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黒き復讐者の交響曲  作者: Rさん
第Ⅱ章 ~航路編~
21/111

古武術中級

古武術編終わります。


翌日――



前日の酒を控えめにした事で、クロビはいつも通り夜明けの時間に目が覚め、一人で甲板へと向かう。


乗員の中には既に起床して出航に向けての準備をしている者もいた。



「おはようございます。 ここで鍛錬しても平気ですか?」



「おう! ただ忙しくなるとそこもバタバタするかもしれないからその時は頼むよ」



乗員に一応挨拶をし、クロビは鍛錬を始めた。


最近になって取り入れた重力魔術を施した棍で演武。


騎士や兵士が使う槍は軽くて5~6キロ。また、それに鉄やミスリルなどが加わるとより重量は上がるが、それだけ威力も高くなるのだが、今クロビが施しているのは凡そ4倍で、棍の重さは20キロ程になっていた。


素振りの際は柄の下部を持って腕の負担を大きくする。


それを1時間程続けていると、船内からゼオが出て来た。



「おはようクロ」



「おはようゼオ」



お互いに朝の挨拶を終えるとゼオはクロの演武を眺めていた。



「ふぅー、朝の鍛錬終わり!」



「さすがの一言だね、クロの演武は綺麗だ!」



「まあ昔からこれだけは欠かさずやってるからな」



やり慣れてるとは言え、勿論熟しでは意味がないから魔術を施してたりもするんだが。



「私は……まだ身体が動かなそうだよ」



「筋肉痛か、でもその状態だからこそやった方が良かったりもするぞ」



筋肉を壊しつつ、そうして体に馴染ませていくのも習得速度を上げる方法の一つだった。



「まあ、いきなり昨日みたいな演武は難しいと思うから、ゆっくり組手をやろう」



「クロは鬼教官だね。 まるでレバンみたいだ」



レバンってそうだったのか。まあ、倒れても笑顔で立ち上がらせそうだもんな。


とりあえず始めよう。


そう言って二人はゆっくりと組手を始める。すると、作業をしていた組員達が次第に集まってそれを眺めだした。



「何か注目されてる……」



「王子の組手が珍しいんじゃないか?って集中力が切れてるぞ」



「ご、ごめん」



「じゃあ折角だし少し速度を上げようと思うが、いけそうかい?」



「少しなら問題なさそうだね」



ゼオの了承を経て少しずつ速度を上げていく。


そして、速度が上がる度に乗員達が「おー!」とか騒ぎ始めるのだが……仕事はしないのかな?


そのまま更に1時間程組手を終えると、ちょうど良いタイミングでレバンとサラがタオルを持って船内から出て来た。



「朝から張り切ってましたね。 こちらをどうぞ」



レバンがゼオに、サラがクロビにタオルを渡して船内に戻る。


湯あみで汗を流し、朝食を終えると出航の準備が整ったようで、ゼオと合流してブリッジでと足を運ぶ。



「リック、今日も頼む」



「任せな殿下、しっかりとグラーゼンまで運んでやるさ! ガハハハ!」



リックと名乗るのはこの船の船長らしい。


これまた筋骨隆々で船長帽を被ってるが白髪でもみあげと顎鬚が繋がっている。


口には葉巻を咥え、まさに海の男……いや、海の漢だ。


ブォー!っと出航の合図が響き渡り、グランディーネ号はクルッシュから離陸していく。


グラーゼンまでは四日ってゼオが言ってたな。


それまでとりあえずはのんびりするか。



「ゼオ、俺は甲板で海でも眺めてるよ」



「分かった。 私は少しやる事があるから用があれば部屋に来てよ」



船長室から別れ、甲板に出る。


クルッシュの街が少しずつ小さくなり、やがては見渡す限りの海だ。


ここまで……カルネールを出てから距離はそこまでだが、色んな出会いがあったな。


まあ、主に魔術とか武術の手解きだったが。


にしても戦争、か。


魔女から黒炎についての情報が得られればいいんだけど……今のところは前途多難だなー。


そんな事を思ってると、後ろから突然声が掛る。



「クロ様、宜しければ紅茶をご用意しますが、いかがですか?」


レバン……いつから居たんだ?気配は素より足音すら聞こえなかったぞ。


こうなったら良い機会だ!



「レバンさん、お気遣い感謝します。 にしてもレバンさんって何者なんですか?」



「これはこれは、いつもの癖でつい。 失礼致しました」



「いや、大丈夫ですけど……」



「私はしがない執事ですよ。 ただ少し、武芸を嗜んでおります」



いや……嗜む程度で足音は消せないよ……



「そういえばゼオが言ってたな。 レバンさんに指南を受けていたって」



「はい、剣術とその他近接武器が得意分野ですので」



近接武器……足音や気配が消える……それは影で動く方々ですよね?



「しかし、クロ様は末恐ろしいですね」



「そうですか?」



「あの棍棒、魔術でもなければ金属類でもないですよね? 非常に禍々しい気配がしますが」



「っ!? えっと、これは――」



ここは正直に言うか、それとも隠し通すか……と言うかこの人相手に隠し通せるのか……そう考えていると、


「申し訳ありません。 誰しも隠したい部分はあるものですね」


レバンは謝罪を口にしながらも微笑みを崩さずにクロビを見つめ、更に続ける。



「異質かとは思います。 ですが、私としては殿下……ゼオール様やグラーゼン国に害が無ければそれで構いません」



なるほど、レバンはこう見えても強い忠誠心を持っているようだ。



「私は殿下の父君、つまりはシュバルト・デル・グラーゼン国王に拾われ、忠誠を誓い、そして殿下の専属として幼少期から仕えております。

私からゼオ様の過去をお話しするのは立場上出来かねますが、殿下がクロ様と出会い、本来の明るい性格に戻られました。

その事実は変わりませんし、私にとっても大変喜ばしい事なのですよ。

だからこそ、害をなす事は友を裏切るのと同義。

その時は……」



そう言ってレバンは普段の笑みとは想像もつかない程の濃厚な殺気を漂わせながらクロビと向き合った。


この人はそれほどにゼオの事を思い、大切にしてるんだ。

なら、俺もここはちゃんとその思いに応えなければならない。



「レバンさん、安心して下さい。 俺は目的の為に旅をしてますが、そこで出会った人達を裏切ったり、まして敵意や害を向ける事はしませんよ」



すると、口だけならいくらでも、と考える事も出来るのだが、レバンは殺気を抑えていつもの微笑み顔に戻る。



「失礼致しました。 殿下のご友人に対しての無礼をお許し下さい」



「いえ、それだけ大切にされてるって分かりましたから大丈夫です。

それに、ここはどちらかと言えば言葉よりも体現した方がいいのでしょう。

それを短い期間ですけど、見守って頂ければと思いますよ」



あれだけ謎だったレバンという人物を多少なり知る事が出来た。だから俺も自分を見せながら信用してくれたら嬉しいな。



「ありがとうございます。 では、長く話してしまいましたが、こちらへどうぞ」



こうしてレバンに連れられてクロビは紅茶が用意されている客間へと足を運んだ。


そして紅茶を飲みながら窓から海を眺める。


優雅な旅だな。まるでどこぞの貴族の様な気分になる。


まあ、前は一応貴族だったんだけど……。


すると、しばらくしてからゼオが客間を訪れた。



「クロ、ここに居たか。 ようやくこちらも落ち着いたので探してたんだ」



ゼオはクロに向き合う形でソファに腰を掛け、同時にレバンが紅茶を運ぶ。


まるでゼオが来るのが分かってたかのような手際の良さだった。

もう驚くのは止めよう、流石です。



「それで、探してたって何か用があったのか?」



「そうそう、まだ身体は復活してないが、身体強化をすればある程度は動く。 だから後で組手ではなく、実戦形式で教えてほしいんだ」



「なるほど、それは構わないが……その分身体強化を解いた後が地獄だぞ?」



筋肉痛も含めて、魔力で強化すれば問題はない。実際に騎士や兵はそうやって戦場を駆けるのだ。


ただし、当然の事だが無理やり身体を動かす分、反動は通常の比にならないのだ。



「それでも身体の馴染みが早いならそれに越した事はないと思う。 私なら大丈夫だよ」



ゼオは何かに焦っているのか?っと疑問を持ちつつも、その真剣な眼差しで止める事は出来なかった。



「では、そろそろ昼食の時間になりますので、その後で宜しいのでは?」



そうレバンが促す。もうそんな時間か。


三人はそのまま食堂へ向かい、昼食を取り、レバンを置いて二人で甲板に向かう。


航海は順調だった為、乗員も基本的には船内での作業をしていて、甲板に出てる乗員は少ない。



「じゃあ先ずは武器無しで。 その後でゼオは剣と銃だからゼオの戦闘スタイルに合わせてやってみよう! ただ、俺もそうだが、銃を使っての武術は見た事ないからここは話し合いながらになるよ」



「分かった。 では頼む」



こうしてゼオは身体強化を掛け、組手を始める。



「先ず、実戦形式で言えば相手がどんな型で、どういう攻め方をするのかを見るんだ。

そして、それに合わせてこちらも攻め方を決める」



武術は流派によって異なる。また、実戦の場合だと、例えば騎士であれば騎士道に則り王道の攻め方をするが、盗賊や海賊などの所謂“賊”達は純粋に殺し合いになる為、急所ばかりを狙う邪道のやり方をする。


中には殺す事より、苦しむ姿を楽しむ者もいる訳で、慈悲などそこにはないのだ。



「恐らくゼオもレバンさんからの指南は分からないけど、城で習ってた剣術は王道だと思う。

だから、そこだけは覚えておいて!」



「確かにそうかもしれないね。 ただ、私も騎士団遠征に混ざったりハンターとして魔物を討伐して来たから“殺す”事に問題はないと思うよ」



命の奪い合いと言っても、学園などでの稽古と実戦は全く異なる。だから人によっては魔物ですらその命を奪う事に躊躇してしまう事もあり、盗賊とは言え同じ種族を始めて手に掛けた時に心が弱いとそのまま剣を握れなくなる事も少なくないのだ。



ゼオはその心配はいらないと言った。だから俺も遠慮なく教える事が出来るので、ある意味助かるよ。



「じゃあ始めるよ。 武器のない場合は基本的に相手の力の流れを読み、受け流したり躱して攻撃をするのが基本かな? こちらから攻めるよりも相手からの方がやりやすいんだ」



ゼオにゆっくり攻撃をさせて、俺がそれを流す、躱す、その時の動きでどういう型で反撃出来るかを伝えていく。



「なるほど、そういう戦い方なのか。 だから戦う前に挑発するのは策でもあるんだね!」



「そういうやり方もあるね。 じゃあ速度を上げていくよ」



少しずつ、時に変則的な動きを見せてゼオに流れを教えていく。


そしてしばらくしてからクロビが「本気で」とゼオに伝える。


実際にどういう流れになるのか、それは身をもって知った方が早いからだ。



「じゃあ遠慮なく!」



ハッ!っとゼオはクロビに向けてパンチを繰り出す。身体強化をしている分、速度も強度も増している。


しかし――


気付けばゼオは天を仰いでいた。



「えっと……クロ、何が起こったんだ?」



目をパチパチさせながらクロに疑問をぶつける。


ゼオが繰り出したのは右の真っすぐなパンチ。だから力の流れは前に向かう。


対峙していたクロビは左手でそのパンチを右側に受け流すと同時に、右掌でゼオの顎を後方に押し出したのだ。


人は目で見ている方向に力が流れる。


だからパンチをする時は力も正面に向かうのだが、振り払う事での横からの力によって体勢が崩れてバランスを失う。


すると、力の流れが制御できずに身体はそのまま前に進むのだが、クロビの掌によって頭は後方へと押し出される。


つまり、首から下は前に力が流れ、頭は後ろに力が流れる形になるのだ。


そして、人は頭が一番重いからゼオは自分の力を利用されてそのまま後方に一回転して倒れたという訳だ。



「そんな事が起こっていたのか!? まるで分からなかった……」



「説明した通り、人は目で見る方向に力を流すから、死角から急に力が加わると対処出来ないんだよ。



例えば歩く時は前に向かってるから前に力が流れるだろ?

でも、片方の足が地面に着く前に横から振り払われると着地しようとしてたのにそれが出来ず、バランスを崩して倒れてしまう。


そんな風に相手の力の流れを利用してこちらが主導権を握るんだよ。

これを覚えると力のない少女でも巨漢を倒す事も出来る様になる」



「なんと! それは凄い!」



「じゃあ今のを俺にやってみよう。 後はやり込んで力の流れを自分で感じ取れれば大体の事は出来るよ」



再び組手からその流れを意識し、投げや関節、カウンターなどを組み合わせていった。


こうして2時間程が経過した所で休憩をクロビは休憩を入れる。



「どうだ? 何となくでも分かって来たかな?」



「そうだね。 少しずつだけど、感覚は掴めてきたよ。 魔力の流れを感じるのと似てるからかな?」



「確かにそうかもな。 実際に力の流れは目に見えないけど、魔力は魔術が使えれば見えるようになるし」



実際に力の流れを感じるにはそれ相応の鍛錬が求められるのだが、元々剣術指南を受けていたゼオだからこそ、感覚を掴むのも早いのかもしれない。


休憩を終えた後、ゼオは自分が普段使ってる剣を持ち、剣術と古武術を合わせた“剣技”を学んでいく。



「剣で戦う時、武器を手にしてるからこそ、無意識的にも刃で敵を討とうとする。

でも、戦い方によっては剣の柄だって、鞘だって相手にダメージは与えられるんだ」



「なるほど! 確かに剣は斬る、刺すを主体にするからそこには意識が回らない。 だからその考え方は斬新で面白い!」



ゼオは顎に手を当てながら、納得と新しい発見に目を輝かせる。


こうして二人は引き続き鍛錬を行い、船は順調にグラーゼンを目指していった。





その夜――


昨日と同じように湯あみを終えると、食堂でゼオが待っていた。


今夜も新鮮な海の幸をふんだんに使ったコース。


にしても高貴な方々の食事は毎回大変そうだな。いや、確かに美味しいんけど、毎日違うメニューを考えるってだけでもう……。


コックは偉大なる存在だな。


そして食事を終え、二人はゼオの部屋で紅茶を飲みながら今日行なった指南内容を復習しながら雑談を交わしていた。



「そういえば、ゼオは何でそこまで強くなりたいんだ?」



ゼオは俺と知り合ってからというもの、特に武芸などに関しては興味津々だった。


それに短い期間とは言え、身体を酷使しているのは事実なのだが、それすらも厭わない姿勢を崩さなかった。



「強く、か……。 そうだね、クロには話してもいいかもしれない。 

いや、聞いてくれると嬉しいよ」



そう言ってゼオは自分の過去をゆっくりと話し始めた――


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