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黒き復讐者の交響曲  作者: Rさん
第Ⅴ章 ~ゴルデニア大陸・ベルベラ編~
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忘れられない想い


ベルベラ国まで魔導列車では2時間ほど。


一直線で結べばそこまでの距離ではないのだが、周辺には鉱山が聳え、物資の運搬などの理由もあって遠回りをして行かなければならないのだ。


とは言え、馬車などで行けば山を登る嵌めになる為、結果的には列車が一番早い。


一行は魔導列車で〝カータ〟という街に向かい、そこから馬車でベルベラへ向かうルートを取った。



「今回は間違えずに済みそうだ。 以前、初めてクルッシュに来た時は貴族用と一般用で分かれているとか知らなくてな」



「それで間違えて貴族用に乗ったの?」



「そう! でもルージュって子に助けてもらったよ」



「旅だから色々な事があるのね? そういう話は好きよ」



「ならよかった。 途中で降りてそこからは馬車なんだよな?」



「ええ、ベルベラ国は住居が密集してるからさすがに列車が入らなかったのね」



ベルベラは幾つもの業種を手広くやってる、言わば産業都市でもある。


故に住居区画よりも、工場や商業地区が非常に大きく、様々な国から買い付けに来る人も多いようだ。


しばらく窓から外を眺めていると、「スー、スー、」と寝息が聞こえる。


どうやらエメリアはのんびりとした時間にそのまま眠ってしまったようだ。


すると、傍で見守っていたローナが話し掛けて来た。



「お嬢様は常に命を狙われていて、こうした安らげる時間が無かったのです」



「まあ、こないだも早朝から狙われてたしな……」



「はい、ですから気を緩める事もしません。 それは昼夜問わず」



「そりゃあ辛いよな……まるで森の中の野営みたいじゃないか」



「はい、でもこうして寝息を立てている姿は本当に久しぶりです。

余程、クロ様を信頼されているのでしょうね」



「まだ出会って間もないけどな」



「良いのです。 最初の無礼はお許し下さい。

こうしてお嬢様の姿で分かります。

お嬢様自身も、信頼出来る方とそうでない方では態度がまるで違いますから」



「気にするな。

でも、ずっといなかった訳じゃないんだよな?」



ローナは少し深刻そうな表情を浮かべたが、決心してクロビに話しを始める。



「以前、第一王子と婚約をしていたとお話ししましたよね?」



「ああ、でも第二王妃の策略でダメになって今に至るんだろ?」



「はい。 まだ第一王子と婚約をしていた頃はよく笑われて元気な女の子だったのです。

きっとお嬢様も、そして第一王子もお互いに想いを寄せていたかと思います」



「なるほど、それが引き離されて、好きでもない男と婚約、か……

しかも浮気性なんだろ?」



「はい。 婚約、結婚となれば勢力を抑えられる。

結局、今の婚約者にとってお嬢様は派閥抑止力の駒でしかないのですよ……

ですからそれ以降、お嬢様が他人に気を許す事が無くなっていきまして……」



そう言いながらローナの拳がふるふると震えだす。



「ローナさんもお嬢様の幸せを願っているんだな」



「はっ!? 申し訳ありません」



「いいよ、それが本音なんだろ?」



「お嬢様には幸せになって欲しい。 出来れば、第一王子とちゃんと結ばれて欲しいのです。

そして、あの頃のお嬢様に戻って欲しいです」



「まあ、俺に出来る事は少ないかもしれないが、最後まで仕事はさせてもらうよ。 

それで上手く行ったら儲けもんだな?」



「そうですね。 クロ様は不思議な人です。

だからお嬢様もこうして心を開かれているのでしょう」



「ならいいけど、恋心を持たれたら困るかな? 俺は旅人で目的があるから」



「それは……大丈夫だとは思いますが、第一王子次第と言っておきます」



ローナの想いを聞き、その上で打ち解ける事が出来たクロビは再び窓の外を眺めながらもうすぐベルベラ国に近いカータへ到着すると車内通信が入る。



「エメリア、起きろ~!」



「ん~ん……」



「クロ様、お嬢様は普段気負ってる為、熟睡されますと優しくでは起きませんよ」



ローナが透かさずエメリアを起こす際のアドバイスを与える。



「じゃあ……」



指先に雷の魔術を展開させてそっと腕に近づけると――



バシッ!



「――っ!?」



「スー、スー、」



「クロ様、お嬢様はこれまで気負い続けて来た為、魔力を無意識に感知します」



「え~、なんて才能あふれる女性なんでしょう……」



気付けば指をそのまま胸元まで引き寄せられ、抱きしめている。


うん、手には非常に柔らかい感触が……



「はっ!?」



「ク・ロ・様?」



手を掴まれてしまったクロビの様子に違和感を感じたローナがジト目で睨み付ける。



「いや、これは不可抗力だ。 ってか離れないし……」



手を引っこ抜こうとするも、どこから湧いて来るのか分からない強い力で掴まれていて難しい。


それに、こちらが引っ張るとエメリアも引っ張る。


そのせいで胸がしっかりと手に当たるのだ。


本当に寝てるのか?と考えていると……



「ク・ロ・サ・マ?」



「違うんだって! と言うか、ならローナさん起こしてよ」



「全くダメですね! お嬢様起きて下さい!」



ローナは無理矢理エメリアを抱えて座らせると、脇腹を擽り始めた。



「ふ……ふふ、……ふふふ、あははははっ、や、やめて~ローナっ!」



見事にローナはエメリアを起こす事に成功。さすが侍女。


でも絶対俺が脇腹触ったら怒るんでしょ?成す術無しじゃん!



「あは、はぁ~いつの間にか寝てたのね。 あら? 何で私はクロの手を抱いているのでしょう?」



「魔術使って起こそうとしたら力ずくで止められた結果だ」



「あら、ごめんなさいね。 って私に魔術使うって酷くなくて?」



「だってローナさんが優しくじゃ起きないって言うから」



「ふ~ん、ってローナ随分仲良くなったのね? 私は嬉しいけど」



「たまたまですよ。 ささ、もうカータに着きますから準備して下さい」



クロビとの会話にローナが入ると、そのままパンパンと手を叩いて準備を急がせた。







「ん~!」



クロビもエメリアも座り続けていた為、両手を上げて身体を伸ばす。



「ここがカータの街か、まあ街って言うよりは商業地区みたいだけど」



「そうね、ここら一帯は物資が運ばれてくるところだから住民は働いている人達が主よ」



「お二人共、馬車が用意されてますので、こちらへどうぞ」



ローナに先導され、歩いて少ししたところに立派な馬車があった。



「また豪華な馬車だな」



「もう少し質素でも良いのだけれどね」



「ってかこれだけ派手だと狙われるだろ……」



「その時はまたクロの出番よ? しっかり働いてもらうんですから」



「へいへい。 ではお嬢様、お手をどうぞ」



「あら、分かってるじゃない」



クロビは馬車の前で手を差し出し、お嬢様をエスコートする。


エメリアも気兼ねなくその手を取ると、馬車へと乗車した。


ベルベラ国までは馬車で30分程。


ゆっくりとした時間を過ごしていたのだが、それもさっそく崩された――



「ん~」



「クロ? どうしたのよ急に」



「いや、1()0()()()()()かな?」



「もしかして……」



「その通り! お早い登場だな。 と言うか、まるで監視しているようでもあるな……ここまで来ると」



「そうね……」



「まだ到達ポイントからは離れてるから、サクッと倒してくるか?」



この距離なら早々に終わらせて戻って来た方が早いとクロビは考える。


だが、



「私もそろそろ身体を動かしたいからそのままでいいわ」



「おっ、エメリが戦うのか? まあ、いいけど危なそうなら下がれよ?」



「ええ、でも、そうなってもクロが助けてくれるんでしょうけど」



「ちょっと楽しんでるだろそれ」



「ふふ、そうかもしれないわね」



エメリアは片目を閉じて微笑んだ。


そして馬車を走らせる事5分、ようやく盗賊らしき連中が姿を見せた。


周囲は森に囲まれた道のど真ん中で、盗賊等が馬車を襲うには持って来いな場所だ。



「御者さん、そのまま突っ込んでいいよ」



「えっ!? いいのか?」



「ああ、過ぎたところで止まってくれ」



「わ、分かった」



クロビは御者に指示をすると、少し速度を上げた馬車が盗賊達へ向かっていく。



「おい、止まれ!」



しかし、馬車は一向に止まる気配がない。



「お、おい! 止まれって言ってるだろ! やっ、やべぇ!!」



最初は忠告をしていた盗賊達も全く止まる気配がない馬車に、徐々に危機感を見せ、最終的には横へと飛んで回避する。



「あっ、危ねぇだろ!!」



すると、ようやく馬車が止まって中からクロビが出て来た。



「さっ、お嬢様どうぞ」



「ありがとう」



奥からは麗しい美女が姿を見せる。



「てめぇら殺す気か!?」



「いやいや、そっちもその気だっただろ? だからお互い様だ」



「くそ、舐めやがって……そこの女、エメリアだな?」



「……?」



エメリアは顎に人差し指を当て、惚けた表情で後ろを振り向いた。



「後ろに誰もいねえだろ!? お前だよ、お・ま・え!」



「あら、私?」



「他に誰がいるってんだ!」



「ふふ、そうよ。 私がエメリアです。 何か用かしら?」



エメリアもノリが良いのか何なのか、盗賊を挑発するような態度で口を開くと、一歩前に出る。



「お前舐めてんのか? しかし……いい女じゃねえか!」



「あら、嬉しいわ。 ありがとう。

でも、貴方にこの美貌と身体は勿体ないわね」



「へっ何を偉そうに。 これから死ぬほど堪能してやるから安心しろ」



「きゃー、クロ怖いわぁー」



「おいおい……」



エメリアはまるで舞台女優のように悲劇のヒロインを演じながら楽しんでいるようだった。演技力は皆無なのだが。



「で、どうするんだ? お前からやるのか?」



「ええ、私の勇姿をしっかり見ていてね? 

ローナ」



「はい、お嬢様」



エメリアがローナを呼ぶと、ローナは頑丈そうな箱から鞭の様な剣を取り出し、手渡した。



「これは我が家に伝わるウィップソード。

細く、極限まで柔らかくした金属で出来た剣なのよ」



「すげえな……ってか痛そう……」



「ふふ、そうかもしれないわね。 私も鍛錬の時は自分の足とかよく切れたもの」



「なるほどな。 でも鞭……まるで女王様だな」



「どういう事?」



「いや、男の世界の話しだ。 気にするな」



「そう? ならいいのだけれど」



そんな話をしていると、痺れを切らしたのか先頭の男が剣を持って走って来る。



「いつまでも喋ってんじゃねぇ! お前ら!やれ!!」



「では、見ていてね? やぁ!」



エメリアは視線を鋭くすると、そのまま地を蹴ってこちらに向かってくる盗賊へと突撃して行った。


そして、まるで鞭のように軽々と振るわれる剣は予測不可能な動きで次々と盗賊の身体や顔に切り傷を作っていく。



「いでぇー!!」


「ちくしょー、目がぁー!」


「なんだあの女の剣はぁー」



近付こうにも四方八方から軌道を変えて来る剣に対して盗賊達は何も出来ずに餌食になるだけであった。



しかし、一人が「後方に下がれ、矢を使え!」と指示を出すと、動ける者は後方へと下がり、魔術を行使していく。



「そちらが魔術なら、こちらも魔術で応戦するわよ? ―水龍(アクアドラグ)疾槍(ジャベリン)―!」



エメリアは水の魔術を行使すると、まるで竜の形をした水が疾風の槍の如く盗賊達へと襲い掛かった。


ズギャーン!!


辺りは水浸しになり、土煙が晴れるとエメリアの魔術が直撃した盗賊達は倒れていた。



「う~ん、俺が出る程でもないんだけど、仕事はしなきゃダメだよな?」



クロビは後方でエメリアの戦闘を見ていたのだが、自分が参加すればオーバーキルになるだろう、と考えていた。


しかし、突然エメリアの真上から異様な殺気を感じた。



「まずいっ!!」



縮地で一気にその場から離れ、エメリアの下へ向かうと真上から暗殺者らしき男が姿を現し、ナイフを振り被っていた。



ギン!



「危なかった!」



クロビは瞬時に棍を形成してナイフの刃を砕くと、その勢いで身体を捻らせ、暗殺者の延髄に回し蹴りを放った。



「ぐっ……」



「間に合ったな。 こいつは情報を持ってるかもしれないからとりあえず……」



「クロ、ありがとう。 全然気付かなかったわ……

それと、何をしているのかしら?」



「ん? 大体こういう奴って奥歯に毒仕込んでるからそれを取り出してるんだよ。 

死んだら情報聞き出せないしな」



そう言って毒の仕込みを無理矢理外すと、「―聖光の雨(ホーリーレイ)―」と魔術を展開し、無数の光の雨が残りの盗賊達へと降り注いだ。







「一件落着かな?」



「そのようね。 にしても、クロの魔術……」



ああ、いつものパターンかな?



「魔法を使うエリーにも言われたけど、どうやら俺は魔術と魔法の融合的な感じらしいよ?

だから威力が魔法並みなんだとさ。 まあ努力の賜物なんだけど」



「そ、そうなの?」



「もしエメリが魔術の威力を上げたいって言うなら教えてやろうか?」



「本当!?」



エメリアもまだまだ向上心はあるらしい。


流石、学園トップ。



「じゃあ馬車の中でも出来るからのんびり向かいますか!」



再びクロビがエスコートして馬車はベルベラ国へと走り出した。







「とりあえず魔術自体は本とか読めば覚えられるから、魔力量を増やす」



「ええ、お願いします」



ミリアレアはペコっと座ったままだがお辞儀をする。



「くっくっくっ……」



「な、何かしら? すごく不快なのだけれど?」



「いや、普段クールなエメリがお辞儀すると可愛いなって思ってさ」



「わ、私だってお辞儀くらいするわよっ! もう、バカ!」



「悪い悪い、じゃあ説明するな? 方法は簡単だ。 魔術を展開する時、魔力を体内で練るだろ?」



「ええ、そうね」



「それを身体から放出されないように操作しながら、練り込む量を増やしていくんだよ」



「魔力が逃げないようにしながら全体に広めていくって事ね。 理解はしたわ」



「じゃあやってみよう!」



エメリアはスッと目を閉じると、体内で魔力を練り始める。



「少しずつな? 一気にやると溢れて抑えられなくなる」



「少しずつ……少しずつ……」



すると、エメリアの体内の魔力が徐々に色濃くなっていく。



「さすが学園トップ」



それはどんどん濃くなっていくが、同時にエメリアの額に汗が滲む。


そして――



「ふぅー、ゴホッゴホッ……ちょっとやり過ぎたかしら」



「そうだな。 でも凄いよ。 元々操作が完璧だったんだろうけど、それを続けてるとグラス、バケツ、風呂場の浴槽と器が広がり、その分魔力も増える」



「でもこれだと魔術の威力は……あっ、そういう事ね?」



「理解出来た?」



「ええ、魔術を行使した際の魔力量を増やせば威力は上がる。

でも、制御出来ない事が多いから魔術は魔法に劣るのよね?」



「正解」



「後は慣れ」と言いながら、クロビは左手の人差し指から火の魔術を展開させ、右手の人差し指はより魔力を練り込んだ火の魔術を展開させた。



「綺麗ね。 それに魔力の量でここまで違いが出るなんて……」



左手の火は日常的なもので、ユラユラ揺れている。


しかし、右手の火は左の火と同じ大きさなのに、火の中心が濃い赤で、まるで小さな太陽だった。



「なんだか久しぶりに学んだからワクワクして来ちゃったわ」



こうしてまたまたクロビの魔術講座を経て、一行はベルベラ国へと到着した――



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