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黒き復讐者の交響曲  作者: Rさん
第Ⅲ章 ~エマーラル大陸編~
27/111

入港と各国の状況

グランディーネ号・四日目――



クロビは激しい二日酔いとサラとの激闘によって満身創痍ではあったが、逆に眠気が覚めてしまったのか、無事に早朝から鍛錬を開始し、後にゼオが合流するという普段通りの時間を過ごしていた。


とは言え、ゼオも激しい二日酔いだった為に、先ずは体調を整える事から始めたようだ。


にしても昨日の海賊戦でゼオ自身も予想以上の成長を遂げていた。


そして、今日は目的地である『水の都グラーゼン』へと入港する予定だ。


まだ時間はあるのだが、クロビはゼオに告げる。



「ゼオ、一応今日が最終日だろ? だから昼位には体調も戻ると思うから卒業試験をしようと思うよ」



「卒業試験、そうだね。 最後に相応しい提案だ。 でも、具体的には何をするんだい?」



「勿論、俺を相手にする!」



「……だよね。 ただ、勝ち目がないと思うんだけど」



「まあ、それはやってからだな。 先ずは二人とも二日酔いをどうにかしよう」



そういって各自室に戻り、一先ずは仮眠を取るなどして体調を整えるのであった。




そして昼過ぎ――



二人は万全ではないのだが、ある程度落ち着いた事もあって準備を済ませ、甲板に出た。



「とりあえずこれまで教え込まれた事を全部出して、本気で来い!!」



クロビは手から黒棍を出す。



「分かった!」



ゼオも剣を出して魔力を散布していく。


(クロは棍を……槍と同じでリーチがあるが、懐にさえ入り込めば……いや、でもそれでどうこう出来る相手じゃない)


ゼオは先日の海賊との戦いの際、敵船に乗り込んだ時のクロビの戦闘を目の当たりにしていた。


数人に囲まれても流れる様に敵を叩き潰し、接近戦に持ち込まれても表情を一切変える事なく剣や腕を棍に絡めて薙ぎ倒していく。


だからこそ、ゼオは安易に踏み込めないのだ。


(こうして対峙すると、棍を構えている訳ではないのに威圧さえ感じる……)


こうして二人の間に沈黙が流れてから数分。



「これでは時間が掛かりそうですね」と、遠くからレバンがコインを投げた。



そして、チャリンと音を立てて船床へ落下した瞬間――



「――っ!」



ゼオが身体強化をかけた足で力強く踏み出し、クロビへと飛び掛かった。



「たぁ!」



ゼオの振り下ろす剣がギン!とクロビの棍とぶつかり合う。


そのまま二人が鍔迫り合い、数秒後。


ゼオはサッとポーチから散弾銃を取り出し、クロビの胸部を目がけてドンっ!と放つ。


クロビはすかさず身体を横にずらし、魔散弾を躱すと棍を一回転させながらゼオの足を払う。


しかし、ゼオは既に銃をポーチに戻しており、バク転をしながら転倒を回避して距離を取った。



「いや、そこで銃が来るとは思わなかったな! さすがに焦った」



クロビは嬉しそうに棍を構え直す。



「良い作戦だと思ったんだどね。 残念ながらクロには通じなかったよ」



「マジックポーチを上手く利用して戦うなんて、きっとゼオが初だな!」



次は俺からだ!とクロビが縮地を使って一気に距離を縮め、鋭い突きを繰り出す。



「わっ!?」



ゼオは何とか気配を感じ、身体を横にずらして回避したが……「予想通り!」


クロビは突きの勢いを活かし、そのまま横に回転しながらゼオに後ろ回し蹴りをした。



「ぐうっ!?」



縮地による速度も加わり、予想以上の衝撃で吹き飛ばされたゼオはそのまま右舷の手すりにぶつかる。



「くはっ!……はぁ、はぁ」



「まだいけそうか?」



「も、もちろん! まだ……始まったばかりだからね」



ふらつきながらもゼオは立ち上がり、剣を構える。


そして「確か……こうかっ!」


そう言った次の瞬間、今度はゼオがクロビとの距離を詰め、横回転を加えながら剣を横一閃に振るった。


クロビはそれを棍で防ぐが、更に回転の勢いを活かして下段の後ろ回し蹴りで足を払われた。



「ちっ!」



しかし、ゼオの勢いは止まらず、更に勢いを活かしたまま足を高く上げて、倒れたクロビへかかと落としを放つ。


クロビは腕を交差してガードをしたが、その衝撃はベキ!と音を立ててクロビが倒れている船床へと伝わり小さなクレーターが出来上がったのだ。


クロビは倒れたままゼオに蹴りを放つが、躱されて二人が離れる。



「おいおい、ゼオの才能には参るな。 見ただけで縮地を会得するなんて」



「自分でも出来るとは思わなかったよ。 これもクロのお陰さ!」



以前のゼオがどの様な戦い方をしていたかは分からない。でも、こうして交えるとちゃんとこれまで教えた事を活かし、ものにしている。


もう卒業は文句なしの合格だ。


だが、それはそれ――



「じゃあそろそろ終わらせるぞ! このままだと船が壊れそうだし、特別に俺特有の戦い方を見せてやろう!」



「望むところ!」



二人が縮地を駆使して鍔迫り合う。


そして、ゼオが最初と同じように銃を出して魔散弾を放つ。


当然クロビはそれを躱すのだが、まるで誘導されたかのようにゼオが剣を逆手に持ち替えて振り抜く。


クロビは間一髪で躱し、銃を蹴り上げた。


飛ばされた銃はクロビの後方へと落ち、ゼオは剣のみになる。



「よし、いくぞ!」



クロビは突きを放ち、それをガードするゼオごと押し飛ばす。


そして、ある程度の距離が出来るとクロビが踏み出し、側宙の状態で遠心力を加えた棍を叩きつける。


ゼオはそれをすかさず剣でガードをしたのだが、あまりの衝撃に片膝をついてしまった。


だが、まだクロビの攻撃は終わっていなかった。


ゼオがガードした事でクロビはその反動を利用して更に跳躍し二回転目の攻撃に転じたのだ。


さすがに次は耐えられるか……、しかし、直撃すればそれこそ終わる。


膝をついてしまった事で逃げる事が出来ないゼオは覚悟を決めて身体強化を引き上げた。


そして更なる遠心力で振り降ろされた棍の衝撃に集中した、のだが……


振り下ろした時、何故かクロビはその手に棍を()()()()()()()()



「なっ――!?」



ゼオは何が起こったのかを理解出来ていなかった。


棍の衝撃に備えたはずなのに、感じたのは振り下ろされたクロビの手からの風圧だった。


しかし、我に返った時にはもう手遅れだった。


クロビの手元を見れば、先ほどは持っていなかった棍を()()()()()()()()


そのまま振り上げられた棍は顎を打ち抜き、ゼオの意識はそこで途切れた。



「クロ様、お疲れ様でした。 実に見事な手合わせでした」



「正直ゼオがここまで伸びてるとは思わなかったですけどね」



「それは私も同感です。 一先ず運びますので、クロ様は汗を流して下さい」



レバンはゼオを運び、クロビは自室へと一旦戻った。



湯あみを済ませ、着替えを済ませるとそのままゼオの部屋を訪れる。


コンコン、とノックをすると、レバンが「どうぞ」と招き入れてくれた。


ベッドを見ると、ゼオは意識を取り戻して起き上がっている。



「ゼオ、体調はどうだい?」



「クロ、いや~少しクラクラするかな」



「一応、簡単に診ましたが問題はなさそうですよ」



「ならよかった」



「それにしても、クロの最後の攻撃は原理がまったく分からなかったよ」



「ああ、あれはね……」



そう言ってクロビは手から黒棍を出した。



「この棍は実在する武器じゃなく、俺が作り出してるものだからね。

手元なら出し入れが自由自在なんだよ」



「そういう事だったのか……最初の一打の衝撃で体勢を崩して逃げられないようにする。

そして追撃をする事で構える。 その結果、来るはずの攻撃が来ない事に油断が生まれた……」



「一つの戦術だな」



「そっか。 完敗だよ」



「でもゼオ、無事に卒業おめでとう!」



「いいのかい!? 私は負けたのに……」



「いや、そもそも勝ち負けは見てない。 本気出したら俺が勝つだろうし、もし敵同士なら魔術も遠慮なく行使するだろ?

重要なのはゼオがちゃんと成長しているかどうかだったから」



そういってクロビは左腕の袖をまくり上げた。



「痣?」



「そう、ゼオのかかと落としでこんなだ」



「そういえば私も左肩に痣が出来てたよ。 クロの蹴りを受け止めたからね」



お互いに痣を作り、最後の手合わせの激しさをそれが物語っていた。



「後はレバンさんなり、騎士達との鍛錬で練度は上がると思うよう!

それに、今度こそバンディットモンキーの討伐をオススメするよ」



「バンディットモンキーか……」



「あいつら色んな武器を使うし、チームワークバッチリだからな。 下手すれば武術を磨くのに最適な魔物だと言えるんだ」



「あれらはグラーゼンの近くにも生息してるから挑戦してみよう」



「お二人とも、紅茶が入りましたので、どうぞ」



「「ありがとう」」



こうして二人はゆっくりとした時間を過ごしていく。



そしてクルッシュを出て四日目。



航海は海賊との戦闘こそあったが、問題なくグラーゼンへとたどり着いた。




※ ※ ※ ※ ※


≪水の都グラーゼン≫



港には沢山の船が碇泊していた。



「クロはこのままローズベルドを目指すのかい?」



ゼオ、クロビ、レバン、サラは港に降り立っていた。乗員達は積み荷を運び、恐らくグラーゼンの騎士団らしき人達が曳航した海賊船の調査と捕縛した海賊を連行していた。



「そうだな。 戦争が始まると俺も目的が遠のいてしまう。

今のうちにサクッと向かって情報を集めるよ」



「クロ、ここまで短い期間だったが本当にありがとう。 まさか友と呼べる人に再び巡り合えるとは思ってもいなかった。過去は変えられない。 

しかし、未来は今からでも作れる。

私は私の道を、クロはクロの道で再会を果たそう!」



クロビとゼオは抱擁を交わし、熱い握手をした。



「クロ様、殿下の道を支える事が前提となりますが、こちらでも情報を集めてお会い出来ました時はお伝え致します」



「ありがとうレバンさん。 次はレバンさんとも手合わせしてみたいですね!」



「私なんて相手になりませんよ」



レバンは笑みを浮かべて謙遜する。


そんなはずないのに……



「クロ様、楽しい時間をありがとうございました。 またお会い出来ました時の為に腕を磨いておきますね」



「サラさん……程々にお願いします」



するとサラが耳元に近づき、


(これはささやかなプレゼントです。 

また辛い事がありましたらいつでもお待ちしておりますよ。 あ・ま・え・た・さ・ん)



「――っ!?」



サラはそう囁くとポーチにそっと袋を入れた。



「クロも隅に置けないね。 サラがここまで心を開くのは珍しいよ」



「ゼオ様、人の事言えませんよ」



「!?――そっ、そうだね……」



サラがさりげなくツッコミを入れる。



「と、ともかくクロ、気を付けて! 一応これがローズベルドまでの地図になるから参考にするといいよ!



後、これが書状ね。 クロの場合はどうなるか分からないけど、エリネール女王に会えたら渡すと良い。 少しは話を聞いてくれると思うから。


イーリスは既に軍を整え、恐らく三日以内にはローズベルドに向けて進軍する。

一応、気を付けてね」



「助かるよ! なら早めに向かった方がいいな。 俺はここで、皆! また会おう!」




クロビは皆と別れて先ずはグラーゼンの入り口へと向かった。



※ ※ ※ ※ ※


≪イーリス国≫




「アルフレッド殿下、既に軍の招集は完了しております。 また、ローズベルドの上級ハンターもこちらへ向かっているとの事。 明日には到着予定となります」



「順調に整っているのだな。 良くやった。

エリネール・ヴィズ・ローズベルド……黙って私の女になれば良いものを。

くっくっく……いつまでも城に引きこもっているからこうなるのだ!

父に真意は悟られるなよ! 本来は休戦状態だったが、ようやく計画を遂行出来るのだから」



「はっ、恙なく……」



ゼオールがイシュカを失う切っ掛けとなった5年前の戦争、元はイーリス国の王フラーネス・ロウ・イーリスが国の拡大を目論み吹っ掛けたものではあったが、その後にローズベルドとグラーゼンが同盟を組んだ事で休戦状態となる。


フラーネス・ロウ・イーリス自身はそれでも進軍を諦めずに軍の強化を図っていたのだが、その翌年、第一王妃であったエイラ・ロウ・イーリスの死によって進軍への意欲を無くした。


その後、第一王子であるアルフレッド・ロウ・イーリスが軍の実権を握り、絶世の美女と謳われる西の魔女、ローズベルド国女王のエリネール・ヴィズ・ローズベルドへ幾度となく妃にと迫るのだが、悉く断られ続けたのだ。


アルフレッドは強欲で、望むものは全て手にしなければ気が済まない性格で、最後のチャンスだと武力行使に出たのだった。


当然、王であるフラーネスはそんな事で軍を動かす事は許さない。


それは元々武人であるが故。


だからこそ、アルフレッドは戦争になるよう1年前から計画を練っていたのだ。


闇組織を雇い、魔女と名乗らせ自国に強襲を掛ける。


そして、ローズベルドが仕掛けたと広める。


その結果、現在へと至るのだった。



「皆に伝えろ! 明日、ハンター達が到着し次第ローズベルドへ出陣する!」



「「「はっ!」」」




※ ※ ※ ※ ※


≪ローズベルド国≫




「そろそろ動いて来る頃かの、こちらの準備はどうじゃ?」



「はい、既に万全です。 街自体にも結界を張っておりますので、戦が始まっても街への被害は抑えられるかと」



「宜しい。 最終的にはあちらが五千、こちらが三千といった所か……」



「真っ向からぶつかれば勝機は薄いかと」



「そうでもない。 妾も出るし、あちらは先ずは第一王子が交渉に来るはずじゃからの。

あやつは欲深い……それ故に、今回の戦争の本質を隠す為、自ら先頭に立つであろう」



「そこが狙い目だと?」



「まあどうなるかは分からんが、少なくとも交渉次第でどうにでもなるじゃろう。

ただ、結婚をしてやるつもりは毛頭ないがの。

引き続き偵察を頼むぞ」



「はっ!」



「全く、迷惑な王子じゃな。

それに比べてグラーゼンの王子は素直なのにのう」



「陛下、先ほどそのゼオール・デル・グラーゼン王子が戻られたとの事です。

恐らく、戦争の事を聞き付け、自国防衛に力を入れるのでしょう」



「ほう……少しは力を付けていれば良いが。

この件が落ち着いたら久しぶりに会いに行くとしよう」




エリネールはワインを片手に、不気味で妖艶な笑みを浮かべていた――




※ ※ ※ ※ ※


≪グラーゼン国≫




ゼオ達はクロビと別れると一目散に王城へと訪れた。


城へ入るとサラはその足で筆頭侍女への報告のすべく王宮へ向かい、レバンはゼオと共に王の待つ謁見の間へと足を進めた。


謁見の間に繋がる扉を開けると、そこには王と王妃の両陛下、横には第二王子のタリオと宰相、騎士団長とその部下数名が居る。



「陛下! お話し中の所申し訳ありません。ゼオール・デル・グラーゼン、ただいま戻りました」



王である父、シュバルトへ片膝を立てて頭を下げる。



「おぉ、無事に戻ったかゼオ! 待っていたぞ、実に2年振りか……」



「ゼオ、よく戻って来ましたね。 会いたかったですよ」



シュバルトの横でウェンディール王妃も久しぶりの息子との再会に涙を浮かべた。



「母上、無事戻りました。 お二人共お変わりありませんか?」



ゼオにとってもハンターとしてこの国を出て2年、世の情勢を調べつつも、やはり家族の事は必ず考えていた。


それはイシュカという友を失った日から、そうした過去があるからこそ、大切な存在を護っていきたい。その想いが根源にあるからだろう。



「ゴルデニアにおりましたが、戦争の話しは私にも届いておりましたが……」



「そうだな。 密偵が戻り次第こちらも軍議を開く予定だ。

ローズベルドと同盟を組んでいる以上、援軍要請の可能性もあるかもしれん。

軍議にはゼオも参加して欲しい」



「はっ、畏まりました」



「以上だ。 ゼオ、時間はあるからせっかくだ、私達に旅話しを聞かせてくれ」



こうしてゼオは昇級試験で受かればA級のハンターになる事、ゴルデニアの現状、そして知り合ったクロの事、古武術を身に付けた事などを話した。


勿論、クロが〝紅眼の死神〟である部分は伏せて。



「なるほどな。 ゼオ」



「はい、父上」



「私達は元々武に優れている訳ではない。 この国も争いのない平和を常に望んでいる」



「そうですね。 私もそれが一番の目標である事は変わりません」



「ただし、平和を望むにもやはり力が必要なのは揺るがぬ事実だ。 その力、歩む道を踏み外さぬようにな」



「はい、勿論です!」



「しかし、クロと言ったか……ゼオは良い友に巡り合えたのだな!」



「ゼオがあんなに活き活きとした表情を見せるのは本当に久しいですわよね、貴方」



目の前で両陛下が嬉しそうな表情を浮かべるのを見て、ゼオは気恥ずかしそうに苦笑した。



「兄上、僕にもその、武術を教えて下さい! 僕もこの国を護る為の力を付けたいです!」



「タリオ、久しぶりだね。 しばらくは国にいるつもりだから、時間がある時ならいいよ」



「本当ですか!? 約束ですからね! 兄上はそのままどこかへ行ってしまう()()()なんですから!」



どうやらゼオは弟との約束をいくつもすっぽかしているらしかった。



「ごめんごめん、今度はちゃんと守るよ」



タリオは今度こそ!と目を輝かせた。



しばらく雑談をしていると、偵察に向かっていた密偵部隊が城へと戻って来た。



「では、これから軍議を始める!」



謁見の間から会議室へと移動し、現状や今度の方針を話し合うのだ。



「始めに、現在の状況を説明してくれ」



「では私から」



先ほど戻って来た密偵の一人が説明していく。



「現在、イーリス国は既に軍備を整え、明日明後日にはローズベルドへ向けて進軍を開始するかと。

また、ローズベルドに在籍していた上級ハンターを寝返らせ、力を削いでいるようです」



「明日明後日か……だが、援軍要請をするのであれば既に通達してくるはず。

それが無いという事は、西の魔女自ら出るのかもしれないな」



王が密偵からの情報を基に状況を推測していく。



「ゼオ、どう考える?」



「はい、恐らくそれで間違いないかと。 レバンの情報によると今回の戦争も第一王子の色恋沙汰が発端。

それでこちらが巻き込まれては甚だ迷惑ですが……

とは言え、同盟を組んでいる以上、グラーゼルに攻めて来る可能性もゼロではありません。 イーリス側の強化を進言致します」



「レバンも優秀だな。 既にその体では動いているが、飛空魔動機を使われては防ぎようもない……」



〝飛空魔動機〟



ドーバル軍事要塞の壊滅時、紅眼の死神から逃げる為にゴルバフが小型の魔導飛空艇へと搭乗した。 それが当時では試作段階であったのだが、後に設計図が各国に出回り、軽量や縮小などの改良を重ねた結果、数年の時を経て完成へと至った。



サイズは直径で1メートル、横幅は2メートルの単機専用。


国によってその形は異なるのだが、イーリスが所持する飛空魔動機はマンタをモデルにされている。


金属で出来たマンタ型の板に立ち、魔力を流す事で足元に組み込まれた【吸着】の魔道具で足場が固定され、【浮遊】・【風】・【噴射】を魔力調整にてコントロールしながら可動させる乗り物だ。



ちなみに、マンタと言うのはこの世界では


〝ヴェイグスカイマンタ〟


を指す。


魔物の一種で、海魚類ではなく空を泳ぐように飛ぶ“空魚類”だ。


体長が大きなもので6メートル程で、性格は非常に穏やか。


繁殖力に乏しい為に全大陸を渡っても目にする事が出来るか否かと非常に希少な存在でもあった。その為、目にする事が出来た者は幸せが訪れるという言い伝えもある程なのだ。


しかし、実際に遊泳しているのは非常に高い場所である為、地上から肉眼で確認するのは難しい。


だから見えたとしても朧気である事からヴェイグスカイマンタ(幻の空飛ぶマンタ)という名称となったのだ。


また、聖戦時代に神がマンタに乗って地上へと降りて来たという文献や歴史書もあり、マンタに乗れば天の国へと行けると信じている国もある。


どちらにしても希少な生物である事には変わりなく、その存在を確認する為だけにハンターを目指す者も少なくない。




イーリスでは設計図を基にすぐさま飛空魔動機に力を入れ、第一王子が魔力の大量保持者を集め、飛空魔動機部隊を設立した。



「ともあれ、国の防壁強化をするに越した事はない。 そこは騎士団長に一任する」



「お任せ下さい」



「後はローズベルドの出方次第だな……では、会議はここまでとしよう」





各国がそれぞれ偵察を送り、状況に合わせて今後の方針を決めていく。


そして、グラーゼンでもゼオはあの時の悲劇を繰り返さない為に、一層力を入れて会議室を後にした――


※評価、ブクマ、よろしくお願いします!

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