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黒き復讐者の交響曲  作者: Rさん
第Ⅰ章 ~ゴルデニア大陸編~
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回想Ⅱ

プロローグの第二章

どの位眠ってたんだろう……起き上がろうとしても身体の節々が軋んで上手く動かないな。



「君、大丈夫? 何でこんなところで寝てたの?」



女の子はクロビに問いかけながら、手を額に当てた。


ひんやりしていて気持ちがいい。



「とにかく、すっごい熱だったんだよ? しかもこんな洞窟の中だからお薬とか持ってくるの大変だったんだからぁ!」



そうか、あの時の感情と黒い何かで身体が悲鳴を上げてたんだな……どうやらこの子が俺の看病をしてくれていたらしい。


よく見るとボブカットの茶色い髪、薄っすら青い瞳をした同い年か少し上くらいの可愛らしい子だった。



「ありがとう。 どのくらい寝てたか分からないけど、助かったんだね」



そうお礼を言うと、女の子は安心したのか「良かった」と言って微笑んだ。



「俺は黒火、ルーセル領主家に居たんだけど……」



そう言ってこの洞窟に居た経緯をその子に話した。



そして数分後――



「う、うぅー、だいへん、だっだね……づらがっだね、ぼうだいじょうぶだよ……うぇーん」



女の子は号泣しながらも、ヨシヨシと俺の頭を撫で、励ましてくれる。

優しい子なんだなー。


その後、少しずつ落ち着きを取り戻したその子はバスケットに入ったサンドウィッチをくれた。



「起きたばかりだからゆっくり食べてね。 あっ、そういえばまだだったね?

私はユナ・グルーデンって言います。 

家名があるけど、別に貴族じゃないよ」



この子はユナと言うらしい。


「ちなみに12歳!」と自己紹介をして、サンドウィッチを頬張っていた。


12歳って事は俺の2つ上のお姉さんだ。


どうやらこの洞窟の近くの村に住んでるらしい。



「君、ずっとここに住むの? なら、うち宿屋だから来なよ! 逃げて来たって事は……もう、す、住む所ないんだよね?」



少し申し訳なさそうに、ユナは問いかける。


確かにもう住む所も行く当てもなかった。それにお金もない。

だからそんな孤児状態だった俺は、流石に断ったのだが……



「だったら住み込みで働けばいいよ。 部屋余ってるしね! そこはお姉さんに任せなさい!」



いきなり年上感を出してきたユナはそう言って黒火の手を取り、村へと向かった。


洞窟から30分ほど歩いた所にあるここは『カルネール村』というらしい。

俺はあの日から三日も寝ていたらしく、二日前に急な通り雨に見舞われ、雨宿りをしていた時に倒れてる所を見付けたのだと。


その後、毎日様子を見に来ては、看病をしてくれていたらしい。


村に着いた時は、「おっ遂にユナにも恋人が出来たのか?」と行き交う村の住人達が騒ぎ、その度に「ちっ、違うから!!」と顔を赤くしながら声を荒げていた。


もしかして、ちょっと難儀な性格なのかな?


そしてユナの実家、『宿屋泉の森』は村の西側にある三階建ての建物だ。

ユナのお母さん、ダリナさんが経営をしている。



「あら、ユナおかえり。 その子は……恋人かしら? 突然連れて来るなんてずいぶん急なのねぇ。 何にも用意してないわぁ」



「ちょっ、ママまでみんなと同じような事言わないでよ! 違うからね!」



雰囲気的に、ダリナさんって結構のんびり系なのか……?


ユナが慌てて否定し、黒火との経緯を必死に説明していた。



「そうだったの……まだ小さいのに大変だったわね。 ダルクさんには色々と力になって貰った事があるから、本当に残念だわ……」


どうやらダリナさんは義父と面識があったらしい。ダリナさんは涙を流しながらそっと抱きしめてくれた。



「自分の家のように使っていいわよ。 勿論、働いてはもらうけどね!」



それから俺は、宿の仕事を手伝いながら村の人達とも仲良くなった。


後から聞いたんだけど、この村の近くには『相伝の祠(そうでんのほこら)』と言う観光名所があるらしい。


祠自体は泉に囲まれ、橋を渡った中央にある。


何やら想いや願いを届けてくれるという伝説がある石を祀っていて、特に婚前のカップルや恋愛成就を願う人達が訪れるらしい。


ユナも「この泉、とってもキレイなんだよ! 私、よくここでお祈りしてるの」って言ってたから人気スポットなんだな。


実際に祠を目当てにこの村に来て、『宿屋泉の森』に泊まると言う事で、ダリナさん曰く重要な収入源でもあるらしい。


とにかく、村のみんなは本当に良い人達だった。


ユナ家族は勿論、パン屋を営むモルおばさんは焼き立てのパンをくれたり、本を集めてるゲン爺に本を借りて勉強し、魔術師のゴッゾ・ウーパーさんには魔術を教わった。


ちょっと変わった人も多いけど、沢山の人が優しく迎えてくれたのだ。


俺は宿の手伝いは勿論の事、時間がある時はゲン爺の本を読み漁り、ウーパーさんと魔術の研究、そして実父から習った槍術の鍛錬というサイクルで日々を過ごしていく。


そういえばここ数日で分かった事だが、実はドーバル軍事要塞が近くにあり、たまに兵達が近くまで見回りをしてくるらしい。


その情報を知った時は、あの時の様にドス黒い感情が湧き上がったが、今はまだ早いとどうにか抑える事が出来た。


だが、いつか必ず……この手で……母の、家族の復讐を果たす。




※ ※ ※ ※ ※




「黒火おはよう! 今日も朝から鍛錬してるんだね」



ユナがタオルを手に声を掛けて来た。



「ユナか、おはよう! もう日課になってるからね。 それに、鍛錬中は嫌な事も忘れられるんだ」



「そっか」



そういってユナは少し悲しげな表情でタオルを渡してくれた。



「ありがとう。 着替えたら手伝いに戻るよ」



そんな日常から一か月後、俺は休みを貰って一度だけルーセル領主家の様子を見に行った。


あの惨劇が脳裏を過るが、それでも家族の遺体はそのままには出来ない。

今更ではあるが、そう思ったからだ。


しかし、既に帝国によって家は取り壊されていた。


事件の後、一週間程してダリル辺境伯からの連絡が途絶えた事を不審に思った帝国が兵を送り、ルーセル一家惨殺の事実を受け、対処にあたったのだ。


なお、この事件はあまりに残忍であった為、街へは広がらずに帝国内部のみで片づけられた。


途中、近縁の者だと調査中の兵に話を聞いたが、遺体は近くの丘に埋葬されたようだ。


三日後、ユナが一緒に来てくれるとの事だったので、二人で丘へ向かい、家族が眠る墓に手を合わせた。


忘れる事は出来ない。でも今の俺は無力だ。


でも、いつか必ずと改めて誓った。



それから3年の月日が流れる――



13歳になった俺は日課の鍛錬や魔術の特訓は欠かさず、そしてウーパーさんと魔力を高める方法、魔術の質を向上させる方法等、研究にも没頭していた。


どうやらウーパーさんは昔、どこぞの国の筆頭魔術師を務めていたらしい。


この村に居座ってからは、余生の全てを魔術研究に費やせると意気込み、没頭し続けているのだとか……


魔術に特化すると変わり者が出来上がるとよく母から聞かされたっけな。


ユナは俺の2つ上だから15歳になった。この世界は15で成人扱いになる。だから俺は「おめでとう」と声を掛けたのだが――



「私、成人になった。 大人だよ! でも、この年だから恋の一つや二つあってもおかしくないのに私は一人! 何で!? どう考えてもおかしい!!」



成人を迎えた途端、急に理不尽な物言いでプンスカ怒り始めた。


確かにユナは可愛いというよりも美人だった。

昔に比べると髪も伸びてポニーテール。そして背も160前半で、毎日宿の仕事を手伝ってる分、身体は引き締まってるし胸もしっかりと実ってる。


ただ、非常に気が強く、姉御肌気質。


その所為もあり、この村の若者からは恐れられていたり、好意を持たれても男に想いを告げる勇気が湧かなかったのだ。そして――



「だから黒火が今日か私の恋人ね!」



「えぇ!?……まあ、俺もユナの事は好きだし、恩人だから恋人になれるのは嬉しいけど、そんな理由で良いの?」



「えっ、今好きって言った? や、やだいきなり、でも……ありがとっ、やった!」



あれ、自分で半ば強制的に成立させたのに、返事を返すと照れるって……


そんなこんなで二人は交際をスタートさせ、愛を育んでいった。


交際関係になった日、ダリナさんに話したら「あらぁ、まだだったの? でもやっとなのね! 良かったわ」と言っていた。この人の中では既に付き合っているものだと思ってたらしい。



そして俺が15歳になり、成人を迎えた時にはお祝いと称して夜中に部屋に突入され、初めての契りを結ぶ事になる。

流石は姉御肌というか、完全に襲われた形ではあるが……それでも素敵な夜だった。


だから俺も責任は取らないと、と思いその後にはユナが好きだった『相伝の祠』で跪き、婚約を果たしたのだ。


復讐の事はユナ自身も理解してくれていたが、きっと現実にはならないと思っていたのだろう。

幸せな日々が続き、俺自身も復讐という想いが若干ではあるがユナという存在で薄まっていたかもしれない。




だが、その1年後――

俺とユナの結婚式を1週間後に控えたある日、幸せに満ちた日々は一気に絶望へと変わる。



※プロローグは次でラストです。

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