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黒き復讐者の交響曲  作者: Rさん
第Ⅲ章 ~エマーラル大陸編~
39/111

メイリーンの冒険と魔女の誘い


イーリス国に来て二日目、昨日と同じようにクロビは鍛錬を終えると、ロアの工房を訪れた。



「クロさん! ちょうど良い所に来ました!」



「ん? どうした?」



「ちょっと、これでクロさんの魔力量を計って下さい!」



ロアは突然、大きめのメモリが付属された丸い魔鉱石を持ってきてクロビに渡した。



「それに魔力を流せば数値化されます。 それを基準に魔道具を作らないといけないんですよ」



クロビが無茶なオーダーをした事で、魔力を流しても耐えられる魔道具を作らなければならないが、それなら乗る人の魔力量を基準にした方がとロアは考えたのだ。



「分かった、これに流せばいいんだな」



「お願いします」



クロビは魔鉱石に魔力を流していく。


少しずつ量を増やし、増やし、そして数分後――



「どうだ?」



「……」



「おーい、ロア!」



「ありえないですよ……何が3000ですか!? ゼロ一つ足りてないじゃないですかぁぁぁ!!」



以前ロアから魔力量を聞かれた際、クロビは3000と答えていた。


でも、それ以降鍛錬などを続けていたから上がってると補足しておいたはずなのだが……


クロビの現在の魔力量は数値化すると3(・)万(・)だった。


これも色眼持ちだからこそだと思うが、発色状態ならその比ではないのだろう。


エリネールも同等とか言ってた気がするから、同じくらいなのかな?



「貴族などの青い眼でもせいぜい300~500なんですよ!?」



「なんかすまん。 でも最後に計った時よりは上だって言ったじゃないか」



「そうなんですけどー! でも、もうこれで分かりました!」



「何で怒りながら? まあいいけど、それで何が分かったんだ?」



「多分、クロさんの魔力量だと、普通の魔鉱石では容量不足になってしまいます。 ですから、クロさんの求める飛空魔動機を作るには、普通の鉱石では不可能です。

そして、それを可能にするのが〝純魔鉱石〟です!」



魔鉱石は魔道具にとって魔力を溜め、流すといった核になる石だ。


しかし、実際に魔力を溜める容量はそこまで大きくないのだ。


勿論、一般的な青い眼、茶色の眼を持つ者が扱うのは問題ないのだが、色眼持ちなどの膨大な魔力を持つ者を基準で考えた場合、容量を超えてしまう。


様はバケツの水をコップに注ぐようなものなのだ。


対して純魔鉱石は普通の魔鉱石の何倍もの容量を持っている為、価格も非常に高く、しかも純魔鉱石は特定の条件を満たさなければ生成されないようだ。


そういった意味でも希少価値が高く、なかなか出回らなかったりもする。



「飛空魔動機に必要な核がコップくらいだと、相応の魔力しか噴射出来ませんから速度も出ないです。 ただ、それがバケツだったり、もっと大きな器であれば、巡回する範囲も大きくなりますから噴射力も高められるのです。 その大容量の核になるのが純魔鉱石ですね」



「ちなみに、この辺で採れそうな場所は?」



「恐らく……神霊山しかないでしょうね。 まあ実際にあるかどうかは行ってみない事には分かりませんが、昔そういう話を聞いたので。


ただ、あそこはマナの影響もあって魔物がここらとは比じゃない程強いって聞きます」



「そうみたいだな! でも行くしかないだろう……ま、とりあえずローズベルドでエリーに聞いてみるかな」



「エリーって?」



「ん? エリーはローズベルドのエリーだ。 あっ、えっとエリネール!」



「エ、エリネールって……えっ!? それってもしかして!?」



「西の魔女、エリネール王女殿下」



「えぇー!!!?」



まあ、そうなるよな。


でも一番詳しそうだし、実際に神霊山に行って何も得られなかったじゃ困るからな。



「クロさんってホント何者なんですか……」



「まあまあ、じゃあロアは外装とか頑張ってくれ! 俺はちょっと神霊山に行ってくるよ」



「あ、待って下さい! ならこれ使って下さい。 簡単に掘れますから」



「助かる! じゃあ三日くらいで戻る!」



クロビはロアから岩堀鳥の嘴で出来た道具を貰い、工房を後にした。



「その前に、メイリーンにも言っておかないとな。 今から城行っても平気……だよな。 多分!」




※ ※ ※ ※ ※



「ミラ~、魔術が上手く出来ないよぉ~!」



「まだ始めたばかりなのですよね? そんな簡単には出来ませんよ」



「そうだけど……ミラって魔術出来るの!?」



「これでも侍女ですからね。 生活魔術は全般と、身体強化、攻撃系統は少々と言ったところですか」



「え~……ずるい」



「私も苦労したんですよ? それに、メイ様は王女ですからその侍女になるにも条件があって試験が厳しいのです。

元々戦闘などは武芸で熟せましたが、魔術は本っ当に苦労しました……


それと、メイ様がやられている魔術行使の方法は私が習ったのとあまりにも違います。 ですので、それを教えるのは私には難しいですよ」



実際にクロビも独学で、半分ウーパーさんによる魔法側の考え方での行使だった為、ミラはメイリーンが何をしているのかはあまり理解が出来ていなかった。



「にしても……」



「? どうしたのミラ?」



「いえ、窓に怪しい人物が……」



メイリーンがふと窓を見ると、そこにはクロビが逆さ吊りの状態で部屋の様子を伺っていた。



「クロ、何してるのよ?」



「おう、メイ! ずいぶん嘆いてるなーと思って」



「だって頭が爆発しそうなんだもん」



そんな話をしていると、ミラがクロビへと近づく。



「貴方がメイ様の新しい魔術講師ですか? なぜ窓からなのかは追求しないでおきますが、仮にも一国の王女の部屋です。 無粋な真似は控えて下さいね」



「あっ、すいません。 クロです」



「メイリーン様の専属侍女、ミラと申します。

お茶を入れますから中へどうぞ? ここは防音などの魔道具も設置されてますからご安心を」



「そうだったのか。 どうりで夜メイが騒いでも誰も来ない訳だ」



「夜ですって……?」



ミラがギロリとクロビを睨み、殺気を放つ。



「ミラ、落ち着いて! 魔術を教わってただけだから」



「ふぅ、分かってますよ」



メイリーンもふぅ、と一息して椅子に腰かけた。


テーブルにはミラが作った焼き菓子と紅茶が並べられる。


実際にミラもメイリーンが急に魔術の練習をし始めた事に疑問を感じ、目を光らせていたらしい。



「ちなみに、フレイアってお嬢様の密偵にも監視されてるっぽいから、何かあったらすまん」



「フレイア? ミラ知ってる?」



「イーリス国の貴族、ロマージュ公爵の娘ですね。 そこの侍女メリルは私の幼馴染で、共に武芸などを習っておりました」



「なら大丈夫そうだな」



「でも、なんでそのフレイア嬢がクロを調べてるの?」



クロビは以前の魔導列車での出来事を簡単に話した。




「へぇ~貴族も大変なんだねぇ~」なんて言いながら紅茶を口にするメイリーン。



「いや、お前も王族なんだから」



「あ、そうでした」



テヘっと舌を出して道化て見せた。



「メイ様、そんなドジっ娘演じても可愛くないですよ」



そんなツッコミを侍女から受け、ブーブーっとメイリーンは猛抗議する。


この二人、侍女と主と言うよりは仲のいい姉妹みたいだな。



「それで、クロは何でこの時間に?」



「ああ、ちょっと三日ほどイーリスを離れる事になってな!」



「三日? そ、そうなんだ……」



クロが離れると聞いてメイリーンはシュンとして悲し気な表情になった。



「昨日、魔動機の話ししただろ? あれの素材を集めに神霊山までな」



「神霊山ですと、ここから最低でも一週間は掛かりますよ?」



ミラが的確に捕捉を入れて来る。



「それは普通に向かった場合だろ? 俺は馬より早いからな。

実際にグラーゼンからローズベルドまでは二日で着いたし、ローズベルドからここまでは1日掛からなかった」



「……は?」



そんな話を聞いて、ミラの動きが止まる。



「ミラ? どうしたの?」



「い、いえ。 よく分かりました。 貴方が普通ではない事は。

まあ、窓から入って来る時点で普通ではないのですが……」



それは確かに……。でも、正面からは無理だったから、そこは大目に見て欲しいな。


すると、メイリーンが嬉しそうな顔で窓の外を指さした。



「ねぇクロ、神霊山ってあの薄っすら見える高い山よね?」



「あー多分そうだな! 魔物も強いらしいぞ! だから一度ローズベルドに行って女王に話しを聞いてからって感じだと思う」



「女王、西の魔女エリネール?」



「そう! あいつの知識が一番役にたつ!」



「貴方は魔女とも繋がりが?」



またもミラが疑わしい表情で投げ掛けてくる。



「そう、ここに来る前はローズベルドに居たから」



「メイ様はとんでもない男を見付けたようですね……」



「そうなの? まあ魔術とかすっごい詳しいけどね!」



「まあそういう訳で、ちょっと離れるから、その間で属性文(プロパティ)字列(コード)を頑張って覚えておいてくれ!」



「う~ん……」



「どうした?」



「あのね! わ――「ダメです!」――!?」



メイリーンの話しを遮ってミラが口を挟む。


あれ、身分が上の人の会話を遮るのは不敬罪じゃなかったっけ?でも、この二人は良いのか。



「え~、だってぇぇ! チャンスだよ!? チャンスなんだよ!?」



「メイ様、良いですか? 今、王城ではアルフレッド殿下が正気を取り戻したとはいえ、それでなくても独断で兵を動かし、失い、大きな問題になってます。


更に、ここ数日〝紅眼の死神〟が王城を出入りしていると噂も流れていて、警戒を引き上げてます。

そんな状況でメイ様が三日空けるのは危険なのですよ」



俺の偽物は何を企んでいるのかね~、それにアルフレッドも大変だろう。


と言っても王子の場合は自業自得なんだけど。



「クロぉ~! 私も連れてってよぉ~黒(・)の(・)王(・)子(・)様(・)~」



「おいおい、俺がいつから王子になったんだよ。 ってか神霊山だぞ?

実際にどの位危険なのかは知らんけど、初心者中の初心者のお前が行ったら速攻で魔物の餌だ」



「それは……クロが護ってよ! 私、王(・)女(・)なんだから!!」



「え~そこで王女出す? 普段全然王女感ないのに」



「ちょっと! 王女に王女感が無いって……不敬罪です! 極刑を免れたいなら連れてけ~!」



「っと言ってますが、ミラさん」



「はぁ~」



ミラは頭を抱えながら盛大な溜息を吐いた。



「全く、この子は昔から強情で頑固で一度決めると折れないんですよ」



「へへーん」



「褒めてませんよっ! もうっ、三日ですからね? それ以上は私も難しいです。 なのでクロ様、く・れ・ぐ・れ・も、お願いします」



「はぁ~。 まあ、仕方ないな。 分かった! じゃあ今から出ないと間に合わないからいくぞ!」



「あ~ちょっと待って! 準備しないと! ミラ!」



「はいはい」



ミラは街に出る用の服を用意し、メイリーンは既にいつかの時の為に準備していたカバンを取り出し、その勢いで着替えようとドレスに手を掛ける。



「クロ様?」



「ん? 準備出来たか?」



何故かジト目でクロビを見つめるミラ。



「貴方は王女の着替えをマジマジと見るつもりですか?」



「ああ、そういう事ね。 じゃあ窓の外で待つよ」



「そうして下さいませ。 決して覗かないように」



クロビはミラに釘を刺され、屋根に移動した。


そして――



「クロ、お待たせ! どうかな?」



メイリーンはドレスから動きやすいシャツとロングスカート、そしてカーディガンを羽織っていた。



「まあ山を登るにしては薄いが、どうにかなるか!」



「ち、違うでしょ!? こういう時は褒めるのぉー!!!」



メイリーンが顔を赤くしながら叫んだ。



「何となくクロ様の人と成りが分かった様な気がします。 では、気を付けていってらっしゃいませ」



「よし、とりあえず窓から出るからメイ、背中に乗って」



「せ、背中!?」



「そのままじゃ流石に飛び降りれないだろ?」



メイリーンは頬を赤らめ、急にモジモジしだした。



「うぅ~じ、じゃあ失礼して……」



「おう、メイの初めての冒険だな!」



「冒険……そ、そうね! 冒険の始まり!」



そして、窓から勢いよく跳躍すると一気に城を後にした。



途中、ロアの工房に寄ると、「えぇー!!? メイリーン王女殿下!?」っと叫んでいたが、メイリーンがいつかの魔道具のお礼を伝えると、ロアが顔を真っ赤にしてそのまま倒れた。



「初心だなコイツ……じゃあ、改めて行ってくるからよろしく―!」



・


・


・



メイリーンを背負いながら、クロビは颯爽と森や山道を駆けていく。


勿論、メイリーンに負担が掛からないように魔術を施しながらである。



「クロって本当に人間!?」とか言ってたけど。



「凄いわね外って! 私、城から出た事が無かったから全部が新鮮よ!」



「今はそう感じて楽しむと良いよ! 後で魔物との戦いになったら色々と現実を知る事になるけどな。 頼むから心は強く持ってくれよ?」



「そうね。 魔物だとしても命の奪い合いなんだもん。 その覚悟くらいあるわ!」



そして、ディネル大橋を無事に越えて夕方にはローズベルド城に到着した。



「ここがローズベルド……隣の国なのにイーリスとは全然違うのね?」



「確かに、イーリスは発展してるしな。 ローズベルドの場合は家も岩を削った様な造りになってるし、古めかしい、古の的な感じだな!」



「魔女が居るって感じするものね! 特にあのお城は」



ローズベルドの街を歩きながら、メイリーンは楽しそうに話をする。



「とりあえず飯にするか?」



「うん! お腹すいたし、外のご飯って初めて!」



まあ知ってる店なんて一つしかないんだけどな。



「いらっしゃい! おうあんちゃんか、女連れとはやるな!」



「また来ました!」



そう、初めて謎の女(エリネール)と出会った屋台だ。



「メイは酒飲めるのか?」



「ん~この前ワインに挑戦したけど、グラス一杯で眠くなっちゃった」



「ワインはなぁ、エールは? ちょっと苦いけど飲んでみるか?」



「じゃあそれで! 何か話でしか聞いた事ないけどハンターみたいだね」



「そういえばあいつらは依頼を熟した後は酒屋でエールをひたすら飲むらしいな!

おやっさん、エール二つ!」



「あいよー! 飯はどうする?」



「メイは何食べる?」



「ん~私分からないからクロと同じで」



「じゃあセイクリッドポークのスペアリブを二つで」



「あいよー!」



そして、先に置かれたエールを手に取って、乾杯と小樽をぶつけ合う。



「ん~! 苦いーけどシュワシュワが美味しいかも!」



「だろ? これが街の主流だ。 イーリスも同じだろ

王侯貴族はワインを飲み、街の民はエールを飲む!」



そして、出来上がったセイクリッドポークノスペアリブを頬張り、二人で「ん~!」っと幸せそうな表情を浮かべながらワイワイしていると……突然、背筋がゾクっとしてクロビは何かの気配を感じ取った。


これってもしかし、て……?


ハッと後ろに、気配がする方に視線を向けると……



はい、居(・)ま(・)し(・)た(・)。


この前と同じく毛糸の帽子をかぶり、メガネをかけ、ヒラヒラのシャツにロングスカートの無言の女性。


そう、謎の女こと変(・)装(・)中(・)のエリネールだ。


俺はすかさず注文を頼む。



「おやっさん、あちらの女性にエー「いらぬわ!」―!」



「早やっ、やっぱ無しで!」



「今回は迅速な対応だな? 無言は貫かないのか?」



「何を言うておる、もうお互い知らない仲ではないじゃろに。

と言うか、こっちに戻って来るのが早いのではないか?


それに、新しい女を連れるとは手が早いの? これは調教が必要のようじゃ」



「ちょ、調教!?」


エリネールの言葉に、メイリーンがお酒のせいなのか、羞恥なのか、顔を赤くしてモジモジし始めた。



「新しい女ってのはちょっと違うぞ? まあ、戻るって言うより用事だ。

ってかちょうどいい、エリー!」



城に行く手間が省けたクロビは、エリネールにここまでの経緯を話した。



「ほお、イーリス国の第一王女であったか。

これは失礼、今は変装しておるが、妾がローズベルド国女王、エリネール・ヴィズ・ローズベルドじゃ」



「あっ、こちらこそ申し訳ありません。

イーリス国第一王女、メイリーン・ロウ・イーリスです」



一応、街の店という事もあり、お互いに声を小さくして自己紹介をした。



「しかし、第一王女と言えば部屋に閉じこもりの女子と聞いておったが?」



「はい、父の命で……ただ、外への憧れはあったんですよ。 まあそれでも機会がなかったんですけど……」



「すると、その機会を作ったのが、ク(・)ロ(・)という訳か」



「そうなんです! 魔術を教わって……ってまだ上手く出来ないんですけど」



「クロの教え方が悪いんじゃないのかの? そもそもこやつの魔術は魔術であって魔術ではない。

どちらかと言えば魔法に近い……魔(・)法(・)術(・)と言ったところじゃな」



「魔法術かぁ! いいな、その響き!」



「妾もそうじゃが、魔法を嗜んでいる者が魔術を覚えようとするとそうなる様じゃ。 なら、魔法を覚えた方が早いかもしれんがの」



「魔法ですか!? 私に出来ますか?」



「魔力とイメージ力次第じゃな。 だが、やってみる価値はあるじゃろ」



「ちなみにイーリスに行く途中で魔法に挑戦したんだけどダメだったぞ?」



「それはお主が妾の真似をしてた(・)だ(・)詠唱しただけじゃろ?」



「おう!」



「アホ」



「うふふふ」



「なんじゃメイリーン?」



「いえ、二人仲が良いんですね!」



「まあ、そりゃあ、な?」



「なぜそこで含みを持たせるのじゃ。 まあ仲はそうじゃの。

で、お主らどうするのじゃ? 今夜は城に泊まるか?」



「そうだな、この状況で山登っても死ぬ可能性が上がるだけか。

じゃあエリーに甘えよう」



「あ、あの……宜しくお願いします」



「では行こうかの」



こうして三人はローズベルド城へと移動した。



「これは、クロ様。 本日も浴場へは行かれますか?」



「ああ、アランさん。でも今日はもう一人いるので、後で大丈夫です。

先にメイを案内してあげて下さい」



「左様でございますか。 ではメイ様、こちらへ」



「は、はい!」


メイリーンはアランに連れられ、大浴場へと向かった。




※ ※ ※ ※ ※




「わぁーおっきい! うちにもこんなお風呂があればいいのに~」


メイリーンは感動した。 イーリスにも浴場はあるのだが、ここは女王が治める国であるが故に、浴場の装飾も凝っている上に女性らしさが全開なのだ。



「どうじゃ? 気に入ったか姫よ」



ふと声がする方向へと振り向くと、そこには変装を解いたエリネールの姿があった。



「わっ、えっと……エリネール、様?」



「そうじゃ。 言うたであろう、街では変装しておると」



(どうしよう……すごいエッチな身体付き! これが大人の女性なの!?

って言うか、私も女なのに……こうもドキドキするのー!?)


キャーっとメイリーンは真っ赤な顔を両手で覆って悶えていた。



「ほお、お主もなかなかよい身体つきじゃの? クロが喜びそうじゃ」



そういってエリネールはメイリーンの身体の様々な場所を触り始める。



「ちょっと、エリネ……んん!? あう、そんな……ダメぇぇー!!」



メイリーンの身体を堪能したエリネールとは裏腹に、ぷしゅーっと音を立てながらメイリーンはペタンと腰を抜かしてしまった。



「ふふ、初心じゃのう。 お主、婚約者とかいなかったのか?

その年なら本来、結婚を控えてる時期じゃろうに」



「エリネール様、ずるいです! そんなのぉ……。

一応、12歳までは居ました。 でも母が亡くなってから箱入りになると、そのまま婚約も解消になって……。 まあ顔を合わせたのも数回だったので特に何も思いませんでしたけど」



「そうか。 難儀じゃのう」



「そんなエリネール様はいらっしゃらなかったのですか?」



「そうよの……妾も昔は恋人という存在はおったよ。 まあ、死んでしまったがの。

戦争真っただ中って事もあって複雑な時代だったのじゃ。


とりあえず、身体が冷えるから湯に浸かろう」



二人は湯船に浸かり、安らぎの時間を堪能する。



「して、お主はまだクロには抱かれておらんのか?」



「だ、抱かれるって……!?」



メイリーンには刺激が強すぎたのか、ブクブクと口だけ沈めると頬を赤らめながらジーっとエリネールを見つめた。



「私は……さっきも言いましたけどずっと部屋にこもってましたから、正直恋愛とかも良く分からないし……そ、その、男の人とのあれこれも……」



メイリーンの頬が更に赤く染まっていく。



「そうか、まあそれはこれから覚えればよいじゃろ。 まだ若いのだからな。

焦らずゆっくりじゃ」



「はい! あの、エリネール様って俗に言う色眼持ちなんですか? その、紫の」



「そうじゃな。 だから魔法や魔術に関しては専門じゃ」



「綺麗ですね! 紫は私も好きな色です」



「綺麗、か。 そう眼の色を褒められるのは嬉しいものじゃ。

色眼持ちは基本、常軌を逸しておるからな。

恐れられるか、敬われるかのどっちかでしかない」



「私は怖いなんて感じません! 私が箱入りとは言え、この前まで戦争の相手だった国の人間をこうして温かく迎えてくれてる。 だから、エリネール様は大好きです!」



「クロもそうじゃが、お主も大概よの。 エリーで構わんぞ」



「エリー様……じ、じゃあ私もメイって呼んで下さい!!」



「ふふ、あはははは」



「はははっ」



「にしてもバカ王子とは大違いじゃな。 まああれと一緒にされたくはないじゃろうが」



「正直、顔を合わせたのは何年も前ですからね。 ただ、エリー様との件は城内でも噂になってまして……妹として申し訳なく思います」



「よいよい、確かに沢山の命が失われた。 だが、それはそちらも同じじゃろ。

まあ、私情で戦争を始めた罰は受けてもらったがの」



実際にイーリス城ではアルフレッドが正気に戻った後も、その憔悴しきった様子を見て、魔女の呪いの恐怖に兵達が怯えていた。



「あの……私、本当に魔法使えるようになりますか?」



「さっきも言ったが、それはお主次第じゃ。 まあ部屋に居た分、イメージは他の物より劣るかもしれんが――」



「本は沢山読みました!」



すっごい自信満々にメイリーンは告げる。



「そ、そうか。 まあやってみてじゃな。

これも何かの縁、ここにいる間は妾が教えよう」



「ほ、本当ですか!? やったぁ~」



「クロは独学じゃから教えられる方も苦労しそうだしの。 では、そろそろ出ようか。

その後少し話をしてから寝るとする」



「はい!」



二人は風呂を後にし、クロが待つ客室へと向かった。




※ ※ ※ ※ ※




「――っ! ――!」



ん……声がする。 最近よくあるこのパターンは……



ガバっ!



「ん~何だ? 物凄い……寝心地の良さそうな……枕……」



ムニュムニュ……


ムニュムニュ……



ゴチンッ!



「――ッ!?」



「起きたかバカ者!」



「ああ、エリーおはよう」



「人の乳を揉みながら挨拶をするでないわ」



「そっか、枕じゃなくてエリーの宝(・)袋(・)か」



「意味の分からぬ比喩表現をしながらムニュムニュするでないわ! 話をするから起きろ」



メイはその光景を見て、またもや頭から蒸気を出しながら真っ赤な顔を両手で覆っていた。



・


・


・



「クロ、最低! 信じられない!」



「いや、むしろ最高なんだぞ? エリーの――」



ガンッっと魔術で発現した氷の塊がクロビの顔面を捕らえる。



「それはもうよい、話を進めるぞ? クロ、お主は純魔鉱石を採りに行くといったな?」



「ぞう、ぞでがじつようだんだ」



クロビは鼻血を出しながら答えた。



「確かに、神霊山には純魔鉱石がある、が……」



「ヤバイ魔物も居るって事だよな?」



神霊山は元々魔力が濃く、その分強い魔物が多数存在する。


中でも、純魔鉱石がの採掘ポイントは岩竜の住処が近くにあり、襲われる危険性が高いのだ。



「ちなみに、岩竜はハンターで言えばS級じゃ。 そういった意味でも、正直メイを連れていくのは」



「そ、そうですよ、ね……」



メイリーンは自分の無力さと、二人の命の重みを強く感じ、悔しそうな表情を浮かべる。



「じゃが、それでも一緒に行くという覚悟があるなら妾は止めぬよ。

ただし、死と隣り合わせになる事は覚えておいて欲しい」



「そうだな。 普通の魔物程度ならこんな事は言わないが、目的は神霊山だし。

まあ、それでも決めるのはメイだ! この冒険の主(・)人(・)公(・)はお前なんだからな!」



「物語の主人公……冒険……うん、私行きたい! 無謀かもしれないし、迷惑かけちゃうけど、それでもやっと、初めて外に出れたんだもん! クロ、私を連れてって下さい!」



メイリーンは強い覚悟でクロビに向き合った。



「宜しい。 じゃあ妾も行くかの!」



「ん? エリーも来るのか?」



「なんじゃ? 嫌なのか? それに弟(・)子(・)の教育もせねばならんからの」



「弟子……し、師匠!!!」



メイリーンはさっきまでとは比べ物にならない程の喜び溢れる表情を浮かべてエリネールに飛びついた。



「まあ、エリーが教えた方がいいよな! じゃあ今日はゆっくり休んで明日に備えるか!」



「メイ、お主は妾の部屋じゃ。 クロよ、今夜は一人じゃが、変(・)な(・)気(・)は(・)起こすなよ?」



「おいおい、お前は俺をなんだと思ってるんだ」



「飢えた獣じゃろ。 油断も隙もないからの」



「まだこないだの事を根に持ってるのか……」



実際にエリネールはその飢えた獣に骨の髄まで貪り尽くされた。



「根には持っておらんが、今日はダメなのじゃ! また今度にしておくれ」



「今度ならいいのか、分かった」



「クロ! ま、またそうやってエエエ、エッチな事ばっかり考えてるの!? 本当に最低よ!」



メイリーンがまたもや顔を赤くして叫ぶ。



「メイは少し誤解をしてるぞ? まあ、その辺はエリーにでも聞いてくれ」



「じゃあアラン、クロの案内を頼む」



「畏まりました。 ではクロ様、以前使用された部屋ではありますが、ご案内します」



アランがクロビを連れて部屋を後にした



「さて、メイはこっちじゃ」



「はい!」



そうして案内されたのは、エリネールの寝室。


以前クロビとエリネールが激しい死闘を繰り広げた場所でもあった。



二人はベッドに腰かけ、寝る準備をしていく。



「でも、あれですね。 エリー様はイーリスだと悪い魔女の印象が強いんですけど、実際にお会いしたら全く別でした! 優しくて、まるでお母様みたいです」



「お主の母は、エイラじゃったの」



「はい! あっ、もしかして母を知ってるんですか?」



「お主の母とは友人じゃったよ。 あやつも高い魔力を持ち、魔術より魔法に向いておったからな。 惜しい友を亡くした……イーリスは昔から派閥争いが激しい国じゃ。

今で言えばお主と第二王女の争いが水面下では行われているじゃろう」



「第二……ミューラですね。 確かに、あの人は常に私を見下すように見て来ます。

あまり気にしてはいないんですけど、それも現王妃ネリーゼ様の影響かと」



「ほう、お主も引きこもりの割りによく見てるの」



「私の侍女が優秀なのもありますけどね! ミラって言うんですけど」



「良い侍女を持ったようで良かった。

しかし、ネリーゼか……現王妃は昔から嫉妬心の塊の様な女じゃったからの。

妾も初めて会った時、かなり昔の話じゃが、初対面で罵倒されたものじゃ」



「ええ!? そんな人だったんですか?」



「そうじゃの。 それをエイラがよく宥めておった。

まあ、妾もそもそも気にしてはおらんかったが、そうした出来事を期にエイラと友人になったのじゃ」



「何か素敵な話を聞けた気がします。 ありがとうございます!」



「ふふ、まあ言えばお主は娘みたいなもんじゃ。 気楽にな。

おやすみ、メイ」



「はい、おやすみなさいエリー様」



二人は目を閉じ、ゆっくりと意識を手放していった――


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