フォクシーナ・ヴィリアント・コルトヴァーナ
≪サンジェラル大陸・コルトヴァーナ≫
高御座の間には姫・フォクシーナを始め、獅子団長のライアン、副団長トラバル、遊撃団長イグラス、前衛団長ゾルスが並んでいた。
「姫様、只今戻りました」
「トルク、無事に戻られて安心致しました。 急な命にも関わらず、引き受けて下さって感謝致します」
「いえ、勿体無きお言葉」
「それで、エリネールは何と?」
「はい、『妾が行かずとも大丈夫』と。 エリネール様から援軍として三人をお連れ致しました。 こちらへ通してもよろしいでしょうか?」
「援軍ですか、通して下さい」
「はっ、ではしばしお待ちを」
そしてトルクは一度、高御座の間を後にして数分後。
三人を引き連れて再びフォクシーナの前に立った。
その様子に周囲の団長達は少々警戒するも、二人の姿を目にすると次第に緩めていく。
「おや、フェイリンの子達ですか。 ようこそコルトヴァーナへ。
わたくしがこの国を治めているフォクシーナ・ヴィリアント・コルトヴァーナです」
横座りをしているのだが、気品のあるオーラを放ち、透き通った声で挨拶をするフォクシーナ。
長く真っ白な髪を頭部で束ね、宝石などで装飾された豪華な簪で留めている。また、金銀のラインが入った黒ベースの漢服は女王の風格を十二分に表していた。
麿眉毛にしゅっと小顔で目鼻立ちの整った美しい女性なのだが、狐人族の中で高位の象徴である九本の尾が畏怖を感じさせるのだ。
「綺麗な人……」
リースの口からポロっと出たその言葉はすぐにフォクシーナの耳に入る。
「嬉しいですわ。 ありがとうございます。 貴女も綺麗ですよ? フェイリンにそっくりですね」
「あっ、リース・フェルト・ルーナリアです。
今はただのリースですけど……」
「リッシュ・フェルト・ルーナリアだ」
「クロです。 って人族が混じって平気か?」
クロビは当然、敬意など持たずに普通に人間がここに立っていて大丈夫なのかをフォクシーナへ訪ねた。
「おい貴様!? 姫の御前だぞ!!」
当然、獅子団長であるライアンがそれを注意するのだが……
「そうは言われても、俺の姫じゃないしな? そういうの気にしない質でね」
「ふふふ、良いですよライアン」
「し、しかし……」
「いいのです。 貴方は……そう、エリネールもまた随分と大きな力を抱えていたのですね」
「大きな力?」
「ええ、貴方の事ですよ。 〝紅眼の死神〟様」
「「「っ――!?」」」
突如としてフォクシーナから発せられたその言葉に三人は、そしてその周囲の者も驚いた。
何も話してなどなく、伝えたものもいないはず。
なのにバレたという事実に、特にクロビは驚愕していた。
「何で分かったんだ?」
「その瞳の奥……まるで憎悪の塊ですね。
そこまで表には出てませんが、それが貴方の根源なのでしょう」
「まあ、そうだな。 だからドーバルを潰すなら手伝うよ。
エリーのお願いでもあるみたいだから」
「エリー、ですか。 ふふっ……ではわたくしはシーナとお呼び下さいませ」
「ああ、それで良いなら遠慮なく。 シーナ」
「「「なっ!?」」」
クロビのやり取りを聞いて周囲が一層驚愕すると共に、冷や汗が溢れる。
実際にフォクシーナを愛称で呼ぶ者はこの国にはいない。
美しく、気高い姫であっても、実はその武は計り知れなく、獅子団長のライアンですら恐縮するほどなのだ。
だからこそ、それを気軽に呼ぶこの男に対して皆が警戒心を強めた。
「それではリース、リッシュ、クロ、これから会議を始めますので、一緒に参加して頂けますか?」
「「「はい」」」
各部隊の団長と副団長、フォクシーナ、そして援軍の三人は場所を移し、会議室へと集まった。
「先ずは現在の状況から説明して下さいな」
「はっ、では私が」
遊撃団長のイグラスが現在の動きなどを説明していく。
「現在、ドーバルは軍を整えており、恐らく準備が出来次第また奇襲を仕掛けて来るかと思われます。
魔導ゴーレムの数も増やしているようなので、激しい戦になるかと……」
「そうですか……お三方は以前ルッセル、ルーナリア支部を壊滅させてますよね?」
「「「っ!?」」」
「そこまでバレてるのか……」
「バレてる、と言いますか……
そもそも銀狼族の二人に紅眼となれば、以前ルッセルを潰したと広まっております。
故にリースとリッシュの銀狼族が一緒にいらっしゃればその時点で察しは付きますからね」
「なるほど、まあその辺は俺等の課題でもあるし仕方ないな」
クロビは何かを諦めた様な表情を浮かべた。
そして、話を続けていく。
「俺等はルッセルとルーナリアを潰した後、ローズベルドの神霊山で修業をした。 以前ルッセルの時に大将と戦ったが、かなりの腕だったからだ。
まあ今ならって思うけど、ドーバルにも強い奴はゴロゴロいるだろう。
特に、サンジェラルが本部と呼ばれているのなら尚更だ。
本体が動いた時、さすがにどうなるかは読めないって言うのが今の心情かな」
「クロ殿、私は実際にお主達の実力をしっておきたい。
今後の方針もそれで判断出来るのでな」
獅子団長ライアンは武人であり、統括。
だからこそ、そもそもどの程度の実力があるのかに純粋に興味があった。
「まあ、それは構わない。 よな?」
「ああ」
「うん」
「では、会議が終わった後に致しましょう」
そして、引き続きドーバルの動き、コルトヴァーナの状況などを報告して一行は獅子団員達が集まる訓練場に赴いた。
「ではお手並み拝見と行こう!」
ライアンは愛用の大きな斧を持ち、構える。
そして、クロビもそれに合わせて黒棍を形成した
獅子団長だけあって威圧感があり、大きな斧は本来大降りになる事で隙が生まれやすいのだが、まるでその隙を与えないかのような鋭い視線をクロビへ送る。
「じゃあ、とりあえずやりますかっ!」
クロビが颯爽と飛び出し、黒棍を大きく振りかぶって下ろす。
ガキン!
ライアンはそれを斧の柄で防ぐとそのままの勢いで振り抜き、クロビを後方へと追いやった。
しかし、クロビも着地と同時に強く踏み出し、更に追撃していく。
「ぬぅ、早いな……」
ライアンはクロビの攻撃を防ぎながらも驚きの表情を浮かべた。
予想以上の速度で動き、更にはその攻撃の一撃一撃が重い。
だからこそ、その衝撃にライアン汗を垂らした。
「次はこちらから行くぞっ!」
ブォン!!
まるで大きな斧を木の枝のように軽々振り回し、その風圧で辺りの砂や小石が勢いよく舞う。
「危なっ! あんなデカい斧でその速度か、やるな」
二人の戦いを見ていた一行も驚きから次第に興奮しながら応援などを始める。
「あのおっさん、強ぇな」
「うん、でもクロ楽しそうだよ」
「久々だしなこういうの。 俺とばっかで飽きたんだろ」
クロビは鍛錬する際、基本的にリースかリッシュが相手になる。
ただ、既にお互いがそのスタイルを熟知している為、現在はあまり鍛錬にならなくなってしまっていた。
だからこそ、久々に見知らぬ相手との戦いにクロビは心を躍らせている。
「ちょっと速度上げるぞ?」
そういってクロビは先ほどより更に速度を上げて棍を振るっていく。
「くっ、何て速さだ……さすがに受けきれん」
ライアンもその連撃に対応こそするものの、段々と捌き切れずに腕や体にダメージを負っていく。
「小癪っ!!」
だが、ライアンも負けじと大斧を物凄い早さで回転させると、「転地割っ!!」と遠心力を活かして一気に振り下ろした。
さっとクロビは後方へ下がるが、大地を割りながらもその衝撃波がクロビを襲う。
「どわっ!?」
ズゴォォン!っと大きな音を立て、土煙が昇る。
そして、ライアンとクロビの間には一本の線が出来ていた。
「ふぅ~、危ないな~さすがに焦ったよ」
「ふん、これをくらってダメージ無しか。 お主の強さは分かった。
感謝する」
周囲でパチパチと拍手が起こり、二人はフォクシーナ等が居る場所へと戻っていった。
「模擬とは言え、ライアンが倒せない相手と言うのは珍しいですね」
「面目ない。 だが、クロ殿はまるで力を出していないように感じました」
「そうですね。 ただ、それはライアンも、でしょう?」
「はい、ですが即戦力になるのは間違いありません」
ライアンがクロビの実力をしっかりと確かめ、報告を終えると三人は客部屋へ案内される。
そして、リースはフォクシーナに呼ばれ、リッシュとクロは街の探索へと出かけた。
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「リース、よく来て下さいました」
「はい、何か用ですか?」
リースは普段敬語を使わないのだが、母に関わる人物の場合は敬語へと変わる。
それだけリースの中で母の存在は偉大であり、その繋がりには敬意を表するのだ。
「フェイリンとは共に同じ思想を掲げた仲でした。
互いに亜人の民の平和を望み、支え合い、そして今があるのです」
「ママと神霊山で会いました。 クロに連れてって貰って。
それで、リース様が力になってくれるとも言ってました」
「そうでしたか……銀狼族とわたくし達狐人族、300年ほど前までは互いにいがみ合い、犬猿の仲でした」
「聞いた事があります。 沢山殺し合い、国や村を奪い合ったと」
300年前、銀狼族が治める狼国家と狐人族が治める狐国家はそれぞれがサンジェラルの二強として君臨していた。
世界では人々が国を拡大せんと争う中で、亜人種もまた、同じように縄張り争いを激化させていったのだ。
しかし、狼族と狐族共に種族の大半をそうした戦で失ってしまった。
更に、そのタイミングで今度は人族がサンジェラルへと侵攻して来てしまったのだ。
そして100年前。
銀狼族の長であったフェイリンと狐族の長であったフォクシーナが初めて手を取り合い、共闘して人族の侵攻を防いだのが理想国家の始まりとなった。
「やがて、種族関係なく〝亜人族〟と括り、皆の平和の為に尽力致しました。
その後、皆がそれぞれの家族を持ち、子孫繁栄を以て今の形へと至るのです」
「どの様な種族であっても手を取り合えば血は流さなくてよくなる。
それは亜人族でも人族でも変わりません。
ただ、ドーバルだけは許せないし、許さない」
「そうですね。 貴方達の思想、わたくしが全面的に協力致します。
それが今回力を貸して頂く対価です」
「ありがとうございます」
リースはペコっとお辞儀をすると、フワっと温もりがその身を包んだ。
「シ、シーナ様?」
「リース、辛かったですね……感情が戻りつつあるも、それでも未だ心の闇は拭えてはいないでしょう。
それは時間が掛かるもの。
ですから、少しずつで良いのです。
ゆっくり、焦らずになさいね」
「うぅ……うん……」
リースはフォクシーナに抱きしめられると、昔に、そして神霊山でフェイリンに抱きしめられた時の温もりを感じた。
そして、自然と涙が零れていく。
「うぅ……うぅ……」
「よしよし、今こそフェイリンへの恩を返しましょう。
母、とは言いませんが甘えてちょうだいね?」
「うん……シーナ様っ!!」
リースは涙が溢れ、そのままフォクシーナに抱きつくと思いっきり泣き始めた。
これまで、強くいなければならないと我慢をして来たのだ。
フォクシーナはそれが分かっているからこそ、優しく抱きしめ、頭を撫でていった――
「シーナ様、ありがとう。 もう大丈夫」
「親を亡くす悲しみはわたくしも分かります。 だから、代わりになれたらとも思うのですよ。
良かったらクロとの出会いとか、聞かせて下さいますか」
「うん」
二人はまるで親子の様に肩を並べ、リースがこれまでの話しをフォクシーナへ語って行った。
※ ※ ※ ※ ※
≪コルトヴァーナ・西部≫
クロビとリッシュはこの国のギルドを訪ねていた。
これまでの度で結構な量の素材が集まった為、一度換金しようと考えたのだ。
とは言え、ドーバルから奪った資金もあって金に困ってはいないのだが……
「いらっしゃい。 人族とは珍しいですねぇ」
ギルドの受付には長い兎耳の女性が立っており、クロビを見るとそんな事を告げた。
「まあこの辺は亜人種が多いからな。 換金出来ます? あっ、ハンターじゃないですけど」
「大丈夫ですよ。 こちらに素材を置いて下さい」
クロビとリッシュはポーチから素材を取り出すと、その場に並べていったのだが……
「えっと……こんなにですか? しかもこれ、セイクリッド系じゃないですか!?」
どうやらセイクリッドの魔物の素材は珍しいらしい。
と言うのも、神霊山の場合は命を落とすとそのまま光になって消えてしまうからだ。
しかし、全部が全部そうではなく、そのまま残る魔物もいる為、その条件は解明されていない。
「神霊山に居たんでな。 換金頼むぜ」
リッシュが後ろから促すと、「はい!」と慌てて査定の人へトレーを渡した。
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「お待たせしました。 こちらが今回の合計金額になります」
ドガっと置かれたのは麻袋二つ分。
「合計が764300ゴルドですね。 ただ、仲介手数料が2割になりますので、お渡しが611440ゴルドになります。 宜しいですか?」
素材が多く、金額が上がれば上がるほどに手数料もかなり取られる。
「ああ、いいぜ。 別に金に困ってねぇしな」
「そうだな。 それでお願いします」
二人は麻袋を受け取ると、そのままギルドを出た。
コルトヴァーナの西側は城がある周辺と違ってまるで農村。
貧困、とは言わないがまるで皆がのんびりと暮らしている様な場所だった。
特にここら一帯は兎人族が多く生活しているらしい。
「何かこの辺見てると戦争期って気がしねぇな」
「まあ、のんびりでいいじゃん。 たまにはこういう時間も必要だろ?」
「そうだけどよ!」
そうして、しばらくのんびりの街の様子を眺めながら歩いていると何やら違和感を感じた。
「クロ……」
「ああ、でも一人だな」
「とりあえず、森の方に行くか?」
「ん~、まあその方がいいか」
二人はゆっくりと森へ向かい、入った瞬間にそれぞれが縮地で移動した。
実はリースとリッシュ、元々身体能力が高かった為に縮地を覚えずとも早い動きは出来たのだが、縮地の方がより速度を上げられる為にクロに習っていた。
「えっ――!? 消えたっ!!?」
森の中では何者かがそんな声を上げていると――
「何か用か? 兎の坊主」
「なっ――!?」
「気配消してても消しきれてなかったな? 付いて来てるのバレバレだぞ」
クロビとリッシュが後ろから姿を現し、尾行していた者へ声を掛ける。
「ま、まあそれくらい見破れなきゃなっ!!」
「「ん?」」
兎人族はえっへん!と誇らしげな表情を浮かべて見付かった事がまるで無かったように開き直った。
「まあいいや。 リッシュ、行こう」
「ああ」
二人は気にせずそのまま街へと戻ろうとすると……
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! オレの話聞いてくれ!」
「ん? 何なんだ坊主! 俺らはそんな暇じゃねぇんだよ」
リッシュが兎人族の襟を掴んで持ち上げる。
「良いじゃんかよ! それと、俺は坊主じゃないっ!! 立派な女だ!」
「「えっ!?」」
「えっ!? じゃないの! オレは女なんだよ!」
「「だって胸……」」
二人はその人の話し方と胸で性別を判断しているようだ。
「なっ!? ど、どうせ胸なんかねぇよ!! っていうかその内姉ちゃんみたいに大きくなるし!」
「「……」」
「し、信じてないだろその顔!? っていうか胸の話はいいんだよ!」
クロビとリッシュは非常に残念そうな表情を浮かべていたのだが、兎人族の女は騒がしく叫び続けていた。
「で、何の用なんだよ? というかまず名前教えろ」
「オレはシャル。 カルテトイヤーズラビル族だ」
「ラビルか、まあその四つの耳見りゃあ分かるけどな。 俺はリッシュ、こっちはクロだ」
「耳が四つって凄いな。 初めてみたぞ?」
「ラビル族は基本人族が居る地域には顔を出さねぇからな。 というか、村作ってずっとそこで暮らすんだ」
「オレは外に出たい! それでドーバルを潰すんだ! 家族の仇!」
「なるほどな。 まあ戦争中だし、そういうのも当然いるよな……」
クロビは少し険しい表情をしつつ、シャルの顔を見た。
「それで、俺らに手伝えと?」
改めてクロビが声を掛けてきた理由を問う
「実はさっき、訓練場でライアン団長と戦ってるアンタを見たんだ。
一緒に居るって事はリッシュも強いんだろっ?
だから……」
「戦い方を教えて欲しいってか?」
「……」
シャルはリッシュの問いかけに黙って頷いた。
「ん~、教えるのはいいんだが、実際そんなに時間ないよな?」
「ああ、ドーバルもいつ攻めて来るか分からねぇし、急に招集掛かる場合もあるからな」
リッシュとクロビはお互いに状況を確認しつつ、どうするべきかを考えた。
「ちなみにお前、武器は?」
ふいにリッシュがシャルに聞くと、シャルはポーチから二丁の魔道銃を取り出した。
「へぇ、銃使いか。 会ったの三人目だな」
「三人?」
「ゼオ、リッシュ、それでシャルだ」
「なるほどな」
リッシュが納得していると、シャルが目をキラキラさせてリッシュに視線を送った。
「な、なんだよ」
「リッシュ、銃使うのか?」
「ああ、ただ俺は狙撃専門だぞ?」
「狙撃?」
どうやらシャルは狙撃というものを理解していない様子だった。
「つまり、遠くから敵を打ち抜くんだよ。 ズバーンってな!」
「へぇ~! 見せてくれよ!」
「リッシュ、音は消せよ。 敵襲と間違えられるかもしれないし」
「わ、分かってるよ! 仕方ねぇな……」
リッシュは少し感覚を広げて指輪から銃を取り出すと、そのまま森の奥に狙いを定めた。
「森? 何もいないぞ?」
シャルは未だ狙撃が何か分かっておらず、不思議そうにリッシュを見つめる。
すると――
パスッ!
リッシュは消音で森の中へと魔弾を発射した。
ちなみに、消音機能はロアに頼んでつけてもらったものだ。
元はドーバル軍から奪った魔道銃だが、外装はオリハルコンとミスリル。剣はオリハルコンで造られており、術式も様々なものが施されている〝リッシュ専用魔道銃〟となっている。
「さて、取りに行くか」
リッシュが意気揚々と足を進めると、シャルはまだ状況が分かっていなかったが黙って付いて来た。
そして、森中を1キロほど進んだ先にリッシュがしっかりと眉間を撃ち抜いた大型の鹿、〝クロスホーンディア〟が倒れていた。
「なっ!? 何でだ!?」
「何でってそりゃあ頭撃ち抜いたからな? 倒れてて当然だろ」
「だってかなりの距離だったし、森の中だぞ!?」
「だからちゃんと分かった上で狙ったんだよ。 これが狙撃だ」
「……すげぇ……」
「というか、ラビルって棘飛ばせんだろ? なのに銃使うのか?」
ラビル族は棘を形成出来る種族。
だからこそ、基本的に武器は不要なのだが……
「棘は奥の手だ。 それに剣とかは扱えない。 言っただろ?オレは女だから……
でも銃なら魔力があれば使える」
「なるほどな。 ちゃんと考えてんのか。 しかし、お前団員じゃないのに戦うのか?」
「そうだ! だから鍛えて欲しいんだ! 頼むよリッシュのアニキ!」
「おい、いつからお前のアニキになったんだよ……」
「はは、リッシュに弟子が出来たみたいだな?」
「で、弟子……」
クロビの言葉を聞いてまたもシャルの目がキラキラと輝きだした。
「おいクロてめぇ……余計なフレーズ教え込むんじゃねぇよ」
「とりあえずリッシュのアニキ、クロさん! 家に来てくれ!
家って言ってもオレの家族は死んじまったから、血の繋がってない家族だけど……
きっと姉ちゃんも歓迎してくれるからさっ!」
「俺はクロさんなのか。 まあいいけど……」
「アニキよりマシだろアニキより! ……はぁ~、全く。
とりあえずこの鹿持って行くぞ。 こんだけでかけりゃ三日分くらいの食糧にはなるだろ」
こうして二人はシャルに半ば強引に手を引かれ、ラビル族の集落があるコルトヴァーナの南西、≪ラグラット≫へと向かった。




