王子と旅人
ちょっとのんびりな感じになります。
説明が多いですが、ご了承下さい。
ミリアレアの独創的な服へと着替えたクロビはイーリス国行きの船に乗る為、クルッシュの港へ来ていた。
とりあえず受付へと向かうと、何やら人だかりが出来ている。
それに、集まる人達はピリピリとした雰囲気で、受付の人達も忙しなく走り回っていた。
「すいません、イーリス方面の船に乗りたいんですけど」
……。
「あの……?」
あれ、誰も聞く耳を持ってくれない。
もう一度、近くの受付嬢らしき人を引き留め、聞いてみると――
「申し訳ありません。 現在イーリス行きも含めて、全船欠航となっております」
そう言っていそいそとその場から立ち去ってしまった。
何が起こってるのか聞けず仕舞いだったな……。仕方ないから、と周囲の人達の会話に耳を向けていると、現在イーリス国は貿易も含めて他国との関りを全て遮断しているようだ。
「えーっと、欠航って事は乗れないのか……どうするかな……」
予定が崩れてしまったクロビは海を眺めながら港をブラブラし始めた。
既に日も沈みかけ、海が朱色に輝いている。
クルッシュの港は貿易船、旅客船、私船とそれぞれの碇泊区域があり、すぐ隣には貿易船から運ばれた物資などの仕分けする工場、漁船から魚などを引き上げる工場がある。
港湾都市と言うだけあって本当に広いな。
そんな事を思いながら海を眺め、黄昏ていると私船碇泊区域に見覚えのある男の姿が目に入った。
もしかしたら何か知ってるかな?っと軽い気持ちでクロビはその男の場所へと向かう――
「ようゼオ、こんな所で何してるんだ?」
「おっ、誰かと思えばクロじゃないか! と言うか……その服装はどうしたんだい?」
「これは――」
とりあえずミリアレアの独創的な作品で、とその経緯を話し、宣伝もしておいた。
気に入ってくれたらあそこの店も多少は繁盛するだろう。
「なるほど! にしてもまた凄い服を作る人がいるんだね。 私も今度寄ってみるとしよう!」
よし、作戦成功だ! これで少しは服飾界の革命の力になれたかな?
と、そんな事を思ってると、ゼオの後ろから別の視線を感じた。
「ゼオ、後ろの人はパーティーの人か?」
「いや、彼は……」
「彼は?」
ゼオがちょっと焦り気味の表情を浮かべていると、後ろの男がクロビの前に立って口を開いた。
「これはこれはクロ様、お初にお目にかかります。 私はレバン、と申します。
グラーゼン国第一王子であるゼオール・デル・グラーゼン殿下の専属執事です。
どうぞお見知りおきを」
「ちょっとレバン!!」
「殿下、この方は大丈夫ですよ」
「何が大丈夫!? せっかく友が出来たというのに……」
何か急にゼオが揉め始めたな。って言うか、ゼオって王子だったの!?
まあ……第一印象を聞かれたら間違いなく〝王子様〟って答えるけど。
その辺のハンターよりも格段に気品があったし。
「とりあえずゼオはもう友達だろ? それは別にどこぞの王子だとしても変わらないぞ?」
ちょっとは驚いたけど、実際に知り合ったのはハンターとしてのゼオだし、俺は王子だと知って畏まるような性格じゃないぞ!
まあそれはそれでどうかと思うのだが、そこは愛嬌という事で。
「そう言ってくれるのは助かるよ。 別に隠している訳ではないんだけど、ハンターとして活動する上では何かと不便なんだよね」
「確かに王子だと知れたら悪徳商人や盗賊が目を光らせそうだしな」
「クロも今まで通りで接してくれると助かるよ」
「心配するな。 肩書なんて友という関係には邪魔なだけだし」
そういうとゼオはホッとした表情で微笑んだ。
「良かったですね殿下」
「レバン、結果オーライだけど、不用意な発言は止してくれよ。 心臓に悪いから」
「申し訳ありません。 以後気を付けますね。 では私は戻ります」
レバンは挨拶を済ませると船に戻って行った。
「私はこの立場もあって親しい人間は限られる。 と言うか、そこまでの関係にならないと言った方がいいかな。 私欲の為に謀る輩も少なくないからさ」
まあ王子だしな。貴族ならどうにか繋がりを作って自力の向上の為に動くやつらは多いだろう。それに貴族は形式に拘るから、親しくなったとしても最低限の礼儀は崩れない。
「王子もそうだし、王侯貴族は大変だよな。 まあ俺は形式に拘らない主義なんで。
と言うか正直に言えば俺はグルーゼンの民でもないから例えゼオが王だと言ってもこの態度は変わらんぞ」
そう言うとゼオは嬉しそうに大きな声で笑った。
「曲がりなりにも王子の私にそんな事を言う人は初めてだよ! あっでも似た奴は過去にいたけどね。
まぁクロ、これからもよろしく頼むよ」
「おう!」
そうして二人は改めて熱い握手を交わしたのであった。
「そういえばクロはここで何をしてたの?」
「俺はローズベルドに行きたかったんだ。 それでイーリスへ船で渡ろうとしたんだけどなー」
「船が欠航になって行き詰っているという事か」
「事だ。 と言うか、何があったかゼオは知ってるのか?」
「……実はね、イーリスがそのローズベルドへ戦争を仕掛けようとしているんだよ」
「戦争……か。 そりゃあ欠航になるよなー。
ってそれじゃあローズベルドに行けても色々騒がしそうだ」
ローズベルドに戦争を仕掛けるって事は西の魔女に会うのは難しいって事だよな。
でも、そのまま西の魔女が戦死になったら俺の今の目的が果たせなくなってしまう……
どうしたものか……って考えても仕方がないからとりあえず行くだけ行くか!
「なあゼオ、ゼオはこの船でグラーゼンに帰る予定なのか?」
「そうだよ、これはグランディーネ号。 私の私船だ。
隣国が戦争となっては、グラーゼンにも被害が出る可能性があるから一度戻って状況の確認をする!」
「じゃあ、ゼオが良ければだが、その船に乗せてくれないか? 金は払う! 頼む!」
ここで逃すと色々と後手に回ってしまう。ここはどうにかしてでもエマーラル大陸へ渡らなければ。
「いいだろう! 私の数少ない友人からの頼みだ! 聞かない訳にはいかないさ!」
おぉ、潔く了承してくれた!助かるー!
でも、友人と偽れば金とか普通に騙されそうだな……まあその時はレバンって人がどうにかするか。
あれ、只者じゃなさそうだし。
「ではさっそく船を案内しよう!」っとゼオと共に船に乗り込む。
乗員は積み荷の整理などをしていて、出航は明日の朝のようだ。
※ ※ ※ ※ ※
ローズベルド国
「皆揃ったかの? では軍議を始めるぞ」
王城では女王エリネールが口火を切り、対イーリス軍に向けての軍議を開いていた。
大きな円卓には女王をはじめとして宰相、外相、財務大臣、魔導師団総隊長、騎士団総隊長、隠密部隊長などの幹部達が集まっている。
「エリネール様、イーリス軍は現在三千の兵を集め、部隊編成を行なっている所です。
また、その中には我が国のハンターも引き抜かれているようです」
隠密部隊長が自国の情報と視察後の報告をする。
「三千、か。 それは良いのじゃが、国のハンターが引き抜かれるというのはどういう事かの?」
「はい、以前からイーリス国のハンターが出入りしている事は分かってました。
しかし、ハンターは基本自由が認められている為、単に出稼ぎに来ていると思われていたようですね」
ローズベルト国その領地内に神霊山がある事で有名だ。
マナが集まり、濃い魔力に覆われた山。
マナとは魔力の根源であり、生物が死を迎えるとその魂は肉体から離れ、マナに還ると言われている。
その為、神霊山に生息する魔物は非常に魔力が高く、他の大陸に生息する魔物とは比べものにならない程に強靭な肉体を持つのだ。
当然、危険度も高く、ギルドでは素材や魔石が高値で売れる。
「なるほど、まあよい。 で、こちらの軍は如何ほどじゃ? 総隊長達」
「魔導師団は第一、第二、第三で500人程、見習いを含めれば800人程度になりますが、戦力としてはいささか不安が残るかと……」
「騎士団も出陣可能な騎士は500人、兵を含めれば1000にはなるかと」
「ざっと2000程……まあ妾が出れば兵力は補えるし十分なのじゃがな」
「本来であれば陛下を戦場に出すのは誠心苦しいのですが―「よい」――」
「妾も元は戦人、まして自国や民を守るのは責務じゃよ。 引き続き軍の増兵とその強化を図れ」
「「「はっ」」」
「では財務、兵糧やそこにかかる費用は足りそうか?」
「はい、食料などは騎士団が以前に討伐したワイバーンなどの魔物肉を干したものが備蓄されておりますので、一月程であれば問題ありません。
費用に関してもローズベルドは魔法重視ですから武器などは予算内で収まります」
「よろしい。 こちらは迎え撃つ立場じゃ。 攻めてくるのであればそこは問題なかろうな」
こうして中間報告を終え、幹部達はそれぞれの職務を全うすべく、部屋を後にした。
「さて、イーリス、何故この時期に攻め入るのじゃろうなぁ? どうせあのバカ王子が癇癪を起したのじゃろうが……」
「影達は引き続き情報を集めよ。 ルル、妾はちと街に出るぞ」
「「御意っ」」
サッ!と諜報部員が散開する。
「私は陛下の影にて待機致します」
そう言ってルルと呼ばれる諜報部隊長は女王の影の中に身を潜めた。
「相変わらずの心配性じゃの~、ではアラン、後は頼むぞ」
「はい、 いってらっしゃいませ」
女王も執事服の男に一声掛け、その場を後にした――
※ ※ ※ ※ ※
クルッシュ ゼオールの私船 グランディーネ号
船内はさすが王子の船、と言える程に豪華なものだった。
乗員は全部で30人程だが、貴族用の列車よりも華やかで貴族が住む家にも負けず劣らずだろう。
「クロ、どう?って言っても私は正直ここまで豪華じゃなくていいんだけどね」
「まあそこはほら、王子の面子だろ?」
「そんなところだね」
そんな話をしていると、レバンが紅茶と焼き菓子を並べてくれる。
船は波で揺れてるのにバランスを一切崩さず、高く上げたポットから紅茶をカップに注いでいるのだ。
やはり只者ではないな……っとそんな視線を送るとレバンはニコっと微笑む。
「クロ様は旅人でしたね。 出身は東方国ですか?」
「そうです。 まぁゴルデニアに移りましたけど」
「そうですか、でしたらこちらをどうぞ」
レバンはティーワゴンから別のお菓子を取り出した。
「こちらは東方国の伝統的なお菓子で、豆を砂糖で煮て小麦粉などを練った薄い皮で包んだ“饅頭”というものです」
わー久しぶりに見た。まだ東方国に居た時に見た事があるやつだ。でも食べた事は無かったな。
「ありがとうございます。 これ見た事はありますが、食べるのは初めてです」
「それは良かった。 どうぞご堪能下さい」
さっそく一口食べてみる。 甘味が広がり、でも癖がなくサッパリとした感じだ。美味い!
「美味しいですね! これならいくらでも食べれそうです」
「殿下もどうぞ」
レバンはゼオにもお皿に乗せた饅頭を運んだ。
「ああ、ありがとう」
そういってゼオも口に入れ、饅頭を堪能した。
「では、私は外で控えてますので、何かあればお呼び下さい」
そう言って一礼をし、レバンは外に出た。
「そういえば船が欠航になった事でクルッシュの宿は全部満室だけど、クロは宿とってないでしょ?」
まるで当然かのようにゼオは言い当てて来た。
「今日出航する予定だったからな……考えてなかった」
「なら、ここに泊まればいいよ。 明日にそのまま出航出来るしね」
「いいのか? 何かそこまでしてもらうと若干だが申し訳ない気持ちが……」
「問題ないよ! でも、その代わり武術を軽くでも教えてほしい!
勿論、そんな簡単に習得出来るとは思ってないから、基礎を教えてくれたら嬉しいよ」
「それならお安い御用だ。 寧ろお釣りが来るくらいだな」
にしても、俺の旅路は魔術だったり武術だったり、誰かに教えてばかりだなー
「よし、じゃあ船の甲板に行こう。 流石に屋内だと狭いだろう」
二人は甲板へと向かっていった――
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