覚悟の意志
メイリーンの武芸を指南して数日、当人もそこそこ戦える形になった事で、頃合いかとクロビ相手に組手を始める事にした。
「メイ、もう一週間切ってるからそろそろ実戦に向けてやろう」
「そっかぁー、もうすぐなんだよね! 緊張するー!」
あまりそうは見えないんだけど……
「異能は馴染んで来たか?」
「う~ん、まだすぐにって言うのは難しいかな? 威力を高めようとすると時間かかるし……」
ここ数日で、エリネールからの助言もあり、爆発の異能はある程度コントロール出来るようになった。
しかし、即座にというのは実戦経験があまりないメイリーンには少々難しかったようだ。
「そういう時は会話で時間稼ぎをして、その間に発動するんだよ」
「多分、会話が会話として成り立たなくなりそう!」
「まあ慣れだな。 とりあえず組手だ」
クロは棍を、メイリーンは旋棍を構えて対峙する。
そして、タンッ!と地面を蹴り、メイリーンがクロビへと迫った。
「えいっ!」
カンッ!
カンッ!
ブフォ!
メイリーンの旋棍をクロビが棍で受け止めるが、メイリーンは身体を回転させてもう一撃、それを躱されると遠心力で廻し蹴りを放つ。
もはやお姫様とはかけ離れたその動きは誰が見ても武人だろう。
これなら演武祭でのサプライズは成功だな。
そんな事を考えながらメイリーンの攻撃を防いでいると――
「ぼーっとしてる! 隙あり!」
メイリーンはクロビの棍に足を絡ませ、逆さの状態で旋棍を腹に打ち込む。そして、異能を加えて爆発が起こった。
「うおっ!」
「へへーん! 一本だよ!」
「やるな! まさか足で絡めるとは……」
「でしょ!? 昨日考えたんだ~」
「相手が男なら一瞬でその足に魅せられて無防備になるな!」
「……クロ、またそうやってエッチな事ばっか考えて!」
メイリーンは怒りのまま追撃をする。
「まあまあ、いいじゃん! それだけ魅力があるって事だし、なんなら落とせそうじゃん? ゼオとか!」
「――っ!? な、何でゼオ様が、出てくるのよ!?」
メイリーンは急激に頬を、いや、顔全体を赤らめて大勢が乱れる。
「隙あり!」
コン!っとクロビの棍がメイリーンの頭を軽く小突いた。
「ず、ずるい!! 今のは反則です!」
「おいおい、戦場じゃなんでもありなんだぞお姫さん」
「むー!!」
「でも、十分強くなったじゃん? 一週間でここまではさすがだよ」
「ならいいけど……」
「でも相手は剣だろ? なら戦い方は臨機応変に変えないとな」
「そうだね……ミューラはレイピアだったかな? ミラって細い剣扱える?」
「私ですか? 一応どの様な武器でも一通りは扱えますよ」
王族の執事とかメイドとか、本当に化け物染みた人が多いよな……
まあ主を護る為か。 下手したらその辺のハンターより強い気がするよ。
「じゃあミラが相手して! 手は抜いちゃダメだからね!」
「分かりました。 ではこちらで」
ミラが念の為と準備しておいたカバンから組み立て式の細い剣を取り出し、メイリーンに対峙する。
「わあ、ミラとこうして対峙するの初めてだね! クロとは違う威圧感があるよ」
「これでも抑えてますよ。 では私から」
シュッ!とミラが姿を消すと瞬時にメイリーンの後方へと回り、首筋に剣を当てる。
「はい、一本です」
「――っ!? ちょっと今の……」
「いや、ミラさん容赦ないね」
「手を抜いたらダメだと言われましたので」
「うえーん! ミラずるい! やっぱ手を抜いて! じゃないと練習にならないでしょー!!!」
メイリーンが駄々をこね始め、ミラは改めて正面に立って対峙した。
「はいはい、じゃあもう一回です」
ミラは今度はゆっくりとした動きでメイリーンへと迫っていく。
ゆっくりとは言え、常人ではなかなか追いつくのが難しいくらいなのだが……ハンターで言えばA級くらい?
実際にゼオールの執事であるレバンとは良い勝負になりそうかもしれない。
キン、キン、とミラの攻撃をメイリーンが必死に防ぎ、隙を見付けては攻撃をする。
「メイ様、目で追うのではなく、感覚を研ぎ澄ませるのですよ。
早ければ早いほど、目では捉え切れませんからね」
「うぅーミラも鬼教官だったの忘れてた……」
「はい、集中!」
シュッっと鋭い突き、そして早い横切りとミラが少しずつ速度を上げていく。
メイリーンも何とか付いていけてるし、これを続けていれば速さにも慣れて来るだろう。
※ ※ ※ ※ ※
≪イーリス城内≫
「デリー、何故演武祭の参加を辞退したのかしら?」
デリーの部屋にミューラが来ていて、辞退を王に告げた事を責められていた。
「僕は武芸も継承も不要だからです。 ちゃんと父上も納得して下さいましたから気にせず、ご自身の武芸を磨いて下さい」
「いつからそんな生意気な子になったのかしら?
それに、実姉の私を差し置いてメイリーンの所へ行ったらしいじゃない」
演武祭は全ての子供達が参加する。だからこそ、それぞれも状況と情報を得る為に調べさせるのだ。
「それはお姉様には関係ありません。 それに、これまで興味が無かったのではないですか? なら、僕の事もほっといて下さい」
デリーの中で姉と慕うのはメイリーンだけだ。
だからこそ、ミューラに邪魔はされたくない。
「生意気! そんなにあの引きこもりがいいならいいわ、私に盾突くとどうなるか思い知らせてあげる」
ミューラは剣を抜き、何の躊躇いも無くデリーの手足を少しずつ、痛みが消えないように刺していった。
「痛い、痛い! 何を! やめてよ! うわあああ」
「ふふふ、人間って脆いわよね……」
・
・
・
夕方、訓練を終えるたメイリーンとミラは自室に戻っていた。
すると、バンっ!とノックもせずに一人のメイドが入って来た。
「ルーナ、王女の部屋にノックもせず突入してくるなんて何を考えているの?」
「す、すみません! ですがミラさん、メイリーン様、デリー様が!!!」
「デリーが? 何があったの!?」
「そ、それがミューラ様が訪れ、私や他のメイドは部屋を出されました。
それで、ミューラ様が戻られた後に部屋へ行ったら……デリー様が……血だらけに、なっていて……」
「う、うぅ、」と顔を覆うように両手を当て、指の隙間からは涙が零れ落ちる。
「ルーナ、デリーの所に案内して! ミラ!」
「はい、急ぎましょう」
三人はメイリーンの部屋を後にし、デリーが運ばれた救護室へと向かった。
そこでは魔術師が回復魔術を施し、静かに眠っているデリーの姿がある。
メイリーンはデリーの頭を優しく撫でながらただ見つめていた。
「一応怪我はそこまで深いものではなかったので、大丈夫です。
ただ、その箇所が多くて時間はかかるかもしれません」
「そうですか……」
ミラも、特にルーナは絶望的な表情を浮かべて眠るデリーを見つめていた。
それからルーナはデリーのお世話の為にその場に残り、二人はメイリーンの部屋へと戻った。
「ミラ、許せないよ……」
「そうですね。 まさかこれほどとは……」
「私、絶対に負けない。 だからもっと強くなる。 デリーの為に」
メイリーンは強い決意を新たに、翌日の訓練から一層努力に励んだ――
そして、いよいよ演武祭を翌日に控えたクロビはメイリーンの部屋を訪れていた。
「メイ、今日は訓練無しな! 明日が本番だし、今日無理して身体を壊したら意味がないし」
「うん、わかった」
「暗い顔してるな……」
クロビはメイリーンの両頬を摘み、横に広げる。
「ふろ……いひゃい!」
「デリーってやつの事は分かるよ。 でもその感情に飲まれるな」
「……ひゃい……」
「よし、当日は俺も客席で見てるからさ。 まあ変装しないといけないが。
それに、エリーも来るらしいぞ」
「エリー様が!?」
「おう、弟子の成長を楽しみにしてるとさ」
「うん。 デリーの為に、自分の為に、頑張るよ」
「その調子だ。 今日はゆっくり体を休める事に気を配れよ」
そういってクロビは窓から飛び出していった。
※ ※ ※ ※ ※
「ミューラ、調子はどうなの?」
「はい、お母様。 問題ありませんわ! 完膚なきまでに叩きのめして私に逆らえなくしてさしあげます」
「良い意気込みね。 そういえばデリーをいじめたそうじゃない」
「もうお母様の耳に届いてるのですか? まあ実姉である私を差し置いてメイリーンなんかと仲良くするからそうなるのですわ」
「まあいいけど、あまり目立った行動はしないようになさい」
「はい」
「レグ、明日は貴方も観るんでしょ?」
「ええ、せっかくですから拝見させて頂きます」
「楽しみね。 私の娘の方が優秀だという事、思い知らせてやるわ」
こうしてそれぞれの思惑が交差しながらも、翌日に演武祭が開催となった――
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