切り札
≪コルトヴァーナ・ラグラット≫
『森に10人、隠密が動てる! 各自警戒しろ!!』
リッシュが素早くその存在を感知すると、そこから周囲の部隊に告げる。
「シャル、感覚を研ぎ澄ませろ! この前のと同じだ。
見付け次第外から森に魔弾を撃ってやれ」
「分かった!」
シャルは魔力を練り始め、耳に集中していく。
修行の時とは違い、森の中では戦闘音が鳴り響き、感覚を持っていかれそうになる。
「居た! さすがに10人は無理だけど3人捉えたよ!」
「上出来! 構えろ」
カチャっと銃をその方向へと構える。
同時にリッシュも自分の銃を構えると――
「今だ! 撃て!」
パシュン!
パン!パン!
リッシュとシャルの魔導銃が火を吹くと、遠くの方で「ぎゃあ」と悲鳴が聞こえた。
『リッシュ殿の攻撃に続け! 前衛のラビルは棘を飛ばせ!』
「「「おおお!!」」」
すると、前衛のラビル族は魔力を通して腕を勢いよく振るう。
棘は四方八方に飛び散り、森の中の部隊へと襲っていく。
そしてしばらくすると、森の中から「突撃!」とドーバル軍の声が響き、森の中から沢山の兵が姿を現した。
「うっし、俺もやるかっ!」
パシュン
パシュン
リッシュは仮面を被り、次々と森から出てくる軍の頭を容赦なく撃ち抜いていく。
「オレもアニキに負けてられない!」
シャルはリッシュの横を離れると前衛へと移り、攻めて来る兵をパン!パン!っと撃ち抜きながら進んで行く。
シャルの基本スタイルだ。
更に、遊撃部隊が空から兵へと襲い掛かっていく。
また、第三部隊には魔術団もいる為、氷の刃や鋭い風が森の中へと飛ばされていった。
しかし、優勢に見えた現状も一気に覆される事になる。
ズン、ズンと地響きと共に森から姿を現したのは五体の魔導ゴーレムだった。
「ゴーレム!?」
シャルは、パン!っと銃を撃つもカキンと容易く弾かれてしまった。
そして、ゴーレムのアームがギューンっと音を立てながら伸びると、その長さのまま大きく横に振りかぶった。
ズドォン!
「うがぁ!!」
「ぎゃぁあ!」
何と、魔導ゴーレムの一振りで前衛の半分が吹き飛ばされてしまった。
「シャル!!」
「いててて……」
シャルもその巻き添えをくらったのだが、何とか無傷で済んだ。
「マズい。 各部隊、距離を取れ! 狙うのは後方にある兵が乗っている場所だ!」
「「「はっ!」」」
「リッシュ殿、ここの部隊でゴーレムを止めるのは至難。
力をお貸し下さい」
副団長トルクがリッシュに告げると、リッシュはニヤっと笑みを浮かべ、「任せろ!」とその場から踏み出した。
「おらぁ!!」
そのままリッシュは銃剣スタイルへと切り替え、ゴーレムの手足をズバンと切断し、兵が乗る搭乗部分をバシュン!と撃ち抜いた。
ガシャンと音を立てて崩れていく魔導ゴーレム。
「おお、さすがはリッシュ殿。 皆、彼に続け!!」
イグラス、トルクもその姿に士気を上げ、一気に飛び立っていく。
「アニキ、やっぱすげぇ……オレもまだやれるぞ!!」
森の入り口ではゴーレム一体に対して数十人の亜人種が囲う。
また、その他の部隊も兵と対峙し、ガキンと金属をぶつけ合っていった――
※ ※ ※ ※ ※
≪コルトヴァーナ・モンディバット≫
「匂いが近い……来る」
リースの言葉にトラバルが反応し、周辺に号令をかける。
『ドーバルが攻めて来ます! 全員武器を構えて!!』
すると、ザッ!と音を立てて10人の黒装束部隊が森の中から姿を現した。
「我等の力を見せてやれ! 突撃だ!!」
第二部隊前衛の隊長が声を張り上げ、一気に黒装束達との距離を詰めていき、ガン!とそれぞれの武器で鍔迫り合いを始めた。
「トラバル、私も出るよ」
「分かりました!」
仮面を被り、シュっとリースが前衛側へと跳躍すると、「はっ!」と鉤爪を形成して次々と黒装束を斬っていく。
すると、黒装束部隊の突撃を皮切りに後方から軍勢が押し寄せて来る。
「私達も出ます! 各部隊、突撃!」
「「「はっ!」」」
『おおお!!!』とドーバル軍と亜人部隊が激突する。
「ぐあっ!」
「死ねぇ~!」
「ドーバルを蹴散らせ!!」
様々な場所から怒号が飛び交い、両軍の兵が次々に倒れていく。
リースは状況を見つつ移動しながらクルクルと回転し、まるで舞い踊る様に敵を討っていく。
「さすがですね、リースさん。
こちらも任せっぱなしでは名折れです! 行きますよ!」
トラバルもブォン!と長いハルバードを振り抜き、5~6人の兵を吹き飛ばしていった。
「あ、あれは!?」
すると、一人の亜人族が後方を指さし、驚いた表情を浮かべる。
そこにはラグラットと同じように5体の魔導ゴーレムがズシン、ズシン、とこちらへ向かって来ていた。
「臆する事はありません! 搭乗席を狙って下さい!」
既にこちらにもゴーレムの情報は出回っていた。
だからこそ、トラバルは冷静に各部隊へ号令を出す。
「―霧雨―! 爆黄砂!」
リースは水の魔術で霧状の雨をドーバル軍へ向けて降らせた。
そして、ルッセルの時の様にウラン鉱石で出来た爆発する砂を撒いていく。
ドゴォン!
ドガーン!
至る所で蒸気爆発が起こり、ドーバル軍の兵達が吹き飛んでいく。
更に、「爆列爪!」とウラン鉱石で形成した普段よりも長い爪を勢いよく振るうと、爆発しながらその爪で生まれた斬撃が魔導ゴーレムを襲った。
ガガガガ!
ゴーレムの胴体部分は硬い金属で出来ているのだが、それ以上にリースが生み出した斬撃は鋭く、三本の太い線で抉られ、搭乗員も命を落とした。
『リースさんに続いて下さい! この勢いで押し返します!!』
トラバルは更に全体へ声を掛け、士気を上げていった。
※ ※ ※ ※ ※
≪コルトヴァーナ・ゾルディッカ≫
各部隊同様、本陣前でも既にドーバル軍が活発な動きを見せ、本陣だからなのか、10対以上の魔導ゴーレムが対峙していた。
「この数をぶつけて来るとは面倒な……まあ、このままだとあれだな……。
ライアン、俺も出るぞ?」
「ああ、このままではこちらが押されるのは目に見えている。
クロ殿、頼む」
「よし!」
ダンっとクロビが勢いよく飛び出し、黒鎌を形成するとスパッ!とドーバル軍兵の首を刎ね飛ばしていく。
「仮面が居るぞ! 気をつっ――」
「残念!」
クロビの無慈悲な首狩りを見ていたライアンは「何と恐ろしい……だが、頼りになるな、紅眼と言うのは……」と呟き――
『クロ殿に後れを取るな! コルトヴァーナの誇りを以て獅子団の勇姿を見せてやれ!!』
ガルルルッ!と威嚇をすると、「「「おおお!」」」と獅子団員達が咆哮し、突撃していった。
しかし、ギュイーンっと魔導ゴレームも容赦ない攻撃を亜人部隊に浴びせていく。
「ぎゃあ!」
「ごはっ、こ……こんなところで……」
ダダダン!
「ぶはっ」
「ぎゃははははっ! 魔道ゴーレムの恐ろしさ、とくと味わえ獣野郎!!」
ギュオーンっとアームを射出し、次々と亜人種を薙ぎ払っていく。
しかし――
ギ、ギギギ、ギギ、
「な、なんだ!?」
「そんな物で我等を止められると思ったかぁ!!!」
前衛団長ゾルスが魔導ゴーレムのアームを掴み、その動きを止めていた。
そして、「ぬぉぉぉおお!!」と力を込めてその腕部分を引きちぎった。
「うわ……なんて力だよ……俺より強いだろ絶対」
その状況を見ていたクロビは兵を倒しながらも、ゾルスの怪力にちょっと引き攣っていた。
やがて、ゾルスの拳がゴーレムの胴体に減り込み、どんどんその形を変えていく。
最終的には随分とスマートな胴体となり、中に乗っていた兵は押し潰されてしまった。
『マンモタールの誇り、今こそ知らしめよ!』
「「「おお!!」」」
ドシドシと巨体の軍勢が次々と魔導ゴーレムへ襲い掛かり、ただの鉄塊へと変えていく。
「さて、ちょっと面倒だから……―聖光の雨―!」
クロビの手から光の球体が上空へ放たれ、無数の雨のように光の矢がドーバル軍を襲っていく。
「こんなもんかな」
本陣、第二、第三部隊もクロビ、リース、リッシュの力でコルトヴァーナへの侵入は防いでいた。
勿論、戦争という事もあって無傷ではなく、沢山の負傷者が出ているのだが、それでもドーバルの侵攻を防げているのは、他の誰でもなくこの三人の功績が大きいのだ。
※ ※ ※ ※ ※
≪ドーバル軍・サンジェラル本部≫
「ルルナリア大将殿、仮面を被った三人の存在を確認致しました。
それぞれラグラット・本陣・モンディバットに一人ずつ居るようです」
バドラルド大尉がルルナリアに告げる。
「そうですか……やはりドルッセル大将殿の情報は正しかったですか……
その他の状況は?」
「はっ、魔導ゴーレムを駆使しておりますが、仮面の力が大きく、ほとんどが壊滅状態です」
「分かりました。 劣勢ですね……各部隊長、及び中将達に伝令して下さい。
〝徹底抗戦〟と」
「はっ」
「パトリシア、気乗りしないけど……お願いしてもいいかしら?」
「畏まりました。 戦争ですから仕方ありません。
ここは覚悟をお決め下さいませ。
それと、ルルナリア様はどうされますか?」
「私は残ります。 ですから、軍の指揮は任せますね」
「了解しました。 では」
「さて、仮面の三人、か……
パトリシアに頼むしかないけど……これで終わってくれるかしら……紅眼と銀眼。
切り札は残しておきたいのが本音なのに……」
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そして、ドーバル側は後方に控えていた各部隊長を始めとする将官達が各自指示された戦地へと赴いた。
「はぁ~ブラウの穴埋めかよ……まったく面倒だぜ」
「そう言わないで下さいよ。 これも任務なのですからね!
ダーラ中将!」
「まあやるけどな? 終わったら相手してくれんのか? フィラ?」
「な、何で私が!? 毎回毎回! 最低です!」
「ははは、まあ良いじゃねえかたまにはよ! かてぇ事いうなって」
「ふん、ほら行きますよ! もう!」
「へいへい」
・ダーラ・ブラッドルン中将
坊主頭で右目に大きな傷を持つ中年の男。
・フィラ・マイヤー少将
茶髪のショートカットで小柄な女将官。
二人はラグラットの仮面討伐の命を受け、ドーバル施設を後にした。
※ ※ ※ ※ ※
「それで、私はどこを攻めればいいのかしら?」
「えっと……えっと……」
「ちょっとシュダル! 直ぐに答えてくれないと動けないでしょ!?」
「す、すみません! えっと、モンディバットです! はい!」
「はぁ……聞かれたら直ぐに答える! その為に暗記するんでしょ?
まったく相変わらずのんびりなんだから。
それで良く将官が務まるわね」
「すみませ~ん」
「もう、泣かない! 男でしょ! さっさと片づけるわよ!
ルル姉様にご褒美貰うんだから!」
「はい!」
・アーリアン・ベルターゼ中将
茶色で長く巻いた髪と青い眼で、腰には5本の小剣をぶら下げている。
姉妹ではないのだが、勝手に上司であるルルナリアを姉として慕っていた。
しかし、アーリアンは女性の言葉で見た目もそうだが、実際には男であり、麗しいルルナリアを美の見本としているのだった。
・シュダル・モンダーク少将
茶髪でメガネを掛けたひ弱で、いつもアーリアンに怒られている。
アーリアンが男性だと知っている数少ない人物でもある。
※ ※ ※ ※ ※
本部からは既にパトリシア中将が飛び立ち、ゾルディッカへと攻め入っている部隊の後方へと到着していた。
「状況は?」
「はっ、現在マンモタールの猛威によって魔導ゴーレムがほぼ壊滅に追いやられております」
「分かった。 各部隊、後方からの攻撃を主体に切り替えろ。
マンモタール含め、ゾルディッカ本陣の部隊は魔術が使えん!」
「「「はっ!」」」
そうパトリシアが号令をすると、バサっと上空へと飛び立った。
パトリシアはルルナリアの前では補佐として敬語を使い、丁寧な仕事をするのだが、戦いになれば本性が全面に出る。
そして――
「あそこか……―重極雷球―!!!」
そう告げると、右手を翳して重力と雷の混合魔術を本陣目掛けて撃ち放った。




