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黒き復讐者の交響曲  作者: Rさん
第Ⅰ章 ~ゴルデニア大陸編~
18/111

西国の動きと新しい服


魔導戦乱期にドーバル軍事要塞から突如現れた〝魔導兵器〟――


従来、剣や槍などの武器と魔術行使が主体だった戦争が、この魔導兵器の登場によって常識が一気に覆された。


接近戦でも遠距離戦でも魔力が続く限り攻撃可能であり、その威力は弓などを遥かに凌駕する。




━━━━━



・魔導機銃――連弾射出型


二脚や三脚で固定し、引き金を引き続ける事で魔弾を連続して発射が可能。 ただし、携帯移動は不可。



・魔導銃――単発式射出型


携帯可能な所謂ライフルであり、単発式ではあるがその分命中精度は上がる。



この二つが戦乱期を代表する魔導兵器である。



なお、魔導銃類は一種の魔道具の集合体だ。


それぞれのパーツに【蓄積】【装填】【射出】などの付与術式が施され、弾倉に魔力を蓄積させ、本体に装填する事で回路から魔力が供給される。


そして、引き金を引くと魔力が弾となって射出されるのだ。


また、無属性の純魔力であれば鋭い魔弾が発射され、火や水などの属性術式を込めれば【属性魔弾】となって威力を高める事も出来る。



現在ではゴルバフが設計図を売りさばいた結果、様々な開発が成されて小型化、軽量化に成功。



ただし、平民や下級貴族などが手にする事で国の存亡に関わる可能性がある為、基本的には王族から公爵まで、騎士団の場合は団長・副団長、ハンターであればS級・A級までと制限されているのだが、王からの許可が下りた際にはそこに当てはまらなくても使用が可能となる。


ただし、その事実を約2年間外界との接触を断っていたクロビ自身は知らない――



━━━━━



ゼオは散弾式魔導銃に魔力を注ぎ、近くに生えてる小さな木に向かって引き金を引く。


すると、ダンッ!っと装填された魔力の塊が無数の弾となり、広範囲に発射された。



「今ってこんなのになってるんだなー!」



クロビは感心したように改めて魔導銃を見つめた。


放たれた魔散弾によって木は粉々に吹き飛んでいる。



「これはそこまで飛距離がないから外した時の為に剣も構えてるんだよ」



二段構えの戦闘、そりゃあA級も近い訳だな。ってかやっぱりあの猿達倒せたんじゃ……



「でも、クロの棍法や古武術も凄いよね。 何か洗練された感じだ!

もし、クロが良ければだが、次に会う事があれば教えてくれないか?」



ゼオはどうやら古武術に興味深々のようだ。と言うか、力になるものは全て吸収していきたい感じかな?



「そうだな、その時はみっちり地獄を教えてあげよう」


「えっと……お手柔らかに頼むよ」



お互いに笑い合い、鍛錬も終えた所でゼオは「じゃあ!」と言ってその場を離れた。




※ ※ ※ ※ ※




「レバン、居るかい?」


クロビと別れた後、ゼオは細い裏路地に入って声を掛ける。



「こちらに」



すると、ゼオの背後には綺麗なお辞儀をする執事服姿の男があった。


20代後半と少々若めだが切りっとした顔立ちで青い眼、黒よりも青みがかった“紺色”の長い髪を束ねて、左目はチェーン付きの方眼鏡を着用している。



「現れる時も無音……さすがとしか言いようがないよレバンは」



「それはそれは、勿体無きお言葉」



レバンは微笑みながらもお辞儀の姿勢を崩さない。



「何か情報はある?」



「そうですね、好ましくない話が一つ」



良い話ではないにも関わらず、常に笑顔を絶やさないレバンに、ゼオは「はぁ~」と溜め息をつく。



「嬉しそうだね。 とりあえず教えて」



「畏まりました。 先ほど、イーリス行きの船が欠航になりました」



「欠航……?」



「はい、どうやら戦争の準備に入ったようです。 相手は――」



「ローズベルドか……」



「ご慧眼に感服致します」



イーリス王国は以前からローズベルトのエリネール王女に執着していた。


と、言うよりもイーリス国第一王子であるアルフレッド・ダル・イーリスがエリネール女王に惚れ込み、手段を選ばず求婚をし続けているらしい。



「しばらく休戦してたはずなのに……開戦までの期間は?」



「恐らく一週間後には」



「分かった。 明日にはここを出てグラーゼンに戻ろう。 引き続き頼むよ」



「手配しておきます」



レバンは改めて礼を取り、音もなくその場から消えた。



※ ※ ※ ※ ※



ゼオと別れた後、クロビは宿に戻って朝食を取り、クルッシュの街を巡っていた。


服が出来るまでの時間つぶしだ。


そして、エマーラル大陸に向かう前の旅支度を整え、夕刻を迎える――



「すいませーん! 服、取りに来ました」



「はーい! いらっしゃいませ」



あれ?すんなり……って思ってると奥からミリアレアではなく、別の従業員が出て来た。


茶髪でビシっとオールバックのポーニーテル。


青い眼でキリっとしていて、背もミリアレアと同じく160後半、胸は普通サイズ。


ミリアレアが天然キャラなら、こちらは気の強い姉御だな。



「ミリアレアさんにオーダーした服を取りに来たんですが」



改めて伝えると、「ちょっと待ってて」と再び奥に消えていった。


しばらくすると――ガンっ!とか、「ふえーん」と、何かがぶつかる音やミリアレアであろう泣き声が聞こえてくる。


そして――



「う、うぅ~いらっしゃいませー、ぐすん……」



なぜか涙を流しながらミリアレアが出て来た。



「えっと……大丈夫?」



「うぇ~ん!クーロー様ー!! ひどいんですよっ! ミレアちゃんが虐めるんですぅ~!」



「こらこら、お客様に対して私の悪口を言うんじゃありません!」



バシッ!


ミレアはミリアレアの頭に手刀を放ち、変な事を吹き込むな、とツッコミを入れた。



「うぅ……で、クロ様どうしました?」



「いや、だからオーダーした服を取りに……今日だよね?」



あっ!っとミリアレアは乱れた髪を直し、服を整え、ビシっ!っと敬礼のポーズを取り始めた。



「クロ様、ご注文の品は完成済みであります!」



「何で急に軍人なのよ……」



どうやらこの二人、ミリアレアがボケてミレアがツッコミのようだ。



「では、さっそくですが奥に来て下さい!」



ミリアレアは店の奥にクロビを招き入れた。奥には大きなテーブルが置いてあり、デザイン画や魔道具が組み込まれた裁縫機が置いてある。



「クロ様! 先ずはこちらが――」



そう言ってジャジャーン!!っとテーブルの上に並べたのは少し光沢のある黒いズボン、そして、袖なしの白いシャツ。


「クロ様、先ずはこちらを一度着てみて下さい! ズボンはブラックワイバーンの皮で作ってますので、頑丈で火や水などの耐性もありますよっ!」



いきなりワイバーン素材か、何か平民服にしては豪華過ぎるんじゃないか……?


一応、戦闘を見越してはいるけど……

クロビはミリアレアに急かされるように試着室へ移動し、着替える。


――サイズもフィット感も申し分ないな。



「ク、クロ様……素晴らしい二の腕……うふふふっ」



また始まった。ミリアレアの別人格とでも言おうか、変態覚醒!



「ミリ、涎垂らしながら接客するんじゃないわよっ」



ビシっっとミレアの手刀が打ち込まれた。本日二度目です。



「はっ!意識が飛んでましたぁ~! で、では気を取り直して、こちらがロングコートになります!」



またも、ジャジャーンと言う効果音を自分で口ずさみながらテーブルにロングコート、らしきものを披露した。



「あれ、ミリアレアさん……これってまだ途中なんじゃ?」



「いえ、完成してますよ!」



するとミレアが補足をする。



「クロ様、ミリが作る服は一般の物とは異なり、かなり独創的なデザインなのです」



なるほど……



「じゃあ説明しますね! このロングコートは凄いですよ、頑張っちゃいました!

先ずですね、こちらもワイバーンの皮を使用してるのですが、何と言っても、〝メタルスパイダー〟の糸で縫い合わせてます!勿論、中地はボーダー上に編み込んでもいますよ!」



メタルスパイダーは蜘蛛の魔物で、体内で作られる糸は魔力を有している為に鉄よりも硬い糸として、服飾産業では重要な素材になっているのだ。



「ですから剣で斬られても余程の切れ味じゃない限りはその下の肌を傷つける事は難しいですね~!

で、左手は長袖になってるのですが、右手は袖無しです。 これはクロ様の戦闘スタイルが槍術だという事で、この形がベストかと思います。

また、ボタンは上半身部分までで、裾部分は中央から開いてるので、槍術における踏み込み時に足の動きを邪魔しません!

もはや槍術使い専用コートと言っても過言ではありませんね!!

左右対称の時代はもう終わり! 時代は左右非対称なのですぅ~!!!」



長い説明を終えると、ミリアレアは最後に拳を掲げて突然火が付いたように新時代の幕開けを宣言しだすのであった。



「いや、凄いね……」



「クロ様、すみません。 でも腕だけは良いので、腕だけは」



ミレアは呆れた表情で謝りつつもフォローはしっかりと入れる。



「実はこれ、クロ様の髪型を見て思い付いたのですよ。 左側だけ刈り上げて右に流してますからね」



「確かに髪型は左右非対称にしてるな。 でも服でってすごい発想力だと思うぞ」


そう、俺は安易だがあまり見ない髪型にして政府の目を誤魔化しているのだ。

きっとバレない。そう確信している。自分だけだけど。



とりあえずミリアレアの発想力を褒めると、えへへ~っとご満悦な表情を浮かべる。



「ちなみに、コート自体『クリーン』の魔術が付与されてますので魔力を通せば清潔を保てます!」



何か至れり尽くせりなコートだな。と言うか、この一式か。


ブラックワイバーンの素材とメタルスパイダーの糸でかなりの耐久性で斬られにくく、クリーンの魔術付与がされている。


もう無敵って言っても良いよね?



「じゃあ最後の最後にこちらのブーツを履いて下さい!

やっぱりロングコートにはロングブーツです!」



ミリアレアはやるならとことんタイプなんだな。でも靴も買い揃える予定だったから一石二鳥だ。


クロビはコートを羽織り、ベルト式のブーツもしっかりと履いてミリアレアコーデが完成した。



「一つ良いかな?」



クロビはミリアレアに恐る恐る尋ねる。



「なんでしょう? も、もしかして満足頂けないですかっ!?」



「いや、逆だよ。 大満足なんだけど……30000ゴルドで足り、た?」



「えっと……だいぶオーバーしました……すみません」



「やっぱり……」



俺はどの素材が幾ら掛かるのかなどは分からないが、ここまで凄い服だからそりゃあ足りないよな。

ってか俺が全額出しても足りなそうなんだが……



「クロ様、後5000ゴルド追加して下さいっ! それで手を打ちます! お願いしますぅ~」



ミリアレアは涙と鼻水を垂らしながら必死に縋り付いてくる。



「えっ? 5000ゴルドでいいの? なら良かった!」



そう言ってクロビは残り分をミレアに手渡して会計を済ませた。



「料金を追加してしまってすいません……。 私、服を作り始めると納得のいく形になるまで妥協できなくて……」



やっぱり職人気質なんだな。でも、腕が伴ってるからそれは良い事ではないだろうか?


まあ、オーダーメイドの時は考えようだけど。



「それに、普段オーダーされるのは貴族のドレスがメインだったので……

私、自分が作った服を平民の方々にも着て欲しいんですよね。

だから貴族以外のオーダーはクロ様が初めて、第一号だったのです!」



「そうだったのか。 まあ俺もこれは満足してるよ。 というか、今後作るとしてもミリアレアさん以外には頼めないな」



「ほ、本当ですか!? ありがとう~クロ様~」



ミリアレアはクロビの手を取り、再び涙を流しながらブンブンっと振る。



すると会計を終えたミレアが戻って来た――



「クロ様、そちらは着て行かれますか? でしたら着て来られた服はどうしましょうか?

こちらで処分する事も可能ですよ」



ん~もう切れないし、ボロボロだからな……



「じゃあ処分して下さい」



「分かりました。 クロ様、お似合いですよ」



「あ、ありがとう」



急にミレアに褒められてビックリ。でも、お姉様にお褒め頂けるのは光栄です。



「じゃあミリアレアさん、俺はこれで」



「はい! 私、クロ様の服を作らせて頂いて自信が付きました! これからもっともっと私の服を世界に知らしめてやりますっ!」



「じゃあ、俺も何か偉業を成し遂げた時は服の依頼をするよ」



こうしてミリアレアと熱い握手を交わし、ミレアに挨拶をしてクロビは店を出た。


ちょうど日が落ち始めた時間。


クロビはそのまま船乗り場へと向かった――


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