バンディットモンキー
ルージュとその父ロイドを別れてクロビは資金調達に出た。
クルッシュ自体、港湾都市だけあって海に面し、更に列車が停まる駅がある為にローダンよりも土地が広い。
だから外に出るのも入り口までは結構な距離があるのだ。
そして、入り口の門から1時間程離れた場所。
そこは海に面した断崖とその周辺に生い茂る森――
崖の付近にはそこを縄張りとしている2メートル程の怪鳥の群れ、そして森の入り口には先ほどまで争いがあったかのように何者かの血が飛び散っていた。
クロビは手から黒鎌を形成し、先ずは断崖周辺を飛び回る怪鳥へと向かって行く。
魔術ではなく武器を使用する際、自分に敵意を持つ者や復讐対象の場合は人だとしても黒炎で鎌を形成するが、それ以外の対人戦の場合は刃の部分を無くした黒棍にする。
以前商人を盗賊から助けた際にもこうして戦っていたが、魔物や獣といった“狩り”の場合は命の奪い合いになる故に遠慮なく鎌を振るう。
自分の中でルールを決めたクロビの戦闘スタイルだ。
今、目の前にいる三匹の怪鳥はクロビの姿を確認すると、『クゥーココココ!』っと警戒を知らせる様に鳴き合っている。
「さて、服を一式ってなるとそれなりに金が必要だよな~。 ハンターじゃないから仲介料も考えないといけないし」
とりあえず羽と嘴と……以前ギルドで教えてもらった〝魔石〟だな。
タンっ!とその場から勢いよく飛び出したクロビは怪鳥の一匹の首を容赦なく刎ねた。
「先ずは一体っと」
すると残りの二体は一気に警戒レベルを引き上げ、『ガアァァァ!』っと鳴き声を上げ、その翼を勢いよく羽ばたいた。
怪鳥の羽は非常に鋭く、そして魔力によって硬化されている。
それを羽ばく勢いに乗せて敵へと何本も飛ばして仕留め、餌とするのだ。
クロビはバックステップでそれらを躱し、鎌を構える。
先ほど立っていた場所は数十本の羽が地面に突き刺さっていた。
「凄いな。 下手なナイフより鋭いんじゃないか? でも、これ回収したらお金になりそうだな」
そんな呑気な事を言いつつ、残りの怪鳥へ鎌を振るっていく。
「よし、一先ずはこんなもんか」
呆気なく三体の怪鳥を討伐し、嘴と羽、そして魔石をしっかりとマジックポーチに回収していく。
「――っ?」
クロビは背後からの気配を強く感じ、バっとそちらへ振り向いた。
恐らく10体くらいか……?。
その視線の先は昼間なのに夜を思わせる程に深い森。
海が近いせいもあってか潮風の影響によって木々が枯れ、何やら不気味な雰囲気を漂わせている。
そして、時おり森の奥の方から気配と同時に『ギャッギャッギャッ』っという鳴き声が響いていた。
クロビは気配を辿りながらゆっくりと森へ足を運んでいく。
森の中には道などなく、まるで外界との接触を拒んでいるかのような世界だ。
そして、至る所に武器や防具が転がっていて、血だらけになった服なども捨ててある。
そんな森の中を歩くこと数十分――
突然、周囲の草木がガサッ、ガサッと擦れ合う音がした。
クロビは気にせず奥へと進んでいくが、進めば進む程にその音は大きくなり、やがてクロビを囲うように四方八方から聞こえた。
そして――
ザザッ!と黒い影がクロビに襲い掛かった。 が、クロビは既にその気配には気付いており、慌てる様子もなく身体を反らして躱す。
するとその影は再び茂みへと消え、それを皮切りに今度は後方や頭上といった多方面から飛び掛かっていく。
休む暇を与えないよう、間髪入れずの特攻。
しかし、クロビは数分間焦る事もなく余裕で躱し続ける。
すると、攻撃が当たらないと悟ったのか、クロビを襲う黒い影がその正体を晒した。
〝バンディットモンキー〟
人間の子供と同じくらいのサイズだが、黒い毛で覆われて鋭い牙と爪を持つ猿だ。
非常に筋肉質で、人間の大人でも高ランクハンターでなければ力負けするだろう。
また、常に10~20匹の集団で行動するのだが、統率力が高くて賢い。
だからその知識を使って人から武具を奪い、自分達の武器にもする事で〝盗賊猿〟と呼ばれている。
貯金を破袋て新しく購入した武器をこの猿に盗まれるというのはハンター界では良くある話なのだ。
しかし、クロビはハンターではない為に魔物などの知識はそこまで高くない。
つまり、バンディットモンキーがどのような存在であっても、クロビから見れば所詮器用な“猿”なのだ――
「ほお、猿が武器持ってるのか! って事は……入り口の血痕とか森のガラクタはお前等の仕業か」
『ギャーギャギャギャギャー!!』
『『『ギャーギャギャギャギャー!!』』』
恐らくリーダーであろうバンディットモンキーが雄叫びを上げると、周りの部下が一斉に叫び、再び襲い掛かって来た。
クロビは猿が振るう剣を鎌で受け止め、後ろから槍を持って突撃してくるもう一匹をバク中で躱す。
すると横から両手にナイフを持った猿が回転しながら襲って来る。
残念ながら、ナイフより鎌の方がリーチが長い。
そのまま鎌で一閃。
両手持ちのバンディットモンキーは下半身と上半身の二つに分かれた。
だが、猿達の猛攻は終わらない。
後ろから斧を持った猿が両手で勢いよく振り下ろす。
前からは先ほどの槍を持った猿が特攻して来る。
周囲を見ればその他様々な武器を構えて待機するヤツもいるのだ。
クロビはギリギリまで待って、一気に横に移動する。
すると斧は槍の猿の頭をかちわり、槍は斧猿の心臓を貫く。
相打ちだな!と、次の攻撃に備えると上からナイフが飛んで来た。
鎌でそれを薙ぎ払うと、その瞬間に一匹の猿が勢いよく突っ込み、クロビの腹に拳をめり込ませた!
クロビは数メートル吹っ飛ばされ、細い木はその勢いで次々と折れ、最終的には大きな木にぶつかる。
「いてててっ、油断した~。 と言うかパンチ力すげーな。 色んな武器使うし、世の中面白い魔物もいるもんだ」
クロビは感心しつつ、体勢を整える。
「さて、そろそろ街に戻らないと買い物の時間がなくなってしまうからっ……『縮地!』」
クロビは足に力を込めるとタンっ!とその場から一気に元の戦場へと戻った。
すると、パンチで倒したと思っていたのか、バンディットモンキー達は『ウホッウホッウホッー』と叫んでいた。
その後、戻って来たクロビの姿を確認し、再度武器を構えたのだ。
「そろそろ帰るから悪いが時間は掛けないぞ」
そう言い放ち、縮地を活かして一気に五匹の猿達の命を奪い去った。
「残り2匹!」
そのまま上に跳び、木の上に居たナイフ投げの猿に「お返しだ」と鎌をぶん投げると、キレイな円を描きながら高速で猿の頭に刃の部分が突き刺さった。
「残りはボス猿!」
クロビが地面に着地すると、ボス猿は剣を構えて対峙していた。
先ほどまでは仲間が殺されていく現状を見て僅かに怯えていたが、クロビが鎌を投げた事で相手が丸腰だと気付き、剣を向けたのだ。
『ウギャーァァアアア!!!』
殺すか殺されるか。
生き物における自然の摂理であり、動物の本能だと言えるだろう。
ボス猿は一気にクロビとの距離を縮め、その剣を振り下ろす。
しかし、その瞬間目に入ったのは持ってなかったはずの鎌が既に首元まで来ている事実だった。
そして視界は暗闇が包み込んだ――
「ふぅー、良い運動になったな。 とりあえず猿達の素材を回収してっと。
この装備品とかって売れるのかな? 一応見た目良さそうなのだけ持ってくか」
こうしてクロビは本日の狩り(仕事)を終えてクルッシュへと戻っていく。
※ ※ ※ ※ ※
クルッシュのギルド。こちらもローダンより大きな建物で、中はハンターや職人で賑やかだった。
「すいません、素材売りたいんですけどー! ちなみにハンターじゃないです」
「お待たせしました。 素材の売却ですね、ではこちらに素材を乗せて下さい」
クロビは怪鳥とバンディットモンキーの魔石と素材をトレーに置いた。
「すいませーん、この素材の査定お願いします」
受付嬢がカウンター内の人に声を掛け、素材を渡してクロビに話しかけて来た。
「初めてお見受けしますが、クルッシュは初めてですか?」
「そうですね。 初めて来ました」
「ここはハンターよりも商人や職人さんが多いんですよ。 ですから魔物を討伐してくれるのはハンターじゃなくても助かります」
ローダンもそうだが、産業都市はハンターよりも手に職を付ける人が多いようだ。
「まぁ、俺の場合は小銭稼ぎの一環なので」
「そうでしたか。 でも助かりますよ! 最近バンディットモンキーの被害も良く耳にしますからねー」
「バンディットモンキー……どんな魔物なんですか?」
「黒くて集団行動で盗賊みたいな猿ですよ、知らないんですか?」
じゃあ、さっきの猿はそれなのかな?
「じゃあ結果オーライですね、さっき10匹程討伐しておきましたし、素材にそれも含まれてます。
ちなみに、その猿達が使ってた武器とかって売れるんですか?」
「えっ……!?」
あれ、受付の人が固まってしまったよ。
「えっ? もしかして売れない感じです?」
「あっ、いや、そのー……売れますけど、本当ですか?本当に討伐したんですか?」
何か凄い疑われてるな。
「えっと、それは素材を見れば分かるかと。 じゃあ剣とかも渡しちゃいますね」
そう言ってクロビはポーチから剣、ナイフ、槍を出して渡した。
「こ、こちらも査定お願いします。 ……」
無言になってしまったな。まあとりあえず査定を待つか。
そして十分後――
「お待たせしました。 っていうか本当にバンディットモンキー討伐されたんですね!?」
「そう言いましたよ……?」
「す、すみません。 えっと売却は初めてではないですか?」
「二度目なので、手数料の事とかは大丈夫です」
「分かりました。 ではこちらが今回の報酬となります」
ドン、とお金が入った袋が目の前に置かれる。
「先ず、お渡しする分で素材が46000ゴルド、武器が12000ゴルド、合計で58000ゴルドになります」
意外と高く売れたな!
怪鳥自体はD級の魔物ですが、嘴が綺麗に残ってた事もあって羽と魔石含めて10000ゴルド。
バンディットモンキーは数によって討伐階級が変わり、10体以上の場合はB級に当てはまるらしい。
それと、被害が拡大しつつあった為にプラスアルファの報酬を掛けていた。
そういった事もあり、本来は仲介手数料が発生するのだが、今回は特別に免除してくれたのだ。
「それにしても、お強いんですね。 何でハンター登録しないんですか?」
「ん~、生業にするつもりもないし、別の目的がありますからね」
「そうですかぁ……もし登録したくなりましたらいつでも声を掛けて下さいね!」
「えっと……じゃあ、その時はお願いします。 じゃあ俺はこれで」
すっごくキラキラした笑顔で受付嬢が見つめてるけど……登録のノルマとかがあるのかな?
でも、これで服を買っても余裕が出来そうだな!
このまま服を買いに行こう!!
※評価お願いします!※




