表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒き復讐者の交響曲  作者: Rさん
第Ⅲ章 ~エマーラル大陸編~
30/111

開戦とキマイラ


ここはローズベルドとイーリスの国境――≪ディネル大橋≫



双方の国土を繋ぐ大きな橋が架かり、その下には穏やかな大河が流れている。


既に両軍は布陣し、この橋を挟んで対峙していた。


橋の中央にはローズベルド国女王、西の魔女エリネールと騎士団総長のディック。


イーリス国第一王子のアルフレッドとS級ハンターのレオンが立つ。



「して、今回の戦は何を求めての事じゃ?」



エリネールが不敵な笑みを浮かべてアルフレッドに問う。



「知れた事を! エリネール、貴様が俺の妃になるか、ローズベルドが落ちるかの二択だ!」



アルフレッドの目的はやはりエリネールだった。

求婚を承諾すればローズベルドは助かるがイーリスの傘下、もしくは同盟国となってエリネールは時期王妃候補として嫁がなければならなくなる。


しかし、断ったとしてもイーリスがローズベルドを侵略し、国が滅ぶ。

当然、滅びた後はエリネールが捕虜としてイーリスへと連行される。


どちらを選んでも行き着く答えは〝エリネールがイーリスに下る〟という事だった。



「なんとも身勝手で理不尽極まりない選択じゃ。 結婚と言えば互いに愛を以て生涯の伴侶を誓い合うものなのじゃが……お主にはその愛が一片も感じられぬ」



ほろほろ、と涙を拭う仕草で健気な王女を演じながらエリネールが嘆く。



「ふん、ならばこれから俺を愛せば良いだろう! そもそも愛のない政略結婚なんて王侯貴族なら言わずもがなであろう!」



アルフレッドはプライドが非常に高い。

金髪、青い眼と王族によく見られる見た目ではあるが、グラーゼンの王子ゼオールが爽やかな柔らかいイケメンとすると、アルフレッドは褐色の肌でワイルドなイケメンだ。


そして、王子と言う立場もあってかプライドと同じくらい自信に満ち溢れ、それが結果として欲しいものは全て手にしないと気が済まない性格へとなってしまったのだ。



「それは無理な話じゃな。 政略だとしても互いの利に同意してこそ……故に妾はお主との結婚に利を全く感じぬのだ」



実際にエリネールはローズベルド国の拡大を望んではいない。


また、イーリス国がエマーラル大陸にて脅威になるのであれば、それが政略だとしても酌量の余地はあったかもしれない。


しかし、ローズベルドは魔法に優れた国であり、その女王は西の魔女と呼ばれる〝色眼持ち〟


これまでイーリスには幾度となく攻め込まれたが、それを全て跳ね除けてきた強国なのだ。



「それにの~? 色恋沙汰で癇癪を起してくる我儘小僧が次期王になったらイーリス国民が不便でならんぞ?」



「貴様……その余裕がいつまで続くと思うなよ! 首を縦に振らぬのなら武力を以て分からせるまで!」



アルフレッドの交渉は決裂。


それぞれ自軍に戻り、再びディネル大橋は静寂に包まれる。


そして――



「もはやローズベルドとの交渉は決裂した! これまで幾度となく機会をくれてやったが致し方ない! ここで魔女エリネールを討ち、イーリス拡大の礎とする! 者ども、かかれぇー!!!」



アルフレッドの掛け声と共にイーリス軍が進軍を開始した。



「前衛の魔導師団は障壁を張り後衛は攻撃魔法を放て!

ローズベルドの比類なき魔力の差を焼き付けさせるのじゃ!!」



エリネールもまた、進軍するイーリス軍を眺めながら各部隊に指示を出した。



「さて、妾も興に乗ずるかの。 戦の幕開けは〝派手〟でなくては面白みに欠ける」



笑みを浮かべながらエリネールが両手の平を高く上げ、詠唱を始める――



「――星の源より素を圧し、天に集うは生誕の瞬光。我が眼前たる敵を滅し、新たな息吹を与えん!

――≪星々の終焉(コスモノヴァ)≫」



エリネールの詠唱によって上空に大きな魔法陣が描かれ、突撃したイーリスの先行部隊周辺に幾つもの光の粒が撒き散らされた。


その範囲内にいる騎士や兵はただ光っているだけの粒に困惑しながらも、我に返ると再び足をローズベルド軍へと進める。


しかし――



エリネールが上げた両手を前にかざし、手の平を閉じる。


それが合図となったのか、散らばった光がその中心部に集結すると、眩い光を放ち、ドガーン!!!っと大爆発を引き起こしたのだ。



爆音が鳴り響き、辺りは爆煙に覆われる。



「これくらいにしておくかの。 他の者の楽しみが無くなってしまっては士気も下がってしまう。

妾は後ろで観戦しとるから後は頼んだぞ」



「「「はっお任せを」」」



「陛下に続くのだ! この機を逃してはならんぞ!」



魔導師団総長が声を荒げて部下に指示を飛ばす。




「くっ、さすがは魔女と言ったところか……だが、この程度では終わらんぞ!

魔術士は障壁を展開しろ! 騎士団とハンターは前衛の奴らを蹴散らせ!」



アルフレッドは被害を顧みずに各部隊に指示を出した。


恐らくエリネールからの攻撃はあれで終わると踏んでの事だ。



「本より魔法での攻撃を仕掛けて来るのは分かっていた。 だが、こちらも策を講じていない訳ではないぞ、エリネール……」



次第にローズベルド軍の騎士団も障壁を飛び出し、イーリス側とぶつかり合う。


エリネールによるたった一度の魔法によって既にイーリス軍は500人もの兵達を失ったが、未だ突撃の勢いは衰えていない。


中には上級ハンターも数十人いる事で、武器での戦闘はイーリスが有利であったのだ。


次第に両軍の激突が激しさを増し、ディネル大橋には沢山の亡骸が転がっていった。




※ ※ ※ ※ ※


少し時は遡り、≪ローズベルドの街≫



「ここが城か~、とりあえず来てみたけど……大半は出ちゃったのか」



クロビは呑気に城へと赴いていた。



城は小山から見た限りでは小高い丘の上にあると思ったのだが、実際に目の前にすると、非常に大きな木の上に建てられていた……と言うよりも、建てた城の下から長い年月を経て木が成長し、城の中を通って外に伸びてるのか。


まあ、魔女の住処らしいと言えばらしいな。


大樹の麓には洞窟の様な入り口があり、他国者はここから入って試練を受けるようだ。



「とりあえず来てみたものの……誰もいない。 そのまま入っていいかな?」



クロビは誰の許可を得る訳でもなく、そのまま進んで行った。


入口には本来受付になる場所があり、そこを越えると中は壁に一定間隔で灯りの魔道具が設置されている。


奥へと進んでいくと、上へと繋がる階段が目に入った。



「結構上まであるな……とりあえず上るか」



階段は結構急斜に作られていて、50メートル程。上り切るとそこは広い空間。


地面に魔法陣が描かれている為、恐らく試練の場なのだろう。



「これで魔物を召喚するのか。 ちょっとやってみたかったな……」



そう思って先に進もうと陣内に踏み込んだ瞬間、それは光出した。



「うぉ! 光ったって事は……でも俺測定してないぞ?」



本来は謁見を希望する人の魔力を測定し、それに見合ったレベルの魔物を召喚する試練。しかし、受付が留守だった事で、そのレベルは不明。


次第に魔物が姿を現し、クロビと対峙した。



『ゴォアアアア!!!』



召喚されたのは〝キマイラ〟


獅子の頭に山羊の身体、蛇の形をした尾。


世間ではA級の魔物に指定されているのだが、クロビはその知識が無かった。



「うおー! なんだっけ、えっと……キマイラ! 名前は知ってるけど、強いのか? まあこれ倒せば城に行けるんだよな! よし!」



『ゴアッ!』



キマイラがクロビに向かって火を吹き、避けた所に尾の蛇が咬みついて来る。



「よっ、さすがのコンビネーションだな。 でも時間掛けてられないんで!」



手から黒鎌を形成すると、スパッっと蛇を切断した。



『グアァァァ!!』



キマイラは痛みを感じてるのか、感じてないのか、そのまま爪で切り裂く様に前足を振るう。



「おっと」



クロビはガードしたが、その勢いに押されて後方まで飛ばされた。



「危ないな。 普通の服だったら八つ裂きだっただろうけど、残念」



そして、左手をかざして術式を展開させる――



「―呪縛の鎖(スペルチェーン)―」



するとかざした手の前に浮かんだ術式から鎖が飛び出し、キマイラを拘束した。


呪縛の鎖は闇属性。対象を捕縛、拘束する時に使う魔術だ。


キマイラは身動きが取れずに『グアッ!グアッ!』とジタバタ暴れている。



「これでさよならだ!」



クロビは手に持つ鎌を鋭い槍に形成し、真っ直ぐキマイラの額目掛けてぶん投げた。


その速度は上級ハンターでも目で終えるかどうか位だろう。黒い槍はキマイラの額から身体を貫通して消える。


そして、キマイラも光の粒になってその場からいなくなった。



「よし、俺の勝ち」



すると、奥でガコッという何かが開く音がした。


クロビはそのまま更に階段を上り、出口であり、城への入り口らしき扉を開ける。


そこは謁見の間の様な部屋に繋がっていて、床にはレッドカーペット、天井には豪華なシャンデリア、そして正面には煌びやかな玉座が目に入った。



「さすが王城、豪華だなーってここも人がいないのか?」



クロビはそのまま横にあった扉を開け、外の様子を見る。そこは廊下になっていて、とりあえず右に進んでみた。


「いや、隣の部屋まで遠いだろ……」と独り言を呟きつつも進んでいると、正面に扉が見える。



「一応、ノックした方がいいかな?」



そして、コンコンと扉を叩いてみると、中から声が聞こえた。そして、恐る恐る開けてみると、中には執事らしき人物が立っていた。



「やっと人が居た! って勝手に入ってすいません」



「おやおや、ここはエリネール女王陛下の私室になります。

さすがに部外者を入れる事は出来ませんので、こちらへどうぞ」



そう言って執事の人は応接室へと案内してくれた。


謁見の間らしき部屋を出て左だったようだ――




応接間に着くと、執事の人は紅茶を入れてくれた。


名をアランと言うらしい。


白髪交じりの髪を後ろに流し、髭が口を囲う様に生えている少々強面のお爺さん。


とは言え、歳を感じさせない程に背筋はピンと伸び、武芸を嗜んでそうな身体つきだ。



「急にお邪魔してすいません。 でも大丈夫ですか? 自分で言うのもあれですけど、勝手に入って来たのに……」



「まあ、本来はそうですが、それでも試練を受けて来られたのでしょう?

こうした留守を狙って来る輩の為に、試練も非測定時には防衛としてA~S級の魔物が自動で召喚されるようになっているのです」



「あっそうだったんですか!」



じゃあキマイラってヤバい魔物だったのね。また一つ勉強になりました。



「ですが、それを乗り越えたという事は入城資格があるという事ですよ。

ただ、今は知っての通り戦中ですので、ここで得られるものはないかと」



「そうですよね……。 じゃあこれ頂いたら――!?」



「どうかされましたか?」



「あ、いえ。 紅茶頂いたら出ますね」



「もしお急ぎであれば、今はイーリスとの国境ディネル大橋に布陣してるはずですから、そちらへ赴くのも宜しいかと。

どうやらお強いようですからね。 城を背に真っ直ぐ街を出れば着きますよ」



「分かりました! じゃあ行ってみますね!」


クロビはせっかくの紅茶をゆっくり味わいながら頂き、部屋を後にした――


※評価、ブクマ、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ