ネリーゼの罠と赤眼
※偽物登場します!
イーリス国の演武祭が閉幕――
ミューラとの激闘、メイリーン自身にとっては初めての戦いの怪我と疲労により、二日間の眠りからようやく目を覚ました。
「メイ様!? あぁ~ようやく目を覚まされましたねっ!」
侍女のミラが涙を浮かべて手を握り締めていた。
身体を動かそうとするとあちこちに痛みが広がり、特にミューラに突き刺された左肩によって左腕は上がらない。
「ミラ……私、どのくらい寝てたの?」
無理矢理身体を起こそうとするがミラに抱き止められ、ゆっくりと上半身だけを起こす。
「あれから二日が経ちましたよ。 クロ様やエリネール様達も心配して下さって、街に残っているようです」
「そっかぁ……いたたたっ。 二日で何か動きはあった?」
「はい、ミューラ様は昨日に目を覚まされましたが、演武祭での異様なオーラ、そしてメイ様へ本気の殺意を向けた事が問題になり、現在は自室で謹慎中です。
また、ネリーゼ様はそれ以降姿を見せておりません。 何かしら企てているのかもしれませんね……」
「そう……」
メイリーンがミラから現状の報告を受けると、いつも通り窓から声が聞こえた。
「おう、メイ! 起きたな。 体調は……大丈夫ではないか」
クロビは「おじゃまするよ」と既に窓から侵入するという見慣れた光景で入ってくる。
「クロ、私勝ったよ! まあボロボロだけど」
「ああ、ちゃんと見てたよ。 頑張ったな」
クロビが褒めると、メイリーンも嬉しそうな笑みを浮かべた。
「皆、メイに会いたくて待ってるから早く元気になれよ」
「うん、ありがとう」
「じゃあ、とりあえず様子を報告しに行ってくるよ」
そういってクロビは再び窓から飛び出していった。
「クロ様も毎日来てくれてましたからね。
あっ、傷の具合ですが、蚯蚓腫れになっていた部分は綺麗に消えました。
ただ、肩の大きな傷は治るのに時間が掛かりそうです」
「そっか。 でもいいの、戦いの傷は勲章みたいなものでしょ?」
「ですが、王女様ですし女神でもあるんですからね! 私も何とか方法を探します!!」
ミラは王女であるメイリーンには常に美しくいて欲しい、だからこそ、一層強い覚悟で気合を入れ直した。
それから夕刻にはお忍びでだが、メイリーンの部屋にはクロビ、エリネール、そしてゼオールがお見舞いに訪れた。
「メイ、具合はどうじゃ? まあ魔力の消費などで快復にはちと時間が掛かりそうじゃがな」
「エリー様、そうですね。 でも気持ち的には清々しいですよ」
「メイ、淑女の部屋へ押し入る無礼を許して欲しい。 これ、うちの名産の一つで〝ウォーターメロン〟だ。 良かったら食べてくれ」
「ゼオ様もわざわざすみません。 ありがとうございます。
ミラ、早速切ってくれる?」
「はい。 ではゼオール様、こちらで受け取らせて頂きますね。
少々お待ち下さい」
「相変わらずゼオは硬いな~」
「クロが緩すぎるんだ!」「お主が緩すぎるんじゃ!」
ゼオールとエリネールが一斉に声を荒げた。
「ふふ、そうだよクロ。 普通女性の、しかも王女の部屋に窓から侵入してくるとか、貴族なら極刑よ?
少しはゼオ様を見習ってよね」
「「「はははっ!!」」」
部屋の中は随分と明るい様子だった。そして、ミラが「お待たせしました」とゼオールから貰ったウォーターメロンを一口サイズにカットして持って来た。
「皆で食べよ!」
メイリーンの合図で一個ずつ手に取り、口に入れる。
「ん~瑞々しいの」
「おーこれは美味い! これまでに食べた果実で一番だ!」
皆が美味しそうに堪能していると……
「ゼオール様、申し訳ありませんがメイ様は肩の怪我によって動けません。
なので、せっかくのゼオール様からの果実も食べれずに悲し気な表情をされております……
是非、是非ともメイ様へ食べさせてあげて下さいませ」
ミラは物凄い威圧を放ちながらゼオールにウォーターメロンを差し出した。
「ちょ、ちょっとミラ!?」
メイリーンもミラの発言に驚きと羞恥心が混ざり合い、あたふたし始める。
「ゼオール、チャンスじゃぞ?」
「し、仕方ない……怪我をしているのだからな。 うん。 私が持って来た責任もある。 よし、メイ!」
「ひ、ひゃい!?」
「く、口を……開けてくれ!」
メイリーンは顔を真っ赤にし、モジモジするが、次第に覚悟を決め、少しプルプルしながらも口を開けて餌を待つ雛鳥の様な体勢になった。
そして、パクっとゼオールからの“あ~ん”でウォーターメロンを口にした。
「うぅ……味が分からないよぉ……」
「いやぁ~良いものを見たな! ゼオ!」
クロビはゼオにそう言いつつ、ミラさんとサムズアップした。
「くっ、どこもかしこも敵ばかりだよ……」
ゼオールもまた、顔を赤くしておどおどしている。
「そういえばメイ、お主街では素敵な二つ名がついておったぞ?」
「二つ名ですか!? お母様のように?」
「ちと違うが、〝爆炎の女神〟と騒がれておる」
「ば、爆炎の女神……何かピンと来ないなぁ」
「まあ、爆発の異能と女神らしい美少女じゃからピッタリじゃとは思うがの?」
「ああ、メイのあの武術と爆発は凄かった! 私も一度手合わせしたいと思ったよ」
ゼオールもメイリーンの勇姿に感動した一人だったのだ。
「メイ様、いいじゃありませんか。 女神は女神なのですから。
それに、エイラ様は戦姫でしたから、武人と女神が合わさった様な名です。
自信を持って下さいませ」
ミラもメイリーンの二つ名を褒めて煽てる。
「まあ、皆がそれでいいなら否定はしないけどぉ~」
「その内聞き慣れるだろ。 とりあえず今は少しでも早く身体を治せよ!」
クロビの締めの言葉で有意義な時間は幕を閉じたのだった。
そして、更に二日が過ぎ――
メイリーンもようやく身体を普通に動かす事が出来る様になった頃、デリーの名で手紙が届いた。
「メイ様、これ……」
「デリー? でも……」
中を確認すると、母ネリーゼと姉のミューラの事で話がある、人目を避けたいから今夜闘技場へ来て欲しいと綴られていたのだが……
「デリーは手紙なんて寄越さず、こちらへ来るはず。
ここには魔道具が設置されている事も知ってるし……」
「恐らく、ネリーゼ様本人によるものかと」
「うん……後でクロが来ると思うから相談してからにしよう」
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そして、クロビが訪れた際に、ネリーゼとの関係やこれまでの経緯、そして手紙についてを説明した。
「なるほどな~、そういえばエリーも似たような事言ってたな。
でも、これは明らかに罠だろ」
「やっぱそうだよね……多分私がミューラに勝ったから余計にだと思うわ」
「ん~、ちょっと俺からのお願いがあるんだけど?」
「お願い? どうしたの?」
「実はさ……」
街で噂されている赤眼の死神の件について、そして演武祭の時にはネリーゼの後ろに控えていた男の存在。
別にどんな悪い奴が実行する為の計画を企てようと関係ないのだが、やはり偽物がその名を使ってと言うのは納得がいかない。
だからこそ、その存在と接触する為に協力して欲しいという事を話した。
「だから勿論、危険はあると思うけど……その罠に嵌りにいくのはダメか?
俺も一緒に行くし、何かが起こる前には全部片づけるからさ」
「そうだよね……実際に何があったのかも知らずに名前だけ利用するなんて私も許せない。
それに、いつかは解決どうにかしないといけない問題でもあるから……
分かった!」
「助かるよ。 ミラさん、ちゃんと守るから安心して」
「はい、もうクロ様の事は疑ってませんよ」
「一応、予備としてエリーやゼオにも伝えておくかな」
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・
その夜――
メイリーンはミラを連れて闘技場を訪れる。
勿論、近くにはクロビ、エリネール、ゼオールが控えていた。
約束の場所は闘技場の戦士が入場する西門の前。
メイリーンも辺りを警戒しつつ見渡していると……
ゴゴゴゴ!
大きな音を立てて入場門が開いていく。
「これは……進めって事だよね?」
「その様ですね。 外は……何人かいますね。 メイ様、気を付けて下さい」
「うん」
二人はそのまま足を進め、入場門を潜る。
闘技場、つい先日にミューラと戦った場所で、その時は観客の熱気に包まれていたのだが、夜は静けさが広がり、場内を巡る風の音はここで散っていった戦士達の嘆きの声にも聞こえる。
そして――
「待っていたわよ、メイリーン」
闘技場の客席にはネリーゼ、ミューラ、そして赤眼のレグが立っていた。
「あれがクロの言ってた赤眼の死神ね……」
仮面を付け、赤い眼を光らせた男が鋭い視線でメイリーンを見つめる。
「デリーはいないのでしょうか?」
メイリーンはあえてデリーの名を出した。
「デリー? あの子なら部屋にいるのではなくて?」
「メイ様、やはり……」
「うん、まあ分かってた事だけど」
自分達の予想は正解だった。これはネリーゼが仕組んだ罠だ。
「それで、ネリーゼ様。 どの様なご用でしょうか?
話しがないのであれば、私達は失礼させて頂きますが」
「ふん、どこまでもあの女と同じね。 私の可愛いミューラに恥を掻かせておいて白々しい!」
「メイリーン、私は負けてないわよ! 油断しただけなんだから。
でも恥を掻かせた事は許さないから」
二人ともやはり似た者親子で、口に出す内容は全てが嫉妬と言い掛かりだ。
「まあいいわ。 貴女にはここで死んで貰います」
ネリーゼがメイリーンに向かって宣告する。
「お母様のようにですか? そうやって悪事ばかり働いて、ネリーゼ様は性格も汚れておいでですね」
メイリーンは挑発するようにネリーゼへ言い返す。
「なっ!? なんなのこの小娘!! 王妃である私に向かって!!
ええ、そうよ。 私よりも上に立つなんて失礼じゃない? だから当然の結果よね」
「なんて身勝手な……貴女はイーリスの毒よ!」
「ふん、何とでも仰い。 どうせここで死ぬんですから。 レグ」
「はい」
赤眼のレグがパチンと指を鳴らすと、西の入場門がゴゴゴゴと音を立てて閉まり、東の門からは如何にも悪そうな風貌の男が三人入って来る。
「うひょー! いい女が二人もいるじゃねえか!」
「おうおう、お姫様抱けるって聞いて昨日からこんなんだぜ!」
二人の男が興奮気味に向かって来る。
一人は既に下半身が野営状態で臨戦態勢だった。
「おい王妃、金は用意出来てるんだろうな?」
三人の中で恐らくまとめ役だろう人物がネリーゼへ再確認をする。
「私に気安く話しかけないで頂戴。 罪人風情が! 終わったらちゃんと払うから安心しなさい、全く」
「メイ様、お下がり下さい」
ミラが両手に鉄扇子を構え、メイリーンの前に立つ。
「あの三人、ギル・ゾイ・グルーと言う元は国の傭兵だったのですが、素行が悪く、国の騎士を殺害して女性を襲うと好き放題の行動で牢に閉じ込められていた重犯罪者です。
今の全快ではないメイ様では太刀打ち出来かねます」
「なら後方から魔法で支援する!」
「準備は出来たか?」
先頭を歩く筋骨隆々の大男ギルが大きな斧を持って構える。
その後ろには細身ながらも長身で蛇の様な目付きをしたゾイ。
そして、まとめ役で左目に眼帯を付け、赤い髭を話した坊主頭のグルー。
「メイ様には指一本ふれさせません! シッ!」
ミラが素早く跳躍してギルへと飛び掛かる。
「ふん!」っとギルも大きな斧を上空に向けて振るい、その風圧でミラの速度が下がる。
しかし、ギルの手前で着地をすると、即座に後方へと回り込み、その背中を鉄扇でバシュっ!と斬り込む
のだが――
「――!?」
「あ~なんかしたか? そんな攻撃じゃ俺の皮膚は傷けられねぇぞ?」
ぶわっと腕を振るい、ミラの首を掴み取ると、そのまま片手で持ち上げる。
「ぐ、ぐぅぅ」
「へへ、ほせえ首だな。 簡単に折れそうだぜ」
「ミラっ!? ―星の源、我が力。 天より注ぐは闇を切り裂く剛矢の雨、悪しき敵を討ち滅ぼせ! ≪光の流槍≫!!」
メイリーンの詠唱によって上空に魔法陣が浮かび上がり、ギルへと光の槍が雨の様に降り注いだ。
ドドドドドと音を立て、土煙が昇り、次第に晴れていく。
そして、サッとミラがメイリーンの元へ戻った。
「すみません、メイ様。 助かりました」
「ミラ、良かった」
「ほぉーいてててて、魔法とは珍しいもん使うじゃねえかお姫様よ」
土煙が晴れると、そこには無数の切り傷こそあるものの、まるで無傷の様にギルが立っていた。
「なっ――!? 何で効いての!?」
「あぁ? 一応効いたぞ? だが、そんな魔法如きで俺がやられるはずねぇだろ」
「いいわね、その表情! もっと怯えなさい! こいつらは国一番の罪人なの。 抑えられるのはかつて戦神と言われたフラーネス王くらいなのよ!」
「あいつにゃ勝てねえが、他には負けねえよ。 じゃあ黙って抱かれて死ね!」
ギルがミラではなく、メイリーン目掛けて飛び出し、大斧を振り被って一気に振り下ろす。
「――っ!? お願い!!!」
メイリーンが目を閉じながら力強く叫ぶと、シュッと黒い影が三つ、闘技場のそれぞれの位置に立つ。
ガキン!
ギルが大きく振り下ろした斧はゼオールが剣で受け止め、クロビが後方の二人を黒棍で薙ぎ倒す。
「ちょっとヒヤヒヤしたな。 まあ間に合って良かった」
「ああ! メイ、ミラ、無事かい?」
「ゼオ様!」
メイリーンが目を開けると、そこには自分を守る白馬の王子の様な爽やかなイケメン、ゼオールが立っていた。
「なんだてめぇ! いけ好かねぇ顔してんな? そのままくたばれ!!」
ギルは鍔迫り合いとなった状態で前蹴りを放つ。
しかし、ゼオールはくるっとそれを躱し、相手の膝に立つとそのまま顔面に自分の膝を叩き込む。
そして、目で追えない程の速さで剣を振るうと、斧を持っていたギルの右腕が宙に舞う。
「ぐあぁぁぁ! 俺の右腕が~!!!」
「これでもう戦えないな。 そのまま寝ててくれ」
ダン!と即座に出した魔導銃でギルの額を撃ち抜き、ギルは白目を剥きながら倒れていった。
「さあ、もう大丈夫だ。 クロ、そっちは……って終わってるか。 レバン!」
「はい、こちらも問題なく」
クロは一瞬で二人を棍で薙ぎ倒し、レバンはネリーゼとミューラを取り押さえ、魔術で縛り上げていた。
「何者よ!? 王妃の私に対して無礼よ! 即刻死刑よ! 離しなさい!
レグ、なんとかしなさい!!」
ネリーゼは興奮気味に暴れているが、レバンの行使には全く逆らえない。
「さて、ここからは俺の用事だ。 なあ、赤眼?」
「演武祭の時に気になっておりましたが、そちらから来るとは」
レグは場内に降り、クロビと対峙する。
「はぁ、全くどいつもこいつも使えないですねー。 せっかく国でも乗っ取って優雅に暮らそうと考えたのですが……」
「レ、レグ!? まさか貴方、最初から私を裏切る気だったの!?」
レグの言葉を聞いてネリーゼが焦りの表情を浮かべた。
「裏切るも何も、始めから利用させて頂いていただけですよ。
まあ、利害の一致でしたので」
レグは優雅にネリーゼへ一礼をする。
「まあ、そんな事はどうでもいいんだ。 お前、何者だ?」
クロビがレグに言い放つ。
「何者、ですか。 見ての通り、世間では赤眼の死神なんて呼ばれてますけどね」
「ふーん。 で、その死神が俺に何か用なのか?」
「いえいえ、一人だけオーラが違いますし、第一王女を指南したのは貴方でしょう? なので気になってたまでです。
それに、どちらかと言えばそちらが私に用があるのでは?
まあ、私の目的はどちらかと言えば西の魔女エリネールなのですが」
「エリー様に何をするつもりよ!!」
メイリーンも第二の母の様に慕うエリネールが目的だと聞いて黙ってはいない。
「おや、お知り合いなのですね? 敵国同士のはずですが。
まあ、良いでしょう。 あれほどの美女ですから手にしたいのはここの第一王子だけではないという事です。
同じ色眼持ちとして、ね」
「そうか、まあ本人はお前なんて眼中にも無いと思うがな」
「くっくっく……構いません。 私は強いですから。 無理にでも手にしますよ。 もはやここに用は無くなりました。 貴方達を殺して退散するとしましょう」
レグは腰に下げた長剣を構えると、クロビへと向き合う。
そして、勢いよく飛び出すと鋭い突きを放った。
ギンっとクロビも棍でその突きの軌道をずらすと棍を起点に身体を捻り、足を一気に振り下ろす。
「これはこれは!」
しかし、レグもそれを回転しながら躱すと、「―幻の弾丸―」と唱え、魔術を行使する。
ダダダダダン!と指の数だけ放出された半透明の球体がクロビに直撃し、後方へと追いやられた。
「クロ!!」
「大丈夫、このコートは特別製なんだ」
「おや、あれを耐えるとは、やはり見過ごせない人ですね」
「お前もなかなかだな。 でもそれほどじゃない」
「ならこういうのはどうでしょう?」
レグは力強く踏み出し、クロビに剣を振り下ろすと同時に再度幻の弾丸を行使する。
そして、その弾丸は何とクロビではなく、メイリーンへと放ったのだ。
「チッ!」
すかさずメイリーンの所へ向かおうとするが、振り下ろされた剣との鍔迫り合い中で動けない。
「メイっ!!」
「クロ、大丈夫だ!」
するとゼオールが魔導銃で放たれた弾丸を撃ち落とす。しかし、二発が自分の身体に被弾し、「うぐっ」っと衝撃が走った。
「ゼオール様!?」
「いてて……だ、大丈夫! クロとの組手に比べたら問題ない」
「ゼオ、すまん! メイは任せていいか?」
「ああ、任せてくれ」
「ほほう、彼も耐えますか。 なかなか面白いですね」
レグは感心したように頷きながらも競り合う力は抜かない。
「お前、調子に乗り過ぎだ」
クロビは少し怒りを覚え、身体を反転させて相手の力を利用すると、バランスを崩したレグに思いっきり裏拳を叩き込む。
「ぐふぁっ!?」
その衝撃で目を覆っていた仮面が粉々に打ち砕かれ、レグはその眼を晒した。
赤く見えるのは瞳ではなく、むしろ眼球全体が真っ赤だったのだ。
レグは口の中が切れたようで、ペッと血を吐き出すと、鋭い眼光でクロビを睨み付ける。
「まさか仮面が外されるとは、もう許さんぞ。 俺の目を見たやつは全員殺す!」
「おいおい、さっきと口調が全然違うじゃん」
レグは怒りに飲まれ、次第にミューラと同じように黒いオーラに包まれ始める。
「なるほど、それを教えたのはお前だったか。 黒い感情って事は過去に辛い経験でもしたか?」
「黙れ! 貴様に答えてやる義理はない! 黙って死ねぇ!!」
レグは長剣を早い速度で四方八方から振り下ろし、クロビを強襲する。
だが、クロビも同じ速度でそれらを受け止め、一瞬の隙を見付けると即座にレグの鳩尾へ拘束の突きを放った。
「ぐはっ!? う、うう」
「クロ、凄い……」
「そうだな。 本当に規格外やなつだ。 でも、俺とメイの師匠でもあるけどね」
ゼオールは優しい笑みで呟く。
「おいおい、怒りでただ振ってるだけじゃ当たんないぞ?」
「ぐほ、き……貴様~!!」
レグはフラフラな状態だが立ち上がり、「―灼熱の断頭―」と長剣に魔術を施すと、剣から熱気が立ち昇り始める。
「残念だが、もうお前の負けだ!! この剣に触れたらどんな武器でも溶かすからな! 俺の最後の技だぁー!!!」
高速でクロビへと飛び掛かり、先ほどよりも更に速度を上げて鋭い突きを何度も放つ。
更に、「―幻の弾丸―」と魔術を展開させ、左手でそれをクロビ以外の人間目掛けて放った――のだが……
「―魔障壁―!!」
後方から聞きなれた声と術式が展開された――
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