる烏に少し禍々しさを感じていた。
「よし、こいつにしよう!」
「イヒヒヒ、決まりだ。
ちなみに、そいつは依頼主の魔力を覚えるから先に教えておけば、どこにいてもそれを辿って戻って来る」
「なるほど、便利だな。 先ず何をすればいいんだ?」
「手紙は書いたのか? まだならそこで書くといい」
クロビはイーリス宛の手紙を書き、終えるとばあさんに渡す。
「じゃあこの手紙に魔力を通しておくれ。 特殊な紙だ。
で、最後に届ける人物を思い描きながらこの烏にも魔力を流せば完了だ」
「分かった」
クロビは魔力を紙に流し、届け人の姿を想像しながら烏にも魔力を注ぐ。
すると「カァー!」と鳴き、バサバサっと勢いよく窓から出て行った。
「じゃあ銀貨2枚だ」
「はいよ!」
支払いを終え、一行は外に出る。
「どうすっかな……一度屋敷に戻るか?」
「そうね。 今後の事も具体的に話したいわ?」
「じゃあ戻ろう」
その後、一行はグルーデンの屋敷へ戻ると、ちょうど夕食時だった為、ダナンが全員分の食事を用意してくれた。
そして食事を楽しみつつ、サロンへと集まった。
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「一応、今後の方針としてはまずヴィルナード大陸へ向かい、ドーバル軍事要塞の状況を調べる。
その後、ゴルバフの有無に関わらず動力源は破壊する」
「動力源の場所は大体分かるわ。 ただ私は戦えないし、一応死んだ事にしてるから侵入するのは難しいわね……
魔導通信で遠隔の指示をする形になるけど、良いかしら?」
「ああ、ならある程度の地図は必要か……それも探そう」
「私もある程度なら分かるから、そこは問題ない。
後で図にして皆に渡す」
パトリシアは記憶力が良いらしく、大体の構造も理解しているようだ。
「エマーラルを狙ってるって言ってたけど、それは大丈夫なのか?」
リッシュが以前ルルナリアが告げた事を改めて尋ねる。
「そうね、そろそろ私やパトリシアが討ち死にしたと知られる頃だと思う。
一応、仮面三人組の存在も知れ渡っていたし、だとすると警戒してそっちの侵攻は送らせるかもしれないわね」
「なら良いんだけどな。 あっ、これ渡しとくぞ」
クロビはポーチから二つの仮面を出し、ルルナリアとパトリシアに渡した。
「これで私達も仮面の仲間入りね」
「しかしこの作り……素晴らしい! まるで私の父の様だぞ!」
パトリシアはその仮面を見て突然喜びを全面に出した。
ルルナリアの仮面はどこか悲し気な骸骨。
見方を変えるとスケルトン系よりはゴースト系にも思えるものだった。
そして、パトリシアの仮面は大鬼をモチーフにしたもの。
しっかりと仮面からも角と牙が生えていた。
「ようこそ!」
「クロ、組織名付ける?」
リースは意外とそういう部分はノリ気なようで、少しワクワクした表情でクロビに告げた。
「ああ~、ん~、考えておく」
「うん、人数増えると組織名あった方がいいと思う」
「だよな~、何か候補あるか? リッシュ」
「俺かよ……そうだな……ドーバルだろ? 仮面だろ? ん~」
リッシュが腕を組んで必死に考えた末、「よしっ!」と声を上げた。
「じゃあ『仮面の断罪人!』」
「おっ、リッシュにしては良いじゃん!」
「うん、カッコいい」
「いいわね。 断罪人!」
「私達の正義に持って来いだ」
全員がリッシュの発言に賛同し、リースがパチパチと拍手をした。
「い、いや……なんか恥ずかしいな……」
しかし、リッシュは褒められ慣れてないのか、顔を赤くして俯いた。
「よし! じゃあ仮面の断罪人の始動を祝して、乾杯するか!」
いつの間にか持っていた酒を取り出すと、クロビがグラスに注いで全員でカチンとぶつけた。
「「「かんぱーい!」」」
その夜、皆がそれぞれの過去などをしっかりと話していき、お互いの親交を深めた。
途中、ニナやダナンもそれに混ざって楽しく夜を過ごしていったのだった――
※ ※ ※ ※ ※
≪ドーバル軍事要塞・総本部≫
ドーバル軍事施設のサンジェラル本部が壊滅させられて三日。
現場では慌ただしく撤去作業や亡骸などの回収を行なっていた。
そして、総本部では元帥ゴルバフへと状況報告が入る。
「現在、サンジェラル本部内では瓦礫などの撤去作業の他、機器や魔道具の破損状況の確認を行なっております」
一人のドーバル兵がゴルバフへと告げる。
「分かった。 ルルナリア大将は?」
「はっ、未だ身柄の確認が出来ずに安否も不明です。
ただ、所長室にタグが落ちておりましたので……」
「そうか。 補佐のパトリシアもか」
「パトリシア中将は仮面の男との決闘の末に敗れたとの報告を受けております」
「なるほど。 それで、サンジェラル本部の稼働はどのくらい掛かるんだ?」
「動力源のダメージが非常に大きく、また、施設内全体を見ても八割程が修復不可能の状態となっており、一からの作業になるかと。
ですので、半年から一年は」
「やってくれるな……引き続き捜索と復旧作業に努めろ」
「はっ!」
報告を終えて兵が部屋を後にする。
そして、数分後に慌ただしく一人の男が入ってきた。
「ノックをしろ、ドル」
「親父! ルルは!?」
「今報告を受けたが、タグだけが回収されたようだ。
とは言え、お前が心配する事ではない。
軍人であれば、恋心を抱いた相手でも死ぬ事は必至。
それ位覚悟してるだろう?」
「それはそれ、これはこれだ! ちくしょー!」
ガンとドルッセルは壁を殴りつける。
「ならお前が仮面を追うか? そろそろアンネットも動けるようになる。
まあ、そこはお前に任せるぞ」
「ああ、行く! 行かせてもらう!」
「全く、バカ息子が」
ドルッセルは勢いよく部屋を飛び出すと、そのまま魔導飛空艇へと乗り込み、サンジェラル大陸へと向かった。
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「ガーボン、アンネットはどうだ?」
「ああ、元帥殿か。 アンネット、起きれるか?」
「ええ、ゴルバフ元帥閣下。 長い間申し訳ありません」
「よい、報告は受けているな?」
「はい、ルッセル、ルーナリアに続いてサンジェラル本部までもが壊滅した、と」
「紅眼はそれほどに強いのか?」
「そうですね……戦闘当初は寧ろこちらが優勢だったのですが……色眼の覚醒を致しました」
「ほお、これまたいい情報じゃのう」
研究所所長のガーボンが色眼の覚醒という言葉に興味を見せた。
「色眼もそうなるのか?」
「昔の話しだがな。 色眼だろうが誰だろうが、感情……特に怒りによってその力が爆発するらしいのう。
恐らく、紅眼もそれじゃろ」
「それと、奇妙な異能を見せられました。 原理は分かりませんが……まるで時を止められたような……それで最後は……」
「分かった。 報告感謝する。 先ずは体調を戻せ。
ドルッセルがサンジェラルに向かったから引き続きビルディッシュ支部を頼む事になるだろう」
「分かりました」
「私はこのまま新要塞へ向かう。 後は頼んだぞガーボン」
「分かったわい」
「紅眼……この借りは返させて貰う……必ずだ!」
アンネットは復讐の炎を滾らせ、天井を眺めた――




