リースVSアーリアン中将
≪コルトヴァーナ・モンディバット≫
リース、そして獅子団の副団長トラバル等は既に魔導ゴーレムを破壊し終わり、攻め入って来るドーバル兵の侵攻を防いでいた。
すると、後方から30人ほどの軍勢がゆっくりと進軍してくる。
「トラバル、何で戦場なのに隊列組んで歩いて来るの?」
「えっと、私も分かりません……ですが、警戒はしておきましょう。
何をしてくるか……」
本来、戦場であれば隊列したまま歩く事はない。
だからこそ、リースは違和感を感じ、警戒しつつもそれを視線で追っていた。
そして――
「刮目せい! この麗しきアーリアン・ベルターゼ中将が貴様等の相手をして下さる! 心して掛かって来るのだ!!」
小柄な髭面の男がそう声高らかに宣言すると、
「「「アーリアン! アーリアン!」」」
と後方部隊から寸分のずれもなく中将コールが鳴り響いた。
命を懸ける戦場に不相応な光景に鍔迫り合いをしていた者達もその異様さで手を止めてしまっている。
「……トラバル、あれ何?」
「さ、さあ……?」
リースとトラバルもその光景にあんぐりしていた。
「ぬっ、そこの二人! アーリアン様の素晴らしさが分からないとは、万死に値するぞ!」
小柄な髭面の男はリースとトラバルの姿を捉えると、まるで何かの信者の様なセリフを言い放った。
「麗しき? 素晴らしさ? 大丈夫?」
リースが髭面の男へ心配するかの様な言葉を投げ掛けた。
「貴様、アーリアン様を侮辱するか!? この美しい見た目、抜群のスタイル、この方は男社会のドーバルにて、至高の存在であるぞ!!
頭が高い!」
「えっ……気付いてないの……?」
「何がだ!! はは~ん、さては貴様、容姿が整っていないから仮面で誤魔化しているのだな?
アーリアン様に嫉妬しているのだろう! この醜女が!!」
「っ!? むぅ……」
リースは昔から美少女としてモテた。
美しい銀の髪に、銀色の眼。
スタイルも豊満な胸にくびれた腰と、誰もが羨むものだった。
そして、何よりクロビを喜ばせる為にその身を今でも磨き続けている。
だからこそ、見ず知らずのよく分からないおっさんに侮辱され、威圧が全開に放たれたのだった。
「ぬっ、何じゃ!? 図星か!」
そして、リースは女の?戦いで負ける事は許されないとその仮面を外し、艶のある銀の髪を持ち上げて色気全開のポーズをしてみせた。
「「「なっ!?」」」
その姿を見た兵達は忽ちに頬を赤らめ、中には股間を手で押さえる者まで現れる。
リースは勝ったと心の中でガッツポーズをすると、トドメのセリフを吐き捨てる。
そう、エリネールが言いそうな言葉を。
「醜女? 笑わせないで。 私を抱きたい雄なんて幾らでもいるのよ?」
「ぐっぬぬ……」
そんな戦場には関係のないやり取りを繰り広げていると、当人であるアーリアンが初めて口を開いた。
「ちょっと、私より美しいって死罪確定よ? 自重してくれるかしら?」
「美しさは罪、でも生まれ持ったものだから仕方ない」
「生まれ持ったですって……?」
「あなた……男でしょ?」
「「「はっ!?」」」
リースの発言に、後方の亜人種は勿論の事、アーリアンの親衛隊らしき兵達までもが驚愕した。
「男って……な、何の事かしら?」
アーリアンは突然の発言にしどろもどろし始め、目が泳ぎ始めた。
「男の匂いがする。 女とは違う。
確かに綺麗だし、それだけ努力してるのは分かるけど」
「へ、へぇ~よく分かってるじゃないの。 でも……」
アーリアンはグッと足に力を入れ、両手に剣を持って踏み出した。
「私の秘密をバラした罪は大きいわよ!」
キン、キンっとリースの鉤爪、アーリアンの剣が何度もぶつかり合う。
「あの……シュダル少将、アーリアン様は……男なのですか?」
もはやその事実が判明しない事には戦を始められないといった面持ちで一人の兵がアーリアンの補佐、シュダルに尋ねた。
「あはは……ど、どうでしょうね……」
アーリアンが男だという事実を知る人間は少ない。そして、ここで男だという事実が判明してしまえば士気に関わる。
だからこそ、シュダルは曖昧な返事でこの話題を終わらせようとした。
「さっきも『私の秘密をバラした罪』って言ってたし……」
既に士気の問題は収拾がつかない状態だった。
しかし、そうした状況もお構いなしでアーリアンはリースに襲い掛かっていた。
「ちょっと綺麗だからって調子に乗らない事ね?」
シュ!シュ!っと細い剣で鋭い突きを何度も放っていく。
「前に戦った蛇の大将に似た型……なら当たらない」
「蛇の……アンネット大将ね。 一緒にしないで!
私が認めるのは麗しきルルナリア様だけなのよっ!!」
アーリアンは突然怒りの籠った一撃を繰り出し、リースの腕を斬った。
「くっ……」
「あら、綺麗な血の色ね。 ただ、ちょっと浅かったかしら?」
「綺麗なのは血だけじゃない。 見た目も完璧」
「ふん、傲慢な娘!!」
リッシュがシャっと鉤爪を振り上げ、アーリアンの脇腹を斬り割く。
「ふん、どうってことないわ。 と言うか貴方達、ボケっと見てないで攻めなさい! シュダル! 何で号令掛けないのよ! 全く」
「「「お、おおお!!!」」」
アーリアンの命によってようやくドーバル軍達は足を動かし、同時にトラバル達もそれを阻止すべく迎え撃った。
「はっ! やぁ! だぁぁ!!」
「は! は! はぁぁあ!!」
キンキンと素早い速度で幾度となく金属同士がぶつかり合っていく。
「これじゃ埒が明かないわね。 一気に行くわよ? ―蔓の足枷―!」
アーリアンが魔術を行使し、リースの足元に蔓を生やしていく。
「!? くっ、動けない……」
蔓がリースの足に絡まり、固定されてしまった。
「突剣衝撃波!!」
更に、アーリアンは剣先に魔力を溜めると、そのまま勢いよくリースの身体に突きを放った。
ズバン!!
その衝撃によって絡まった蔓は引きちぎられ、リースが後方へと吹き飛んでいき、ドーンと木にぶつかると土煙が立ち昇る。
「ふふっ、良い飛びっぷりね~?」
すると、煙の中から鋭い爪が飛んで来た。
「っ!?」
アーリアンはどうにか回避したのだが、一本が脚に刺さっていた。
「ふん、やるじゃない」
「まだまだこれから……どんどん行くよ!」
パシュ!パシュ!っと爪が放たれ、それを躱すとリースが爪を振り回す。
「ぐっ!! 面倒だね!」
すると、アーリアンが両手に剣を構え、どちらも剣先に魔力を溜めていく。
「こっちもどんどん行くよ!」
ズバン!ズバン!と至る所で衝撃が生まれ、リースにダメージを与えていく。
しかし、リースも隙あらば爪で切り裂き、アーリアンへ攻めていく。
次第にお互いの身体に無数の傷跡が生まれ、所々に血が流れていった。
「はぁ、はぁ……さすがは銀眼と言った所か、やるわね」
「あなたも。 でも、まだ本気出してない」
「舐めた事を言ってくれるわね。 じゃあこっちも本気で行かせてもらうよ!」
アーリアンは腰に下げた5本の剣を全て取り出すと、それぞれに魔術を行使していく。
火、水、氷、雷、風
「私の切り札を見せてあげる。 五本属性剣!」
アーリアンは五本の剣をまるで鉤爪の様に持つと、一気にリースへと向かって行った。
ボン!キキキ!ブォン!
様々な属性攻撃がリースを襲う。
「ほらほら!」
アーリアンの猛攻は凄まじく、次々と繰り出される鋭い突きや斬りによってリースはそれらを防ぐ事が出来ても、攻めへと転じる事が出来なかった。
「炎の衝撃!」
「ぐあっ!?」
先程の衝撃波が加わった鋭い突きに、今度は火の属性が加えられ、リースがザザザーっと地面を滑っていく。
「あなたの美しさはこんなもの?」
「むぅ……はぁ!」
リースは男であるアーリアンの喧嘩を売る様な発言に苛立ちを覚え、勢いよく踏み出す。
「四爪連撃!」
そして、両手両足から爪を形成すると回転しながら四方八方から切り刻んでいく。
ギン、ギン、ブシュ、バシュ!
「たぁ!」
最後は遠心力を活かした回し蹴りをアーリアンの腹へ打ち込んだ。
「ふぐっ!?」
ザザーっと今度はアーリアンが吹き飛ばされる。
「美しさなら負けない。 まして男のあなたには」
「言ってくれるわね……」
周囲は怒号と共に鍔迫り合い、斬り合いが行われ、亜人種もドーバル軍も次々に倒れていく。
「そろそろ終わらせる」
そう告げると、リースは金属の糸を形成してアーリアンが持つ5本の剣へと絡めていく。
「チッ、これじゃ動けないじゃないか!」
「これで終わり。 爆爪連撃!」
リースは爆黄砂を纏わせた爪の連撃を加えていく。
四方八方から斬られ、同時に血飛沫によって黄砂が蒸気爆発を起こしていく。
「ぐぁぁあああ!!!」
そして、アーリアンはまるで黒焦げになったような状態となり、その場に倒れていった。
「アーリアン中将!!?」
その状況を見ていたシュダルが駆け寄り、アーリアンの前に立つ。
「こ、これ以上はさせません!」
「……?」
すると、リースが近づき、クンクンと匂いを嗅いでいく。
「えっ!? 何を!?」
シュダルは甘い香りに包まれると顔を真っ赤にしてあたふたし始めた。
どこかで見た事のある状況だが、「君、ドーバルなのに優しい匂いがする。
だから戦わない。 でも向かってくるなら戦う。 どうする?」
「えっ……ぼ、僕は戦えません……なので、ここで退きます……」
やがて、アーリアンが敗れた事で親衛隊とも呼べる兵達はその場を離れていった。
「見事ですね、リースさん」
「女の闘いは負けられない」
こうして、モンディバット側も将官撃破となり、残党の盗伐へと移行した――




