再会と不安要素
魔導列車で知り合ったルージュと出会い、魔術を教えながら二人はついに目的地でもあるクルッシュに到着した。
『港湾都市クルッシュ』
漁業と貿易が盛んで、ゴルデニア大陸に於いては他国との玄関口にもなっている。その為、建物の作りや武具、生活用品なども異文化が取り入れられている活発な都市なのだ。
「クロ様はクルッシュに来るのは初めてなのですよね?」
「そうだな、初めて来たよ。 何か亜人とかも普通に居るみたいだし、ローダンとは違った賑やかさがあるんだな」
「そうですね! お父様みたいに外交目的で来る方もいれば、観光で来られてる方も多いですよ。 異文化交流の地とも言われてますし」
亜人種は人以外の種族であり、ゴルデニア大陸の東南に位置するサンジェラル大陸に各種族が国を築いている。
獣人、竜人、魔人など、様々な種族が存在している。過去、魔導戦乱以前には人族と亜人種族との対立が歴史に記されているのだが、今では亜人国家との外交を担う国やハンターとして各国を旅する者などが普通に存在するのだ。
「そういえばクロ様はこれからどうされるのですか?」
「そうだな、とりあえず……船に乗る前に買い出しでもするかな。 服とか新調しておきたいし」
クロビは今、茶色いロングコートを着てるのだが……その下はカルネールの宿に残ってた自分の服だった。 しかし、当時より体は成長してる訳で、当然サイズの合わない服を無理やり着てる状態なのだ。
「そうなのですね! 良いと思いますよ。 ちなみに、防具やお洋服でしたらこのメインストリートを東側に行くと看板が出てます」
「おぉ、助かるよ」
「ルージュは父親のとこに行くのか?」
「その予定ですね。 確か今日は「――ルージュっ!」――!?」
駅からメインストリートへ歩きながらこれからの予定を話してると、突然後ろからルージュを呼ぶ声が聞こえた。
「あっ、お父様!」
ルージュと共に振り向くと、そこには少々窶れ気味ではあるが、騎士団に居そうながっしりとした体形のダンディーな男が立っていた。
「ルージュ、心配したんだぞ! 朝一で宿に行けば昨日から戻ってないと言うじゃないか!」
しかも護衛を付けずに、危ないだろっ! と、叱り付けながらも無事を知って安心したのか、ルージュを強く抱きしめた。
「お父様、内緒でお出かけしてすみませんでした。 私なら大丈夫ですので安心して下さい」
クロビは再会を喜ぶ二人の姿を見て、少し自分の家族を思い出した。
俺も無断で狩りに行った時は帰りが遅くなり、母上やメイドに物凄く叱られたっけな。
特に義父だったダリルからの鉄拳制裁は死ぬかと思った。
「とにかくルージュが無事で良かった。 もう無茶な事は止めてくれ!」
「はい、次からはちゃんとお伝えしますねっ!」
うん、あまり分かってないのか、それ以上に好奇心が旺盛なのか……
「それで、君は誰かね?」
男はルージュを抱擁しつつ、後ろで見守っていたクロビを少々睨み付けながら問いかけて来た。
あれ、何か雰囲気が変わった……
「まさか、私の愛して止まない娘に出来た〝恋人〟なんて言うんじゃないだろう……な?」
うーん、何か盛大に勘違いされていらっしゃると言うか、威圧と殺気と、魔力が滲み出てしまってるね。
このままだと一騒動起きてしまう。
通行人の中には当然ハンターやその他手練れの者もいて、男の変化に気付いて「修羅場か何かか?」と呑気な事を言ってる。
「おっ!?お父様落ち着いて下さいっ!! そんなっ……こっ、恋人だなんてっ」
ルージュもルージュで急に恋人と言われ、手を赤く染まった頬に当てながらモジモジしている。
いや、その反応だと火に油を注ぐ感じになってるんですけど……。
にして、もこの魔力は……これなら大丈夫みたいだな。良かった。
「この方はクロ様と言いまして、列車の中で偶然知り合ったのですよ! それと、私に魔術を教えて下さいましたの!」
「魔術だと? それなら学園でも習ったし、私も教えたではないか!
それに、クロと言ったな? 君は青じゃないのに魔術を扱えるのか?」
青と言うのは当然、眼の色である。俺は普段は赤茶なので、恐らく魔力の微量者だと思われているのだろう。
「えっと……まあ色の問題ではないですからね。 魔術に関してはむしろ学園の講師のレベルが低いんじゃないかと思ってます」
「な、なんだと……学園の魔術師は国の中でも特に高い魔力を持ち、知識が豊富で厳しい試験を突破して初めて職に就けるのだぞ!?」
まあ、俺個人の感想なのでと付け足しておくが、自分で扱うのが得意でも、教えるのは難しいのかな?と疑問は抱くよね。
「お父様、クロ様の魔術の知識は素晴らしいのですよ。 それにフレイア様ともお会いしたのですが、その時もクロ様が助けて下さったのです!」
だから良い人なのです!っと人差し指を上にあげ、フレイアとの経緯を話して父を宥めるようルージュがその場を治めた。
※ ※ ※ ※ ※
「いや、すまない。 娘の事になるとついつい……」
「いえ、まあそれだけ愛情を注いでいるって事ですからね」
「おっ分かってくれるか!? はははっ! 君とは話が合いそうだ!
おっと、申し遅れたがロイド・クロレアだ」
「こちらこそ、改めてクロと言います」
ロイドは娘の力になってくれてありがとう、と嬉しそうに握手を交わす。
一応、封印術式の事は話しておいた方がいいな。さっき滲み出てたロイドさんの魔力は封印式で感じたものとは違ったし、これだけ過保護なら重要案件だろう。
「ロイドさん、少しお話があるのですが宜しいですか?」
「急に畏まってどうしたのだ? む、娘はやらんぞ!?」
いやいや、まだそれを引きずるのか……と思いながらもルージュに封印の術式が施されていた事、それを取り除いだ事を伝えていく。
「――なんと、ルージュはそんな状態だったのか……どおりで頑張っても魔力を扱えない訳だ」
「とりあえず、もう操作は出来るようになりました。 ただ、膨大な魔力量ですから、今後扱う場合は気を付けて下さい。
一人でどこか行ってしまう性格みたいですから特に」
「そうだな。 私の家系は先代がその魔力量を買われて貴族入りを果たし、代々それが継承されているのだ。 それは王も含めて周知されているから血縁が封印するという事はまずないはずだ」
「希少な魔力量ですからね……。 であれば、クロレア家を敵視している何者かという事になるのか。 一応、現段階での予想は、やっぱりフレイアかその周辺でしょうね」
「当然、その可能性は大いにある。 しかし……その他の存在も否定は出来んからな。一度調べてみるとしよう。 教えてくれて感謝する」
横で話を聞いていたルージュも少し不安そうな顔をしていたが、まあいざとなれば父親の力でどうにかなるだろう。
「では、私はそろそろ仕事に戻らなければならない。 次に会う時は是非ともお礼をさせてくれ!」
「クロ様、私お会い出来る日までしっかりと魔術を勉強して、クロ様を驚かせてみせますね!」
こうして報告を終えた俺とルージュはそれぞれの目的へと向かう。
さて、とりあえず服を買いにいくが……その前に資金調達も重要だな。
列車が意外と安かったとはいえ、残りが4000ゴルドだからこのまま服を新調すると恐らく魔導船の料金が足りなくなる。
クロビはギルドの場所を確認しつつ、魔物が居そうな森へと向かった。