魔女の訪問とメイリーンの覚悟
神霊山を下り、エリネールとグラーゼン一行に別れたクロビはイーリスへ無事にメイリーンを届けると、ロアの待つ街の工房へと向かった。
「ロア、戻ったぞ!」
「ああ、クロさんお帰りなさい! お待ちしてました」
ロアは作業を中止してクロビを出迎える。
奥の方に視線を向けると、既に飛空魔動機の外装は完成している様で、まさに羽ばたく黒い不死鳥のようだった。
「一応、八割ほどは完成してますね。 後は動力源の鉱石に術式を施して嵌め込めば完成です!」
「いいね! サイズもバッチリだし、やっぱりロアに頼んで正解だったよ」
あまり褒められ慣れていないロアはクロビの言葉に嬉しそうな表情を浮かべる。
「これが純魔鉱石。 結構あるから適当に使ってくれ」
クロビはポーチから純魔鉱石、魔鉱石を取り出し、机に並べる。
「こんなに!? 普通だと一つの採掘場所で一つ採れるかどうかなんですけど……」
机に並べられたのは魔鉱石が10個、純魔鉱石が5個だった。
恐らく岩竜はある程度の年月を掛けて取り込んでいたらしい。その為、討伐した事でそれまで取り込んだ全ての鉱石が解放されたのだ。
「まあ、運が良かったな。 ちょっと死ぬかと思ったけど」
「でも、無事なら良かった。 それに、これだけあればしっかりと作製出来ますよ」
「おう、じゃあ頼んだ! わるいが、俺は疲れたから寝る!」
「分かりました、頑張ります!」
クロビは近くに宿を借り、少し早かったが眠りにつくのであった――
※ ※ ※ ※ ※
≪グラーゼン国≫
「久しいな、シュバルト」
「おお、エリネール様、お久しぶりです」
「ディールも元気にしとるかの?」
「ええ、エリー様が来られると先触れがありましたからお茶をご用意しておりますよ」
「すまんな。 偶然とは言え、神霊山でゼオールに会ってそのまま来てしまった。
突然の訪問を快く受け入れてくれて感謝する」
エリネールとグラーゼンの王、シュバルトとは同盟を結んだ国同士の為、こちらとも当然ながら数回だが顔を合わせていた。
また、王妃ウェンディールはそれ以前からエリネールと知り合いで、お互い愛称で呼び合っていた。当時はエリネールと、まだ王妃ではなかったウェンディール、そしてイーリスのエイラが交流を深めていたのだ。
「神霊山か……ゼオ、原因は解明出来たか?」
「はい、詳細につきましては――「ゼオールよ、妾が話す」――?」
「本は妾達の仕業でもあるからの。 経緯は全て話そう」
こうしてエリネールはクロビ、イーリスの第一王女メイリーンと三人で神霊山の魔鉱石を求めて登った事、岩竜の存在、狭間での会合など、全てを語った。
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「そんな事が……よくぞ無事で」
「まあ妾一人じゃったら死んでおったかもな。 しかし、エイラの娘のメイリーンが発色し、クロが止めを刺し、どうにかなった」
「クロ……確かゼオの友人だったな?」
「はい、しかし……その周囲の人間達の存在に圧倒されますね。
私もそうですが、各国の王族ばかりと親交を深めている。 不思議な縁です」
「そうだな。 メイリーン王女か……」
「まあ、発色したからと言っても戦争に参加はさせんじゃろ。
それに、エイラに任されているからの」
「エイラちゃんは無事に旅立ちましたか?」
ウェンディールもどこか懐かし気な表情でエリネールに問いかけた。
「ああ、昔のまま……あどけない笑顔で旅立っていったの」
「そう、良かったわ」
「して、ゼオール。 お主、メイリーンはどうじゃ?」
「――!? えっと……どう、とは?」
「あの娘は月の女神と謳われたエイラの娘じゃ。 そっくりじゃし色眼持ち。
まあまだ純粋無垢ではあるが、お主もちょっと心が動いたのじゃろ?」
山を下る最中の出来事はしっかりとエリネールの目にも止まっていた。
だからこそ、悪戯っぽい笑みを浮かべてゼオールを揶揄う。
「な!? 何を急にその様な! わ、私はただ……私の野望に賛同してくれたメイに……」
「おやおや、ゼオが慌てるなんて珍しいわね。 それにメイだなんて、そんなに気に入ったのかしら?」
「は、母上まで!」
「はっはっはっ! ゼオ、今はまだ難しいが三国が手を取り合えばイーリスに婚約の申し込みをするとしよう」
「父上まで! まだ早いですし、私もやる事がありますから!」
「冗談だ。 では、誰かエリネール様を案内してあげなさい。
宜しければご一緒に食事でも?」
「ほう、ではご相伴に与ろうかの」
エリネールはその夜、グラーゼンで緩やかな一日を過ごした。
※ ※ ※ ※ ※
≪イーリス国≫
翌日――
クロビはお昼頃にイーリス城のメイリーンの部屋を訪れた。
「あっクロ!」
メイリーンはクロビを見付けると、即座に窓を開け、迎え入れる。
もはやそこに警戒心は一切ない。
「おう、魔術の勉強は順調か?」
「う~ん、前よりは感覚とか掴めるようになったけど、実感が湧かないかな?」
「そうか、まあ地道にやってくしかないな。 ちなみに筋力は? ちゃんと付けてる?」
「えっと……多分?」
「ミラさん?」
クロビはメイリーンの視線を反らす姿を見逃さず、ミラに声を掛ける。
「えー、メイ様は筋肉痛だと駄々をこねまして、一日に一~二回程度ですね。
全くもって意味がありません」
ミラは問答無用でクロビにメイリーンの詳細を暴露した。
「ちょっとミラ! くぅー、この裏切者~!!」
「メーイ? なぜサボるー? 悪い子にはお仕置きするぞー?」
「うぇー、ごめんなさいー! 頑張るから許してぇ~」
「全く……で、外出許可は下りそうか?」
「一応、本日に演武祭開催の報告が陛下からあるとの先触れを受けました。
といっても、別の侍女から聞いたというのが正しいですね。
何故だかメイ様は呼ばれていないのです。
ですので、現段階では許可を得られるかどうかが怪しいです」
ミラはメイリーンの為に、常日頃から城内の動きなどを調べ、その都度報告だけはする。
そして、演武祭は王位継承を持つ全ての者達が参加する行事の為、本来であればメイリーンも招集されるはずなのだ。
「なるほど、王がわざと参加させないようにしているのか……それとも別の何かが裏で動いてるのか……」
「何やら匂いますね……まあ前者の可能性が高いとは思いますが」
「でもせっかく発色したんだし、お披露目も兼ねて出てみたらいいんじゃない?」
「あっ、そういえば目の色変わったのよね、私! 全然実感ないけど」
「まあ実感はないだろうな。 でも性格が変わるらしいぞ! 欲に素直になるとかな」
「へぇー! 欲かぁ……その内分かるのかな?」
「そうかもな。 で、メイはどうするんだ? このままだと結果的に何もしないままになると思うけど」
「うん、勿論無理やりにでも参加するよ! お父様のお尻を叩いてあげないと! それがお母様との約束だからね」
「おお、もしかしたら既に性格変わってるかもしれないな」
「その様に私も感じますね。 では準備しましょう! 登場は派手に、ですよ」
これまでのメイリーンなら自分から率先しては動かなかっただろう。
まあ、元々の性格は良く分からないが、ミラさんが言うなら間違いない。
「じゃあまた夜にでも行くからその時に聞かせてくれ」
「はーい!」
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城を跡にしたクロビは再びロアの工房を訪れ、状況を聞く。
現在、クロビの一日の流れがこうした城と工房の行き来になっているのだ。
「そういえばロア、一応だが二週間くらいはここにいる事になったよ」
「二週間ですか? 何か用事が出来ました?」
「何か、今度王位継承の演武祭があるらしく、メイリーンを鍛えないといけないんだってさ」
「メイリーン様を!? また大変な事になりましたね……」
「まあ教えるのは良いけど、努力は本人がするものだしな。
そういえばトロンさんの件は片付いたのか?」
「ああ、一応セリスさんが動いてくれているので、以降は何も問題はないみたいですね」
「なら集中して作業出来るか」
「はい、明日には完成予定です。 後はクロさんに乗ってもらっての最終調整ですね」
「素晴らしい! 待ちに待った飛空魔動機!」
「ちなみに、今のところ標準となる【吸着】【浮遊】【風】【噴射】の魔道具を嵌め込みましたけど、その他で組み込みたいものってあります?
強度自体は以前頂いたミスリルとオリハルコンを使用してるので問題ないかと思いますが」
「そうだな~、例えば盗まれないように俺専用とかに出来れば!
まあそんな事は早々無いけど」
「分かりました。 では、クロさんの魔力のみで反応するように【契約】の術式を組み込んでおきますね」
「ありがとう。 しかし、魔道具士ってどんな術式でも施せるのか?」
実際に術式を施すのにも、少しのズレだったり、バランスが崩れてしまうと術式自体が割れてしまう。それ故に非常に細かい作業が必要だ。
また、施す術式は魔術を行使するのと同じな為、多種の術を扱える魔術の知識も豊富でなければ魔道具士として成り立たないのだ。
「昔から沢山本を読んでますし、父にも教わりましたのでその辺は大丈夫ですよ」
特に問題はないとロアは言い切る。やはり、魔道具士としては既に一流の腕を持っているようだ。
「ならよかった。 トロンさんの手伝いもあるのに悪いが、じゃあ引き続きよろしくな」
「いえ、これは僕とクロさんとの契約でもありますので!」
クロビもロアなら任せて平気だろうと、何の心配もなく工房を後にした――
※ ※ ※ ※ ※
≪イーリス城・謁見の間≫
「皆の者、よく集まった」
イーリス国王、フラーネスが口火を開く。
この場には今、現王妃のネリーゼを始め、第一王子のアルフレッド、第二王子のデリー、第二王女のミューラ。
そして騎士団長ゼイン、宰相のソルバ、大臣のコールド、財務のセリス、イーリス国最大の規模を誇るダーラ商会会長モラ・ダーラ、イーリス城専属魔道具師のカルロス・デルベーン。
そして、継承権を持つ者達の侍女や執事がその後方に並ぶ。
「うむ、トロンが来ておらんな。 誰か事情を知る者は?」
「陛下、それについて、一つお話があるのですが宜しいでしょうか?」
セリスが前に出る。
「よい、話せ」
「ありがとうございます。 まず、トロンですが現在は自宅兼工房で魔道具製作を行なっているでしょう。
恐らく、今回の招集については耳に届いていないかと」
「何? カルロス、どうなっておる」
フラーネスは同じく魔道具士のカルロスへ、トロンにも伝えておくようにと書状を渡しておいたのだ。
しかし、王からの書状にも関わらず、そのトロンは不在。
「はっ、先日私からトロンへ書状を届けたのですが、「今は忙しいから」と押し返されました為、渡す事が叶わず……」
「ふむ、王である私からの招集であるにも関わらず、か……」
どこの国でも、国の頂点である王からの命は絶対だ。だからこそ、その意に反する行動は不敬罪であり、処罰対象にもなる。
「セリス、まだあるのか?」
「はい、では続けさせて頂きます。
トロンの行動に関してですが、これは何者かがトロン……いえ、デイリストリア魔道具商会から従業員を引き抜いた為に、現在人員不足として親子の二人で製作を続けております。
また、その上でつい先日の陛下からの魔道具依頼を私からトロンに渡しておりますので、手一杯の状況なのでしょう」
「人員不足……カルロス、何かそれに関して情報はないか?」
「は、はい!」
カルロスは少し声が上擦り、冷汗が湧き出てくる。
実際に、人員の引き抜きはカルロスの手によって行われたもの。
だからこそ、王がそれをカルロスに聞くという事は、既に知られている情報なのか、それとも同じ魔道具士だからなのか、カルロスには正解が分からなかった。
「従業員の引き抜きに関しては、わ、私も初めて聞きまして……これから調査するという事で宜しいでしょうか?」
「お前は知らない、という事だな?」
「ひっ、は、はい! お力になれず申し訳ありませんっ」
「では陛下、こちらをご覧下さい」
セリスは一枚の報告書をフラーネスに渡した。
「ほう、やはりか……カルロスよ」
「は、は、い……」
「お前は魔道具師としての誇りは無いのか? 何故、同じイーリスの魔道具師であるトロンを陥れ、私欲に走るのだ?」
「め、滅相も御座いません! 私はそんな事は――「本当に、か? 王である私に嘘を吐く事は不敬に価するが」――!?」
フラーネスは威圧を放ちながら問い質していくと、次第にカルロスの表情が青ざめ、非を認めたのか、言い包める材料が無かったのか、膝から崩れていった。
「追って沙汰する。 それまでトロンに詫びよ。 だが、従業員達は高い報酬で引き抜いたのだろうから戻るとは限らん。
その辺もしっかりと考えておけよ?」
「は、も……申し訳ありません」
「はぁ~、では改めて本題に入るが、二週間後に演武祭を開く事とする。
その意味、お前達は分かるな?」
「「「はい」」」
継承権を持つ各々が頭を下げて相槌を打った。
そして、第二王女ミューラが口を開く。
「陛下、第一王女メイリーンは参加されないのですか?」
ミューラは口角を上げて不敵な笑みを浮かべながら発言した。
すると――
「第一王女メイリーンは――「勿論、参加致します!」――!?」
バーン、と入口の扉が勢いよく開かれると、そこにはパーティーで着る様な煌びやかなドレスを纏う朱色の眼を持つ少女と、その後ろに控える侍女の姿があった。
「メイ ――っ!? お、お前その眼は!?」
フラーネスは驚いた。
前王妃であったエイラの死後、過保護を通り越して軟禁状態にしていたメイリーンが目の前に立ち、よく見れば眼の色が青ではなくなっていたのだから。
実際に顔を合わせるのは4年振りにもなるのだが、メイリーンはエイラと同じ朱色の眼でフラーネスを視線から外さない。
「お父様、いくら箱入り娘の私でもさすがに継承権を持つ王族の演武祭に呼ばれないと言うのは酷くはありませんか?」
「お、お前いつからその眼になった!?」
「これは追々お話しします! ですが、先ずは私だけ招集されなかった件について、ちゃんとお答え下さい! い・い・で・す・ね?」
メイリーンは物凄い威圧でフラーネスへと迫っていた。
もはやそこにいるのは王と王女ではなく、父と娘の姿だ。
「おお、このお姿を見るのは実に久しぶりじゃ。 まるでエイラ様ではないか……」
「そうだな……懐かしくて涙が止まらん……」
宰相のスルバや大臣のコールドがメイリーンの姿に感慨深い表情と共に感動の眼差しを向けている。
「そ、その……すまんかった。 メイを危険に晒したくなくてだな?」
「分かってます。 お父様が私の身を案じているのは。
でも、もう自分の身は自分で守りたいのです。 ですから私の軟禁を解いて下さい。 そして、演武祭には参加しますからねっ!」
「わ、分かった! そこまで言うなら私はもう何も言わん!」
先ほどまでのカルロスではないが、フラーネスはメイリーンに完敗だった。
しかし、その光景を見ていたネリーゼはその眼光を一層鋭くする。
また、ミューラもここぞとばかりに口を開いた。
「メイリーン、貴女魔術は扱えないんじゃなくて? 武芸も出来ないし、それで参加するのかしら?」
「ミューラ、勿論よ? 魔術は練習中だし、武芸だって直ぐに覚えるわ!」
昔のメイリーンなら何も言い返せなかったかもしれない。
だが、今のメイリーンは母が背中を押した、第一王女としてのメイリーン。
だからこそ、引き下がらずに真っ向から立ち向かう。
傍から見れば二人の間にはバチバチと火花が散っているだろう。
「父上、もう良いでしょう。 話の続きをお願いします」
そこで、第二王子のデリーが横から口を挟む。
「そ、そうじゃな。 オッホン! 伝えた通り二週間後に演武祭を行なう。
各々得意とする武器、魔術をこうして戦え。 だが、命を奪う事はならん。
故に武器を選び、使う物は刃を潰す事を命ずる。
あくまで個々の実力を見極めるものだという事、忘れるな?
詳細は近日中に伝えるから準備だけしておけ。 以上だ」
「「「はい」」」
こうして演武祭についての詳細を伝えると、フラーネスはメイリーンを呼び止めた。
「良い機会だ。 お前を何故閉じ込めておったか、全てを話そう」
こうして、フラーネスはメイリーンの置かれている状況を説明し始めた。
4年前、王妃であったエイラは毒によってその命を奪われた。
しかも、病に伏せたと思わせる様に少しずつ毒を蓄積させるという手法で……
だが、次第に身体が衰退していくエイラを見て、フラーネスは違和感を感じた。
勿論、王族の専医に見せたが原因が分からず、治療をしても一向に快復しなかったからだ。
しかし、時は既に遅く……結果としてエイラが命を落としてしまったのだが、その後にフラーネスは直下の密偵に調べさせ、一年ほどかかってやっと病ではない事実を突き止めるに至った。
そして、その主犯が当時はまだ王妃として即位していなかった側室のネリーゼだった。
ネリーゼは昔から自尊心が強く、まだエイラが王妃として迎えられる以前からフラーネスに執着していた。
更に、ネリーゼン自身は前王の弟の娘という事もあり、家柄が非常に大きな力を持っていたのだ。
だからこそ、エイラに承諾を得て王妃として迎えた後、自身では手を出せなかった事で抑止力としてネリーゼを側室に迎えた。
実際にエイラの死後は正妻として王妃になったものの、その脅威を蔑ろには出来ず、娘であるミューラを次期女王にすべく、あらゆる手段を使うだろうと踏み、危険回避の為にメイリーンを閉じ込めたのだった。
「だから私はお前まで失いたくなかったのだ。 許してくれ」
「お父様の気持ちは分かりますし、ありがとうございます。
でも、いつまでも隠れていては何の解決にもなりません!
なら、今回の演武祭で力を見せつければ尻尾を出すかもしれませんし」
「だが、大丈夫なのか? 発色したのはいつなのだ?」
メイリーンは父の想いをしっかりと受け止めたからこそ、自分も腹を割ろうと、クロという男の存在、エリネールとの出会い、そして神霊山で経験した母エイラとの邂逅を話した。
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「な、なんと……エイラに会ったのか!? それに、エリネール……」
「はい、魔術は言った通り勉強中ですが、魔法は使えます。
ですから、演武祭までに強くなって次は私がお父様を守ります!
お父様の尻を叩く、それがお母様との約束なんです!」
「はは、約束か。 確かにさっきのメイはまるでエイラだったよ。
分かった。 外出を許可しよう。 ただし、くれぐれも気を付けろ」
「はい、お母様も最後におっしゃってましたから」
「ローズベルドともな……エリネール、エイラ、そしてグラーゼンのウェンディールは仲の良い友人同士だった。 しかし、ネリーゼはその二人にも嫉妬心を抱き、自分が一番なのだとその姿勢を崩さなかった。
後に側室に迎え、正室となってもだ。
だから戦争を吹っ掛けるし、全てにおいて上に立とうとしたのだ。
それを止められなかった私にも責任はあるんだがな……」
「私は神霊山の帰りにグラーゼン国の第一王子、ゼオール様にもお会いしました。 彼は5年前、お父様がローズベルド侵攻をなさろうとしたその時の戦争で親しい友人を亡くされたそうです。
だから、エマーラル大陸の三国が同盟を結び、皆が平和に暮らせるよう図らいたいと。
私もその意見に賛成です。 戦乱の時代はもう終わりました。
一緒に平和への橋掛けをお願いします、お父様」
「……メイ、強くなったな。 そうだな……私も武人だったとはいえ、今は時代遅れのダメな王なのかもしれん。 まさか、娘に諭されるとは。
だが、時期を見て、だ。 まずはネリーゼをどうにかしなければ動けまい」
「はい!」
「ちなみにだが、メイ。 お前はゼオールを好いておるのか?
その話をしている時、女の顔をしておったぞ?」
「――っ!? えっ、なな、何でですか!? そ、そんな……そういうのは、そういうのは……良く分からないですうーっ!!!」
メイリーンは突然顔を赤らめて、タタタッと走ってその場を後にしてしまった。
「陛下、メイ様はまだ初心ですので、ご容赦下さいませ」
「ミラ、すまんな。 だが、娘の成長を見れて私は嬉しいぞ」
「はい、私も引き続き調査など致しますので、これで失礼致します」
「分かった。 メイを頼む」
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その頃、王妃の私室ではネリーゼとミューラが話をしていた。
「あの眼……見るだけで思い出すわ……」
「お母様、あれって色眼持ちというやつですよね? 初めて見ましたが」
「そうね。 でも問題ないわ。 こちらにも色眼持ちがいるのですから。
ミューラ、貴女は天才なの。 色眼が無くても十分圧倒出来るはずよ。
私の娘なんですから」
「勿論です。 メイリーンなんかには負けませんよ」
「とりあえず、これから先生にお会いするから貴方も来なさい」
二人は部屋を出て、待ち合わせ場所へと向かった。
※ ※ ※ ※ ※
夜――
「よっ!」
「クロ、待ってたわ!」
「おじゃましまーす。 で、どうだった?」
「思いっきり乱入して、お父様を叱りつけてやった!」
おお、随分と性格が大きくなったな。王を叱りつけるって相当だぞ。
「で、外出許可は貰えた?」
「うん! これで自由に出入り出来るし、外にも行けるから特訓出来るね!」
「じゃあ早速明日から始めようか。 まあ実際に戦い方とかは神霊山の時に見てると思うけど」
武芸を教える際、全くの素人だとしても戦闘を見た事があるのとないのとでは大きく違う。
人は形から入り、それは目から始まるからだ。
「そういえばクロも色眼持ちなんだよね。 紅い眼だったけど……」
「ああ、そういえばちゃんと全部話してなかったか。 でも聞く覚悟あるか?」
「うん、だってクロが居なかったら今の私は居ないし、きっと今でも引きこもり王女のままだったと思うの。 でも今は目標が出来て、そこに向かって進めてる気がする。
全部クロのお陰なんだよ? だからもしクロに辛い事があるなら力になってあげたいの。
だから教えてくれる?」
メイリーンは自由を好む活発な子ではあるけど、根本は優しい王女様なんだな。
まあ紅い眼を見られてる時点で察しは付くだろうが……そう考えてクロビは自分の過去を簡単に話した。
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「うぅ~うえーん!! グロ、わだじよりづらいげいげん、いっばいじてるぅー」
あれ、どっかで見た事ある光景だな……と思いながら、クロビはメイリーンの頭を撫でる。
「辛い過去なんて誰にもあるよ。 ゼオだってそうだったし、メイもな!
比べるものじゃない。 それに、神霊山でちゃんと話せたし問題ないよ。
ちなみに、エリーもゼオもこの事は知ってる。
皆、罪人を囲う良い奴らだな!」
「私も、私も力になるからね! 辛かったら言ってね!」
「はいはい、 とりあえず今日は寝ろ。 明日は昼くらいでいいか?」
「うん、場所は東にある高原ね! じゃあ頑張って寝る、おやすみクロ」
「おう、おやすみ! 明日、びっくりさせるから楽しみにしててくれ」
クロビは城を離れ、宿へと戻って行った――




