爆炎の女神
イーリス国演武祭り、前半は第一王子アルフレッドとS級ハンターのレオンが演武を行ない、会場を盛り上げた。
そして、いよいよ第一王女メイリーンと第二王女ミューラの演武が開始となる。
「メイ様、相手はミューラ様です。 何をしてくるか分かりませんから、くれぐれも気を付けて下さいね」
「うん。 大丈夫。 私も強くなったはず……きっと相手は見下して油断してるはずだからそこを狙うわ!」
『それでは、入場門へ移動をお願いいたします』
案内兵の声が掛かり、メイリーンとミラは控室を後にした。
入場門の前には既にミューラとその侍女マリーヌが立っている。
「……」
お互いに会話は要らない。各々の思いはこれからぶつけ合うのだから。
そして――
「おおー!! いよいよメイリーン様の出番だ! でも魔術は使えないんじゃなかったか?」
「そういえばそんな噂もあったな!? でも、もうすぐ分かるだろ!」
「エイラ様は戦姫じゃった……そうであってもそうでなくても、ワクワクするぞい!」
観客は既にメイリーンの話題で持ち切りだった。
そして、それを耳にしている王妃ネリーゼは悔しそうな表情を見せるが、それでもミューラが勝つと余裕の表情に戻る。
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「現王妃とそっくりと言うか、あれはあれで高飛車オーラが全開だな……」
「まさしく似た者親子じゃな。 まあ、ネリーゼがそう育てておるのじゃろ。
まったく危ないのう」
ミューラも母親譲りの茶髪に青い眼、顔は素朴で悪くはないのだが、似た者親子だけあって厚化粧と煌びやかな胸当てに下には一見スカートと思わせる様なズボンを履いていた。
対してメイリーンは薄手のタンクトップに薄い長ズボン。
どちらも伸縮の良い、武術を活かすメイリーンには打って付けの服装だ。
勿論、こちらも胸当てを付けているのだが、その下は押しつぶされそうなほどに膨らんだ果実。
目の良い男なら会場を見下ろす形の客席で悶々とするだろう。
既にメイリーンとミューラは自分の立ち位置に移動し、対峙している。
「さあ、ここからは一方的なものになるわよ? 貴女がなぜ、この演武祭に出場したのかは分からないけど、ただの馬鹿なのか……それとも無謀なのか、私がじっくり見極めてあげる」
「その前に、何故デリーに酷い事したの?」
メイリーンはミューラの挑発には乗らず、デリーに行なった仕打ちについて問い質した。
「そんなの貴女に関係あって? 姉弟の問題に首を突っ込まないでちょうだい」
「いいえ、異母姉弟でもお父様の血で繋がってる以上、家族よ。
それに、デリーの思いを踏みにじってあんな酷い事を……私は許さないからね」
「ふん、なら――武芸で示してみなさいよ!!」
まだ合図が無い中でミューラはレイピアを鞘から抜き、一気にメイリーンとの距離を縮める。
『ブオーン!!』っと合図の兵が慌てて鳴らすが、既にミューラの攻撃が始まっていた。
シュ!シュシュ!っと不定期なリズムでレイピアをメイリーン目掛けて突いていく。
しかし、メイリーンも身体強化を掛けている為、その攻撃は当たらない。
(クロやミラとの特訓があってよかった。 ミューラの動きが遅く見える!)
「やぁ!」とメイリーンはレイピアの突きを紙一重で躱すとその勢いで回し蹴りをミューラの腹に打ち込んだ。
「ぐふぅっ」
ザザー、と後方へ追いやられると、その表情が先ほどとは比べ物にならない程、鬼と化している。
「くっ、メイリーンの分際で私に足を……ユルサナイ!!」
ミューラは魔力を練り上げ、ドス黒いオーラがユラユラと視覚化していく。
自分よりも劣るはずの相手にまさかの先制をされた事で怒りが一気に込み上げ、爆発する。
「お、おい……あれ何かやばくないか?」
「あ、ああ。 でもメイリーン様も一撃入れてたし、だ……大丈夫だろ!? 実際に殺しは無しだってルールだぞ?」
「色持ちだし…きっと大丈夫! ……だよな?」
客席でもミューラの姿に不安の色が垣間見える。
ミューラはレイピアの刃をなぞるように触れ、「―影の鞭―」と魔術を施す。
するとレイピアの剣先から黒くユラユラと揺れる鞭が現れた。
「よくも恥を掻かせたわね! 百倍にして返してあげる!!」
パチン!と地面を鞭で叩くと、そのままメイリーン目掛けて振るう。
「その距離じゃ届か、――っ!?」
影で作られたミューラの鞭は限界はあるものの、伸縮自在でメイリーンの足に絡みつき、空高く放り投げられると、そのままの勢いで地面に叩きつけられた。
「がはっ!!」
バーンと背中から落とされた衝撃で呼吸が一瞬止まる。
「ゴホッ、ゴホッ……はぁ、はぁ……」
「まだまだこれからよ。 私に恥を掻かせたんだから物足りないわ!!」
ミューラが距離を詰め、鞭でヒュン、ヒュンと何度も叩きつける。
「うっ! がぁ! っ……あぁぁっ!!」
メイリーンの服が過ごしずつ敗れ、その素肌が露わになっていく。
更に、綺麗な肌には蚯蚓腫れが何本も作られていった。
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「あれはちょっとヤバいんじゃないか……? ってかやり過ぎだろ」
「まさか、あそこまでやるとは……妾が我慢出来なくなりそうじゃ……」
クロビやエリネール、ゼオールまでもが拳を強く握り、この光景に耐えている。
「ふふふ、それでいいのよミューラ。 あの女の娘……ここで大恥を晒してあげなさい」
エリーゼは不敵な笑みを浮かべながらその光景を楽しんでいる。
しかし、横で観戦しているフラーネスは娘の悲惨な状況に小刻みに震えていた。
「ほらほら、せっかくの肌が台無しになっちゃうわよ?」
「……負けないもん……私だって!」
メイリーンは力を振り絞って鞭をガシっと掴み取り、摩擦で手の平から血が流れ落ちるが痛みを我慢して思いっきり引っ張った。
「――っ!? まだそんな力が!?」
それに引き寄せられたミューラは空中で身動きが取れなくなり、再び「だぁ!!」とメイリーンの拳が腹に減り込み、後方へと飛ばされた。
「はぁ……はぁ……乙女の肌をこんなに……最低よ! 許さないんだからー!!」
メイリーンが叫び、両手を前に重ねる。そして――
「―幾多の嘆きはマナとなりて、想いは器を借りて集約せん。 生死を繰り返す不死の鳥、飛び交うわ焔の輪舞、我が宿敵へ天上の裁きを与えん!
≪不死鳥の炎光≫!!」
「ぐぅ――っ!? な、何故魔術を扱えない、はずの……いや、魔法!?」
ミューラが立ち上がった時には既に遅かった。
メイリーンが詠唱を終えると、頭上に二重の魔法陣が浮かび上がり、勢いよく火を纏った鳥が「ピーッ!!」飛び出す。
そして、バサッ!と翼を羽ばたかせるまるで太陽の様に高温で光り輝く炎がミューラへ押し寄せた。
「きゃぁぁぁあー!!!」
そして爆発を起こすと、周辺はアルフレッドとの時と同様に土煙に覆われる。
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「なんと……二重魔法陣まで扱うか。 さすがはエイラの娘じゃが、まだ発色したばかり。
あれで魔力が一気に消費したじゃろう」
「だろうな……今ので勝負が決着すればいいが……」
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土煙が風で流されると、服が焦げ、隅で所々が黒くなったミューラが倒れている。
しかし、「ぐぅぅぅぅ……」とまだ終わりじゃないと言わんばかりにレイピアを使って立ち上がる。
「魔力、が……。 でも、まだ、まだやれる……」
メイリーンも満身創痍だが、まだ闘志は消さなかった。
「おい……今の見たか!?」
「ああ、火の鳥が飛んで……しかもあれって魔法だよな!?」
客席からもメイリーンの魔法に驚きの声が色々な所で聞こえ、次第に『おおおお!!!』と盛大な歓声に包まれた。
ミューラはもはやメイリーンの全てが許せなかった。
魔法は魔術よりも高位であり、それを扱える人間は少ない。時代の変化によるものではあるが、それでも色眼持ち、魔法、容姿、自分より劣るはずの相手がここまで力を付けた事。
もはや嫉妬が憎悪、殺意へと変わっていく……
「ユルサナイ……ユルサナイ……ワタシガイチバンナノ……ワタシガマケルハズナイノヨー!!!!」
ミューラを纏っていた黒いオーラが更に大きくなり、先ほどまでフラフラだった身体も無理やり気力で持ち堪え、タンッと勢いよく飛び出すと、そのままレイピアをメイリーンに突き刺した。
「あああああああ!!!」
メイリーンは危険を感じ、何とか避けるが魔力の消費で思う様に身体が動かず、ミューラのレイピアは左肩を貫いていた。
「フフフ……イイザマ……オマエハジャマ! オマエハジャマ!」
既に気が狂っているミューラは「―呪縛の蔓―」と魔術を行使すると、メイリーンの周囲から太い蔓が地面から生え、そこから伸びる蔓が身体を縛り上げる。
「コレデウゴケナイ……ツギハハズサナイ!」
「うぅー」
しかし、ミューラのレイピアはメイリーンノ身体から抜けなかった。
身体強化を使って、筋肉で留めているのだ。
「ハナセ! オトナシクシネ!」
「残念! 死んでなんか、やらない、よーだ!」
すると突然、ボンッ!とメイリーンを縛り上げていた蔓が爆発して燃えていった。
「――っ!?」
「次は私の番だからねっ!!」
メイリーンは元々魔法と武術だけで勝負をと考えていたが、自分の状態を考え、早期に終わらせる為にミューラへ前蹴りを打ち込むと、刺さっていたレイピアを引き抜いてミラの様に太もも辺りに収納していた旋棍を取り出した。
そして――
「もう倒れて立ち上がれないくらいボコボコにしてやるんだからぁぁぁ!!!」
メイリーンが叫び、思いっきり地面を蹴るとそのままミューラの腹に旋棍で一撃叩き込み、前屈みになったところを勢いよく蹴り上げる。
「ぐっ!?」
そのまま回し蹴りを連続で放つと、ミューラが回転しながら地面へと倒れた。
更に、「これで終わりよ!!!」と跳躍しながら異能を発動させると旋棍の先端が薄黄色に光り、着地と同時にミューラの腹へ振り下ろした。
ボンッ!!
めり込まれた旋棍が爆発を起こし、ミューラは白目を剥いて失神。
見事なKOとなった。
「おお! 華麗な連撃だな! メイコンボ! あれじゃあもう立てないだろ」
「一時はどうなるかと思ったが……メイも発色してから強くなったのう」
「あ、あれがメイなのか!? 覚悟は伝わっていたが……それ以上に別人じゃないか!?」
ゼオールもメイの勇姿に驚きを隠せない様子だった。
そして、会場もメイリーンの決め技で静寂から武芸祭最大の歓声が鳴り響いた。
ミューラは治療班に運ばれ、同時にメイリーンも怪我や魔力の消費による疲労が一気に込み上げ、その場に倒れてしまった。
「メイ様!!?」
ミラがすかさずメイリーンの元へ掛け、簡単な回復の魔術を展開させる。
「ミ、ラ? わたし、やったよー! えへへ」
「はい、はい、もう、素晴らしかったですよ! だからゆっくり休んで下さいまし」
ミラは感動のあまり涙が止まらず、しかし、それでも勝利したメイを称賛する。
こうして武芸祭は幕を閉じた。
そして、見事な武芸を披露したメイリーンはイーリス国民に大きなインパクトを与え、エイラの月の女神とは違った〝爆炎の女神〟と言う二つ名で国中にその名を轟かせる事になったのだった。
※ ※ ※ ※ ※
「あの小娘!! 私のミューラになって事を……許さないわよ!!」
ネリーゼはガンっと壁を殴りつけ、部屋の花瓶を投げ散らかす。
そして、もはや我慢ならないと金切り声を上げていた。
「レグ、貴方あの娘を殺してちょうだい!! 今すぐに!!!」
「ネリーゼ様、今すぐは無理ですよ。 ただ、三日もあれば目を覚ますでしょう。
であれば、その時に闘技場へ誘い、罠に嵌めましょう。
そういえばフレイア嬢も戦いたい男がいるのでしたね。
会場に居たあのテンガロンハットの男……
私の目は誤魔化せませんよ。 何者かは知りませんが、巻き込まさせて頂きます」
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