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黒き復讐者の交響曲  作者: Rさん
第Ⅳ章 ~ゴルセオ大陸編~
54/111

ウルハ・オウバ

※新キャラがクロビと出会います


モーダン王国に到着して翌日、クロビはさっそく情報収集の為に街の西南にあるドーバル軍事施設へと足を運んでいた。


とは言え、その身で向かうのは面倒事があると動きにくくなる為、遠目の岩山からの視察だ。



「とりあえず来てみたものの……思ったより小規模だ。

これだと上の情報は回ってこなそうだな……」



この大陸に建てられた基地は施設が四つほど並ぶ非常に小さなもので、飛空魔動機の偵察部隊が周辺の警戒をしつつも、軍事施設と言うよりは田舎村の自警団と言った方がしっくりくるだろう。



「参ったな……まあ仕方ないか。 そんな簡単に良い情報は得られないだろうし」



クロビは街へと戻り、昨日話をした門番のところへと向かった。



「どうも! 今日は鳥の肉が食べたい気分なんですけど、この辺って美味しそうな鳥います?」



「ああ、昨日の! 鳥の肉か……ならここから南東に行くと山がある。

そこは海も近いから怪鳥類が縄張りにしてるよ。

それと、たまにだがコカトリスも出るって噂だ!」



〝コカトリス〟


立派な鶏冠を持つ顔と足は鳥、体と羽は竜、尾は蛇といった容姿をした魔物だ。


討伐のランクはワイバーン等と同じくB級で、非常に筋肉質な為にしっかりとした弾力で美味。


しかし、滅多に現れない為にその肉の価値は高いのだ。




「コカトリス! じゃあそこに行ってみます! ありがとうございます」



「おう! なんならまた分けてくれ! ワイバーンの肉は美味かったし、コカトリスなんて滅多にお目に掛かれないからな!」



門番も意外とちゃっかりしている。


実際に門番の役職は下級の武族などがその役割になる為、食事や給料も良くはないのだ。


だからこそ、豪華な飯にありつけるならと機会は逃さないようだ。



「まあ居れば、ですね。 では」



クロビは鶏肉を目当てに教えてもらった山へと歩いて行った。




※ ※ ※ ※ ※ 



≪モーダン王城≫




謁見の間にはフォンダルタインを始め、ウルハやベーラを含めた武族達、領地を持つ5名の貴族、そして密偵部隊が集まっていた。



「昨日、ベーラ様が見たという斬られたワイバーンですが、現在群を成している山から少し離れた場所で残骸を見付けました。


また、火を使った形跡がありましたので、恐らくそこで食してから街に向かったようです。


なお、門番に確認したところ、()()()()が訪れ、ワイバーンの肉を分けてくれたと」



「ふむ、黒髪か……それに肉を分けるという事は、恐らくその者の可能性が高いな」



「はい」



フォンダルタインと密偵のやり取りを聞き、ウルハが口を開いた。



「黒髪という事は、私と同じ東方国なのかもしれないな! 一度私から接触してみるとしよう」



「その可能性もあるだろう。 ウルハ殿、任せる。 ちなみにベーラよ、明日のワイバーン討伐における武族隊の状況は?」



「ああ、問題ない。 ウルハもいるし、50人で編成している。 勿論、数は増やすさ」



ベーラがフォンダルタインへ状況を報告し、話を終える。



「では、私は街に出て黒髪の男を探して参る」



「夕刻には戻って来なよ? 明日の準備もあるからな!」



「相分かった!」



そして、ウルハは街へと向かっていった。


しかし、街には黒髪の男の姿が見当たらなかった。


モーダンの人間は基本的に茶髪が多い。だからこそ、見付けるのは簡単なはずだったのだ。


勿論、ゴルデニアからの商人や自分の様にアーバロン近辺からの使者はいるのだが、それらは黒髪でも顔を知っている為、対象に当て嵌まらない。



「そこのお方、聞きたい事があるのだが?」



「あ~?って、ウルハ様!? これは失礼致しました!」



「良い! だが、いくら何もないからといって気は緩めるなよ! で、黒髪の男を見なかったか?

ワイバーンの肉をくれたと聞いたが」



「あっ、ああ! えっと、ついさっき南東の山へコカトリスを狩りに行きました!」



「コカトリスだと!? 急がねば! すまない!」



「いえ、急げばまだ間に合うかと思います!」



ウルハは足に力を込めると、一気にその場から南東の山へと急いだ。




※ ※ ※ ※ ※




クロビはと言うと、既に南東にある山の麓に到着していた。


モーダンの街からここまで、通常馬で駆ければ30分ほどと非常に近い場所に聳えているのだ。


それだけモーダンの街が山々に囲まれた山岳地帯でもあった。



「さて、コカトリスいるかな~?」



辺りは荒野地帯で、山自体も部分的に木や草が生えているようだが、基本的には岩山だ。



「居場所、もう少し詳しく聞けば良かったな~」



スパっと独り言を呟きながらも、時折襲い掛かって来る怪鳥の首を刎ねると、素材と魔石だけを回収していく。


それにしても辺りは本当に何もない場所だ。


魔物こそいるが、恐らくその魔物達に荒らされたのか、それとも縄張り争いなどに巻き込まれた結果なのか、岩などがそこら中に転がっていて、むしろそれしかなかった。



クロビはとりあえずのんびりと山道にそって歩いていく。


すると、後方から『グルァ!!』という鳴き声と共に、大きな影が自分を覆っていった。


ドガン!


クロビはとっさに前方へ跳び、くるっと向きを変える。



「熊?」



クロビの目の前には荒野にそぐわない美しい熊の魔物が立っていた。


白く艶のある美しい毛並み、しかしその目は餌を欲する捕食者のもの。


それぞれの指にショートソードを何本も持っているかのような鋭く長い四本の爪。


口には下顎から延びる長い二本の牙に少し長い垂れた耳。



「熊なのか兎なのか何なのか……不思議な魔物だな~?

それにさっきのは攻撃だったのか! 横の岩が思いっきり抉れてる」


大きく抉れて四本の太い線が刻まれた岩を見ると、普通の人間なら即死だろう。


それだけ、この熊の魔物が脅威だという事なのだが……



『グオォォォオオ!!』



熊は大きな雄叫びを上げると再びクロビに向かって突進してくる。



「珍しい魔物だが、襲って来るなら仕方ない。

食べるかどうかは後で考えるとして、相手になろう」



クロビも一気に踏み込み、黒鎌を構えて向かって来る魔物に突撃していく。


そして――



ギン!



「――!?」



一瞬の出来事であったが、いつの間にか熊の魔物は横に蹴り飛ばされていて、クロビの鎌がぶつかったのは()()姿()()()が持つ刀だった。



「危うく私の夢の一つが潰えるところであった!」



そう告げると、鍔迫り合いからお互いに後方へ跳び、その女は刀を鞘に納めた。


どうやら敵意はないらしい。



白い袴に黒で桜の刺繍が入った着物。


長い黒髪を後ろで竹筒の様なものに通して束ねている。


背は160くらいだろう。 


眼は金色の色眼持ちで、鋭く気の強そうな印象を与える。


だが、輪郭や目鼻立ちは非常に整っており、可愛いよりは断然美人の部類に入るだろう。



「突然の乱入とはな。 その眼、お前が()()()か」



「む、私を知っているのだな。 まあこれでもS級ハンターであるから当然でもあるのだが。

しかし、それとこれとは話が別だ! この魔物は殺させんぞ!」



「いや、待て待て。 別に襲って来ないなら俺も無駄に殺しはしないぞ?

と言うか、さっき夢の一つがって言ってなかったか?」



「ああ! 私は()()()()()()でな、特にモフモフしたものには目が無いのだ!

勿論、毛が無い動物でも好きなのだが……ホワイトソードクロウベアーはその毛並みの美しさから、一度そのモフモフを堪能したかったのだ!!

故に目の前で殺されてしまうのは、私の夢が潰されるのと同義!!」



どうやらこの魔物はホワイトソードクロウベアーと言うらしい。


確かに美しい毛並みなのだが……とりあえず動物好きだから守ったって事か。



「じゃあ好きにしろ。 俺の目的はコカトリスだからな」



「そ、そうか! なら遠慮なく! さぁ、来い! ()()()!」



いつの間にか名を省略され、しかも先ほど蹴飛ばされた事にホワイトソードクロウベアーは怒り心頭で『グルァアア!!』と再度雄叫びを上げながらウルハへと突進したのだが――



「ほぉーたまらん! モフモフだぁ!!」



ウルハは攻撃を受けているとは微塵も感じておらず、ただ動物が自分に向かって抱き着いて来たのだと捉えているようだ。


途中、ウルハの頭や肩に思いっきり咬みつくも、ウルハ自身そんな事は一切気にせずに「良いではないか、良いではないか」と女子を追い回す金持ちおやじの様な発言をしながら恍惚とした表情を浮かべていた。



「ふぅ~! 余は満足じゃ! よし、ではベアー、お座り!!」



『グルルル』



ホワイトソードクロウベアーは少し怯えているのか、困っているのか、先ほどの魔物としての威厳や脅威的な雰囲気は全てウルハに削り取られていた。


だが、魔物としての自覚なのか、警戒は緩めない。



「いや、熊だし座らないだろ……」



「そんな事はないぞ! 魔物は普通の獣と違って知性が高いんだ!

だから、お座りくらい出来るであろう? な?」



ビシっと人差し指を向け、「お・す・わ・り・だ!!」と、もはや威圧と殺気を漂わせて調教ではなく、支配で無理矢理実行させ、ホワイトソードクロウベアーも渋々その場に座り込んだ。



「おい、それじゃあただの()()じゃないか」



「む、君は先ほどから失礼だぞ!」



「いやいや、普通に躾けるとか調教するなら分かるが、今のは明らかに支配だろ」



「どちらも同じだ! だが、私は傷付けないぞ! だから安心するといい!」



と言いつつホワイトソードクロウベアーに向き合うも、別の意味で危険を感じたのか、ウルハがクロビに意識を向けた一瞬の隙を見て一目散に逃げていった。



「あぁ~行ってしまった……。 仕方ない。 次の機会に取っておこう!

それにしても君のその()。 まるでどこぞの()()のようではないか?」



「ん? えっと~、まあ、たまたまじゃないか? 鎌使う奴なんていくらでもいるだろ!」



魔物を狩る時は黒棍ではなく、黒鎌にしている為にウルハに見られてしまったが、クロビは偶然だと軽く流した。



「そうか、それならいいのだが、君も東方国の出身ではないだろうか?」



「ああ、俺はクロだ。 しがない旅人だよ。 まあ東方国生まれではあるけどな」



「うむ、その旅人がコカトリスをなに故狩るのだ?」



「そりゃあ当然、食料だよ。 腹が減ったし美味しいらしいからな?

今は鳥が食べたい気分なんだ」



「なるほど、まあ腹が減ってはな!」



「って動物好きでもそこは許すんだな?」



「生きる糧であるからこそ、正当な理由はちゃんと受け入れるぞ! それに自分の価値観を人に押し付けるような真似はしない。

ただ、無駄な殺生をするなら許さぬがな!」



どうやらウルハは極度の動物好きではあるが、生きる上での狩りや討伐などに関しては寛容らしい。



「じゃあ俺はコカトリスを探しに行くから、じゃあな!」



クロビはその場を離れ、目的であるコカトリスを探しに出た。



「うむ、とりあえず男の情報は得られた。 それにモフモフも出来た!

満足したし、私も一度帰るとするか!」



ウルハはウルハで目的を達成したらしく、その場を後にして街へと引き返した。




その後、クロビは魔物の気配を探り、山の途中にあった洞窟を見付け、中へと足を運んでいく。



すると――



『ギョー!! ギョー!!』



「おっ、変な鳴き声がするな。 コカトリスだと良いんだが……」



更に奥へと足を進めるとところどころに怪鳥らしき魔物の残骸や骨が散らばっていた。


そして、その先には大きなとさかがある2メートルほどの鳥が姿を現した。



「おっ、鳥の頭に竜の羽、尻尾が蛇か。 コカトリス発見!」



クロビは即座に縮地で距離を詰めると、そのまま首を綺麗に刎ねる。



まともに戦えば毒などで身体を蝕まれ、命を落とすのだが、クロビは基本一撃で仕留めていく。


それ故に、相手が強いか弱いかすら分からずに先頭を終えてしまうのだった。



「さてさて、では解体しつつ肉を焼こうかな」



コカトリスのとさか、嘴、竜の刎ね、蛇の尾と魔石をそれぞれ切り分けると、それらをポーチに収納し、残りは肉として解体しつつ火を起こして焼いていく。


「やっぱ足の部分は……食べ歩きだよな?」



そして、焼けた肉をある程度食べると、足を持ってかぶりつきながらのんびり街へと戻って行った。




※ ※ ※ ※ ※



≪モーダン王城≫




「ウルハ・オウバ、只今戻りました。 って騒がしいな」



「おお、ウルハ殿戻られたか! すまんが、また出てもらう事になる」



ウォンダルタインがウルハを確認すると、指示をする。



「悪いなウルハ、またワイバーン三匹が街に向かっている。 ブルート領だ」



ベーラがウルハへ現状を告げる。



「なるほど、では参ろうか!」



「第一武隊、第二武隊は武器持って直ちに街の上門へ向かうぞ!」



「「はっ!」」



そして第一武隊、第二武隊、武族長のベーラとウルハの計22人がブルート領の門前に布陣した。



遠くの方で情報通り三匹のワイバーンがこちらへ飛んで来ているのだが、その内の二匹は鮮やかな青と、赤のワイバーンだった。



「おいおい、ありゃ変異種じゃないか!?」



本来のワイバーンは黒か紺色。だからこそ、鮮やかな青や赤といった色を持つのは非常に珍しい。



「まあどうにかなるであろう! 私も出るのだから心配無用だ!」



ウルハは自信満々に告げると、一歩前に出た。



「お前ら! 弓を構えろ!!」



ベーラが武隊に指示を出すと、後方武隊が魔道具を備えた大きめの弓を構える。


「打て!!」



ビュン!!



10人の武隊から10本の矢がベーラの指示によって放たれる。


その矢は風の魔術が施され、通常とは比べものにならない速度でワイバーンへ向かっていく。


そして、ズバっと一匹のワイバーンに三本の矢が射抜いた。


しかし、変異種の二匹は魔術が施されていてもなお、容易くそれらを躱した。



「まあそうだろうな! だが、想定内だ」


ベーラはハルバードを構えると、次第に距離を詰める二匹を鋭く睨み付ける。


が――



「あれは……確かクロと名乗っていたな! なぜのんびり歩いてるのだ?」



「おお! あれ、何か凄いな」



皆がワイバーンに意識を持っていかれていた中、ウルハは少し早めの歩みでコカトリスの肉を食べながら街に戻っていたクロビの姿に気付いた。



「クロって誰だぁ?」



「多分ベーラが見たワイバーンを両断したであろう男だ! さきほど接触したのだ」



「ほう、それでどうだった?」



「可能性は高いだであろうな。 実際にワイバーンが来ているにも関わらず、のんびり鳥を食している。 不思議なやつだ」



すると、赤いワイバーンがクロビの持つ鳥の匂いに誘われるかの如く、一気に急降下した。



「ん? これが欲しいのか? まあやらないけどな!」



クロビはサッと食べながらも余裕で躱し、街へと向かっていく。


既にウルハやベーラ、武隊と二匹のワイーバンは目と鼻の先だった。



『グアァァァア!!』



青いワイバーンが地上に降り立ち、咆哮する。


すると、どこからともなくもう一体の黒いワイバーンが駆け付け、武隊の目の前に降り立った。



「お前ら! やるぞぉぉ!!」



「「「おお!!」」」



全員武器を構え、一気に黒いワイバーンへと突撃していく。



「なるほど、青いのは仲間を呼ぶか。 本来なら殺しはせんが街の為だ。

許せ!」



ウルハは刀に手を掛けると右足を前に出し、上半身を前のめりにさせて構える。


そして、「一刀紫電!!」と発した直後、刀を収めている鞘がバチバチっと音と立て始めた。


そのまま縮地によってウルハの姿が一瞬ブレると、瞬く間に距離を詰め、スパっとまるでクロビの鎌の様に青いワイバーンの首を刀で刎ねた。


胴体と首の切り口からは落雷を受けたかのようにバチッバチッと二つに分かれた後も放電し、少し焼けた匂いが漂う。



やがて、黒いワイバーンもベーラや武隊の猛攻によって討伐されたのだが――



「しつこいな、お前……」



赤いワイバーンはしつこくクロビが手に持つコカトリスの肉を狙っていた。


そして、クロビの前に降り立つと『グオオオオ!!』と、まるでよこせ!!と言わんばかりに雄叫びを上げた。



「じゃあやるよ! ほれ!」



クロビは既に食べ終えているコカトリスの足の骨を赤いワイバーンの口元に投げつけた。


そして、それに噛み付いた瞬間、クロビは距離を詰めて思いっきり膝蹴りを顎目掛けて放った。


ゴギン!


骨を加えながら、更に強い衝撃が顎から伝わり、赤いワイバーンの牙が折れ、何本かは上顎に突き刺さっていた。



『グゥ、グゥルル……』



「悪い子にはお仕置きだ!」



ここにはモーダンの人間が沢山居る為、鎌ではなく黒棍を形成すると、そのまま頭部へ思いっきり振り下ろす。



そして、赤いワイバーンの頭は割れ、そのまま崩れていった……



「ふぅ、餌は自分で取れよな」



クロビは何事もなかったようにそのまま門へと移動すると、門番に声を掛けた。



「これ、約束のコカトリスの肉です! 教えてもらった通り、最高に美味いですよ」



「あ、ああ。 ありがとよ……ってか強いなお前」



「まあ、それなりにはですね」



実際、クロビが赤いワイバーンを倒した場面をベーラや武隊、ウルハや門番などもしっかり見ていた。



「ちなみに、俺はここの門番でガドって言うんだ」



「ガトさん、俺はクロです。 肉、結構あるので好きにやってください」



「おう、助かるよ」



クロビとガドは周囲を気にせず話をしていたのだが――



「おいウルハ、やっぱりアイツで間違いなさそうだな。

そもそもワイバーンに膝を入れるってどうなってんだ?」



「そうだな。 なかなか面白いものが見れた。 おそらく東方国の武術であろうな」



「ウルハもそうだが、東方国の連中には付いていけないぜ……」



ベーラも武芸に自信はあるし、実際にこの国では一番の武を持つ。


しかし、ウルハを始め、クロビの戦いを見て少し自信を無くしたようだった。



「なら私が稽古を付けよう! そうすればまだまだ強くなれるぞ? 諦めるには早い!」



ウルハは気合を入れるかの様にベーラの背中を叩いた。



「いでっ、まったく細身のくせにどっから力が出てくるんだか……とりあえずお前等! 城に戻るよ!」



「「「はっ!」」」



クロビはクロビで一度宿へ戻り、夜は酒場へと向かった。


店の中は住民や部族がワイワイ騒いでおり、ステージの様な場所では踊り子がショーを行っていた。



「ここのオススメって何ですか?」



「おう、お前さん初めてか? ならこの酒だ!」



そうして出されたのはラッテキというお酒だった。


エールやワインと比べてアルコール度が高く、慣れてないとぶっ飛ぶ代物らしい。



「じゃあそれと、一応エールを。 あっ、あと適当につまみを」



「はいよ!」



そうしてテーブルにはラッテキとエール、周辺で狩れるロックボアの肉が並んだ。


クロビは恐る恐るテッキラを口に含み、飲み干すと喉が焼ける様に熱くなる。



「うえっ、きっついなこれ……」



「おっ、初めて飲んだのか?」



突然後ろから話しかけられ、相手を見ると門番のガドだった。



「あれ、今日はもう終わりなんですか?」



「ああ、ワイバーンも片づけられたし一時的にだがな! どうせなら一緒に飲もう」



そう言ってガドが同じ席に座る。


勤務中はカブトを被っているのだが、外すと茶髪、茶色の眼で無精髭の、恐らく30代だろう男だった。



「で、クロは旅してんだよな? ここに来る前はどこにいたんだ?」



「えっと、イーリスです」



「はぁ、そっちから来たのか? なら海を渡って来たのか?」



橋が掛かっているゴルデニアから来るのがこの島は一般的なのだが、そうではないクロの旅路にガドは驚いていた。



「そういやぁ、あっちの大陸は三つの国が同盟結んだんだよな! 俺も行きてえな~」



ガドは昔は結構各地を旅して回っていたらしい。だが、イーリスは戦争などもあって行けない事が多かったのだとか。


昔からそんなだったのか……



「ここってゴルデニアとの繋がりが多いんですよね?」



「ん? ああ、傘下国だからな。 それにドーバルの基地もある。

って言っても、あそこはとりあえず建てたようなもんだから全く機能していない。


ドーバルの軍より、うちの武族の方が強いしな」



確かにあの小規模ならそうだろう。



「まあドーバルもこそこそやってるみたいだがな。 ゴルバフだっけか?

表には出てこないけど、色々開発してるらしいぞ」



「へぇ~、開発ですか……どこでやってるんでしょうね?」



クロビは思わぬ情報に喰いつき、よりいい情報を得る為に話を広げてみた。



「そこまではな~だが、アバーロンに行けば分かるだろ。

あそこは同盟よりも、もっと色々な方面でドーバルと繋がってるからな!

伊達に世界の二強じゃねえって事だ! そんな事より飲もうぜ!」



やはりアーバロンに行くか、そう考えながらもクロビはガドと酒を飲み交わしていった。



そして翌日、結構飲んだクロビは宿で休んでいたのだが、早朝からモーダンの武族を引き連れたベーラが部屋へと訪れた――


※評価、ブクマ、宜しくです!

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