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黒き復讐者の交響曲  作者: Rさん
第Ⅴ章 ~ゴルデニア大陸・ベルベラ編~
63/111

巡り巡る想い


パーティ初日を終え、デリスロール公爵でクロビが暗躍した後――



≪スキャットフローズ侯爵家≫



「さて、戻って来たし、そういえば浴場があるってローナさんが言ってたな。

久しぶりに湯に浸かりたい」



クロビはコートを脱ぐと、用意されていた寝衣を手に持って浴場へと向かった。


衣服を脱ぎ、トビラを開けるとそこはまるで密林。


そして風呂は岩で囲まれたような作りをしていた。


以前、ローズベルドで湯に浸かった時は、エリネールの趣味で女性らしい装飾が為された浴場だったが、ここは自然をイメージして作っているのだろう。


クロビは身体を洗い流すとそのまま湯が溜まっている場所へと足を運ぶ。


草木や蔓が伸び、更には湯煙で視界が悪い。


故に慎重に足を進めていき、ようやく湯を見付けると足から順に浸かっていき、「ふぅ~」と気持ち良さが口に出る。


すると――



「えっ、ク……クロなの!?」



「あれっ――!?」



湯煙で全然見えなかったが、目を凝らすと目の前には湯に身体を沈める美しい女性がこちらを見ていた。



「あれ、エメリ? って居たのか!? 全然気付かなかった」



「まあ、そうよね……ここは自然をイメージしてるから草木が多いのよ。

それより何処に行ってたの? さっき部屋に行ったら居なかったわよ?」



「ああ、ちょっと野暮用でな。 エメリはどうしたんだ?

こんな遅い時間まで起きてるなんて?

というかお互い裸なのに全然気にしてないようだけど」



「今日は気を張って疲れたのもあるし、一人で考え事したくて。

まさかこの時間に入って来る人がいるとは思わなかったけど。


後、湯気でちゃんとは見えてないでしょ? ならいいわよ」



「そういうもんか。 まあ美女との風呂なら最高の時間になるけど。

とは言え、確かに疲れたな~。 

あっ、考え事って婚約者の事か? 

それとも久々に顔を合わせて一緒に踊ったクロスが頭から離れないとか?」



「ち、違うわよ!? なんで急に()()()が出てくるのよ!?

そんなんじゃないんだからぁぁあ!!」



どうやら図星だったようで、エメリアは湯に浸かっているからなのか何なのか、

クロスの名前を出しただけで急に慌てた様子でクロビの発言を否定したのだが……



「エメリ……分かりやす過ぎるだろ……。

あと、ありがとうございます。 

顔も然る事ながら、身体も綺麗なんだな! 想像を遥かに超えてくる」



エメリアは否定する事に意識を取られ、勢いよく立ち上がってしまっている。


当然、目の前にはクロビがいて、エメリアは自慢の裸体を惜しげなく曝け出してしまった。



「~~~っ!?」



ザバンッ!とまた勢いよく座り込み、全身を隠す。



「もう! クロのバカ! 変態! 信じられない!」



「いやいや……不可抗力だ。 でもまあ、ここはごめんと言っておこう

でもさっきはちゃんと見えないからって……」



「そういう問題じゃないの! もうっ!!」



エメリアは羞恥心に耐えられずクロビに背を向けると無言になってしまった。


そして、しばらくすると――



「でも……クロ、今日はありがとう。 貴方が居なければ私は今頃死んでいたわ」



「気にするな。 護衛だしな?」



「そうなんだけどね。 でも、ありがとう」



「はっはっはー! もし感謝するならまだ終わりじゃないぞ?

まあ、明日が最終日だし、楽しくやろうぜ」



「ええ、何か企んでるみたいだけど、もう聞かない。 楽しみに取っておくわ」



「おう、じゃあ先に上がるよ。 その方がまた見られずに済むだろ?」



「もう、そうやって意地悪言うんだから。 それに、もう見られたなら何度見られてもへ、平気よ?

一回も十回も変わらないもの!」



エメリアは何故か自暴自棄になって強がる姿勢を見せるのだが――



「本当に?」



「ほ、本当よっ!」



「ふ~ん……じゃあ何でまだ背を向けてるのかな?」



「そ、そんなに見たい、の?」


「そりゃあ綺麗だったし、美女の裸って言うのはそう滅多に拝めるものじゃないんだぞ?

って見たら見たで理性を抑えられる自信はないけどな?」



「り、理性ってクロ……その……もしかして……」


エメリアはモジモジしながらも何かと葛藤しているような感じだった。


そしてクロビは背を向けて話すエメリアにそっと近づき、その背中に触れてみる。



「ひゃっ!? えっ!?」



「いや、良いんだろ?」



「え、あっ……その……」



エメリアは顔中真っ赤にし、どこか涙目になる。


普段強気な姿勢だが、エメリアは実際には思った以上の初心なのだ。


それを分かってるクロビだからこそ、ぽすっとエメリアの頭に手刀を放った。



「いたっ!?」



「無理すんなって。 大体、さっきは偶然見えてしまったにしても、クロスが好きな上で他の男に裸見せるとか、後で罪悪感でいっぱいになるんだろ、お前は」



「うぅ……クロスが好きでも、結ばれるのはクロスではないもの。

なら……その、クロの方がいいから……」



「おいおい、序で扱いするなよ。 まあエメリみたいな美人に言われると嬉しいけど、さすがの俺でも良心はあるんだぞ?」



「もう、貴方は美人美人って私を褒め倒す気かしら?」



「本心だよ。 ただ、言っただろ? 〝クロスへの気持ちは持っておけ〟って」



「言われたけど、それは何なの?」



「まだ教えないけど、すぐに分かるよ」



「もう、そうやって……聞かないって言ったけど、そこまで言われると気になるわ?

でも、その……ごめんなさい。 強がって」



「はい。 じゃあ上がるな。 おやすみエメリ」



「ええ、おやすみなさい、クロ」



クロビは浴場を後にし、部屋へ戻るとそのまま眠りについた。







翌日――




ベルベラ国の第一王子、第二王子の生誕祭が始まって二日目。


王城でパーティーが開かれているのだが、街でもお祭り騒ぎで生誕を祝っていた。


朝から鍛錬に精を出し、終えると朝食を取って夜の準備をする。


そして夕刻――



「今日はミリアレアのドレスじゃないんだな?」



「ええ、さすがに二日間とも同じと言うのわね」



「まあそうか。 でも似合ってるよ」



「ふふ、ありがとう。 クロって昨日もそうだけど、私を褒めてるのか口説いてるのか分からないわよね?」



「まあ褒め半分口説き半分だな」



「まあいいけれどね。 じゃあ行きましょうか」



こうして再びベルベラ城のパーティー会場へと馬車を走らせた。



数時間後、到着した一行は昨日同様に腕を組みながら会場入りをする。



「さて、今日はどうなるかな?」



「どうでしょうね? でもクロが居ればなんの問題もないでしょ?

と言うか、何故昨日と違って楽しそうなのかしら?」



「ん? まあ、最終日だし?」



「変な人ね?」



「ははっ、とりあえず乾杯しますか!」



クロビは近くのグラスを取り、チンとぶつけ合う。


しばらくして、今日も王家が入場して挨拶を済ませて生誕祭二日目が開幕となった。


王子二人も昨日と違った礼服を纏い、その周囲には御令嬢がキャーキャー言いながら取り囲んでいる。



「あらエメリア、今日は()()()ではないのね?」



「あらスカーレ、貴女も()()されてるみたいね? それと……」



今回はエメリアからスカーレの耳元に顔を寄せる。



(昨日はありがとう。 助かったわ)



すると、スカーレが一瞬驚いた表情を見せたが、すぐにいつも通りの顔に戻る。



(いいのよ。 貴女を負かすのは私の役目ですもの。 でも今日の二人は何だか疲れ切ってるのよ。 何かあったのかしら? まあ私には関係ないけれど)



(そうなの? まあ、お互い楽しみましょう)



二人は会話を終えると、それぞれの場所へと移る。


パーティーは徐々に盛り上がり、ダンスが始まっていく。


しかし、全体を眺めるとルーウィンが少々足を引きずらせながら歩いているのが目に入った。


昨日、クロビが放った黒針(くろばり)の怪我が癒えていないらしい。


遠目ではあるが、クロビの視線に気づくと「ひっ!?」と顔を引き攣らせ、奥の方へと逃げていく。



「あの!」



クロビの後ろから突然声が掛かり、振り向くと、昨日ダンスの相手をしてくれた女性が立っていた。



「ああ、昨日の!」



「こんばんは。 えっとエメリア様はどちらに?」



「えっと……エメリ! 呼んでるぞ!」



クロビはエメリアを呼んだ。



「ち、ちょっと!?」



「どうしたのクロ? と、貴女は確か……」



「えっと、あの、すみません! 本来は私から挨拶をしに行かなければなりませんのにっ」



女はペコペコと必死にエメリアに対して頭を下げていた。



「貴女は……グモール伯爵家のよね?」



「あっはい! グモール伯爵家が長女、シルと申します。 覚えていて下さって光栄です!」



「やっぱり、改めてエメリア・スキャットフローズです」



エメリアは優雅なカーテシーを披露する。



「はわぁ~美し過ぎます~」



それを見たシルは見惚れて動かなくなった。



「それで、何か用があったのでは?」



「あっ、はい! その……私を、私を()()にして下さいっ!!!」



「「えっ!?」」



エメリアもそうだが、クロビも驚いた。


まさかエメリアに対して弟子入りを願う御令嬢がいるとは……



「ちょっとシルさん?」



「シルで良いです!」



「ならシル、どうして急に?」



「私、その……ずっとエメリア様に憧れてまして……

でも、魔術とか武芸とか、なかなか上手く扱えなかったんです。

ただ、昨日クロ様?と踊ってる時、勿論踊れないのに踊れる風に動きながらエメリア様を守る姿は凄かったのですが、エメリア様も信頼してるからこそ、優雅に踊られていて……


それもエメリア様の魅力と言いますか、人と成りがあってこそだと思います。

ですから、ちょっと変かもしれませんが、エメリア様の全てをご教授頂きたいのです!」



「ははっ、良いじゃん。 エメリの事を心底惚れてるみたいだぞ?」



「まあ悪い気はしないのだけれど……弟子って言うのはね……

なら、先ずはお友達になって頂けません? 私、こういった身で友達がいないのよ」



「い、良いんですか!?」



「ええ、これからよろしくね、シル」



「はい、エメリア様!!」



「では、こちらでお話ししましょう。 クロ、飲み物お願い出来るかしら?」



「はいよー!」



エメリアとシルはテラスへと移動し、クロビはグラスを取りに向かった。


その途中、運よく一人で立っていたクロスを見付ける。



「よっ! ()()()()はどうだ?」



「わっ、クロ殿。 準備は出来ているのだが……」



「緊張してマイナス思考になってるのか。 まあまだ時間はあるよ。

ちゃんと合図するからさっ」



「分かっている。 分かっているとも!」



「その調子! で、昨日のエメリアは()()()()だろ?」



「ああ、クロ殿が言った通りだった……だからこそ、緊張して止まないんだ。

私で大丈夫だろうか?」



「おいおい、王子が弱気でどうする? 今日の主役なんだから盛大に行こうぜ? じゃあまた後程!」



クロビはグラスを持ってテラスへと向かった。


その後、しばらく談笑していると再び演奏者達の優雅な音楽が流れて来る。


次第に休憩をしていた人達も中へと移動し、ダンスを視ながらのんびり過ごしていくのだ。


エメリア達もテラスから中へ移ると足を引きずりながらこちらへ向かってくるルーウィンの姿が目に入る。


そして――



「エメリア・スキャットフローズ! お前の様な()()()()()()()とは私は一緒になるなんて御免だ!! 私はこの場で、お前との婚約の破棄を宣言する!!」



ルーウィンは突然、まるでどこぞの断罪のような形でエメリアに向かって婚約破棄を言い渡した。



「――っ!?」



「お前も清々するだろうなっ!」



続けて言い放ちながらも、ルーウィンは時おり怯えた様子でクロビの方に視線を送る。


勿論、クロビも「余計な事は言うなよ?」と言わんばかりの視線を送るのだが。



「えっと、悪に染まったと言うのは分かりかねますが、破棄の件は承りました。 私としても願ってもない事ですから、感謝致しますわ」



「ふん、白を切るか。 まあいい、これで良いのだろう!? 

私はお前ではなく、このアナスタシアと改めて婚約するからな!」



ルーウィンは声高らかに、兼ねてから口説き落としている隣の女性との新たな婚約を宣言した、のだが――



「ちょっとお待ちになって? 私はルーウィン様とは婚約はしないわよ?

貴方に婚約者であるエメリア様が()()()()()()()様に、私にもちゃんと婚約者はいるもの」



「なっ、なに!? なぜ黙っていた!?」



「黙るも何も、聞かれなかったわ?」



「だ、だが……しかし私は公爵の人間だぞ!?」



「私も公爵家の人間よ? それに私は政略よりも()()()()女なの」



アナスタシアの突然の変わりようにルーウィンは口をポカンと空けたままあわあわし始めた。



「じゃあ、私との愛は何だったの、だ?」



「勿論、本当の愛よ? 一緒に過ごす時間も楽しかったのは事実だから安心して下さる?

でも、愛って時間が経つと変わるのよね。

ってそれは貴方が一番よく知ってるはずだけれど。


それと、私は恋人が欲しかっただけだから、貴方が私との結婚を望んでいるのなら、これを以て二人の関係はお終い。 では、失礼致しますわ」



アナスタシアはエメリアに視線を送ると、ニコっと微笑んでその場を後にして別の男の場所へと向かっていった。


エメリアはその笑みが気になりその姿を視線で追っていると――



「あれは……えっ!? ()()()!?」



「ん? お兄様? エメリって兄が居たのか?」



「えっと、血は繋がっていないのだけれど……父の弟ジョアン様の長男なのよ。 

だから私の従兄になるのだけど、私はお兄様と呼んでいるわ。

でもまあ……そう。 納得がいったわ」



「何か複雑だな?」



「ええ、お兄様は基本的に放任主義なの。 勿論、愛情はちゃんと注ぐし、興味がないという事ではなくて、その愛情を皆に分け与えたいって人なのよ。

だからアナスタシア様が誰と居ようが気にしなかったのね」



「まあ、愛の形は人それぞれって事だな。 よし!」



ルーウィンが声高らかに破棄を宣言した事で周囲は皆がその場に注目していた。


そして、クロビはクロスに視線を向けると、ニッと笑って頷き、クロスも覚悟を決めたのか、それに応えるかのように頷いてエメリアの前まで来た。



「!? ク、クロス……殿下?」



エメリアは突然クロスが目の前に立った事で驚きと想い人と目が合っている状況にトクンっと鼓動が早くなり、少しずつ顔が赤くなっていく。



「エメリア嬢……いや、今は昔の様に()()()と呼ぶよ。 ようやくチャンスが訪れた。 

私は昔、君と婚約していた時はこんな事になるとは思ってもみなかったけど……だからこそ、ずっと後悔ばかり感じていた」



「な、何を……?」



クロスが突然、自分の気持ちを語り始めた事に未だ頭が追い付いていないエメリアは只々その場に立ち尽くしていた。


しかし、クロスの言葉はまだ続く。



「それで今まで婚約者を決めずにいたんだ。 勿論、君が結婚してしまえば逆に覚悟が出来たかもしれないけどね。 でもやはり私の心は昔から、今でも、そしてこれからも君のところにある」



「ク、()()……?」



エメリアはようやく落ち着きを取り戻し、クロスの言葉に耳を傾けるのだが、段々この状況を理解していくと少しずつ涙を浮かべ、やがてそれは頬を伝っていく。


エメリアが願わずとも秘めていた想い。


そして、エメリアがずっと聞きたかった言葉。



「まだ婚約破棄と言われたばかりで正式に破棄された訳じゃない。

でも、私はもう待てない! 十分に待ったから」



クロスはエメリアの左手を取ると、そのまま跪く。



「エメリア・スキャットフローズ。 今度こそ、私の妻になって欲しい。

もう、何が起ころうとも絶対に離さないから」



クロスの言葉を、そしてプロポーズを最後まで聞くと、これまで沢山の我慢を強いられ、その都度蓋をして強がって来たエメリアの心が一気に解放されていく。


いつの間にか溢れでる涙に顔がぐしゃぐしゃだ。


でも、美女は涙を流していても美しいものだった。



「……はい。 喜んでお受け致します」



声にならない声で返事をすると、クロスが左手の候へ唇を落とす。


そして――



「っ!? こ、れ……?」



クロスは甲に口付けを落とすと同時にエメリアの左薬指に指輪を嵌めていた。


それはクロスの髪色であるピンクブロンド、そしてエメリアの髪色の淡緑の宝石が合わさったもの。


何ともロマンチックな演出だろう。



「素敵……ありがとう。 私を選んでくれてっ」



エメリアは恐らく過去で一番の笑顔を見せると、クロスの胸に飛び込んだ。


そのまま二人は抱き合い、軽いキスを交わす。


クロスにとっては最高の誕生日プレゼントだ。


そして、その場面を目にした周囲の貴族達も、まるで劇や演奏会が終わった様な盛大な拍手で二人を祝ったのだった。




一方、好きな女でさえ離れていってしまったルーウィンはいつの間にかその場を離れ、一人公爵家へと戻っていた。


その目には怒りと憎しみ、妬みで染まり、クソックソッ!と引きずる足を殴りつけていた。


また、元々ルーウィンをエメリアの婚約者にし、後に暗殺を企てた張本人である第二王妃ジュリアノーラもその目には憎悪が宿っていた。




王がクロスとエメリアへ歩み寄り、声を掛ける。



「クロスよ、おめでとう。 長年の想いが叶ったな。

そしてエメリア嬢、これまでの非礼、本当にすまなかった。 

これからは家族としてしっかりと支えていけるよう図らうつもりだ。

幸せにな」



「はい、父上(陛下)。 ありがとうございます」



「エメリちゃん! 本当に嬉しいわ! これで貴方も私の娘になるのね」



「セリース様、やっと……やっと念願が叶いました」



セリースがエメリアを抱きしめ、心から嬉しそうにお祝いの言葉を伝えていく。



「本当に、私も嬉しくて涙が止まらないよエメリ……うぐっ……」



「リアもありがとう。 これからも宜しくね、()()()? ふふっ」




()()()だな、クロス。 おめでとう」



「ああ、本当にありがとう! クロ殿のお陰でしかないよ。 でも、一体何をしたんだ?」



「そこは……知らない方が良い事もあるさ。 今は自分の幸せを噛み締めろ」



「まあ、そうだな。 そうかもしれないよ」



「ただ、根本が解決した訳じゃないからな。

あの第二王妃、物凄い殺気放ってたからそこは気を付けた方がいいな」



「分かった……でも、そこは自分達の力で乗り越えるよ。 それも王子の努めだから」



「ははっ、そういう王子なら国も安泰だろうな?」



「「ははははっ!」」



すると二人の様子に違和感を覚えたエメリアが話に割って入ってくる。



「ねぇ、二人ともいつの間に仲良くなったの? 昨日顔を合わせたのが初めてだった気がするのだけれど?」



「!? えっと、いや、まあ色々あるんだよ、男にはさ! な、クロス?」



「ああ、そうだ。 私にも色々とあるんだ。 

さぁ、乾杯をしようエメリ!」



「何よそれ? そんな事で言い包められると思ってるのかしら?

あっ、でもそうね……なるほど、もしかしてそう言う事なの……?」



「「ん?」」



クロスとクロビがエメリアの呟きに反応する。



「ルーウィン様が突然結婚を破棄したのもそうだし、まるで知っていたかのようにプロポーズして下さったクロス……そもそも、何かしらの計画していなければ指輪なんてないわよね?

それに、これまでのクロの言葉……全部クロが仕向けたのね?」



「はは、バレたか。 さすがエメリだな。

ご慧眼に感服致します。

でも、まあいいじゃん。

言っただろ? 楽しみにしてろって。

それがこれだよ」



「そうだけど! もう、何かしてやられた感じで悔しいわ。 それと、クロスの愛称もクロだから二人が並ぶと呼び方に困るのよね」



「問題ないだろ? 俺は明日にはここを立つから?」



「明日? 随分急ね?」



「だってほら、護衛の契約はパーティーまでだったし!

俺も忙しいし、お前もクロスと()()()()()()()()()をちゃんと穴埋めしないとな?」



「うっ……う~ん」



エメリアの顔が赤くなり、クロスもまた頬を染めていた。



「そんな調子でお前等大丈夫か?」



「「多分……」」



こうしてクロビの暗躍によってサプライズは大成功となった。







翌日、クロビ、エメリア、ローナがスキャットフローズ邸のダイニングに集まっていた。



「クロ、改めて今回は護衛もそうだし、婚約の事も、本当にありがとう」



「いいよ、気にするな。 そもそも俺の世話焼きだからな」



「うぅ……お嬢様、本当に嬉しゅうございます~」



ローナはクロスとの婚約を聞かされるとブワっと涙を流し、それ以降結婚話が出ると涙腺がすぐに崩壊する。



「ローナ、気持ちは十分受け取ったわ。 だから落ち着いてちょうだい」



「はい……ぐすん」



「それで、報酬なのだけれど、ローナお願い」



「はい……」



ローナが涙を流しながら麻袋をドンっと置く。



「いやぁ~エメリアさん、これは流石にやり過ぎだと思うんだが?」



「そう? あって困るものじゃないんだし良いじゃない。 私の気持ち的には全然足りないくらいよ?」



見れば金の硬貨しか入ってない……



「どのくらいあるかは数えていないから分からないけど、多分5()0()()()()()はあるはず。 受け取ってちょうだい」



「まあ、そういうなら遠慮なく。 でも、まだ解決じゃないからな?」



「ええ、分かっているわ」



すると、ダイニングに父ローベル、母のルビア、そしてクロスとリアスが入って来た。



「話しはクロス殿下から聞いた。 クロ殿、私からもありがとう。

これでエメリがちゃんと幸せになれる」



「いえ、これからが大変そうですけどね」



そんな話をしているとクロスが一歩前に出て口を開いた。



「それに関してだけど、クロ殿に一応報告しておくよ。

先ず、デリスロール公爵はエメリア暗殺の疑いで事情聴取を行なっている。

もはや権力などなくなるかもしれないね。


ただ、妹のスカーレは第二王子カインと婚約しているし、二人共ちゃんと愛情を持っている。

だから取り潰しにはならないかな。


また、第二王妃ジュリアノーラだけど、実子であるカインがエメリアの現状を知って、『権力目当てで王を選んでも国が亡びるだけだから公平にする為にも、邪魔をしないでくれ』って言ったらしいよ。

実際にジュリアノーラはカインを溺愛しているから、大人しくなるだろうね」



「そうか、結構すんなりいきそうなんだな? ちなみにルーウィンだっけ?

大丈夫かあいつ? 一気に全部失う形になったけど……ってまあ俺の所為でもあるけどな」



「ええ、そこに関しては問題ないわ」



今度はリアスが口を開いた。



「私はアナスタシアとも仲が良いの。 

実際にフロント様は私の婚約者タウルのお兄様になるし、その妻だからいずれは家族になるもの。


それで言えば、アナスタシアはフロント様との婚約後、自らの意志でルーウィンに近づいたわ。

勿論、フロント様が放任主義という部分は変わらないし、アナスタシア自身もちゃんとフロント様に愛を与えている。

その上でルーウィンに近づいたのは抑制という目的もあったのよ。

エメリは知らなかったと思うけど、これもアナスタシアの意志とローベル様の布石って事。

まあどちらにしてもエメリの暗殺に加担してるし、当分は何も出来ないわね」



「そんな……じゃあお父様はアナスタシア様の事、全部知っていたのね!?」



「ああ、知っていた。 何も教えなくてすまない。

だが、これもエメリアの為だとアナスタシアから言ってくれたよ。

彼女は元々お前の事を気にかけてくれていたんだ。

まだエメリが幼い頃に何度か遊んでくれていた事もあった」



「そうでしたの……何だか皆が私の為に動いてくれて、申し訳ないわ」



「エメリ、これから二人で皆に恩を返していこう」



「そうね、クロと一緒に頑張るわ」



クロスとエメリアが見つめ合う。しかし――



()()()()()()()()?」



「……、()()()()()()()()()()()()! クロスの方のクロ! もう紛らわしいんだから」



「おいおい、そんな怒らなくてもいいだろ? 分かってるし、わざとだよ」



「貴方がわざとなのは知ってるわよ! ほんと意地悪な性格ねっ!」



「「「はははははっ」」」







「もう行くのね」



「ああ、また一つ、良い出会いと旅の思い出が出来たよ」



「ふふ、それなら良かったわ」



「クロ殿、本当にありがとう」



「おう、二人ともちゃんと幸せになれよ?」



「ええ」

「もちろん」



「じゃあ行くかな!」



「馬車は呼ばなくて良かったの?」



「俺にはこれがある!」



クロビは指輪に魔力を込める。すると、目の前に飛空魔動機〝(からす)〟が姿を現した。



「「――っ!? これは!?」」



二人はその姿を目にして驚きを隠せないでいた。



「良いだろ? 俺専用魔動機だ」



「驚いたわ……大体は国の偵察用としてあるけど、まさか自分用だなんて」



「ああ、ベルベラ国にもこんな立派なのはないよ」



「これはイーリス国のロアっていう魔道具士に作って貰ったんだ。

ちょうとクロスと同じくらいの年だったかな?

まあ腕はかなりいいから、いつかあっちの大陸に行ったら寄ってみるといいよ」



「貴方を知ると何者なのか分からなくなってくるわね。

でも分かったわ、じゃあ気を付けてね」



「また、いつでも遊びに来てくれ! その時は歓迎するよ」



「おう! じゃあな!」



ガコンとその翼を広げた鴉はブォーンと音を立て、そのまま大陸の南東を目指して一気に飛び立っていった。



「本当に不思議な人だったわ……」



「そうだね。 ってもしかして……!?」



「あら、やきもち? でもそうね。 ()()()()()()()()()わよ?」



「なっ!? エメリの裸だど……許せない!!

次あった時は死刑だ!!」



「ふふ、いきなりね。 でもたまたまだし、それだけよ。

それに貴方はもういつでも見れるし、そ……その先も、ね?」



チュっと顔を真っ赤にしながらも不意にクロスの唇へ自分の唇を当てると、してやったと誇らしげで、かつ小悪魔的な表情を浮かべて片目だけを閉じて見せた。



「はは、全く君には敵わないな、昔から」



「クロとの婚約がなくなって、ルーウィンとの婚約が決まって、色々我慢して来たからちょっと性格が変わってしまったかもしれないわ。


滅多な事じゃなきゃ気にならないもの。 でも、やっぱりクロにはドキドキさせられるの。 

だからこれからもちゃんとドキドキさせてね? 私もそうするから」



「ドキドキか……今は正直させられっぱなしだけど……」



そう告げるとクロスはエメリアを抱きしめ、耳元で「これから反撃に出るとしよう」と囁く。



「~~~っ!? い、今のはずるいわ」



「ん? お返しだよ。 まだ序の口だけど」



「もう、比べるのは申し訳ないけど、やっぱり()()()わ」



「似てる?」



「ええ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()って事よ!

さっ、戻りましょう。 話したい事が沢山あるの」



エメリアはクロスの手を取ると、二人仲良く家へと戻って行った――



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