金眼VS赤眼
※二人の勘違い的な言い回しに挑戦しました。
モーダンを出て、いつも通り狩りをして食材確保をしていたクロビは山で見つけたロックバードを仕留めると、そのまま解体を済ませ、食べ歩きをしながら街に戻っていた。
しばらくして、街が目で見えるくらいの距離まで来ると、後方の山から『グギャー!』とワイバーンの鳴き声が聞こえてくる。
「あれ、何か群で向かって来てるな……このままだと街が襲われるんじゃなか? まあ、朝来てた国の奴らと、桜葉麗が居れば問題ないか。
実際に一撃で首を刎ねてたし」
クロビ自身は意外と大きな問題として考えてはなく、一応警戒をしつつも街へと足を進めていたのだが――
「クロ殿、どういうつもりか!?」
モーダンの門から少し離れた場所、周囲は荒野地帯でヒューっと風が吹けば砂埃が舞う。
街の方を見ればモーダンの武族達が陣を敷き、後方の山からはワイバーンの群れが街に向かって飛び交っている。
そして今、クロビの目の前にはS級ハンターであり、金色の眼を持つ桜葉麗が立ち、怒りに満ちた鋭い視線を向けていた。
「どういうつもり、とは?」
クロビ自身はウルハの言っている事が丸っきり理解出来なかった。
寧ろ、何で怒ってるんだ?くらいの気持ちだ。
「む、この状況で白を切るか……何故、無意味にその命を奪おうとするのだ!?
皆、必死に生きているのだぞ?」
実際にここ数日、ワイバーンの群れに襲われ、モーダンの街の一角は大きな被害を被っていた。
だが、それでも住民達は力を合わせて復興作業を行ない、必死にその命と自分達の生活を繋ぎ止めているのだ。
「命を奪う……?」
もしかして、俺がまた狩りに出て魔物の命を奪ったから怒ってるのか?
でも昨日は良いって……あれか?さすがに二日続けての狩りは無意味な殺生になるのか?
まあ、実際に目的じゃない魔物はそのまま切り伏せたけど。その中にこいつの好きなモフモフ系も居たしな……
ただ、それも含めて自分が生きる為なんだが。
「俺もその〝生きる為〟故の行動なんだが?
それに、相手側からすれば立場は同じなんじゃないか?
人も生きる為に命を奪い糧とする。 それは逆も然りで、奪うなら奪われる事もある。
それが自然の摂理だろ」
獣を狩る時も、魔物を狩る時も、それは人間も同じで森などの自然に足を踏み入れればそこは動物達の世界だ。
だから狩る側も環境が変われば捕食される側になる。
クロビもそれを分かった上で、鳥類などの食材を狩り、食しているのだ。
「自然な流れであればそれが正しいんかもしれん!
私もそれらを口にしているからな。
しかし、今は違う! 人為的なものであればそれは悪でしかないのだ!」
ウルハも自分やベーラ達が討伐したワイバーンをそのまま食材として口にしている。だからこそ、クロビの発言に異論はない。
しかし、笛を吹き、意図的にモーダンの街へワイバーンの群れを誘導している事実はそれに当て嵌まらないのだ。
すると、既に二人の近くまで迫っていたワイバーンの一匹がクロビの持つロックバードの肉目掛けて急降下を始める。
「おっと」
スガーンと勢いよく着地したワイバーンは肉に狙いを定めつつ、『グルルル……グワッ!』とクロビに、正確にはその手にあるロックバードの肉に向かって噛み付く。
しかし――
「おいおい、お前達はすぐ人の肉を横取りしようとするな……悪い子はお仕置き、だっ!」
クロビは黒棍を形成して跳躍すると、襲って来たワイバーンの頭部に思いっきり叩きつける。
『グゥ……』
ワイバーンの頭部は割れ、白目を剥きながらその場に崩れ落ちていく。
「残念だがこれは俺が自分で狩った肉だ。 その辺にわんさかいるんだから餌が欲しけりゃ自分で捕まえて来い!
それが弱肉強食の世界だろ? ってもう死んでるか」
クロビは吐き捨てる様に言うが、既に絶命しているワイバーンには届かない。
「自分で呼び寄せておいて命を奪うのか! やはり貴様は見過ごせん!」
「呼び寄せる?」
そういえば前回も俺が持ってた肉を狙って赤いのが襲って来たな……って事はこの肉の焼けた匂いに釣られて来てるって事か?
「悪いな! でも、邪魔するなら遠慮なく叩き潰す!」
クロビ自身、自分の食材をくれてやる気持ちはそこにはなかった。
勿論、その在り方次第ではあるのだが、横取りの姿勢で来るなら叩く。そういう考えなのだ。
しかし、その状況とクロビの発言を聞いたウルハは違った。
この男は利己的で、その為なら例え仲間であろうと躊躇いなくその命を奪う。
何より、『その辺にわんさかいるんだから餌が欲しけりゃ自分で捕まえて来い』と言い放った。
つまりは、街にいる民がお前達の餌であり、それを欲するなら己で狩って来いと言ったのだ。
「もう分かった。 ここからは遠慮はせんぞ! 全力で貴様の罪、私が罰してやろう!」
ウルハが抜刀の構えを取ると、その場を力強く蹴り、クロビとの距離を詰める。
そして――
ギン!
ウルハが抜いた刀とクロビの黒棍が鍔ぜり合う。
クロビは透かさず刀を受け流すと、棍をクルっと回転させ、身体を捻りながら横に振るう。
ブォン!
ウルハは身を低くしてそれを躱すと棍は空を切った。
その隙を逃すまいとウルハも刀を下から振るい上げるが、クロビは身体を横にしてそれを躱す。
「なかなかやるな! だが、それでなくては!」
ウルハ自身、これまでに自分の力を受け止める相手に出会う事がほとんど無かった。だからこそ、もしかしたら全力でぶつかれるかもしれないと、期待をしながら刀を振るっていた。
「少し速度を上げるぞ!」
ウルハは更に速度を上げ、突き、上段、下段、袈裟と様々な剣技でクロビに迫る。
そして、クロビ自身もウルハの猛攻を躱し、棍で防ぎながら器用に回転させつつ、突きを放ち、躱されると左掌で上下左右に流し、まるでウルハを追尾するかの如く臨機応変に操作していく。
「流石に早いな……これを見ると、あいつの“神速”って何だったんだか……」
クロビは以前、ウルハと同じS級ハンターのレオンの攻撃を思い出していた。
コルセスカで神速と謳う突きを披露していたが、断然ウルハの動きの方が早い。
何より、同じS級ハンターなのに二人の力の差に驚いていた。
「随分余裕そうじゃないか! ならやはり全力で行かせてもらおう!」
ウルハは更に速度を上げると、「剣技―乱れ桜!」と一瞬納刀して後方へ下がり、縮地を用いて再びクロビの懐へ。
そして、まるで桜が吹雪くように無数の刃がクロビを襲った。
「――っ!?」
ズザーッとクロビを通り越し、キンッと刀を納める。
すると――
ブシュッ!
クロビの腕や足、首などに無数の刀傷が生じ、血飛沫が舞った。
「む、その服……なかなか頑丈だな! この剣技で倒れなかったのは貴様が初めてだぞ!」
ウルハはクロビへと振り返り、刀に手を添える。
「くっ、痛ってぇー……全く見えなかったな……」
ふぅーっと深呼吸をすると、クロビは棍を構える。
「そう来なくては!」
ウルハも再度抜刀の構えを取った。
今度はクロビが先攻する。縮地で勢いよくウルハへ向かうと、前にゼオールへ見せた技と同じ様に、側宙で遠心力を加えるとそのまま一気に棍を振り下ろす。
ギン!
ウルハは「くっ!」と少し辛そうな表情でそれを抜刀して受け止めたのだが、クロビはその反動でもう一回転加えて振り下ろす。
「――なっ!?」
二打撃目の重みが一切無い事に違和感を覚えたが、既に遅かった。
クロビは再び棍を形成してウルハの顎を打ち上げた。
「ガハッ!」
ウルハはその衝撃で後方へ一回転しながら地面へと倒れた。
しかし、クロビは振り上げた棍をクルっと回転させるように次は振り下ろしたのだ。
「ぐっ!?」
ウルハは辛うじてそれを躱すと、後方へ飛び、膝を突く。
「む、ぐらぐらするな……まさか意表を突かれるとは」
顎を打ち上げられた際に口内を切ったのか、ペッと血を吐き出し、体勢を整える。
「お返しだ。 これで五分だな」
クロビはウルハの剣技で至る所から血が流れている。
ウルハはクロビが棍を使う為、切り傷こそ無いが打撲での痣や先ほどの攻撃で軽い脳震盪を起こしている。
ウルハは呼吸を整えると、抜刀の構えを取り身を屈めた――
※ ※ ※ ※ ※
クロビとウルハの攻防の中、ワイバーンの群れがその上空を通過し、布陣する武族隊と接触した――
「弓隊、放て! 低空してる奴は槍隊で迎撃しろ!」
ベーラが状況を視ながら冷静に指示を出していく。
『グルア!』
ワイバーンもすかさず尾や爪で攻撃を仕掛け、「ぐわっ!」と武族隊も数名がその餌食となる。
「治療武隊は隙を見て怪我人を運べ!」
「はっ」
武族隊も必死に奮闘するが、ワイバーンの変異種は通常のよりも狂暴で、陣営も少しずつ削られていく。
「「「―火の弾丸―!!」」」
後方からは魔術武隊が行使し、どうにか街への侵入を防いでいる。
ズバッ!
バシュッ!
ベーラも「うおぉぉ!」と雄叫びを上げながら一撃では仕留められないものの、次々にワイバーンを切り伏せていく。
「ベーラ様、大型弩の準備が整いました!」
後方から伝令役の1人が伝える。
「よし、一斉射撃だ! ウルハには当たらんからそのまま打て!」
「はっ」
ベーラの指示から数分後、街の門壁に設置されていた大型弩から無数の矢がワイバーン目掛けて一斉に放たれた。
次々と矢の餌食となって撃ち落とされていくワイバーン。
次第にその数を減らし、地上でも武族達が何とか討伐をして、残りは3体ほど。
「お前達! 最後まで気を抜くなよ! 残りは全部赤だ! 一斉にかかれぇ!!」
ベーラの指示で「「「おおお!!」」」と武族達が一斉に、一体に付き数十人で向かって行った。
そして、ワイバーン襲来からおよそ2時間。
武族隊はなんとか全てのワイバーンの撃退に成功したのだった。
その数35体。
死者30名、重傷者8名。
「怪我人は急いで城の医務室へ運べ! 遺体は……回収後、丁寧に弔え」
「「「はっ」」」
「ウルハ……まだ戦ってるな。 にしても、ウルハと同等とはなんてやつだ……」
※ ※ ※ ※ ※
ベーラ達武族隊がワイーバンの群れと戦っている間もクロビとウルハは激しい攻防を繰り広げていた。
時おり魔術までもが飛び交い、辺りに火柱や氷の雨を降らせている。
そして、距離を取って対峙する二人――
クロビの服はウルハの剣技によってボロボロになり、肌が見えている部分は先ほどよりも血で染まっている。
ウルハ自身も火の魔術のせいか、桜の模様が描かれた着物の袖部分が焼け焦げ、破れた場所は肌が見えており、内出血を起こしていた。
「はぁ……はぁ……しぶといぞ!」
「はぁ……いや、それは俺のセリフだ」
お互いに傷だらけになりながらも武器を構える。
「よもや人相手だからと躊躇っていたが、もう迷わん!」
ウルハは納刀すると、鋭い眼つきでクロビを睨み付ける。
そして、その眼光が金色の光を放つ。
バチッバチッ
空気が一変し、ウルハの周囲で放電が始まる。
・
・
・
「ベーラの姉貴、あれは……!?」
「ああ、ウルハが本気を出したんだ。 しかし、人相手とは私も初めて見る。
まあ、それだけアイツが手練れって事なのか……ここからは化け物同士の戦いになるぞ」
ワイバーンの盗伐を終えたベーラや武族達は、手出しが出来ない程の激戦故に、遠目で二人の戦いを見守る事しか出来なかった。
・
・
・
「金眼の異能か……エリーが言ってたな」
「色眼持ちを敵に回した事、後悔するといい! 行くぞ! 一刀紫電!!」
前にワイバーンの首を刎ねた、それこそ神速の抜刀術をクロビ目掛けて放つ。
一瞬、ウルハの身体がブレ、気付いた時には既に懐へと潜り込んでいる。
そして、シッと抜刀された刃がクロビを襲う。
「ぐっ!?」
クロビはギリギリ棍でそれを受け止めたのだが、雷を纏う神速の抜刀はなんと黒棍をスパっと斬り、そのままクロビの脇腹へと到達した。
ズバッ!
「があっ!!」
何とか身体をずらして最悪は免れたのだが、斬られた傷は雷で追う様に痛みが走り、クロビは思わず膝を突く。
「ほう、これも躱すとは……恐れ入るな! 貴様と戦っていると己の未熟さを痛感するぞ!」
「いや、躱しきれてないんだけどな……」
「まだまだ、ここからだぞ?」
ウルハは指先を向けると、「―雷棘―」と雷で形成された棘をクロビに打ち込む。
「くっ……やりたい放題しやがって……」
「では抗うといい!」
「ふぅ~、こんな所で俺は死ねないんでな。 それにちっぽけな理由で殺されては堪らない。
まあ、お前と同じで俺も対象外に向けるとは思わなかったが……」
クロビの中では鳥を狩ったというちっぽけな理由で殺されるのは勘弁だった。
また、自分の中で、魔物は別としても復讐対象外に対して発色する気は無かったのだ。しかし、ウルハは今、殺意を持って対峙している。
故にこのままでは確実に殺されると考えたクロビは覚悟を決めたのだ。
「む、貴様の非道でどれだけの命が奪われると思っているのだ!? それをちっぽけだと……!?」
ウルハの中ではワイバーンを呼びよせ、街を襲わせると言う非道に対して、クロビがちっぽけな理由だと言ったその発言に対して怒りが込み上げる。
だが――
「む……!?」
ウルハは瞬時に後方へと飛び退いた。
何故なら、クロビの雰囲気が先ほどとは全く異なり、威圧や殺気が渦巻いているように感じたからだ。
そして、その身にはゆらゆらと揺れる黒い炎を纏い、向けられた眼光は真紅に染まっていた――
「まさか……同じ色眼持ちだったとは驚きだ。 しかもその眼……貴様が紅眼の死神だったとはな!
だから鎌を持っていた訳か! 合点がいった!」
「―聖光の処刑―」
クロビは人差し指を真上に向けると、魔術を行使した。
ドーバルの時もそうだが、クロビ自身最も得意とする魔術がこれなのだ。
展開された術式から光の球体が浮かび上がり、ピカッと眩い閃光と共にウルハを飲み込んでいく。
「――!?」
それは遠目で見ていたベーラ達にも何が起きたのか分からなかった。
突如、球体が閃光を放ったかと思えば、ウルハを含めた直線状は、まるでドラゴンがブレスを放ったかのように地面が抉れていたのだ。
少しずれていたら自分達が、そして街の門などが巻き込まれていたかもしれない。
ベーラ達は思わず息の飲んだ……
「お前も大概だな。 これをくらって消えなかった人間は初めてだぞ」
「ふん、だが危なかった……」
よく見れば、ウルハの周囲はバチッバチッと電流の結界の様なものが作られていた。
だが、身体からは熱を帯びた事で煙が昇り、所々が焼け焦げている。
「全く、何という魔術だ。 そんな高威力のものはローズベルドの魔法以外で聞いた事が無いぞ!」
「努力の賜物だ。 続けるぞ!」
クロビは棍を形成してウルハへと飛び掛かった。
ガキンと再び鍔迫り合いになるが、更にウルハの腹へ蹴りを打ち込む。
「ぐふっ」
透かさず、次は棍に黒炎を纏わせて刃を形成して黒鎌を大きく振り下ろした。
「ぐっ……」
ウルハは何とかそれを刀で受け止めたのだが、蹴られた際の痛みでいつの間にか刃が作られている事に気付かず、柄の部分を受け止めていた。
その為、鎌となったクロビの武器は刃の部分がウルハの左肩に突き刺さっていた。
「ちっ、―雷棘―!!」
パシュッパシュッとクロビの腹に二本の雷の棘が刺さる。
「いっ……てぇな!」
クロビは刺さった棘を黒炎で焼却すると、「―黒針―!!」と黒い炎で形成された針をウルハの足に飛ばす。
「がっ!?……破っ!!」
ウルハもそれを雷の磁力で引き抜くと刀を抜いてクロビへと襲い掛かる。
袈裟、切り上げ、突き、そして「剣技―雷鳴刺殺―!!」と叫ぶ。
すると、ウルハの身体全体が雷を纏い、電光石火の如く目にも止まらぬ速さで鋭い突きを放った。
そして、グサッとクロビの左胸の上部を刀で貫いた。
「ぐあぁっ!?」
しかし、クロビは無理矢理力を入れて剣を抜けなくし、ウルハを力付くで抱き寄せると、腹に手を当てて「破っ!」と痛みを我慢しつつ、八勁を打った。
「ぐほっ……はぁ」
「くそっ……」
クロビは剣を抜くと、それを投げ捨てる。
「何度も刺しやがって……蜂かお前は……はぁ……」
「き、貴様だって黒き乙女の身体に容易く触れるわ、刃を向けるわ……くっ、着物までこんなに、破れて……」
クロビのコートは至る所が斬られ、破れている。
そして、ウルハの着物も焦げや戦いの中での衝撃で破れ、至る所が肌を露出させていた。
「大事なところは見えてないんだから良いだろ……」
「そういう問題ではないわっ! ―磁引―!」
ウルハは指から放電させ、クイっと動かすとクロビの近くに転がっていた刀を磁力で引き寄せた。
「ちっ……雷の異能、厄介だな」
「貴様もさして変わらんだろ!」
「―黒蝙蝠―!」
クロビは黒炎で蝙蝠を形成してウルハへと飛ばした。
黒炎は接触した対象を任意で燃やし尽くす異能。
ウルハは感覚なのか、勘なのか、黒蝙蝠が接触した瞬間に危険を察知し、放電して防いだ。
「全て焼き尽くすんだけどな……それを防ぐとか、ほんと面倒な女だ」
「言っていろ!」
もう幾度目か分からないの鍔迫り合い、そして武器、魔術、武術と状況に合わせて繰り出される攻防戦。
それは、既に四時間以上が経過し、辺りは日が沈み始めて茜色に染まっていた。
「「はぁ……はぁ……」」
どちらも傷だらけで、服もボロボロだ。しかし、それでも闘志は消える事なく、ぶつかり合う。
「―火の弾丸―!!」
クロビが火の魔術を展開させ、放つ。
ウルハはそれを避けると、その行動は初めから予測されていたかのようにクロビが縮地で迫り、鎌を振るう。
そして、ウルハもそれを躱すのだが、その遠心力を活かして回し蹴りが腹に減り込む。
「ぐぅっ!?」
その衝撃でウルハは刀から手を放し、後方へと吹っ飛ばされた。
「まだだぁ!!」
だが、ウルハも心は折れていない。
すぐに立ち上がりクロビ目掛けて飛び込んでいく。
振り下ろされる鎌を真剣白刃取りで止めると、横に流して身体を捻ると、逆さになった状態から二連撃の回し蹴りを放つ。
更に、「―雷掌―!」と雷を纏った掌打をクロビの鳩尾目掛けて放った。
「ぐはっ」
「「はぁ、はぁ……」」
しばらく二人の動きが止まり、そのままバタンと同時に倒れていく。
「し、しぶといにも、程があるであろう……」
「いや……それは、俺の、セリフだから……」
もはや二人に立ち上がる力も残っていない様子だった。
「はぁ……そんな力が、あって、何故モーダンを、襲うのだっ?」
「はぁ?……襲うってなんだ? いててて、」
返って来た言葉は思わぬものだった。
「む、貴様が、ワイバーンを、呼んだのだろ?」
「ワイバーン……俺が、持ってた肉の匂いに引き寄せられたって話、か?」
「違う! 笛だ! それに、しっかりと率いてたではないか!」
「俺がそんな笛なんて持ってる訳ないだろ? 率いてたってたまたま後ろにいただけだろ……大体、モーダンを襲うって俺に何の得がある?」
「だ、だからそれを聞いているのだ! だが、それが違うとなると……一体私と貴様は何の為に戦っていたのだ!?」
「いや、動物好きのウルハが二日続けて狩りに出てた俺に、命を粗末にするなってキレたんだと思ってたが?
まあ、そんな事で殺されかけるとか全然納得いかないから俺も本気を出した訳だが」
「なっ、何という事だ……いや、昨日も言ったが狩りは生きる上での手段であってだな、それに自分の価値は押し付けないと言ったはずだ!」
しばらく二人の間で沈黙が流れ――
「「なぜこうなった!?」」
そして、改めてお互いが何を考え、何を思って武器を構えたのか、それらを紐解きながら答え合わせをしていったその結果――
「ようするに、俺とウルハ、お互い勘違いで殺し合ってた訳か……」
「そ、そのようだな……はは」
クロビは動物愛好の意に反した為、それに怒ったウルハが剣を向けて来た、と。
ウルハはワイバーンを率いてモーダン転覆を図ったクロビを止める為に、と。
そして、ようやく二人の誤解が解けたのだが……
「しかし、それでも笛をガドとやらに渡したのはクロ殿なのだろう?」
「ああ、実際に渡したし、吹いたのも俺だな。 ただ、あれはその前にモーダンの少年達から貰ったんだよ。
幸せになれる笛だって、別の人から貰ったんだってよ」
「うむ、それが事実であるのなら、何か臭うな……恐らく別の首謀者が居るって事になる」
「まあ、色々と良いんだか悪いんだかでタイミングが重なったって事か。
でも結局街は守れたんだからいいんじゃないか?
にしても疲れた~。 もう動けない……」
「はははっ、私もだ。 しかし、今となっては心地よくもあるな! こうして本気で戦ったのは実に久しい!」
「それは同感だ。 今まで本気になれる相手なんていなかったしな……」
「ああ。 だが、紅眼の死神がここで何してたのだ?」
「ん? まあ……」
クロビは簡単に事情と経緯を話した。既にバレてしまっているからこそ、隠しても仕方がないと考えたのだ。
「なるほど……まあ、別に私は政府ではないから捕まえる事はせん。
とは言え、アーバロンに敵意を向けるなら、容赦はせんがな」
「まだ確証がある訳じゃない。 それに、一番の目的はゴルバフだ。
だから今のところは大丈夫だろ?」
「ならいい! とりあえず城に戻るとしよう。
クロ殿はどうするのだ? 王からの招集を突っぱねたらしいが」
「じゃあガトさんに運んでもらうとするよ」
その後、ベーラやガドなど、少数の武族達が戦いの終わりを見届けるとこちらへ向かって来た。
「ウルハ、大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ! ただ、動けん。 ちなみに、クロ殿は今回の件は無関係だったぞ!」
「なに!? 無関係だと? ……だが私等が近づけないくらい激しく殺り合ってたじゃないか?」
「ああ、しかし勘違いだった! 面目ないな! はははっ」
「まあいい、肩を貸してやるよ。 クロだったか? 次は今回の件もあるから城に来てもらうからな! 覚えておけ!」
「へいへい! あっ、ガドさんすいません! 運んでくれませんか?」
「あ、ああ! 分かった!ってボロボロじゃないか……まあウルハ様相手だから仕方ないか。
しかし、よく生きてたな……」
こうして、武族達とウルハは城へ、クロビは宿へと連れられていった。
※ ※ ※ ※ ※
≪モーダンのとある屋敷≫
「ぐぬぬっ、なぜだ……なぜ失敗した……」
一人の男が拳を机に叩きつけながら、外を眺めていた。
「こうなれば別の手段を……しかし、もうワイバーンはいない……」
コンコン
「なんだ?」
「失礼致します。 ご主人様、フォンダルタイン陛下からの手紙です」
執事らしき男が王からの手紙を持って来た。
「明日、また招集か……分かった。 下がれ」
「はい、失礼致します」
再び部屋に一人になると、男はグラスに酒を注ぎ、一気に飲み干す。
「まあいい、まだ手はある。 覚えていろ……必ず俺の時代が来る!」
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