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黒き復讐者の交響曲  作者: Rさん
第Ⅰ章 ~ゴルデニア大陸編~
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ミリアレア・ルーヴィン


クルッシュ近くの森での魔物討伐で小銭稼ぎを果たしたクロビはギルドで素材の売却を終え、街のメインストリートを歩いていた。


ルージュに教えて貰った服屋へと向かっているのだ。


バンディットモンキーのお陰で懐もだいぶ温まったしなぁ~、服を買ったら次は飯だな。


しかし、あの猿達との戦いは良い勉強になった。


戦闘の際、クロビが黒い鎌を武器に選んでいるのは、昔に読んだ歴史書が強く印象に残っていたからだ。




━━━━━



聖戦の時代――〝死の王〟と呼ばれた神に挑みし男いた。


人間国の王でありながらも戦場では常に先頭に立ち、軍を率いて神へと挑んだ。


しかし、神と人では力の差は歴然。


だが男は恐怖に屈せず、我が身を顧みず、常に先導する姿から〝死すらを乗り越える王〟や〝死の上に立つ英雄〟として崇められた。


それ故に《死の王》と呼ばれ、今でも歴史にその名を刻んでいる――


そして、歴史書の最後のページには右手に大きな鎌を持ち、左手に黒い炎を纏わせる死の王の立ち姿が描かれていたのだ。



カルネール村でこの本を目にした時、クロビは既に自分の中にある黒い炎の存在を知っていた。だからこそ、この王の姿が強く印象に残っていたのだ。


更に、ドーバルの悲劇の際に芽生えた壮絶な殺意によって解放された黒い炎が死の王と魂を刈り取る死神の二つの姿を脳裏で連結させ、〝黒い鎌〟に繋がる。



━━━━━




しかし、本来“鎌”という武器は基本的に戦闘には向いていない。


槍などもそうで、長柄の武器はリーチこそあるが、狭い場所ではその威力は活かせない。


また、槍の場合は突きや斬撃が可能だが鎌の場合は内刃の為に“斬る”よりも“刈り取る”

または刃の先端を“突き刺す”方が攻撃手段としては有効だろう。


だが、勿論利点もある。実際に剣と鎌が対峙した場合、剣でガードをしてもリーチの差によって剣は柄の部分を受ける事になる。


刃を抑えても曲線によって滑るからだ。


そして、柄を防いだとしてもリーチによって刃が相手の頭や肩に突き刺さるだろう。


それは横薙ぎや、その他の振り方でも同じ。防いでも刃が身体に突き刺さる。


そういった意味では、広い場所では非常に有利な武器になるのだ。


まあ、防ぎ切れないくらいの速度と腕力があれば問題ないし、黒鎌は両刃をイメージして形成している。


実際、自分が作り出してるものだから自分にダメージはない。


とは言え世界は広く、上には上がいるのが世の常。


とりあえず今は愛着もあるし、改めて鍛え直そう!鍛錬は大事だ!


そう言い聞かせ、クロビは服屋に到着した。




服屋に入ると異文化交流が盛んな都市だけあって様々なデザインの服が並んでいる。


子供用から大人用、貴族用のドレスなどまで手広く扱っているようだ。



「い、いらっしゃいません!あっ、ち、違うんです!」



いきなりどしたー?と横に顔を向けると、盛大に噛んでしまった羞恥に身悶える女性が立っていた。



「えっと、いらっしゃいませ!」



「はい、いらっしゃいました……」



「な、何かお探しですか!? それ、とも……えっと、なんだっけ…」



「……?」



もしかして最近この仕事を始めたばかりの新人さんなのかな?



「とりあえず落ち着こうか?」



このままだと俺も自分で服を選べ無そうだから、店の人を落ち着かせつつ辺りを見回す。



「すいません。 私すぐ緊張してしまって……もう3年位になるのに全然慣れなくて」



えー、全然新人さんじゃないじゃん。


って事で話を聞いてみると、ミリアレア・ルーヴィンと名乗った。


年齢は20歳で、何を隠そうこの店のオーナーさんだった。


貴族ではあるが、服飾が大好きで3年前に商会を立ち上げて今に至るようだ。


本人は緊張しいな性格もあって「接客に向かない!」と、普段は従業員に店の奥へと追いやられているらしい。


しかし、今日はその従業員が休みを取っていた為、一人でも出来るぞアピールで奮闘した訳なのだが……



「結局私が一人であたふたしてて、皆さん顔を引き攣らせながら店を出てしまうんです……」



「まあ気軽にやればいいんじゃないかな? 自分の店なんでしょ?」



「そうなんですけどね……どうしても喜んで欲しい!って思いが強くなって、でも緊張と人見知りが邪魔をしてしまい……ぐすんっ」



「今だって普通に話せてるよ? だから無理して装おうとするから力み過ぎるんだと思う」



「た、たしかに今は普通に話せてます!なんでだろう……?」



まあ、とりあえずは落ち着いたし、そろそろ服をと考えていると――



「そういえば、服を探してるんですよね?」



「そう! 今来てる服はサイズがね。 だから新調しようと思って」



「なるほど、宜しければこちらで希望など聞かせて下さい。 今お紅茶出しますので」



そういってミリアレアは店の奥に戻った。服屋で紅茶って不思議なところだなーっと思いつつも店内を見回すと、あまり目にしない様な服が沢山飾ってある。


貴族のドレスもスカートがふわっとしたものではなく、ピッタリとスタイルが目に見えて分かる様なスマートなドレス。


体型に自信がなければ着る事が許されないのでは?と思うけど……女の世界は分からない。


また、一般の服装にしても、ワンピースやズボン、シャツなど形は良く知られているものではあるが、色合いや装飾が珍しい。


中には裾が異様に短いものまであった。


まあ、ここに飾られてるのは全部ミリアレアさんの趣味なんだろうけど。



「お待たせしました。 こちらへどうぞ」



そう言って紅茶の準備を終えたオーナー、ミリアレアが店内に戻って来た。


店内にある応接スペースの席に向き合う形で座り、クロビは遠慮なく紅茶を口に含む。


ここはおオーダーメイドの際に注文内容を聞きながら生地、値段などを話し合う場所だ。



「ではさっそくですが、店内は見られました?」



「さっき軽く見渡したけど、随分変わった服が飾ってあったね」



「そうなんです! 私、服のデザインを新しくするのが好きで、一点物でしたり、貴族でしたら誕生日などのイベント時のドレスなどを作ってますね」



「なるほど……」



つまりはあれか、俺はいつの間にかオーダーメイドになってしまってるようだが……


一応確認してみるか。



「一応、確認なんだけど……俺はこれから服を作るのかな?」



「あっ! すいませんっ! 何も聞かずにその体で進めちゃってました……」


やっぱりか……



「だよね。 で、一応聞いてみるけど大体どの位の値段なのかな?」



「そうですね、例えば貴族のドレスだと安くて50000ゴルドですかね――」



いやいや、高いだろ……ドレスでその金額なら、一般の服でもそこそこするんじゃないですかね?



「俺は貴族ではないから礼服はいらないんだけど、大丈夫かな……?」



「えっと、そうですね! 先ずは……あっお名前は?」



そういえば名乗ってなかったな。とりあえずクロと伝えておく。



「ではクロ様、どんな服をご希望でしょうか? それによって生地や装飾で値段もある程度絞れます!」



どんなって聞かれてもな。特にはないんだけどな。


とりあえず旅人で、時に戦闘もあって……って事は生地は丈夫なのがいいですね。とか、槍術使いでしたら袖を……動きにくくないように……っと、ペンを顎に当てたりメモを取ったりとミリアレアは自分の世界に入り込む。


そして――



「クロ様! 金額の上限はどの位でお考えですか!?」


と物凄い形相で聞いてきた。



「えっと、まあ出せても30000ゴルドかな?」



「分かりました! では、私に二日下さい! クロ様に似合う最高の服装を作らせて頂きます!!!」



えー急展開!?まさかこれから服を作るのか!


って事は、船に乗れるのは三日後になるな……まあ時間に限りがある旅ではないから、それでお願いするか。


もう今日は疲れたし。



「分かりました。 じゃあそれでお願いするよ」



「ほ、本当ですか!? 良かったぁ~」



ミリアレアは安心したのか、先ほどの形相が嘘だったかのようにパァーっと笑顔になった。


本当に服を作るのが好きなんだな。まあ熱中できるのは素晴らしい事だし、さっきの形相はもう職人気質のあれでしょ。



「じゃあクロ様、先に寸法を測らせて下さいね」



そういってミリアレアはメジャーを手にしてクロを立たせ、次々と測っていく。



「背は……178センチ、高いですね~。 胸囲も……やだぁ~細身なのにしっかりしてますねぇ~えへへっ」



ん~メジャーで測りながらミリアレアの鼻息がだんだんと荒くなってる気が……



「腹筋もスバラシイですね~うふっ。 足も長いですし、もう凄いっ!」



あ、これダメなヤツだ。


ミリアレアさん、金髪青くパッチリした目が印象的な巻き髪女子だ。


背も160後半と高めで何より、何より胸が!胸がデカい!


もうザ・グラマラスな体系です。


それが人の体を見てウヘウヘしてると、なんとも勿体ない。


むしろ出会いがしらのド天然のままなら沢山の男を虜に出来たんじゃないだろうか。



「では、これで今日はおしまいです!」



ふぅ~っとまるで事後のように満足感と少々の恍惚な表情を見せている。



「とりあえず、信頼という形で先に30000ゴルド渡しておくよ。 二日後にここに来ればいいかな?」



「はい! じゃあ楽しみにしてて下さいね! 最高の作品を提供します!」



“ルーヴィン家の名に懸けて!”と拳を強く握りしめ、クロビを見送ってすぐに奥へと消えていった。


さてと。とりあえず二日は滞在しなきゃいけないから、宿を取りつつ飯にするかな。


そう言ってクロビは宿へと向かったのだった――


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