表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒き復讐者の交響曲  作者: Rさん
第Ⅲ章 ~エマーラル大陸編~
44/111

お披露目式


翌日、クロビは朝早くに鍛錬を終えると、いつも通りロアの工房へと向かう。



「おはようございます、クロさん。 準備は出来てますよ」



既に飛空魔動機はロアの手によって大きめの布が被せられ、外に運ばれていた。そして、お披露目式にはトロンも参加するようだ。



「クロ殿、息子の力作ですから俺も参加するぞ!」



「勿論です。 そういえば問題は解決したんですか?」



「ああ、セリスが動いてくれたから無事に解決したよ。

今回ばかりはカルロスも堪えたようだし、一件落着だ」



セリスの進言によってフラーネス直々に問い質されたカルロスは、商会が潰れる事こそなかったのだが、その事実が商業界隈に広まり、トロンには謝罪の書状が送られたのだ。



「では早速、お披露目です!」



ロアは布をバサっと元気よく取ると、そこには黒い不死鳥の形をした飛空魔動機が姿を現した。


漆黒のフォルムは威圧感を放ち、両翼には鋭い刃が取り付けられていて、現在は鳥が羽をしまっている様な状態になっている。


サイズは縦に190センチ、横幅は翼を広げると250センチ、閉じてる状態だと80センチほどだ。


簡単に言えば、背の高い大人をうつ伏せで寝かせ、その背中に立つようなものだ。


実際に魔力で動かしている分、本体と翼のバランスは関係なく飛べるのだが、鳥をモチーフにしてる為、見た目のバランスは考えられているらしい。



「すげえな! って言うかここまでの完成度なら下手したら王様からも依頼が来るんじゃないか?」



「確かに、というかロアはもう俺より腕が良いのかもしれん」



トロンも完成された魔動機を前、横、後ろなど様々な方向から見ると、自慢げにロアの頭に手を置き、褒める。



「ありがとうございます! 僕も造っておいてあれですが、最高の出来です。

ちなみに、翼はミスリルを使ってますのでよく切れますよ。

それと、それぞれの翼に【開く】・【閉じる】の術式が組み込まれてます。

ですから飛翔する時は初めに翼を広げてからになりますね」



「なるほど、羽をたためてコンパクトになるってのも良いな」



「先ずはクロさん、頭部に触れて契約をします。 魔力を流すと術式が展開されますので、一滴クロさんの血を垂らして下さい」



クロビは言われた通り、魔動機の頭部に魔力を流すと、契約の術式が浮かび上がって来る。


ちょうど嘴部分が鋭くなっていた為、そこに指を軽く指して血を展開されている術式へ垂らす。


すると、フワっと白の術式が赤へと変わった。



「これで契約が完了ですので、以降クロさんしか起動出来ません」



「おお、じゃあ早速乗ってみるか」



クロビは先ず、両翼へ魔力を流す。


ガッコンっとその翼が広がり、まるで帆翔状態の鳥だ。


そして、足に設置されている【吸着】【浮遊】の魔道具に魔力を注いでいった。



「最初ですから少しずつ魔力を流して下さい。 一気にやると思わぬ方向へ飛んでいくかもしれないので」



ロアからの指示通りに少しずつ魔力を流していく。


既に【吸着】の魔道具によって足場は固定されている。


そして、次第に魔動機が地面からゆっくり浮上していった。



「クロさん、成功です! 浮いてますよ!」



ロアもその光景に少し涙を浮かべて喜んだ。



「おっと、バランス取るのは、まあ乗ってる内に慣れるか。 ちょっとそのまま飛んでみるよ」



そして、クロビは魔力調節をしながら工房の上空を旋回してみせた。



「さすがクロさんですね……」



「ああ、城の偵察部隊でもあんなすぐには乗りこなせないぞ? 全く驚きだ」



数分間乗り心地などを確認しながら飛行練習を終えると、元の位置に着陸して翼をたたんだ。



「ロア、ありがとう! 想像以上の出来だよ」



「良かった。 これでもうこの魔動機はクロさんの物です。

もし、今後不具合などあればその都度見ますよ」



「俺も息子には負けてられねぇ! 俄然やる気が出て来たぞ!」



トロンはにこやかな笑みを浮かべながら工房へと戻っていった。



「ロア、これは依頼料だ。 本当はもっと沢山渡したいんだが、まだ素材を売ってなくて手持ちはこれしかない、許してくれ」



クロビはポーチから麻袋を取り出し、金貨5枚、5万ゴルドを手渡した。



「ちょっと!? クロさんこれは多いですよ!? 実際に材料費もクロさんに出してもらってるし」



「いいのいいの、気にせず貰ってくれ! 金なら魔物の素材でどうにかなるしさ!

ちなみに、この後って空いてるのか?」



「分かりました……それと、予定はないですね」



「じゃあ付き合ってくれ!」



「えっと、どこに行くんですか?」



「それは付いてからのお楽しみだ! そろそろ良い時間だしな」



クロビは再び魔動機の翼を広げると、ロアの手を取って魔力を流して起動させた。



「ちょっ!? クロさん、まさかー!? あーーーーーー」



ロアはそのまま引っ張られるようにクロビに連れてかれ、工房から飛び立っていった。




※ ※ ※ ※ ※




「メイ様、着きましたよ」



「うん、クロはまだ来てないみたいだね」



メイリーンとミラは軟禁状態が解禁され、馬車で昨夜に約束した高原へと到着した。



≪タルミナ高原≫



かつて、森に囲まれていたのだが、魔導戦乱の爪痕で森は焼かれ、今では辺りを見渡せる高原となっている。


イーリス国が近い為、魔物などは寄ってこないが、野生の鹿や兎などが自由に歩き回っているのどかな場所でもあった。



「ちょうどお昼時ですし、テーブルとイスを用意しますね」



「うん、ありがとう。 何か驚かせてくれるって言ってたけど、なんだろうね?」



「そうなのですか? まあ彼は突拍子もなかったりしますので予想出来ないですが、その内分かりますよ」



「楽しみだわ」



クロビを待つ間、ミラが紅茶を入れて二人優雅に到着を待っていたのだが、ふと耳を傾けると遠くの方から悲鳴が聞こえてきた。



『――あぁぁぁぁ!!! ――っああ!!!』



「何かしら……?」



「あちらから飛んで何か飛んで来てますね……まさか魔物では!?」



「えっ、どうしよう!!」



二人はこちらへ近づいて来る存在に緊張した面持ちで立ち上がり、構えたのだが……



「いやぁぁぁぁあ!!!」



「おっ、居た! おーい!」



「――!? ク、クロ!?」



遠くから飛んで来たのは見た事もない飛空魔動機に乗ったクロビと、もはや誰かも分からないくらい憔悴し切った少年だった――







「まさかロア様だったのね……だ、大丈夫ですか?」



「……ぁ、ぁぃ……」



「それにしてもクロ、遂に完成したんだ! 飛空魔動機!」



「そう! ロアが素晴らしいのを造ってくれたよ」



「まあ当の本人はダメそうですけど……」



ミラが少し呆れ顔でロアを見つめる。


そして、次第に落ち着きを取り戻したロアはクロビへ猛抗議をしたのであった。



「先ずはお昼をお食べになりませんか? こちらに用意しておりますのでどうぞ」



ミラに誘われ、丸いテーブルを四人が囲う。



「それにしても……またお会い出来て光栄です、メイリーン王女殿下。

それに、眼の色が?」



「ロア様、この前もそうでしたが敬語は要りません! 気軽に接してくれた方が嬉しいです! 眼は発色しましたの!」



「あっ、えっと……」



「ロア、肩の力を抜けって」



「は、はあ……じゃあメ、イ……」



「時間が掛かりそうだな。 そこは許してやってくれ」



「もう、しょうがない。 でも私は崩すからね、ロア?」



「はっ、はい!!」



「「ははは!」」



ロアは元々気が弱いせいか、畏まってしまった。



「でもクロ、魔動機ってあのサイズではポーチには入らないんじゃない?」



確かにクロビが付けているポーチは腰にぶら下げるものの為、中は広い空間だとしても、魔動機を入れる事は出来ない。



「そこは問題ない、これで収納出来るからな」



クロビは以前、街の商店で金属板を買った時にもらった指輪型の収納アクセサリーを使った。


すると、飛空魔動機は光になってそのまま指輪の中に収納されたのだ。



「わぁー! 便利ねそれ!」



「前に買い物した時の爺さんがくれたんだ。 物は一個しか入らないけど、それなりのサイズなら大体入るってね。 だから魔動機用にした」



「それ!? ちょっと見せて下さい!」



急にロアが目を見開き、クロビの手ごと自分の所へ寄せるとマジマジ調べ始める。



「どうした急に!? 男に手を握られる趣味はさすがにないぞ?」



「ち、違いますよ! これ、僕が作ったやつです!」



「「「はっ!?」」」



どうやらこのアクセサリー型の収納魔道具はロアが魔道具士として改良に改良を重ねて完成させたものらしい。


ただ、その頃はまだ学園に通っていて量産が出来なかった為にいつか商品を並ばせたいと名乗ってくれたお爺さんにプレゼントしたらしい。


その後、少量ではあるが学園を卒業した後には自分の魔道具を並べてもらい、のんびりと製作していたが、父親の仕事が忙しくなるにつれて魔道具製作の時間がなくなり、今では幻の品とも言われていたのだ。



「じゃあ巡り巡ってまたロアに世話になったな!」



「まあポーチに比べると良い品ではないですが、それでも自信作ですよ。

是非使って下さい」



「ロアって凄いんだね! 私も何かお願いしようかな?」



「おっ、ロアやったじゃん。 もう王族の顧客が出来たぞ」



「メイリ……メイの依頼なら優先して作ります!」



「うん! それと今のは……まあ及第点ね」



「それはそうと、メイは何故クロさんとここに?」



「うんとね、これから武芸を教えてもらうの!

二週間後に武芸祭があるからね」



「なるほど! そういえばそんな事言ってましたね、クロさん。 王族も大変ですよね……」



「でも楽しみなんだ! 魔法と武芸でみんなを驚かせて、引きこもりの私のイメージを払拭してやるんだから!」



イーリス国では第一王女のメイリーンが王の命令で自室から出てこない事は知れ渡っている。勿論、その理由については公表されていないのだが、様々な憶測が飛び交っていたのだ。



「じゃあ早速やろうか。 ちなみにメイはどんな武器を使いたいんだ?」



「武器……ん~考えてなかった。 ミラって何使うんだっけ? やっぱりナイフ?」



「いえ、私はこちらになります」



ミラはメイド服のスカートを膝上まで捲り、()()()の位置にあった小さなポーチから二本の扇子を取り出した。


が、ロアやクロビの男チームは扇子よりも露わになった()()()に自然と視線がいくのは言うまでもない。



「ちょっとそこのお二方?」



「「はい、すいません」」



「クロ? ロア? 最低よ? 分かってる?」



もはや見られたミラよりも、メイリーンの威圧の方が強かった。



「で、それは扇子だよな?」



「サラっと話を戻しますね。 まあいいでしょう。

こちらは扇子ですが、鉄とミスリルで作られた物ですよ。

一応、武器ですから通常の扇子よりは大きめに作られておりますが」



「へぇー! そんなのもあるんだな」



「私も初めて見た! 何か踊りながらって感じなのかな? 素敵!」



メイは目をキラキラさせてミラの武器を見つめた。



「俺は前にも見たと思うが、通常は黒棍だ。 後は……まあ大体の人間は剣とか槍になるよな」



「そっか……私、出来れば斬るとか刺すってしたくないんだよね」



メイリーンは魔物も含めて、出来る限り“殺す”事は控えたいようだ。

まあ、演武祭は殺す事が目的ではないが、その内討伐に参加すれば、自然と命の奪い合いになるのだが……



「なら俺みたいに斬るより殴る、叩く、とかそういった武器を選べば問題ないだろ?

って言っても何があるかな……?」



叩くとなると棍棒類が主になる。殴るなら指に嵌めるナックルダスターとかかな?


すると、ロアが思い出したかのように叫んだ。



「旋棍!!」



「「せんこん?」」



「ああ、いいかもな!」



「クロ、せんこんって何?」



「別名トンファー、所謂打突武器で、勿論だが防御も出来る。 それなら相手を斬るとか刺すとかはないから扱いやすいよ」



「旋棍、僕持ってます! と言うか魔道具なんですけど、是非それ使ってみませんか!?」



「え!? いいの!?」



「はい、実は……」



ロアは少し恥ずかしそうな表情で話し出したのだが、学園時代に演習でクラス全員が外の魔物を討伐するという行事があった。


その時、元々武芸が苦手だったロアは魔道具で奮闘していたのだが、気付けば一人逸れてしまい、運悪く小鬼の群れに囲まれてしまったのだとか。


その時に、護衛として雇われていたA級ハンターの男が旋棍を武器として使っていて、見事な近接戦闘を目の当たりにしたロアはその武器に憧れを抱いたのだ。


そして、自分用にと作製したのだが、結局武芸の才能が無かったのか、出来上がっても扱えなかった為に今は部屋の奥に封印されている。



「それをメイ用に作り替えれば問題なく使えるはず。 魔動機を造った時の素材でミスリルとか残ってますからね」



「じゃあロア、お願いしてもいいかしら!?」



再びメイリーンは目を輝かせ、ロアの手を自分の手で包み込み、頼んだ。



「わ、わかり、まし、た」



女性に触れた事がないロアは顔を真っ赤にしながらも了承する。



「じゃあ武器は決まりだな。 ただ、旋棍は近接武器になるからそれに対応出来る身体を作らないとダメだ」



「うん! で、具体的にはどうするの?」



「俺が武術を教えるよ。 言ってしまえば拳で戦うスタイルに武器を持たせたようなものだから」



「武術!! じゃあそれを覚えたら盗賊に襲われても撃退出来るね!」



「だな。 よし、早速始めよう」



ゼオールの時は、本人が既に武芸を学んで居たから教えるのも楽だった。


だが、メイリーンの場合は素人からのスタート。


二週間弱あるとは言え、どこまで進められるかな……まあ色持ちの特質に期待だ。



そして、以前と同じようにクロビはまず自分で型に習った演武を見せる。



「ふぁ~、綺麗! ね、ミラ!」



「そうですね……ここまで洗練されてるのを見るのは初めてです。

もう、恐るべしですね」



そして演武を終えるとメイリーンに向き合い、型を一つずつ教えていく。


途中、ロアも誘ってみたんだが、断られた。


だが、持て余すと思って魔力増量法を教えてあげた。


前は地獄かもしれないと断っていたが、魔道具を作るならあった方がいいと言うと渋々始めたのだ。



メイリーンに型を教えてから数時間、意外と覚えるのは早いようで、ゆっくりと

演武をしていく。



「メイ、一応身体強化をした方が後々早く体が覚えるぞ」



「身体強化……分かった」



こうして少しずつ、身体を馴染ませ型を繰り返していき、気付けば夕刻を迎えていた。



「メイ様、そろそろ帰りましょう。 まだ日はありますので」



「そうだね。 クロ、ロア、ありがとう」



「おう! 次は明日か? メイの予定は?」



「私はいつでも大丈夫だよ。 だから明日でも」



「僕はメイの武器の製作に取り掛かりますので、順調に行けば明日には渡せると思います」



「うん、ロアも宜しくね」



こうしてメイリーンはミラと共に馬車で城へ、クロビはロアを連れて魔動機でそれぞれ高原を後にした。







その夜――



「ミーラー、死んじゃうよー……ぐすん」



「仕方ないですよ。 そうやって身体を強くしていくんですから。

私もそうだったので、我慢して下さいね。 はい、湯あみしますよ」



メイリーンは若いのもあってすぐに筋肉痛に襲われた。



「明日、身体動くのかな、私……」



「私が武芸を習っていた時はほぼ無理やりでしたね。 まあ身体を壊してもある程度なら治せますから安心して励んで下さいまし」



「うぅ~ミラの鬼! でも、頑張るー」




翌日、メイリーンはなかなかベッドから起き上がれなかったのは言うまでもなかった――


※評価、ブクマ、お願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ