回想Ⅲ
プロローグはこれで最後です。
その日、俺は遅くなったけどユナと一緒に婚約の報告をしに、母やルーセル一家の墓参りに来ていた。
きっと家族皆、俺の幸せを願ってくれているだろう。
ユナもそう言って眩しいほどの笑顔を見せてくれた。
その後、ユナは寄る所があると先に村へと戻った。
俺は母の墓の前に座り、これまでの事やユナ、ダリナさんなど、村の人達への感謝の気持ちを報告する。
時間にして1時間程だろう。
その後、日が沈んできた事で俺は立ち上がり、村へと帰路についた。
墓があるこの丘からは森を抜けていくと村に着く。
徒歩で、大体30分位だ。
しかし、しばらく歩いていると森の遠くの方からガキン!と金属同士がぶつかり合う音が聞こえた。
獣か何かか?と思い、音が聞こえた方向へ足を進めると見回りをしていた帝国兵が別の兵達と争っているのが見える。
帝国兵は10名ほどに対して相手は30人はいる。
「どういう事だドーバル軍! 我が帝国とドーバルは同盟を結んでいるはずだ!」
「知った事か! これも軍事命令だから大人しくここでくたばれ!」
軍服ではなく鎧を着ていたから気付かなかったが、どうやらドーバルの兵らしい。
「ここら一帯は我がドーバル軍事要塞拡大の範囲内となる! だからここの領主だった男も消されたんだよ!」
そう言い放ち、ドーバル兵は帝国兵の一人を切り捨てた。
(今何てっ!? いや、確かに母も死に際に同じような事を話していた……だとすると)
そう、ゴルバフは要塞の拡大の為に義父であるダリルを殺し、その領地をフリーの状態にしたのだ。そういえば最近よく村にもドーバルの人間が来ていた……ってまさか!?
身を隠していた俺は一気に飛び出し、ドーバルの兵達に向かっていった。
いちいち会話をする暇も余裕もなかった俺は既に斬られ、転がってる兵の槍を広い30人のドーバル兵を討ち取っていく。
日々の鍛錬もあったせいか、ドーバルの兵達は弱かった。
最後の一人になった敵兵は恐らく部隊の兵長だろう。
俺はすかさず槍の先端を向けながら問い詰めた。
「おい! 要塞拡大の範囲内ってどういう事だ? それはカルネール村もか!?」
「た、助けてくれ!」
「うるさい、さっさと答えろ!」
「そうだ! あの村も村長が承諾しなかったから対象になってる! 今頃は別部隊が攻めてるはずだ!」
(チッ)
容赦なくそいつの喉に槍を突き刺し、俺は急いで村へと向かった。
(ユナ、無事で居てくれ! 頼む!)
※ ※ ※ ※ ※
ようやく村へ辿り着くと、目の前は火の海だった……パン屋のモルおばさん、魔術師のウーパーさんなど、可愛がってくれた村の人達が血を流して倒れている。
それはまさに、“あの日”の光景を蘇らせるものだった。
宿屋泉の森は火が移らずに無事だったが、中に入るとダリルさんはカウンターにもたれ掛かるように倒れてる――
「おばさん! おばさん!」
「く……黒火かい? ごめん、ね……ユナは相伝の祠に、に、げたから……」
ダリルさんはそれだけ残し、息を引き取った。
「くっ……何で……」
俺は涙を拭いながら急いで祠へ向かった。
泉の近くまでもう少しの所で、パン!という乾いた音が響き渡り、俺の心は急激にざわつく。
そして、ようやく祠へ繋がる橋に辿り着くと、ユナが祠の前で血を流し横たわっているのが見えた。
「ユナ!!」
すぐ様駆け付け、抱きかかえ、無我夢中で血を止めようと胸を抑えて必死に呼びかける。
「ユナ! 何でユナが……くそっ、止まれ、止まってくれ!」
「黒火……来てくれ、た……ありが、とぅ」
「喋るな! 嫌だ! せっかく俺にも幸せが訪れたのに! 俺を、俺を救ってくれたのはユナだ! だから次は、次は俺がお前を救わなきゃ!」
「ふふ……嬉しい……私ね、ずっと黒火の事好きだったの。 だから無理やりにでも恋人にして……でも受け入れてくれた。 本当に、本っ当に嬉しかったんだよ……?」
「バカ! それは後でちゃんと聞くから、頼むから死なないでくれ、もう……俺から居なくならないでくれ」
涙が止まらない。
嗚咽も、そして憎しみも。
「結婚式、したかったな……でも、ずっとそばにいるよ。 黒火、あい、し……て……」
頬に触れるユナの手は力を無くし、ぶらりと落ちた――
「ユナ……うっ……うぅ……」
また守れなかった、また居なくなった、大切な人が出来ると必ず消えていく……
「うあああああああああああああああああ!!!!!!」
何故、何で俺から全てを奪う……家族も、村の住人も、最愛の人を!!
憎い……憎い……許さない……今も、これまでも、全ての元凶はアイツだ……
その時、黒火の中でナニかが爆発した。
初めてその感覚を覚えたのは10歳の時、母が目の前で殺された時だ。
しかし、当時はまだ完全ではなかった。
ただし、今、身体を駆け巡るドス黒い感情はそれ以上……。
両目が、身体の中が、全てが焼き尽くされるように熱く、黒いモノが溢れ出す。
悲しみと絶望――怒りが憎悪へと変わり、溢れる涙は急激に上昇する体温で蒸発していく――
そして閉じ込められていたナニかはその殻を突き破り、黒火の身体から〝漆黒の炎〟が天高く解き放たれた――
次第に周辺は静寂を取り戻すが、そこには両眼が紅い閃光を宿し、まるで死を体現したような漆黒に包まれた一人の少年が立っていた。
黒火はユナを横抱きで持ち上げ、そのまま彼女が大好きだった祠の泉の中にそっと降ろし、沈めた。
自分から二度も、何もかもを奪い去っていった〝ゴルバフ〟
もう迷わない。
アイツがいるだけで俺は何も築けない。
そう黒い誓いを胸に、黒火はドーバル軍事要塞へと歩いていった――
これが、後のドーバル壊滅、及びカルネール村の悲劇へと繋がる真実だ___
※次回から本編に戻ります。
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